-
子宝草ものがたり
「産婦人科医 恋太郎」 Vol.1 おまじないのような、おまもりのような子宝草という植物を知っていますか? 子宝草をめぐるものがたり、読書びよりな午後のひとときにどうぞ。 まばゆいばかりの夏の陽が燦燦(さんさん)と輝き、遠くで蝉の鳴き声が響いている――。 亀戸の外れの、古ぼけた医院の裏手にある縁側。真っ黒く日焼けした沢村恋太郎が、気持ちよさそうに軽い鼾(いびき)をかいてすやすやと眠っている。広いおでこにすっと通った鼻梁(はなみね)。親しみやすさを感じる顔立ちだ。 広い縁側からは大きな庭が見え、建物は築六十年以上も経ち、あちこちが傷んでいた。縁側の横には恋太郎の持ち物である大きなトランクケースが無造作に置いてある。 一匹の蝿が恋太郎の汗ばんだ額に止まった。「ん…」 恋太郎は額に手をやり、蝿を追い払うと、目をゆっくりとこすり思い切り両腕を伸ばした。そして上体を起こし、横にあったペットボトルの水をごくごくと飲み干してから背伸びをした。「あ〜、気持ちいいや」 恋太郎は今朝の便でタイを発ち、成田空港から直接この古ぼけた医院にやって来ていた。医院は彼の祖父がやっていた産婦人科だった。「ここだけは、昔のまんまだなぁ」 庭にある大きな桜の木、そして大小織り交ぜた花が咲いている。幼い頃、恋太郎はこの縁側で祖父の膝に抱っこされ、いろいろな話を聞くのが好きだった。やがて大きくなると、縁側に座布団を敷き、祖父と並んで庭を見ていろいろと話をしたものだ。「あれ、坊っちゃんじゃありません――?」 ふと、庭の端から声が聞こえた。その声のするほうを見た恋太郎は、「婦長の八重さんだ!」と大きく叫んだ。「まあ、恋太郎坊っちゃんもすっかり立派になられて」 二人は満面の笑顔を浮かべて手を取り合った。「坊ちゃんは、何時、お戻りになられたんですか?」 ひとしきり再会を懐かしんだ後、八重が聞いた。すると恋太郎は急にもごもごとした。「あらまあ、その様子もちっとも変らない。気になることを聞かれると昔と同じだわ。大先生が生きていたら、『恋太郎、男はもっと堂々としろ』って言われますよ」「参ったな、八重さんにかかったら、何でもお見通しだからな」 恋太郎は頭をかきながら言った。そして「オヤジがね……」と続けた。そう話す恋太郎の顔は曇っていた――。「産婦人科医 恋太郎」 Vol.1 おまじないのような、おまもりのような子宝草という植物を知っていますか? 子宝草をめぐるものがたり、読書びよりな午後のひとときにどうぞ。 まばゆいばかりの夏の陽が燦燦(さんさん)と輝き、遠くで蝉の鳴き声が響いている――。 亀戸の外れの、古ぼけた医院の裏手にある縁側。真っ黒く日焼けした沢村恋太郎が、気持ちよさそうに軽い鼾(いびき)をかいてすやすやと眠っている。広いおでこにすっと通った鼻梁(はなみね)。親しみやすさを感じる顔立ちだ。 広い縁側からは大きな庭が見え、建物は築六十年以上も経ち、あちこちが傷んでいた。縁側の横には恋太郎の持ち物である大きなトランクケースが無造作に置いてある。 一匹の蝿が恋太郎の汗ばんだ額に止まった。「ん…」 恋太郎は額に手をやり、蝿を追い払うと、目をゆっくりとこすり思い切り両腕を伸ばした。そして上体を起こし、横にあったペットボトルの水をごくごくと飲み干してから背伸びをした。「あ〜、気持ちいいや」 恋太郎は今朝の便でタイを発ち、成田空港から直接この古ぼけた医院にやって来ていた。医院は彼の祖父がやっていた産婦人科だった。「ここだけは、昔のまんまだなぁ」 庭にある大きな桜の木、そして大小織り交ぜた花が咲いている。幼い頃、恋太郎はこの縁側で祖父の膝に抱っこされ、いろいろな話を聞くのが好きだった。やがて大きくなると、縁側に座布団を敷き、祖父と並んで庭を見ていろいろと話をしたものだ。「あれ、坊っちゃんじゃありません――?」 ふと、庭の端から声が聞こえた。その声のするほうを見た恋太郎は、「婦長の八重さんだ!」と大きく叫んだ。「まあ、恋太郎坊っちゃんもすっかり立派になられて」 二人は満面の笑顔を浮かべて手を取り合った。「坊ちゃんは、何時、お戻りになられたんですか?」 ひとしきり再会を懐かしんだ後、八重が聞いた。すると恋太郎は急にもごもごとした。「あらまあ、その様子もちっとも変らない。気になることを聞かれると昔と同じだわ。大先生が生きていたら、『恋太郎、男はもっと堂々としろ』って言われますよ」「参ったな、八重さんにかかったら、何でもお見通しだからな」 恋太郎は頭をかきながら言った。そして「オヤジがね……」と続けた。そう話す恋太郎の顔は曇っていた――。
2011.8.29
コラム 不妊治療
-
正しい食生活で体重管理3
体は食べたものからつくられています。何をどんなふうに食べるのかによって、体調も外見も変わってくるはず。健康をキープし理想的な体に近づいていくための食事の方法を、管理栄養士の松尾みゆきさんにお聞きしました。朝食抜きはNG!食べる順番も考えて健康で均整のとれた体づくりの基本は、まず朝・昼・夕と3食きちんと食べることです。「時間がない」「起きてすぐに食べられない」と朝食を抜くと、前日の夕食から約15~16時間もあいてしまうことに。長い時間空腹が続くと体が飢餓状態だと認識し、食べた時に吸収されやすくなってしまうのです。また朝食を食べないとめぐりが悪くなり、ため込みやすい体になってしまいます。栄養バランスを考えると一汁三菜の献立が理想ですが、朝食を食べていない人は、牛乳1杯でも野菜ジュース1本でもいいので、口に入れることから始めてみましょう。健康に過ごすための一般的な女性の1日の摂取カロリーは1800~2000カロリー。といっても、カロリー計算をしながら食べるのはなかなか難しいですね。わかりやすいのは調理方法を選んで食べること。油分はカロリーが高いので、「炒める・揚げる」より「生・蒸す」がおすすめです。また見逃しやすいのがドレッシング。意外と油を多く含んでいるので注意を。食べる順番にも太らないコツがあります。それはカロリーの低いものから食べること。まずサラダやフルーツ、煮物、次に汁物、ごはん、最後にメインのおかずという順番で食べましょう。生野菜やフルーツには酵素が多く含まれ、消化を促進し、食べすぎを防ぐことができます。鉄分、カルシウム、食物繊維を積極的に摂取して女性は生理があるため、鉄分が不足しがち。貧血の原因になるので、鉄分が多く含まれるホウレン草や水菜などの濃い緑の野菜、ひじき、豆類、レバーなどを積極的に食べましょう。ビタミンCと一緒に摂ると吸収がよくなります。また女性は閉経後に骨密度がガクンと下がり骨粗鬆症にかかりやすいので、カルシウムをたくさん摂って予防を心がけましょう。食物繊維は整腸作用で便秘を改善し、代謝をアップして血のめぐりをよくします。めぐりがいいと栄養素を全身にいきわたらせることができます。これから妊娠を控えた女性は、胎児の先天異常の予防のため葉酸を摂りましょう。妊娠初期に必要とされる栄養素ですが、妊娠に気付くのは早くても4週目頃なので、早めから摂ることを心がけて。葉酸も緑の濃い野菜に多く含まれますが、水溶性でゆでると溶け出てしまうので、炒める、レンジ加熱などの調理法がおすすめです。管理栄養士・料理研究家・フードコーディネーター松尾みゆき さんバランスのよい食事は健康的な体づくりや美容にとても大切ですが、食事=栄養源として考えるのではなく、あくまでもおいしく楽しく食べることを提案。そのために低カロリーでもボリュームのあるレシピを日々考案中。夏には「サラダスムージー」の本を発売予定。 体は食べたものからつくられています。何をどんなふうに食べるのかによって、体調も外見も変わってくるはず。健康をキープし理想的な体に近づいていくための食事の方法を、管理栄養士の松尾みゆきさんにお聞きしました。朝食抜きはNG!食べる順番も考えて健康で均整のとれた体づくりの基本は、まず朝・昼・夕と3食きちんと食べることです。「時間がない」「起きてすぐに食べられない」と朝食を抜くと、前日の夕食から約15~16時間もあいてしまうことに。長い時間空腹が続くと体が飢餓状態だと認識し、食べた時に吸収されやすくなってしまうのです。また朝食を食べないとめぐりが悪くなり、ため込みやすい体になってしまいます。栄養バランスを考えると一汁三菜の献立が理想ですが、朝食を食べていない人は、牛乳1杯でも野菜ジュース1本でもいいので、口に入れることから始めてみましょう。健康に過ごすための一般的な女性の1日の摂取カロリーは1800~2000カロリー。といっても、カロリー計算をしながら食べるのはなかなか難しいですね。わかりやすいのは調理方法を選んで食べること。油分はカロリーが高いので、「炒める・揚げる」より「生・蒸す」がおすすめです。また見逃しやすいのがドレッシング。意外と油を多く含んでいるので注意を。食べる順番にも太らないコツがあります。それはカロリーの低いものから食べること。まずサラダやフルーツ、煮物、次に汁物、ごはん、最後にメインのおかずという順番で食べましょう。生野菜やフルーツには酵素が多く含まれ、消化を促進し、食べすぎを防ぐことができます。鉄分、カルシウム、食物繊維を積極的に摂取して女性は生理があるため、鉄分が不足しがち。貧血の原因になるので、鉄分が多く含まれるホウレン草や水菜などの濃い緑の野菜、ひじき、豆類、レバーなどを積極的に食べましょう。ビタミンCと一緒に摂ると吸収がよくなります。また女性は閉経後に骨密度がガクンと下がり骨粗鬆症にかかりやすいので、カルシウムをたくさん摂って予防を心がけましょう。食物繊維は整腸作用で便秘を改善し、代謝をアップして血のめぐりをよくします。めぐりがいいと栄養素を全身にいきわたらせることができます。これから妊娠を控えた女性は、胎児の先天異常の予防のため葉酸を摂りましょう。妊娠初期に必要とされる栄養素ですが、妊娠に気付くのは早くても4週目頃なので、早めから摂ることを心がけて。葉酸も緑の濃い野菜に多く含まれますが、水溶性でゆでると溶け出てしまうので、炒める、レンジ加熱などの調理法がおすすめです。管理栄養士・料理研究家・フードコーディネーター松尾みゆき さんバランスのよい食事は健康的な体づくりや美容にとても大切ですが、食事=栄養源として考えるのではなく、あくまでもおいしく楽しく食べることを提案。そのために低カロリーでもボリュームのあるレシピを日々考案中。夏には「サラダスムージー」の本を発売予定。
2011.5.25
コラム 不妊治療
-
適度な運動で体重管理2
