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コラム   >   不妊治療の広場   >   教えて!藤野先生 不妊治療に欠かせない黄体ホルモンって?

教えて!藤野先生 不妊治療に欠かせない黄体ホルモンって?

黄体機能不全の治療や、胚移植後のホルモン補充など、妊娠の維持に重要な役割を担う黄体ホルモンについて、なかむらレディースクリニックの藤野祐司先生にお話を伺いました。

黄体ホルモンを補うために用いる薬剤は、内服薬、注射薬、腟座薬の3種類。さらに合成型と天然型に分かれます。専用のアプリケータを使って自分で挿入する天然型黄体ホルモン剤の腟座薬は、体への負担が少ないと注目が集まっています。一方、内服薬は健康保険が適用できることによる費用的なメリットや、1日3回の食後に服用することで飲み忘れが少ない点などで根強く支持されています。

「黄体ホルモン剤の内服薬には目的によって幅広い用途があります」

妊娠の維持に関わる黄体ホルモンの大切な役割

排卵後の卵巣から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)は、受精卵の着床を促し、妊娠を維持するためにとても重要な役割を果たすホルモンです。黄体ホルモンの役割の一つとして、脳に働きかけて基礎体温を上昇させるという作用があります。女性の月経周期は、卵胞ホルモン(エストロゲン)が中心に分泌される前半の低温相と、黄体ホルモンが中心に分泌される後半の高温相の2つの相に分かれます。もちろん体温には個人差がありますが、排卵後の基礎体温が排卵前より0.2~0.4℃高くなるのは、黄体ホルモンの体温上昇作用によるものです。基礎体温表から排卵時期を推定できるのはこのためで、タイミング療法や人工授精などの一般不妊治療では、ホルモン値の測定と併せて、排卵日を予測する時の参考にされる方も多いと思います。さらに黄体ホルモンの大切な役割に、免疫の働きの調整があります。本来、人間の体は外部から細菌やウイルスなどの異物が侵入すると、非自己と認識して、これらを排除する免疫というシステムをもっています。そして 妊娠は、自分の体にとっては異物にあたる、自身と違う夫の遺伝情報・抗原性を半分持った受精卵を、自己の体内に受け入れて育てなければならない特殊な状態です。黄体ホルモンには、この免疫の働きを低下させ、異物である受精卵が 入ってきても排除せず、自己を攻撃しない免疫寛容という状態をつくり出す作用があるといわれます。

黄体機能不全の治療は内服薬の投与が第一の選択に

妊娠成立のためには、このように高温相となる排卵期に、卵巣から十分な量の黄体ホルモンが分泌される必要があります。黄体ホルモンが十分に分泌されない状態を黄体機能不全といい、深刻な不妊の要因となっています。一般不妊治療における黄体機能不全の治療薬としては、産婦人科医になってからずっと使っている内服薬、黄体ホルモン剤のデュファストンⓇがファーストラインとなります。高温期に入って2、3日経過後、1日3回15mgを10日間投与することで黄体期を14日前後、維持することができます。ちなみに一般的な黄体ホルモン剤には体温上昇作用がありますが、デュファ ストンⓇにはその作用がなく、薬の影響を受けずに、基礎体温の観察によって排卵の診断材料にもできますので、そういった観点でのサポートにも適しているでしょう。
一方、生殖補助医療(ART)においても、近年、黄体ホルモン補充は注目が高まっている分野です。その背景として、一度に複数の卵胞の発育を促す排卵誘発法や、子宮内膜を人工的につくる治療が生殖補助医療の主流となっていることが挙げられます。また最近、腟内で速やかに溶ける天然型の黄体ホルモン剤の腟座薬が、注射薬と違って体への負担が少なく、子宮にダイレクトに届くので効率が良いと注目されています。また、長く効果もあるので1日2回で済みます。ただし、腟剤が腟の中で溶けて、オリモノや出血が増えるなどの使いにくい面もあります。ホルモン値を100%コントロールしながら行う凍結融解胚移植では、胚移植後の黄体ホルモンの管理が非常に重要な課題です。経口薬では飲み方に個人差、腟剤では入れ方に個人差が出てくるので、一定以上の黄体ホルモン値を安定して確保できるように、腟座薬、筋肉注射、内服薬という3つの経路を使用し、患者の症例に合わせた併用投与による治療を行っています。なお、IVFの例だと、患者のプロゲステロンがまったく出ておらず100%外からコントロールする際には、内服薬を30mg/1日、腟座薬を200mg/1日、注射剤を125mg/5日の併用投与を検討します。排卵・採卵の後、黄体ホルモンが患者から出始めた後は、その変動を維持するために症状に合わせて投与を調整していきます。そういった観点では、デュファストンⓇは切迫流早産の保険適用があり、安全性も確認されているので、非常に使いやすい薬であると感じています。

流産や早産の防止、更年期症状の治療にも

流産や死産を繰り返してしまう不育症の治療でも、黄体ホルモン剤を予防的に投与することがあります。ある大学病院の調査で、習慣流産の既往があり、不育症が疑われる250例の患者を調べたところ、約14%の方に黄体機能不全の症例が見つかったそうです。不育症の方の黄体機能不全は、積極的な治療対象と考えてよいでしょう。また、不育症患者に妊娠維持の目的で使用する黄体ホルモン補充は、通常の妊娠よりも投与期間が長くなります。着床前から投与を始め、胎盤ができる妊娠6~8週目まで、場合によっては10週目まで使うことも。そうなると胎児への影響が懸念されるので、安全性の高い薬が第一に望まれて処方がされています。近年、海外でHRTの際の黄体ホルモン製剤として用いられ、そのエビデ ンスも報告されています。そちらも相まって、日本における20代、30代の女性の早発閉経の治療や、更年期の症状を和らげるホルモン補充治療にもさまざまな種類の黄体ホルモン剤の内服薬が使用されていますが、どうしてもプロゲステロン、エストロゲン処方のなかで血栓の話は出てきますので、そういった観点における内服薬選択の考慮は重要でしょう。男性に比べて、ダイレクトにホルモンの影響を受けやすい女性の心と体。不妊治療だけでなく、出産、育児期や更年期まで、黄体ホルモンは幅広い年代の女性の健康と密接に関わっています。

藤野 祐司 先生

藤野 祐司 先生【なかむらレディースクリニック】

 大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医学部婦人科学教室講師を経て、1997年にクリニックを開業。現在、同大学で非常勤講師も務める。

≫ なかむらレディースクリニック

 

出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.26 2015 Summer
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