不妊治療中、体重管理をしていくために、どのような運動が効果的なのでしょうか。そして、それを続けていくためのコツは?引き続き、京野アートクリニックの京野先生にアドバイスしていただきました。 早足で40分程度の散歩を日課にするだけでも効果的適正な体重を維持するためには、バランスのとれた食事をとるほか、適度な運動も欠かせません。京野アートクリニックの京野先生も、日頃から患者さんに運動の重要性を指導されているとか。「運動をして筋肉をつけると基礎代謝が上がって減量につながるうえ、不妊治療中にたまりがちなストレスの解消にもなります。また、体を動かすことで全身の血流も促進されますから、子宮や卵巣にとってもとてもいいことなんですよでは、どのような運動がおすすめなのでしょうか。「あまり激しい運動はかえってストレスになるのでおすすめしません。私自身も実践していますが、ウォーキングなら運動が苦手な方でも挑戦できるのでは?急ぎ足で40分くらいの散歩を日課にする。お仕事をされている方なら1駅、2駅手前で降りて歩いてもいいですよね。同じ有酸素運動ということなら、5~10㎞程度の距離をジョギングされてもいいかと思います」ご主人の協力が運動を長続きさせるポイントにでも、「散歩ならできそう」といざ始めてみても、三日坊主で終わりがち。運動を長続きさせるコツはあるのでしょうか。「不妊治療でも言えることですが、運動やダイエットを長続きさせるためにはご主人の協力がポイントになってくると思います。生活習慣はご夫婦同じですから、体型も似てくる場合が多いようです。ご主人の生活に合わせていたら太ってきた、という方も多いのでは?ここはご夫婦で決意して、お二人一緒に運動を始められてはどうでしょうか。ウォーキングもジムでトレーニングするのも、お互いに一つの目標を持って励まし合えば、長続きするのではないかと思いますよ」ご夫婦間の仲も深まり、不妊治療にもよい影響を与えてくれそうです。「運動も食事療法も極端にやりすぎると、必ずリバウンドがきます。軽いものでもとにかく継続させることが一番大切。短期間で痩せるというより、太りにくい体をキープするという気持ちでされるといいのではないかと思います」 京野アートクリニック 京野 廣一 先生食べること、飲むことが好きで、特にラーメンには目がないという京野先生。健康のことを考えて普段はなるべく車を使わず、徒歩や自転車を使って移動。おかげでスリムな体型をキープしています! ■ あわせて読みたい ■ 太っていると 妊娠しにくい? 妊活歴4年、原因不明の不妊に人工授精は有効?自然妊娠となにが違う? 妊活・不妊治療を続けるべきか、それとも諦めるべきか? 京野アートクリニック 女性のための健康生活マガジン JINEKO 不妊治療中、体重管理をしていくために、どのような運動が効果的なのでしょうか。そして、それを続けていくためのコツは?引き続き、京野アートクリニックの京野先生にアドバイスしていただきました。 早足で40分程度の散歩を日課にするだけでも効果的適正な体重を維持するためには、バランスのとれた食事をとるほか、適度な運動も欠かせません。京野アートクリニックの京野先生も、日頃から患者さんに運動の重要性を指導されているとか。「運動をして筋肉をつけると基礎代謝が上がって減量につながるうえ、不妊治療中にたまりがちなストレスの解消にもなります。また、体を動かすことで全身の血流も促進されますから、子宮や卵巣にとってもとてもいいことなんですよでは、どのような運動がおすすめなのでしょうか。「あまり激しい運動はかえってストレスになるのでおすすめしません。私自身も実践していますが、ウォーキングなら運動が苦手な方でも挑戦できるのでは?急ぎ足で40分くらいの散歩を日課にする。お仕事をされている方なら1駅、2駅手前で降りて歩いてもいいですよね。同じ有酸素運動ということなら、5~10㎞程度の距離をジョギングされてもいいかと思います」ご主人の協力が運動を長続きさせるポイントにでも、「散歩ならできそう」といざ始めてみても、三日坊主で終わりがち。運動を長続きさせるコツはあるのでしょうか。「不妊治療でも言えることですが、運動やダイエットを長続きさせるためにはご主人の協力がポイントになってくると思います。生活習慣はご夫婦同じですから、体型も似てくる場合が多いようです。ご主人の生活に合わせていたら太ってきた、という方も多いのでは?ここはご夫婦で決意して、お二人一緒に運動を始められてはどうでしょうか。ウォーキングもジムでトレーニングするのも、お互いに一つの目標を持って励まし合えば、長続きするのではないかと思いますよ」ご夫婦間の仲も深まり、不妊治療にもよい影響を与えてくれそうです。「運動も食事療法も極端にやりすぎると、必ずリバウンドがきます。軽いものでもとにかく継続させることが一番大切。短期間で痩せるというより、太りにくい体をキープするという気持ちでされるといいのではないかと思います」 京野アートクリニック 京野 廣一 先生食べること、飲むことが好きで、特にラーメンには目がないという京野先生。健康のことを考えて普段はなるべく車を使わず、徒歩や自転車を使って移動。おかげでスリムな体型をキープしています! ■ あわせて読みたい ■ 太っていると 妊娠しにくい? 妊活歴4年、原因不明の不妊に人工授精は有効?自然妊娠となにが違う? 妊活・不妊治療を続けるべきか、それとも諦めるべきか? 京野アートクリニック 女性のための健康生活マガジン JINEKO
2011.5.25
コラム 不妊治療
-
難しくない?痛くない?安全なの?「自己注射」への疑問、応援ドクターが解決します!
ジネコでは、自己注射に関して「通院が大変」、「お金はどれくらいかかるの?」「自分で注射するなんて無理!」など、多くの意見が寄せられています。そんなジネラーからの質問に、応援ドクターが答えてくれました。
2010.12.6
コラム 不妊治療
-
現場の先生に聞く!PCOS治療の可能性
PCOSを発症すると、なぜ妊娠しにくくなってしまうのでしょうか。英ウィメンズクリニックの水澤友利先生に詳しいお話をお聞きしました。
2010.12.6
コラム 不妊治療
-
低体温からくる血行不良は妊娠の大敵!よもぎの力で優しくしっかり温めよう
生活環境やストレスが原因とされる低体温。これは、体の働きを悪くするだけでなく、妊娠に必要なホルモンなどを運ぶ血流も滞らせてしまいます。冷えた体を温めるために、運動や生活改善だけでなく、古くから漢方薬などとしても親しまれているよもぎの力で、効率よくしっかり温めましょう。 体の不調を引き起こす現代人の低体温 季節を問わず、エアコンで快適に温度管理された生活環境、運動不足やバランスを欠いた食事、過度のストレスなどが原因といわれている、現代人の低体温。低体温そのものは病気ではありませんが、血行不良による基礎代謝や免疫力の低下は、さまざまな疾病を引き起こす要因となります。特に女性にとって低体温は、不妊症をはじめ、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科系の疾患に結びつくケースもあるので、血行不良や冷えを改善する普段のケアはとても大切になってきます。これからの気温が下がる季節は、特に注意が必要。そこで、詳しいお話をジネコでおなじみの内田クリニックの内田先生にお聞きしました。 血行不良につながる低体温は妊娠にも悪影響 内田クリニック内田 昭弘 先生島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987年島根県での体外受精による初めての赤ちゃん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。地域の産婦人科医と連携を取り、専門性の高い不妊治療に積極的に取り組む。 「血流という観点から、低体温というのは妊娠にはよくない状態ですね。なぜなら、女性は排卵後に黄体ホルモンが多く分泌されて、その働きによって体温が上昇し、高温期が形成されます。そのホルモンがどこでつくられるのかというと、卵巣です。卵巣でつくられたホルモンが体中を巡ることで体温が上昇するので、血流が悪いと、せっかくつくられたホルモンもいい具合に体中を巡っていかないのです」 ホルモンを運ぶのに欠かせない重要な血流の働き 一般的に、健康な人の平熱は、36.6~37.2度の間といわれています。妊娠を望む女性にとって、特にホルモン治療などで不妊治療をしている女性にとっては、体温が低い状態がどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。「血液の流れが滞るというのは、必要なものが届かず、余分なものが出ていかない状態。結局、卵巣に働きかける間脳、脳下垂体系のホルモンも、血流を通じて卵巣に届くわけです。 さらにホルモンだけでなく、不妊治療で使用する内服薬や注射薬も、血液を介して卵巣や子宮に届きますので、血流の状態が悪い冷え性タイプの人は、もしかしたら薬剤がうまく届いていないということも考えられます。ですから血流の改善は、不妊治療においても大切ですね。血流をよくすることで低体温の改善につながることは大いにあるでしょう。当院では、冷えの強い傾向の方には、体質改善が期待できる漢方薬やビタミン剤を処方しています」 ジネコ読者おすすめ!"よもぎ温座パット"体験者の声を聞きました! 内側から温まるのを実感もっと早く出会いたかった!つきさん 顕微授精の後、現在妊娠中。初めての顕微授精を控えて、とにかく体を冷やしてはいけないと思った時期に使用してみました。それまでも腹巻きや腰に温湿布を貼ったりしていましたが、よもぎ温座パットは比べものにならないほど効果がわかりました。最初に使用したのは生理前の黄体期で、使用前は腰が痛かったのですが、温まって血流がよくなるせいか、使用してすぐに痛みが緩和していくのを実感しました。﹁朝に着けて持続時間5時間﹂と書いてありましたが、使い終わった後も一日体がぽかぽかと温まっていました。屋外への外出時や、冷えを感じる時、そして受精卵移植後などにも使いました。冷え性のせいかトイレも近いのですが、よもぎ温座パットを着けるとトイレの回数も減りました。よもぎの香りも気にならないし、体の内側から温まるのを実感しました。もっと早くに出会っておきたかったですね。 じんわりした温かさが心地よくよもぎの香りも◎odeonさん 2人目不妊を乗り越え、現在妊娠中。普段から、なんとなく手足の冷えを感じていたので、自分では知らないうちに体の内側が冷えているのかなと思い、よもぎ温座パットを使用してみました。見た目はナプキンとほぼ一緒、羽根付きで使いやすかったです!装着して数分で、じんわりじんわりと温かいものが。低温のカイロをお尻の下に敷いているような気分でした。今まで、こんなふうに温めるという発想がなかったので、この初めてのじんわり感がなんともいえない心地よさ。湯たんぽで足を温めるような感覚とは違って、まさに﹁子宮から温まる﹂という言葉がぴったりだと思いました。下腹部があったかくて、パソコン仕事もはかどって助かりました♪よもぎの香りも“効きそう”という感じで、よもぎの和菓子が大好きな私はまったく抵抗ありませんでした。継続して使用すれば、体質改善になりそうです。 【無料】100ページオールカラー! 女性のための健康生活マガジン JINEKO 生活環境やストレスが原因とされる低体温。これは、体の働きを悪くするだけでなく、妊娠に必要なホルモンなどを運ぶ血流も滞らせてしまいます。冷えた体を温めるために、運動や生活改善だけでなく、古くから漢方薬などとしても親しまれているよもぎの力で、効率よくしっかり温めましょう。 体の不調を引き起こす現代人の低体温 季節を問わず、エアコンで快適に温度管理された生活環境、運動不足やバランスを欠いた食事、過度のストレスなどが原因といわれている、現代人の低体温。低体温そのものは病気ではありませんが、血行不良による基礎代謝や免疫力の低下は、さまざまな疾病を引き起こす要因となります。特に女性にとって低体温は、不妊症をはじめ、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科系の疾患に結びつくケースもあるので、血行不良や冷えを改善する普段のケアはとても大切になってきます。これからの気温が下がる季節は、特に注意が必要。そこで、詳しいお話をジネコでおなじみの内田クリニックの内田先生にお聞きしました。 血行不良につながる低体温は妊娠にも悪影響 内田クリニック内田 昭弘 先生島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987年島根県での体外受精による初めての赤ちゃん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。地域の産婦人科医と連携を取り、専門性の高い不妊治療に積極的に取り組む。 「血流という観点から、低体温というのは妊娠にはよくない状態ですね。なぜなら、女性は排卵後に黄体ホルモンが多く分泌されて、その働きによって体温が上昇し、高温期が形成されます。そのホルモンがどこでつくられるのかというと、卵巣です。卵巣でつくられたホルモンが体中を巡ることで体温が上昇するので、血流が悪いと、せっかくつくられたホルモンもいい具合に体中を巡っていかないのです」 ホルモンを運ぶのに欠かせない重要な血流の働き 一般的に、健康な人の平熱は、36.6~37.2度の間といわれています。妊娠を望む女性にとって、特にホルモン治療などで不妊治療をしている女性にとっては、体温が低い状態がどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。「血液の流れが滞るというのは、必要なものが届かず、余分なものが出ていかない状態。結局、卵巣に働きかける間脳、脳下垂体系のホルモンも、血流を通じて卵巣に届くわけです。 さらにホルモンだけでなく、不妊治療で使用する内服薬や注射薬も、血液を介して卵巣や子宮に届きますので、血流の状態が悪い冷え性タイプの人は、もしかしたら薬剤がうまく届いていないということも考えられます。ですから血流の改善は、不妊治療においても大切ですね。血流をよくすることで低体温の改善につながることは大いにあるでしょう。当院では、冷えの強い傾向の方には、体質改善が期待できる漢方薬やビタミン剤を処方しています」 ジネコ読者おすすめ!"よもぎ温座パット"体験者の声を聞きました! 内側から温まるのを実感もっと早く出会いたかった!つきさん 顕微授精の後、現在妊娠中。初めての顕微授精を控えて、とにかく体を冷やしてはいけないと思った時期に使用してみました。それまでも腹巻きや腰に温湿布を貼ったりしていましたが、よもぎ温座パットは比べものにならないほど効果がわかりました。最初に使用したのは生理前の黄体期で、使用前は腰が痛かったのですが、温まって血流がよくなるせいか、使用してすぐに痛みが緩和していくのを実感しました。﹁朝に着けて持続時間5時間﹂と書いてありましたが、使い終わった後も一日体がぽかぽかと温まっていました。屋外への外出時や、冷えを感じる時、そして受精卵移植後などにも使いました。冷え性のせいかトイレも近いのですが、よもぎ温座パットを着けるとトイレの回数も減りました。よもぎの香りも気にならないし、体の内側から温まるのを実感しました。もっと早くに出会っておきたかったですね。 じんわりした温かさが心地よくよもぎの香りも◎odeonさん 2人目不妊を乗り越え、現在妊娠中。普段から、なんとなく手足の冷えを感じていたので、自分では知らないうちに体の内側が冷えているのかなと思い、よもぎ温座パットを使用してみました。見た目はナプキンとほぼ一緒、羽根付きで使いやすかったです!装着して数分で、じんわりじんわりと温かいものが。低温のカイロをお尻の下に敷いているような気分でした。今まで、こんなふうに温めるという発想がなかったので、この初めてのじんわり感がなんともいえない心地よさ。湯たんぽで足を温めるような感覚とは違って、まさに﹁子宮から温まる﹂という言葉がぴったりだと思いました。下腹部があったかくて、パソコン仕事もはかどって助かりました♪よもぎの香りも“効きそう”という感じで、よもぎの和菓子が大好きな私はまったく抵抗ありませんでした。継続して使用すれば、体質改善になりそうです。 【無料】100ページオールカラー! 女性のための健康生活マガジン JINEKO
2010.12.3
コラム 不妊治療
-
現場の先生に聞く!PCOSの傾向と治療について
現場の先生に聞く!PCOSの傾向と治療について 「藤野婦人科クリニックで聞く!」編 近年、注目を浴びているマイタケ由来の成分"グリスリン"。不妊原因の一つである多嚢胞性卵巣症候群の改善が期待される話題の天然成分です。今回は、本誌『ジネコ』でもおなじみ、藤野婦人科クリニックの藤野先生に、現場でどのように"グリスリン"を使用しているのか教えていただきます。 不妊原因の一つPCOSにみられる2つのタイプ 不妊原因の一つといわれる、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)。海外のデータでは、月経のある女性の10人に1人がPCOSともいわれています。また不妊症の原因になるばかりでなく、糖尿病、高脂血症、子宮内膜がんなどのリスクを高めるとの報告もあります。しかし近年、PCOSが血糖の代謝に不欠なホルモンである、インスリンと深い関わりがあることがわかってきました。そして、このインスリンの働きを調整する成分とし注目されているのが、マイタケに含まれる成分“グリスリン”。そこで今回は現場で実際に“グリスリン”を使用されている、藤野婦人科クリニックの藤野祐司先生に、“グリスリン”の可能性についてお話を聞きました。「PCOSの主な症状は、排卵障害と生理周期の異常、それにともなう不妊です。一般的にいわれているPCOSは肥満型ともいわれ、耐糖能異常の他、肥満、ニキビや多毛、低音声などの男性化症状といった特徴が挙げられます。しかし、日本人のPCOSには2つのタイプがあるんですよ。いわゆる肥満型とやせ型です」 肥満型PCOSに“グリスリン”天然成分だから副作用も安心 ひと口にPCOSといっても、タイプがあるのですね。 藤野婦人科クリニック 藤野 祐司 先生 大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医学部婦人科学教室講師を経て、1997年にクリニックを開業。現在、同大学で非常勤講師も務める。B型・おとめ座。 「実は、日本人のPCOSの約半数はやせ型です。このやせ型は、外見的にはやせていて、血糖やインスリンの数値にも異常が見当たらない。しかし卵巣や血液中のLHやFSH値を調べてみるとPCOSというケースです。やせ型で耐糖能異常のない人は、HMG注射で卵巣刺激を強くした場合に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる可能性が高いと言われています。逆をいえば、OHSSのリスクファクターがやせ型であるともいえます」やせている人でもPCOSになる可能性があるということですね。先生は、どのような理由で“グリスリン”を採用されたのですか。「まず、アメリカの“グリスリン”の研究結果などから、肥満型のPCOSに対して、改善する力を秘めていると感じました。おそらくインスリンの抵抗を改善するメトホルミンに近い作用があるのではと思われます。そこで、これを前提に、僕はあえてやせ型のPCOSの人に処方しています。マイタケが主成分ですから、食生活の一環として安全性が高いこと、またクロミフェンやHMG製剤など、薬と併用できる点もいいですね。現在のところ、副作用の報告はありません」もともと“グリスリン”は、メタボリックシンドロームの改善に有効として開発された成分。アメリカでは“グリスリン”のもとになるマイタケは、薬用キノコとして知られ、免疫活性作用、血糖降下、血清脂質効果、血圧降下、体重抑制といった作用が報告されていると聞きました。だから、耐糖能異常のある肥満型のPCOSには、安全な治療法として期待できるということですね。 やせ型PCOSの改善に期待“グリスリン”の秘めた可能性 しかし、あえてやせ型のPCOSの人に処方されているのは、なぜなのでしょうか。「実は、やせ型のPCOSは有効で副作用の少ない治療法に悩む場合があります。まだ手探りの状態なのです。たとえば、クロミフェンは限られた人にしか効きませんし、HMG製剤という排卵誘発剤は、強力な作用で卵子を一度に排卵するため、卵巣が腫れ上がるといった副作用(OHSS)をともなうこともあります。残された選択肢として、いま期待しているのがフェマーラ®という薬ですが、それ以外の選択肢があってもいいと思いました。副作用の少ない植物由来の“グリスリン”がその役目を担ってくれると嬉しいですね」まだ未知ではありますが、先生の所見から期待されている効果はありますか?「“グリスリン”の予想される薬効とは異なるかもしれませんが、卵巣のホルモン代謝に微妙な影響を与えて、不妊原因の一つである月経異常に、いい兆しが現れるといいいですね」妊娠に不可欠な排卵をつかさどっているのが、さまざまなホルモンの働きだそうですね。もしかすると“グリスリン”は、子宮内ホルモンを調整する可能性も秘めているかもしれないということでしょうか。「卵巣のホルモン代謝を整える、あるいはホルモンバランスを調整する作用が見られればいいなと思っています。まだ処方して間もないので、これからの経過に期待しています」 【無料】100ページオールカラー! 女性のための健康生活マガジン JINEKO 現場の先生に聞く!PCOSの傾向と治療について 「藤野婦人科クリニックで聞く!」編 近年、注目を浴びているマイタケ由来の成分"グリスリン"。不妊原因の一つである多嚢胞性卵巣症候群の改善が期待される話題の天然成分です。今回は、本誌『ジネコ』でもおなじみ、藤野婦人科クリニックの藤野先生に、現場でどのように"グリスリン"を使用しているのか教えていただきます。 不妊原因の一つPCOSにみられる2つのタイプ 不妊原因の一つといわれる、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)。海外のデータでは、月経のある女性の10人に1人がPCOSともいわれています。また不妊症の原因になるばかりでなく、糖尿病、高脂血症、子宮内膜がんなどのリスクを高めるとの報告もあります。しかし近年、PCOSが血糖の代謝に不欠なホルモンである、インスリンと深い関わりがあることがわかってきました。そして、このインスリンの働きを調整する成分とし注目されているのが、マイタケに含まれる成分“グリスリン”。そこで今回は現場で実際に“グリスリン”を使用されている、藤野婦人科クリニックの藤野祐司先生に、“グリスリン”の可能性についてお話を聞きました。「PCOSの主な症状は、排卵障害と生理周期の異常、それにともなう不妊です。一般的にいわれているPCOSは肥満型ともいわれ、耐糖能異常の他、肥満、ニキビや多毛、低音声などの男性化症状といった特徴が挙げられます。しかし、日本人のPCOSには2つのタイプがあるんですよ。いわゆる肥満型とやせ型です」 肥満型PCOSに“グリスリン”天然成分だから副作用も安心 ひと口にPCOSといっても、タイプがあるのですね。 藤野婦人科クリニック 藤野 祐司 先生 大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医学部婦人科学教室講師を経て、1997年にクリニックを開業。現在、同大学で非常勤講師も務める。B型・おとめ座。 「実は、日本人のPCOSの約半数はやせ型です。このやせ型は、外見的にはやせていて、血糖やインスリンの数値にも異常が見当たらない。しかし卵巣や血液中のLHやFSH値を調べてみるとPCOSというケースです。やせ型で耐糖能異常のない人は、HMG注射で卵巣刺激を強くした場合に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる可能性が高いと言われています。逆をいえば、OHSSのリスクファクターがやせ型であるともいえます」やせている人でもPCOSになる可能性があるということですね。先生は、どのような理由で“グリスリン”を採用されたのですか。「まず、アメリカの“グリスリン”の研究結果などから、肥満型のPCOSに対して、改善する力を秘めていると感じました。おそらくインスリンの抵抗を改善するメトホルミンに近い作用があるのではと思われます。そこで、これを前提に、僕はあえてやせ型のPCOSの人に処方しています。マイタケが主成分ですから、食生活の一環として安全性が高いこと、またクロミフェンやHMG製剤など、薬と併用できる点もいいですね。現在のところ、副作用の報告はありません」もともと“グリスリン”は、メタボリックシンドロームの改善に有効として開発された成分。アメリカでは“グリスリン”のもとになるマイタケは、薬用キノコとして知られ、免疫活性作用、血糖降下、血清脂質効果、血圧降下、体重抑制といった作用が報告されていると聞きました。だから、耐糖能異常のある肥満型のPCOSには、安全な治療法として期待できるということですね。 やせ型PCOSの改善に期待“グリスリン”の秘めた可能性 しかし、あえてやせ型のPCOSの人に処方されているのは、なぜなのでしょうか。「実は、やせ型のPCOSは有効で副作用の少ない治療法に悩む場合があります。まだ手探りの状態なのです。たとえば、クロミフェンは限られた人にしか効きませんし、HMG製剤という排卵誘発剤は、強力な作用で卵子を一度に排卵するため、卵巣が腫れ上がるといった副作用(OHSS)をともなうこともあります。残された選択肢として、いま期待しているのがフェマーラ®という薬ですが、それ以外の選択肢があってもいいと思いました。副作用の少ない植物由来の“グリスリン”がその役目を担ってくれると嬉しいですね」まだ未知ではありますが、先生の所見から期待されている効果はありますか?「“グリスリン”の予想される薬効とは異なるかもしれませんが、卵巣のホルモン代謝に微妙な影響を与えて、不妊原因の一つである月経異常に、いい兆しが現れるといいいですね」妊娠に不可欠な排卵をつかさどっているのが、さまざまなホルモンの働きだそうですね。もしかすると“グリスリン”は、子宮内ホルモンを調整する可能性も秘めているかもしれないということでしょうか。「卵巣のホルモン代謝を整える、あるいはホルモンバランスを調整する作用が見られればいいなと思っています。まだ処方して間もないので、これからの経過に期待しています」 【無料】100ページオールカラー! 女性のための健康生活マガジン JINEKO
2010.12.3
コラム 不妊治療
-
体の芯が冷えている可能性も?お腹まわりを温めて深部体温を上げよう
体の芯まで冷えてしまうこの季節は、女性の体には大敵。冷気を外側から“ガード”することはもちろん、体の内側まで積極的に温める対策が大切です。ノア・ウィメンズクリニックの波多野先生にお聞きしました。
2010.12.3
コラム 不妊治療
-
治療にあまり協力的じゃない夫 なぜ、不機嫌になるの?
不妊治療での、このような妻と夫の温度差は、男性のどんな心理や意識から来ているのでしょうか。秋山レディースクリニックの秋山先生に、医師として、また男性代表としてご意見を伺ってみました。
2010.11.18
コラム 不妊治療
-
不妊治療の現場と周辺 日本生殖補助医療標準化機関JISARTとは?その取り組みに迫る!2
不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2 JISARTでは3年に1回、メンバー施設に施設認定審査を実施しています。今回は、その実態を探るべく、5月9日に行われた浅田レディースクリニックの審査にジネコスタッフが同行。 なかなか一般に公開されることのないその内容を、レポートします。 ■ 現場をレポート 医師から受付事務まで審査員が厳しくチェック 去る5月9日、愛知県にある浅田レディースクリニックで、JISARTの施設認定審査が行われました。 審査チームは医師、看護師、胚培養士、心理カウンセラー、受付事務に加え、患者代表も参加。丸一日をかけて、JISARTの実施規定通りの運営が行われているか、各部門別に厳格な審査が行われました。 午前9時から始まった審査開始会議では、事前に提出した質問表の回答に対して質疑応答がなされ、今回の審査チームのリーダーであるミオ・ファティリティ・クリニックの見尾先生をはじめ、各部門の審査員から規定に基づいた質問が飛び交う場面も見られました。 その後、浅田先生の案内で審査員が院内を視察。4グループに分かれ、施設内の各部署の詳しい審査がスタート。 まず、医師部門では、診察室で、見尾先生からカルテの保存方法や、患者のプライバシー保持、処置室での注射の説明の仕方など、実施規定に基づいた審査の質問が浅田先生に投げかけられました。一方、隣室では看護師部門の審査が行われ、「患者を呼び出すときはどうしているのか?」など、実施規定に従ってやり方を確認し合い、よりよい診療のあり方やプライバシー保持についてチェックされていました。 培養室の審査は特に厳格!スタッフ教育にまで質問が 診察室をひと通りチェックした後は、高度不妊治療の重要な現場である培養室へ移動。ジネコスタッフも特別に許可をいただき、滅菌処置をして培養室へ入れていただきました。 ここでは、インキュベーター(培養器)の圧力や培養室内の換気法など、専門的な審査が行われました。見尾先生と、この日オブザーバーとして参加した京野アートクリニックの京野先生も、浅田レディースクリニックの設備を前に、実施規定の項目を確認しながら、培養士の説明に聞き入っておられました。もちろん設備だけでなく、サンプルの記録方法やスタッフの教育などについても、審査員から質問が及びました。 午後も引き続き部門別審査、さらに患者グループとの面談も行われ、3時にすべての審査工程が終了。審査メンバーによる審議が行われた後、結果を報告。今回は、改善事項はなしという結果でしたが、細かな点でいくつか改善提案が挙げられました。 浅田先生をはじめ、スタッフの方々も合意し、改善していく意思が発表され、長い施設認定審査が終了。このように、よりよい医療を提供するために、厳密な審査が行われているのです。 ■ 施設認定審査について~医師の側から 施設同士が審査し合うのはとても有意義なことです 見尾 先生 今回、私は審査をする側で、来年は審査を受ける側になるわけですが、このように施設同士がお互いに審査をし合うというのは、とても有意義なことですね。自分たちの視点だけですと、どうしても一方向からの見方が優先しがちになります。しかし、不妊医療の本質で、一番大切なのは、患者さんに元気な赤ちゃんを授かっていただくことです。 JISARTに属する施設は、最善のかたちで患者さんの夢を叶えるために、各施設の工夫やこだわりを学び合い、患者さんの意見を聞き、改善すべき点は指摘し、より満足してもらえる施設を目指しています。本当に質のよい医療を提供するために、士気を高くし、自助努力を惜しまない団体だということを、多くの方々に知ってほしいですね。 看護師不足など、地域の現状も知らせることのできる機会 浅田 先生 今回で、当院は2回目の審査になります。このような審査システムがあることで施設全体のレベルが上がることはもちろん、医師にとっては他の施設の先生がいらっしゃることで、とてもよい情報交換の場にもなります。見尾先生は鳥取、京野先生は仙台ですから、普段なかなかゆっくりお話しできません。このような機会に、現場を見ていただきながら、スタッフ教育やリスクマネージメントなどの情報を交換できるので、お互い刺激になるなど、相乗効果がありますね。 また今回、当院の「メディカルアシスタント」という役職について審査側からご質問を受けましたが、これは地域の看護師不足という状況も深く関わっているもの。そのような名古屋の現状も知っていただけた、貴重な機会でした。 ■ 施設認定審査について~施設認定の面から 患者さんにも参加していただき、よりよい施設づくりを 高橋 先生 JISARTが実施している施設認定の一番の利点は、「相手を知って己を知る」ということだと思います。 生殖補助医療はやはりまだ新しい分野なので、日本の医療のなかでは歴史が浅いです。治療法についてきちんと教える機関がないので、不妊治療に関わる医師やスタッフは、独学あるいは海外留学で学んでいるということで、マニュアルが統一されていないのです。施設同士の横のつながりはほとんどないので、自分たちの経験だけをもとにやっている、という施設が多いのが現状なんですね。 そこで、施設認定審査を行うことで、ほかの施設を視察する機会が生まれます。これは今までの日本の医療にはなかった、大変有意義な活動だと思います。 それに施設にとって、3年に1回、施設認定審査があるというのは、客観的に施設のチェックができる貴重な機会ですからありがたいことだと思います。審査メンバーはチェックリストをもとに、客観的に必要な指摘をしてくれますから。 また医師のみならず、すべての部門をチェックすることで、看護師や培養士などスタッフの自己啓発にもつながることは大きな利点でしょう。特に、事務部門の審査は日本特有のもので、JISARTのモデルとなったオーストラリアの制度では行っていません。技術面だけではなく、心理面、サービス面など、総合的な視点でそれぞれの専門家が厳しく審査を行っているのです。 審査には、患者さんにも参加していただいていますが、患者さん側の意見が一番参考になる、というのはどの施設でも共通した声です。医療も患者さんの意見を求めている。最終的には患者さんがよいクリニックを育てるので、ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。 不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2 不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2 JISARTでは3年に1回、メンバー施設に施設認定審査を実施しています。今回は、その実態を探るべく、5月9日に行われた浅田レディースクリニックの審査にジネコスタッフが同行。 なかなか一般に公開されることのないその内容を、レポートします。 ■ 現場をレポート 医師から受付事務まで審査員が厳しくチェック 去る5月9日、愛知県にある浅田レディースクリニックで、JISARTの施設認定審査が行われました。 審査チームは医師、看護師、胚培養士、心理カウンセラー、受付事務に加え、患者代表も参加。丸一日をかけて、JISARTの実施規定通りの運営が行われているか、各部門別に厳格な審査が行われました。 午前9時から始まった審査開始会議では、事前に提出した質問表の回答に対して質疑応答がなされ、今回の審査チームのリーダーであるミオ・ファティリティ・クリニックの見尾先生をはじめ、各部門の審査員から規定に基づいた質問が飛び交う場面も見られました。 その後、浅田先生の案内で審査員が院内を視察。4グループに分かれ、施設内の各部署の詳しい審査がスタート。 まず、医師部門では、診察室で、見尾先生からカルテの保存方法や、患者のプライバシー保持、処置室での注射の説明の仕方など、実施規定に基づいた審査の質問が浅田先生に投げかけられました。一方、隣室では看護師部門の審査が行われ、「患者を呼び出すときはどうしているのか?」など、実施規定に従ってやり方を確認し合い、よりよい診療のあり方やプライバシー保持についてチェックされていました。 培養室の審査は特に厳格!スタッフ教育にまで質問が 診察室をひと通りチェックした後は、高度不妊治療の重要な現場である培養室へ移動。ジネコスタッフも特別に許可をいただき、滅菌処置をして培養室へ入れていただきました。 ここでは、インキュベーター(培養器)の圧力や培養室内の換気法など、専門的な審査が行われました。見尾先生と、この日オブザーバーとして参加した京野アートクリニックの京野先生も、浅田レディースクリニックの設備を前に、実施規定の項目を確認しながら、培養士の説明に聞き入っておられました。もちろん設備だけでなく、サンプルの記録方法やスタッフの教育などについても、審査員から質問が及びました。 午後も引き続き部門別審査、さらに患者グループとの面談も行われ、3時にすべての審査工程が終了。審査メンバーによる審議が行われた後、結果を報告。今回は、改善事項はなしという結果でしたが、細かな点でいくつか改善提案が挙げられました。 浅田先生をはじめ、スタッフの方々も合意し、改善していく意思が発表され、長い施設認定審査が終了。このように、よりよい医療を提供するために、厳密な審査が行われているのです。 ■ 施設認定審査について~医師の側から 施設同士が審査し合うのはとても有意義なことです 見尾 先生 今回、私は審査をする側で、来年は審査を受ける側になるわけですが、このように施設同士がお互いに審査をし合うというのは、とても有意義なことですね。自分たちの視点だけですと、どうしても一方向からの見方が優先しがちになります。しかし、不妊医療の本質で、一番大切なのは、患者さんに元気な赤ちゃんを授かっていただくことです。 JISARTに属する施設は、最善のかたちで患者さんの夢を叶えるために、各施設の工夫やこだわりを学び合い、患者さんの意見を聞き、改善すべき点は指摘し、より満足してもらえる施設を目指しています。本当に質のよい医療を提供するために、士気を高くし、自助努力を惜しまない団体だということを、多くの方々に知ってほしいですね。 看護師不足など、地域の現状も知らせることのできる機会 浅田 先生 今回で、当院は2回目の審査になります。このような審査システムがあることで施設全体のレベルが上がることはもちろん、医師にとっては他の施設の先生がいらっしゃることで、とてもよい情報交換の場にもなります。見尾先生は鳥取、京野先生は仙台ですから、普段なかなかゆっくりお話しできません。このような機会に、現場を見ていただきながら、スタッフ教育やリスクマネージメントなどの情報を交換できるので、お互い刺激になるなど、相乗効果がありますね。 また今回、当院の「メディカルアシスタント」という役職について審査側からご質問を受けましたが、これは地域の看護師不足という状況も深く関わっているもの。そのような名古屋の現状も知っていただけた、貴重な機会でした。 ■ 施設認定審査について~施設認定の面から 患者さんにも参加していただき、よりよい施設づくりを 高橋 先生 JISARTが実施している施設認定の一番の利点は、「相手を知って己を知る」ということだと思います。 生殖補助医療はやはりまだ新しい分野なので、日本の医療のなかでは歴史が浅いです。治療法についてきちんと教える機関がないので、不妊治療に関わる医師やスタッフは、独学あるいは海外留学で学んでいるということで、マニュアルが統一されていないのです。施設同士の横のつながりはほとんどないので、自分たちの経験だけをもとにやっている、という施設が多いのが現状なんですね。 そこで、施設認定審査を行うことで、ほかの施設を視察する機会が生まれます。これは今までの日本の医療にはなかった、大変有意義な活動だと思います。 それに施設にとって、3年に1回、施設認定審査があるというのは、客観的に施設のチェックができる貴重な機会ですからありがたいことだと思います。審査メンバーはチェックリストをもとに、客観的に必要な指摘をしてくれますから。 また医師のみならず、すべての部門をチェックすることで、看護師や培養士などスタッフの自己啓発にもつながることは大きな利点でしょう。特に、事務部門の審査は日本特有のもので、JISARTのモデルとなったオーストラリアの制度では行っていません。技術面だけではなく、心理面、サービス面など、総合的な視点でそれぞれの専門家が厳しく審査を行っているのです。 審査には、患者さんにも参加していただいていますが、患者さん側の意見が一番参考になる、というのはどの施設でも共通した声です。医療も患者さんの意見を求めている。最終的には患者さんがよいクリニックを育てるので、ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。 不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2
2010.9.7
コラム 不妊治療
-
不妊治療の現場と周辺 日本生殖補助医療標準化機関JISARTとは?その取り組みに迫る!1
不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2 日本の生殖医療の質の向上と、安心して満足できる生殖補助医療の提供を目的とする団体として、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)があります。 今回は、その理念や活動内容について、所属されている先生方にお話をお聞きし、普段は公開されることのない、施設認定審査の現場をレポートします。 ■ JISARTについて~理事の視点から 施設同士が切磋琢磨し合うことで、不妊治療のレベルが上がっていくのです 田中 先生 JISARTの取り組みにおいて最もよいと思われる部分は、まず一つに、同業者がお互いの施設を審査し合えるということです。 医師同士がチェックし合うということは、要するにライバルにすべてを見られるということ。よくないところはきちんと指摘し、それぞれの意見を述べて、チェックする。その結果、モチベーションが高まり、医療全体のレベルの向上に繋がっていくのだと思います。 もともとJISARTは、オーストラリアの制度をモデルに構築されています。オーストラリアの制度が日本と異なるところは、全額政府が負担している組織だということ。だからこそ厳しい部分もあります。お金がかからないかわりに、全データの提出を求められたり、規定を守らないような場合はライセンスを取り上げられたり。組織の背景は異なりますが、そういう部分を手本に組み立てているため、日本でもその厳しい面が生かされています。 もう一つの利点は、JISARTのなかに倫理委員会を設けていることです。医療の現場では、本当にさまざまな問題が起こりますよね。なぜ問題が起こるのかというと、医師と患者の一対一で契約が交わされ、第三者が入ってないからです。患者は医師の意見が絶対だと思い込みがちですし、かといって医師も人間ですから、常に絶対正しいかといえば、そうではない。そこで同業者、たとえば別の医師やカウンセラーが入って、第三者からの意見が加わることによって、新たな局面が見えるかもしれません。この2つの点が、JISARTにおける最も意義あるものだと思います。 ただ、JISARTに所属しているところだけが優れた施設であるということではありません。これからも、我々の目指す不妊治療の方針や活動に賛同してくれ、JISARTに参加してくれるクリニックが増えていくのではないかと考えています。理想のあり方は、不妊治療のための技術や設備が十分かどうか、厳しい検査をクリアし、前述の2点のような基準を生かして、それぞれが切磋琢磨していること。 JISARTとしては、この組織が持っている特殊性を生かして、今後の日本の生殖医療の向上に少しでも繋がればと望むばかりです。 ■ JISARTについて~培養環境とカウンセリングの面から 徹底された厳格な審査が世界レベルの施設をつくりあげます 宇津宮 先生 JISARTには第三者による審査システムがあります。これはJISARTに属する施設のなかで、審査される施設以外からランダムに選ばれた医師や看護 師、事務などがチームを組み、300以上もの審査項目を一つひとつ徹底的にチェックするというものです。 たとえば、培養環境の場合は、培養室の空気清浄度、培養液のpH値、凍結環境などの項目があり、すべての条件が基準に達していなければなりません。もし是正処置が必要な項目があれば、その施設は3ヶ月以内に指摘された箇所を改善しなければならず、それ以上かかる場合は一からやり直しになります。 また、心理カウンセリング業務についても厳しい審査項目が設けられていますが、実際にはまだ、その必要性やあり方についての認識に、各施設によって温度差があるというのが現状です。 本来、医師はデータに基づいた不妊治療を行い、心理カウンセラーは患者さんの心を支援するものです。医療とカウンセリングはまったく違う分野になるのですが、そういった認識を持っている施設がまだとても少ない。日本の生殖医療の技術は世界レベルの発展を遂げていますが、心理面のケアはまだまだ十分とはいえません。ですが、治療を行うなかで、カウンセリングを必要とする患者さんはたくさんいます。ただ「赤ちゃんが授かればいい」ではなく、そこに至るまでの心理状態もおろそかにはできません。 そのようなことを踏まえ、JISARTのなかで心理カウンセリング業務を機能させていくためにも、現在、しっかりとした基準をつくり始めています。 ■ JISARTについて~倫理委員会の面から 非配偶者間の生殖医療を正しいかたちで根付かせる努力をしています 辰巳 先生 JISARTでは、独自の倫理委員会を設けており、不妊治療における倫理的な問題をきちんと管理しています。 JISARTに所属する施設は国内のみならず、世界的に見てもレベルの高い施設です。そこで行われている最先端の医学研究や臨床応用について、生命倫理および医療倫理に基づき、さまざまな問題を、臨床医学系、生命科学系、倫理・法律系、一般市民代表ら、それぞれの分野の日本のエキスパートであるJISART倫理委員が審査しています。 そしてもう一つ、倫理委員会が力を入れて取り組んでいるのが、非配偶者間の生殖医療です。 この問題は10年以上前から厚生労働省で断続的に検討を続けているのですが、いまだに法律も整備されていません。早発卵巣不全などで、この方法しか妊娠の可能性のない方々が多くいます。このような方々は年齢的なこともあり、もう待ってはいられないのです。 そこで、JISARTでは、これまでの厚生労働省の委員会の答申にできるだけ沿ったガイドラインを作り、倫理委員会の厳しいチェックの下で非配偶者間生殖医療を始めているのです。 この問題は、人間の生命や人生を左右する大切な問題ですから、取り組むからにはそれに関わるすべての方が納得する最良の結果を出さなければいけません。そこで倫理委員会では、卵子の提供をする夫婦、提供を受ける夫婦から詳細なヒアリングを行い、この医療を行う施設の医師やカウンセラーに指示やアドバイスを行い、最終的に大丈夫と判断したケースのみを承認するのです。 実は、私個人としては、基本的には非配偶者間の生殖医療に反対の立場をとっているのですが、これだけのことをしたうえで行うのなら、よい結果が出るだろうと思っています。「当事者がやりたいと思っているのだからよいのでは」と安易に進めればいつか必ず問題が起こってしまいます。一組一組、しっかりとカウンセリングを行い、出生後も告知を含めた継続的なサポートを行っていく。 そのように丁寧に仕事をしていくことが、最終的に非配偶者間の生殖医療が正しいかたちで日本に根付いていくことに繋がるのではないかと考えています。 不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2 不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2 日本の生殖医療の質の向上と、安心して満足できる生殖補助医療の提供を目的とする団体として、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)があります。 今回は、その理念や活動内容について、所属されている先生方にお話をお聞きし、普段は公開されることのない、施設認定審査の現場をレポートします。 ■ JISARTについて~理事の視点から 施設同士が切磋琢磨し合うことで、不妊治療のレベルが上がっていくのです 田中 先生 JISARTの取り組みにおいて最もよいと思われる部分は、まず一つに、同業者がお互いの施設を審査し合えるということです。 医師同士がチェックし合うということは、要するにライバルにすべてを見られるということ。よくないところはきちんと指摘し、それぞれの意見を述べて、チェックする。その結果、モチベーションが高まり、医療全体のレベルの向上に繋がっていくのだと思います。 もともとJISARTは、オーストラリアの制度をモデルに構築されています。オーストラリアの制度が日本と異なるところは、全額政府が負担している組織だということ。だからこそ厳しい部分もあります。お金がかからないかわりに、全データの提出を求められたり、規定を守らないような場合はライセンスを取り上げられたり。組織の背景は異なりますが、そういう部分を手本に組み立てているため、日本でもその厳しい面が生かされています。 もう一つの利点は、JISARTのなかに倫理委員会を設けていることです。医療の現場では、本当にさまざまな問題が起こりますよね。なぜ問題が起こるのかというと、医師と患者の一対一で契約が交わされ、第三者が入ってないからです。患者は医師の意見が絶対だと思い込みがちですし、かといって医師も人間ですから、常に絶対正しいかといえば、そうではない。そこで同業者、たとえば別の医師やカウンセラーが入って、第三者からの意見が加わることによって、新たな局面が見えるかもしれません。この2つの点が、JISARTにおける最も意義あるものだと思います。 ただ、JISARTに所属しているところだけが優れた施設であるということではありません。これからも、我々の目指す不妊治療の方針や活動に賛同してくれ、JISARTに参加してくれるクリニックが増えていくのではないかと考えています。理想のあり方は、不妊治療のための技術や設備が十分かどうか、厳しい検査をクリアし、前述の2点のような基準を生かして、それぞれが切磋琢磨していること。 JISARTとしては、この組織が持っている特殊性を生かして、今後の日本の生殖医療の向上に少しでも繋がればと望むばかりです。 ■ JISARTについて~培養環境とカウンセリングの面から 徹底された厳格な審査が世界レベルの施設をつくりあげます 宇津宮 先生 JISARTには第三者による審査システムがあります。これはJISARTに属する施設のなかで、審査される施設以外からランダムに選ばれた医師や看護 師、事務などがチームを組み、300以上もの審査項目を一つひとつ徹底的にチェックするというものです。 たとえば、培養環境の場合は、培養室の空気清浄度、培養液のpH値、凍結環境などの項目があり、すべての条件が基準に達していなければなりません。もし是正処置が必要な項目があれば、その施設は3ヶ月以内に指摘された箇所を改善しなければならず、それ以上かかる場合は一からやり直しになります。 また、心理カウンセリング業務についても厳しい審査項目が設けられていますが、実際にはまだ、その必要性やあり方についての認識に、各施設によって温度差があるというのが現状です。 本来、医師はデータに基づいた不妊治療を行い、心理カウンセラーは患者さんの心を支援するものです。医療とカウンセリングはまったく違う分野になるのですが、そういった認識を持っている施設がまだとても少ない。日本の生殖医療の技術は世界レベルの発展を遂げていますが、心理面のケアはまだまだ十分とはいえません。ですが、治療を行うなかで、カウンセリングを必要とする患者さんはたくさんいます。ただ「赤ちゃんが授かればいい」ではなく、そこに至るまでの心理状態もおろそかにはできません。 そのようなことを踏まえ、JISARTのなかで心理カウンセリング業務を機能させていくためにも、現在、しっかりとした基準をつくり始めています。 ■ JISARTについて~倫理委員会の面から 非配偶者間の生殖医療を正しいかたちで根付かせる努力をしています 辰巳 先生 JISARTでは、独自の倫理委員会を設けており、不妊治療における倫理的な問題をきちんと管理しています。 JISARTに所属する施設は国内のみならず、世界的に見てもレベルの高い施設です。そこで行われている最先端の医学研究や臨床応用について、生命倫理および医療倫理に基づき、さまざまな問題を、臨床医学系、生命科学系、倫理・法律系、一般市民代表ら、それぞれの分野の日本のエキスパートであるJISART倫理委員が審査しています。 そしてもう一つ、倫理委員会が力を入れて取り組んでいるのが、非配偶者間の生殖医療です。 この問題は10年以上前から厚生労働省で断続的に検討を続けているのですが、いまだに法律も整備されていません。早発卵巣不全などで、この方法しか妊娠の可能性のない方々が多くいます。このような方々は年齢的なこともあり、もう待ってはいられないのです。 そこで、JISARTでは、これまでの厚生労働省の委員会の答申にできるだけ沿ったガイドラインを作り、倫理委員会の厳しいチェックの下で非配偶者間生殖医療を始めているのです。 この問題は、人間の生命や人生を左右する大切な問題ですから、取り組むからにはそれに関わるすべての方が納得する最良の結果を出さなければいけません。そこで倫理委員会では、卵子の提供をする夫婦、提供を受ける夫婦から詳細なヒアリングを行い、この医療を行う施設の医師やカウンセラーに指示やアドバイスを行い、最終的に大丈夫と判断したケースのみを承認するのです。 実は、私個人としては、基本的には非配偶者間の生殖医療に反対の立場をとっているのですが、これだけのことをしたうえで行うのなら、よい結果が出るだろうと思っています。「当事者がやりたいと思っているのだからよいのでは」と安易に進めればいつか必ず問題が起こってしまいます。一組一組、しっかりとカウンセリングを行い、出生後も告知を含めた継続的なサポートを行っていく。 そのように丁寧に仕事をしていくことが、最終的に非配偶者間の生殖医療が正しいかたちで日本に根付いていくことに繋がるのではないかと考えています。 不妊治療の現場と周辺1 ┃ 不妊治療の現場と周辺2
2010.9.7
コラム 不妊治療
-
なかなか移植まで至りません。もう治療を諦めるべき?
なかなか移植まで至りません。もう治療を諦めるべき? 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 相談者:ちよさん(35歳)からの相談 治療のやめ時といわれてしまいました 今まで体外受精を5回しましたが、受精したのは1個だけで、それも胚盤胞までいかず移植できたことがありません。9カ月前に嚢腫が邪魔をして採卵できなくなり、嚢腫、筋腫、癒着剥離の手術を実施。癒着が広範囲で、先生からは「自然妊娠も可能性はあるが、体外受精がいいでしょう」といわれました。今年2月の採卵では受精せず。先日、採卵無麻酔の病院に転院して診てもらったところ、嚢腫と筋腫、癒着がまたできていて、AMHの値は0.18ng/ml、FSHは37mIU/mlでした。先生からは「嚢腫の隙間から見える卵子は採れないことはないが激痛で、そんな思いをして採ったところで良い卵子とは思えない。治療のやめ時でしょう。あと1~2年早かったら」といわれてしまいました。全身麻酔なら採卵できると思いますが、本当にもうやめ時なのでしょうか。 9カ月前に子宮内膜症や子宮筋腫などの手術を受けたのにもかかわらず、また再発をしたということです。 なかには手術をしても半年くらいで再発してしまう人もいます。特に多発筋腫の人はまたすぐにできてしまうことが多いようですね。筋層内筋腫でも子宮内膜を圧迫しているものや粘膜筋腫だと着床に影響することがあるので、そのような影響が考えられるのなら二度目の手術に臨むという選択もあるかと思います。 受精率が低く、胚盤胞までいかないというのは、やはり卵子の質が悪いからなのでしょうか。 確率は低いけれど一応受精はして、でも、その後がうまくいかないということは、やはり卵子の質が悪いことが考えられます。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が低いのが気になりますね。これは卵巣の予備能、残っている卵子の数を表している数値といわれ、卵子の質とは関連していませんが、低いとそれだけ妊娠のチャンスも少なくなってきているということです。 さらに気になるのがFSHの数値。年齢の割に極端に高く、閉経に近い数値です。これは子宮の疾患があるから上がってしまったということではなく、もともと卵巣の働きが悪く、早発閉経になるような傾向があったのではないでしょうか。 確かに厳しい状態ですが、AMH値0.1以下の方でも妊娠している方はいらっしゃいます。FSHに関しても、カウフマン療法などでFSHを一度下げて安定させてから排卵誘発を行えば、妊娠するチャンスはあると思います。 治療する際のポイントなどはありますか。 これまでどのような方法をとってきたのかわかりませんが、もし同じような形で卵子をつくっていたのなら、排卵誘発の方法を変えると胚盤胞までいく可能性が出てくるかもしれません。 卵子をたくさん採ることを目指すのではなく、このような状況の方は低刺激でいいものが出てくるのを待つという方法もあるかと思います。ただ、採卵は急いだほうがいいでしょう。採れるうちに卵子を確保して受精卵を凍結し、再手術に臨むならその後に受けることを考えます。移植は急ぐことはありませんから。とにかく採卵を優先したほうがいいと思います。 「嚢腫が邪魔をして採卵しにくい」ということについてはどう思われますか。 これは無麻酔だから採りにくいということですよね。それなら、麻酔をして採卵をすれば問題ないでしょう。施設によって考え方が異なるかもしれませんが、ちよさんのような症例にも対応できる施設はあると思います。いろいろ問題があってハードルは高めではありますが、できることはまだあるはず。ここで諦めることなく、前向きに治療に臨んでいただきたいですね。 永井生より まとめ ●排卵誘発法を変えてみると、胚盤胞になる卵子が採れる可能性も。 ●AMH低値、FSH高値の人は採卵を優先して、早めに卵子の確保を。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供するために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をはじめ、不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わる総合的な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。クリスマスに開催予定の院内コンサートを企画中。俳優さんが朗読する童謡に合わせて行うピアノやバイオリンの生演奏は以前開催した時も大好評で、小さな子どもたちも夢中になって聴いていたとか。 ≫ 永井マザーズホスピタル 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら なかなか移植まで至りません。もう治療を諦めるべき? 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 相談者:ちよさん(35歳)からの相談 治療のやめ時といわれてしまいました 今まで体外受精を5回しましたが、受精したのは1個だけで、それも胚盤胞までいかず移植できたことがありません。9カ月前に嚢腫が邪魔をして採卵できなくなり、嚢腫、筋腫、癒着剥離の手術を実施。癒着が広範囲で、先生からは「自然妊娠も可能性はあるが、体外受精がいいでしょう」といわれました。今年2月の採卵では受精せず。先日、採卵無麻酔の病院に転院して診てもらったところ、嚢腫と筋腫、癒着がまたできていて、AMHの値は0.18ng/ml、FSHは37mIU/mlでした。先生からは「嚢腫の隙間から見える卵子は採れないことはないが激痛で、そんな思いをして採ったところで良い卵子とは思えない。治療のやめ時でしょう。あと1~2年早かったら」といわれてしまいました。全身麻酔なら採卵できると思いますが、本当にもうやめ時なのでしょうか。 9カ月前に子宮内膜症や子宮筋腫などの手術を受けたのにもかかわらず、また再発をしたということです。 なかには手術をしても半年くらいで再発してしまう人もいます。特に多発筋腫の人はまたすぐにできてしまうことが多いようですね。筋層内筋腫でも子宮内膜を圧迫しているものや粘膜筋腫だと着床に影響することがあるので、そのような影響が考えられるのなら二度目の手術に臨むという選択もあるかと思います。 受精率が低く、胚盤胞までいかないというのは、やはり卵子の質が悪いからなのでしょうか。 確率は低いけれど一応受精はして、でも、その後がうまくいかないということは、やはり卵子の質が悪いことが考えられます。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が低いのが気になりますね。これは卵巣の予備能、残っている卵子の数を表している数値といわれ、卵子の質とは関連していませんが、低いとそれだけ妊娠のチャンスも少なくなってきているということです。 さらに気になるのがFSHの数値。年齢の割に極端に高く、閉経に近い数値です。これは子宮の疾患があるから上がってしまったということではなく、もともと卵巣の働きが悪く、早発閉経になるような傾向があったのではないでしょうか。 確かに厳しい状態ですが、AMH値0.1以下の方でも妊娠している方はいらっしゃいます。FSHに関しても、カウフマン療法などでFSHを一度下げて安定させてから排卵誘発を行えば、妊娠するチャンスはあると思います。 治療する際のポイントなどはありますか。 これまでどのような方法をとってきたのかわかりませんが、もし同じような形で卵子をつくっていたのなら、排卵誘発の方法を変えると胚盤胞までいく可能性が出てくるかもしれません。 卵子をたくさん採ることを目指すのではなく、このような状況の方は低刺激でいいものが出てくるのを待つという方法もあるかと思います。ただ、採卵は急いだほうがいいでしょう。採れるうちに卵子を確保して受精卵を凍結し、再手術に臨むならその後に受けることを考えます。移植は急ぐことはありませんから。とにかく採卵を優先したほうがいいと思います。 「嚢腫が邪魔をして採卵しにくい」ということについてはどう思われますか。 これは無麻酔だから採りにくいということですよね。それなら、麻酔をして採卵をすれば問題ないでしょう。施設によって考え方が異なるかもしれませんが、ちよさんのような症例にも対応できる施設はあると思います。いろいろ問題があってハードルは高めではありますが、できることはまだあるはず。ここで諦めることなく、前向きに治療に臨んでいただきたいですね。 永井生より まとめ ●排卵誘発法を変えてみると、胚盤胞になる卵子が採れる可能性も。 ●AMH低値、FSH高値の人は採卵を優先して、早めに卵子の確保を。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供するために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をはじめ、不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わる総合的な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。クリスマスに開催予定の院内コンサートを企画中。俳優さんが朗読する童謡に合わせて行うピアノやバイオリンの生演奏は以前開催した時も大好評で、小さな子どもたちも夢中になって聴いていたとか。 ≫ 永井マザーズホスピタル 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.21
コラム 不妊治療
-
顕微授精の受精率が低く、胚盤胞まで到達しません
「採卵日の2日前に夫が風邪を引いて熱を出していました。当日までに熱は下がりましたが、これは精液の数値が悪くなる原因になりますか?」
2017.11.21
コラム 不妊治療
-
人工、顕微授精の結果が出ない。転院または治療を諦めるべき?
人工、顕微授精の結果が出ない。転院または治療を諦めるべき? 蔵本 武志 先生(蔵本ウイメンズクリニック) 相談者:えりさん(39歳)からの相談 着床しません 37歳から不妊治療を開始、人工授精10回以上、顕微授精4回を行いました。現在、AMH0.64ng/mlと徐々に低下しています。あらゆる検査をし、一部卵管狭窄が認められました。主人に少々問題があり、精子濃度が少なく、奇形率が多いため、自然妊娠は厳しいという診断でした。今年1月に一時的に治療をお休みした期間に自然妊娠をしましたが、7週目で流産。現在は顕微授精4回目失敗、胚盤胞移植に向けて待機中です(胚盤胞移植は初めてです。今まで胚盤胞に到達しなかったので新鮮胚移植しか行ったことがありません)。失敗続きで転院も考えていますが、仕事との両立や生活を考えると物理的に厳しく感じます。もしくはこのまま諦めるべきなのか悩んでいます。 胚盤胞移植に向けて待機中、これからの治療に悩んでおられるようです。 情報が少ないのですが、初めての胚盤胞移植のため、おそらく事前に凍結された胚盤胞を融解して移植されるご予定ですね。今までえりさんが取り組まれていた新鮮胚移植は、採卵・体外受精後およそ2~3日目の分割胚移植を行っておられましたが、胚盤胞移植は採卵・体外受精後5~6日まで体外で培養した最終段階の胚で、新鮮胚移植に比べより生命力のある胚を選ぶことができます。着床率もおよそ2倍になると思います。 AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能を示す)の数値を見ると、確かに採卵数は多くないことが予想されますが、数字にガッカリしないでほしいですね。えりさんは数カ月前に自然妊娠を経験したという事実があります。39歳の卵子の4割以上は染色体異常があると言われていますが、だからといって年齢で諦める必要もありません。 不妊治療にあたり、心理的にダメージを受けていらっしゃるように見えます。 仕事については上司の方に不妊治療を行っていることを相談することで比較的通院しやすくなったという方も多く、ひとりで抱え込まないことが大切です。今後、政府も少子化対策として、企業に不妊治療の時間を取れるよう働きかけていくようです。また、メンタルケアのサポート窓口がある病院なら、ぜひ一度相談してみてほしいですね。 ご主人の精子についてですが、実は採取ごとに違うクオリティの精子が採取されることが多々あります。また、良い質の精子は、禁欲期間が2日以内と言われています。不妊治療は妻だけの問題ではなく、夫婦で取り組むものですから、ご主人との話し合いや意思の疎通をしっかりとって、ひとりで抱え込まないことが大切です。 これからどのような治療法を考えればいいでしょう。 新鮮胚移植に比べ、子宮内膜環境を整えた凍結胚の融解胚移植の妊娠率は平均10%以上高くなります。まず、胚移植する前の周期に子宮鏡で中の様子を確認し、内膜ポリープがないか、充血していないかなど着床する子宮内膜環境のチェックを行い、内膜の充血があれば慢性子宮内膜炎の可能性も考えられ、ビブラマイシン®などの抗生剤などをうまく利用して、えりさんの状態にあったケアをして子宮内環境を整えてみてはいかがですか。もちろんそのようなことをすべて行ったうえで、それでも妊娠しない場合は心機一転、転院を考えてみるのも良い選択かもしれません。 失敗を重ねてからの待機中でいろいろ考え込んでしまうことも多いでしょうが、リラックスして次のステップに進んでください。 蔵本先生より まとめ ●凍結した胚盤胞の融解胚移植が最も妊娠率が高い。 ●子宮鏡を使い、子宮内膜環境を確認。その状態を見て必要な処置を行ってみては。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 蔵本 武志 先生(蔵本ウイメンズクリニック) 山口県柳井市出身。1979年久留米大学医学部卒業。1985年山口大学大学院修了。医学博士。1995年6月蔵本ウイメンズクリニック開院。開院当時より、体外受精、顕微授精をはじめ、一般不妊治療や生殖医療の研究を広く行う。JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長。山口大学非常勤講師、久留米大学医学部臨床教授。今年は劇団四季ミュージカル「リトルマーメイド」の観劇やアンコールワットへの一人旅などで大いにリフレッシュした蔵本先生。笑顔が3割増しと評判だそう。 ≫ 蔵本ウイメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 人工、顕微授精の結果が出ない。転院または治療を諦めるべき? 蔵本 武志 先生(蔵本ウイメンズクリニック) 相談者:えりさん(39歳)からの相談 着床しません 37歳から不妊治療を開始、人工授精10回以上、顕微授精4回を行いました。現在、AMH0.64ng/mlと徐々に低下しています。あらゆる検査をし、一部卵管狭窄が認められました。主人に少々問題があり、精子濃度が少なく、奇形率が多いため、自然妊娠は厳しいという診断でした。今年1月に一時的に治療をお休みした期間に自然妊娠をしましたが、7週目で流産。現在は顕微授精4回目失敗、胚盤胞移植に向けて待機中です(胚盤胞移植は初めてです。今まで胚盤胞に到達しなかったので新鮮胚移植しか行ったことがありません)。失敗続きで転院も考えていますが、仕事との両立や生活を考えると物理的に厳しく感じます。もしくはこのまま諦めるべきなのか悩んでいます。 胚盤胞移植に向けて待機中、これからの治療に悩んでおられるようです。 情報が少ないのですが、初めての胚盤胞移植のため、おそらく事前に凍結された胚盤胞を融解して移植されるご予定ですね。今までえりさんが取り組まれていた新鮮胚移植は、採卵・体外受精後およそ2~3日目の分割胚移植を行っておられましたが、胚盤胞移植は採卵・体外受精後5~6日まで体外で培養した最終段階の胚で、新鮮胚移植に比べより生命力のある胚を選ぶことができます。着床率もおよそ2倍になると思います。 AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能を示す)の数値を見ると、確かに採卵数は多くないことが予想されますが、数字にガッカリしないでほしいですね。えりさんは数カ月前に自然妊娠を経験したという事実があります。39歳の卵子の4割以上は染色体異常があると言われていますが、だからといって年齢で諦める必要もありません。 不妊治療にあたり、心理的にダメージを受けていらっしゃるように見えます。 仕事については上司の方に不妊治療を行っていることを相談することで比較的通院しやすくなったという方も多く、ひとりで抱え込まないことが大切です。今後、政府も少子化対策として、企業に不妊治療の時間を取れるよう働きかけていくようです。また、メンタルケアのサポート窓口がある病院なら、ぜひ一度相談してみてほしいですね。 ご主人の精子についてですが、実は採取ごとに違うクオリティの精子が採取されることが多々あります。また、良い質の精子は、禁欲期間が2日以内と言われています。不妊治療は妻だけの問題ではなく、夫婦で取り組むものですから、ご主人との話し合いや意思の疎通をしっかりとって、ひとりで抱え込まないことが大切です。 これからどのような治療法を考えればいいでしょう。 新鮮胚移植に比べ、子宮内膜環境を整えた凍結胚の融解胚移植の妊娠率は平均10%以上高くなります。まず、胚移植する前の周期に子宮鏡で中の様子を確認し、内膜ポリープがないか、充血していないかなど着床する子宮内膜環境のチェックを行い、内膜の充血があれば慢性子宮内膜炎の可能性も考えられ、ビブラマイシン®などの抗生剤などをうまく利用して、えりさんの状態にあったケアをして子宮内環境を整えてみてはいかがですか。もちろんそのようなことをすべて行ったうえで、それでも妊娠しない場合は心機一転、転院を考えてみるのも良い選択かもしれません。 失敗を重ねてからの待機中でいろいろ考え込んでしまうことも多いでしょうが、リラックスして次のステップに進んでください。 蔵本先生より まとめ ●凍結した胚盤胞の融解胚移植が最も妊娠率が高い。 ●子宮鏡を使い、子宮内膜環境を確認。その状態を見て必要な処置を行ってみては。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 蔵本 武志 先生(蔵本ウイメンズクリニック) 山口県柳井市出身。1979年久留米大学医学部卒業。1985年山口大学大学院修了。医学博士。1995年6月蔵本ウイメンズクリニック開院。開院当時より、体外受精、顕微授精をはじめ、一般不妊治療や生殖医療の研究を広く行う。JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長。山口大学非常勤講師、久留米大学医学部臨床教授。今年は劇団四季ミュージカル「リトルマーメイド」の観劇やアンコールワットへの一人旅などで大いにリフレッシュした蔵本先生。笑顔が3割増しと評判だそう。 ≫ 蔵本ウイメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.21
コラム 不妊治療
-
顕微授精での良好胚を何度移植しても妊娠継続できません
顕微授精での良好胚を何度移植しても妊娠継続できません 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 相談者:もものみさん(34歳) 良好胚を何度移植しても… 不妊治療を始めて2年。フーナーテストで精子が見えず、3回の人工授精で妊娠に至らず、体外受精専門のクリニックへ転院しました。初回採卵で1つしか卵子が採れず、ふりかけで受精しなかったので、2度目からは顕微授精をしています。7度の移植をしましたが、初めの3回は刺激の少ない方法で採卵。2回目は採卵周期に移植してhCGが0。次は凍結してから次の周期に移植してhCGが0。その後、ショート法で採卵し、5日目胚盤胞AAからBBまで4つ、初期胚グレード1が3つでき、2ステップで3回移植。子宮内膜は11㎜で、2回は着床したもののhCG20以下で化学流産。自然周期での移植はホルモンがうまく上がらず、2回キャンセルしています。うまくいかない原因はなんでしょうか。ほかに方法は考えられないでしょうか。 1回目で受精しなかった原因は? たまたま、卵子の状態が悪くて受精しなかった可能性もあります。1回目の採卵の際に卵子が1個しか採れなくて受精しなかったから、2回目以降はすべて顕微授精をしているとのことですが、卵子数が増えてきた時に、もう一度、体外受精を試してみたらどうでしょうか。人工授精が3回できているということは、精子に驚くほどの異常はないはず。ただ、精子の数、運動率がわからないので、実際、調整した時の精子の情報が欲しいです。また、採卵時に何個採取でき、顕微授精を何個やって何個受精卵になったのかという情報もあるといいですね。 もものみさんは、良好胚の着床がうまくいかないと感じておられるようです。 「自然周期での移植も試みましたが、ホルモンがうまく上がらず、2回キャンセル」ということなので、それまでホルモン補充周期で融解胚移植をしているだろうと推測すれば、ホルモン周期のほうがいいかもしれません。でも、この先生の自然周期をやってみようという発想は正しくて、ホルモン補充周期では妊娠成立はするけど育っていないから、自然周期の時に排卵誘発剤を使って着床の条件を整えるのもありだと思います。あとは、2ステップで3回移植とありますので、二段階胚移植をしているようですね。当院で融解胚移植周期に積極的に取り入れているシート法はやっていることになるので、アシストハッチング(AHA)という方法を検討してみてもいいのではないでしょうか。 内田クリニックでは、どのような治療を進めていくのでしょうか。 1回目に卵子が1つしかなく、ふりかけ(通常の体外受精)で受精しなかったようですが、2回目は受精卵になる卵子数が増えているので、もう一度体外受精をしてみましょうと伝えます。ショート法で胚盤胞にはなっていても、それが化学流産にしかなっていないので、残るのはロング法とアンタゴニスト法です。卵子の育て方を変えるという発想があってもいいと思います。 先生は、どの段階で顕微授精を提案するのでしょうか? 高度生殖補助医療のいろいろな治療を含めて、昨年は年間約5万1千人が誕生しているなかで、凍結周期で生まれているのが約4万人。顕微授精を行った新鮮胚移植では約4300人です。いくら治療件数があっても、体外受精での治療と比較しても妊娠出産率は低いのが現実です。だから僕は、明らかに精子の数が少ないとか、受精卵にならない(受精障害)という段階で顕微授精をすることにしています。もものみさんも顕微授精で胚盤胞にはなっているけど、化学流産に終わる受精卵にしかなっていない。ですから、受精卵になる経過を変えてみようという発想で、顕微授精をやめるという選択もあるのではないでしょうか。しかし、体外受精をやっても受精卵にならないことを想定して、顕微授精と体外受精を半々で行うことも提案すると思います。排卵誘発法も変えて、卵子が育っていく経過も変えようと。そこをご夫妻が納得してくれるかどうかですね。 内田先生より まとめ ●排卵誘発法、卵子が育っていく経過を変えてみましょう。 ●体外受精と顕微授精を半々にしてみるやり方もあります。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987年、島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副院長を務める内科、大阪より月1回来院の荒木先生による心理カウンセリングをもって現在のクリニックの完成形としている。今年9月、内田クリニックのホームページがマイナーチェンジし、カウンセリング、相談室、セミナーの3つの情報にアクセスしやすくなりました。パソコン用と携帯用でも見せ方を変えているので、ぜひアクセスを。 ≫ 内田クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 顕微授精での良好胚を何度移植しても妊娠継続できません 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 相談者:もものみさん(34歳) 良好胚を何度移植しても… 不妊治療を始めて2年。フーナーテストで精子が見えず、3回の人工授精で妊娠に至らず、体外受精専門のクリニックへ転院しました。初回採卵で1つしか卵子が採れず、ふりかけで受精しなかったので、2度目からは顕微授精をしています。7度の移植をしましたが、初めの3回は刺激の少ない方法で採卵。2回目は採卵周期に移植してhCGが0。次は凍結してから次の周期に移植してhCGが0。その後、ショート法で採卵し、5日目胚盤胞AAからBBまで4つ、初期胚グレード1が3つでき、2ステップで3回移植。子宮内膜は11㎜で、2回は着床したもののhCG20以下で化学流産。自然周期での移植はホルモンがうまく上がらず、2回キャンセルしています。うまくいかない原因はなんでしょうか。ほかに方法は考えられないでしょうか。 1回目で受精しなかった原因は? たまたま、卵子の状態が悪くて受精しなかった可能性もあります。1回目の採卵の際に卵子が1個しか採れなくて受精しなかったから、2回目以降はすべて顕微授精をしているとのことですが、卵子数が増えてきた時に、もう一度、体外受精を試してみたらどうでしょうか。人工授精が3回できているということは、精子に驚くほどの異常はないはず。ただ、精子の数、運動率がわからないので、実際、調整した時の精子の情報が欲しいです。また、採卵時に何個採取でき、顕微授精を何個やって何個受精卵になったのかという情報もあるといいですね。 もものみさんは、良好胚の着床がうまくいかないと感じておられるようです。 「自然周期での移植も試みましたが、ホルモンがうまく上がらず、2回キャンセル」ということなので、それまでホルモン補充周期で融解胚移植をしているだろうと推測すれば、ホルモン周期のほうがいいかもしれません。でも、この先生の自然周期をやってみようという発想は正しくて、ホルモン補充周期では妊娠成立はするけど育っていないから、自然周期の時に排卵誘発剤を使って着床の条件を整えるのもありだと思います。あとは、2ステップで3回移植とありますので、二段階胚移植をしているようですね。当院で融解胚移植周期に積極的に取り入れているシート法はやっていることになるので、アシストハッチング(AHA)という方法を検討してみてもいいのではないでしょうか。 内田クリニックでは、どのような治療を進めていくのでしょうか。 1回目に卵子が1つしかなく、ふりかけ(通常の体外受精)で受精しなかったようですが、2回目は受精卵になる卵子数が増えているので、もう一度体外受精をしてみましょうと伝えます。ショート法で胚盤胞にはなっていても、それが化学流産にしかなっていないので、残るのはロング法とアンタゴニスト法です。卵子の育て方を変えるという発想があってもいいと思います。 先生は、どの段階で顕微授精を提案するのでしょうか? 高度生殖補助医療のいろいろな治療を含めて、昨年は年間約5万1千人が誕生しているなかで、凍結周期で生まれているのが約4万人。顕微授精を行った新鮮胚移植では約4300人です。いくら治療件数があっても、体外受精での治療と比較しても妊娠出産率は低いのが現実です。だから僕は、明らかに精子の数が少ないとか、受精卵にならない(受精障害)という段階で顕微授精をすることにしています。もものみさんも顕微授精で胚盤胞にはなっているけど、化学流産に終わる受精卵にしかなっていない。ですから、受精卵になる経過を変えてみようという発想で、顕微授精をやめるという選択もあるのではないでしょうか。しかし、体外受精をやっても受精卵にならないことを想定して、顕微授精と体外受精を半々で行うことも提案すると思います。排卵誘発法も変えて、卵子が育っていく経過も変えようと。そこをご夫妻が納得してくれるかどうかですね。 内田先生より まとめ ●排卵誘発法、卵子が育っていく経過を変えてみましょう。 ●体外受精と顕微授精を半々にしてみるやり方もあります。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 内田 昭弘 先生(内田クリニック) 島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987年、島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副院長を務める内科、大阪より月1回来院の荒木先生による心理カウンセリングをもって現在のクリニックの完成形としている。今年9月、内田クリニックのホームページがマイナーチェンジし、カウンセリング、相談室、セミナーの3つの情報にアクセスしやすくなりました。パソコン用と携帯用でも見せ方を変えているので、ぜひアクセスを。 ≫ 内田クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.21
コラム 不妊治療