-
分割が遅い場合は胚盤胞より初期胚を戻したほうがよい?
皆さんの治療に関する相談を全国のドクターにお聞きして、 誌面でアドバイスをお届けする人気企画「ジネコ セカンドオピニオン」。 ジネコの応援ドクターが丁寧にお答えいたします。
2018.12.15
コラム 不妊治療
-
【夫婦で読みたい】一緒に知ろう男性不妊のこと
男性にも不妊の原因があることも多い…と耳にした方も近年増えたのでは。ここで一度、正しい知識を「一緒に」みてみませんか?
2018.12.12
まとめ 不妊治療
-
精液検査の結果が急激に悪化。原因として考えられるのは?
精液検査の結果が急激に悪化。原因として考えられるのは?
2018.8.30
コラム 不妊治療
-
不妊カップルの2~3組に1組は男性側にも不妊原因が
ジネコ読者に行ったアンケートでは、男性に不妊原因があると答えた人は26.6%でした。男性不妊の原因と治療法について伺いました。
2018.8.23
コラム 不妊治療
-
精索静脈瘤の手術をしても 精子の値が変わりません
相談者:よこみゃさん(32歳)からの相談 ▶男性不妊 主人が無精子症と診断されて3年。顕微をしてもなかなか授かりません。ホルモン値や遺伝子検査は問題ありませんでした。精索静脈瘤手術をしても値は変わらず。亜鉛、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、ユベラ(現在は処方なし)、L-カルニチンを飲み、精子運動率が7.53%→20.27%に上がりました。何かほかにできることはないでしょうか? ちなみに主人はIgA腎症なのですが、精子がなくなったことに関係ありますか。ご教授いただけると幸いです。[現在の値]精子濃度1320万/ml、総精子数2500万、精子運動率80.27%、運動精子濃度267万/ml、総運動精子数508万 精索静脈瘤の既往があったようですが、これはどのような疾患ですか。精索静脈瘤は男性不妊の一因になるもので、成人男性の10人に1人、さらに詳しく調べると5人に1人に見られるという報告もあります。程度の差はありますが、決して珍しくない疾患なんですね。 内臓に栄養を届けた後、心臓に戻る血管を静脈といいますが、精索静脈瘤は陰嚢の静脈が拡張した状態です。心臓に戻るほうの血管は圧が低く、人間のように二足歩行だと重力の関係で体の下のほうに血液が溜まりやすくなるんですね。 静脈血が陰嚢静脈にうっ滞すると精巣内の温度が高まり、精巣での精子をつくる機能が障害され、数や運動率など精子の所見が悪くなります。何かをしたからなるというものではなく、精索静脈瘤は生まれつきのものです。見た目では睾丸が非対称だったりするので、赤ちゃんの時に親が気づくこともあります。 どのように治療するのでしょうか。軽度・中等度・高度と3段階に程度を分けると、中等度と高度の方はよこみゃさんのご主人のように手術をして治療することになります。顕微鏡を使って逆流する血管を縛るという施術で、術後の改善率は50~60%程度。目に見えて精子の濃度や運動性が良くなる方もいます。また、数字として表れてこなくても、精子のDNAの損傷率が低下したという研究報告もあるようですね。 手術をした300人近くの方を対象にした当院のアンケート結果では、自然妊娠、人工授精、体外受精すべて含めて、約35%のご夫婦が術後、妊娠されていました。効果がある方もいますが、65%の方は手術をしても妊娠されなかったということです。よこみゃさんのご主人も、残念ながら手術では改善がのぞめなかったということかもしれません。IgA腎症は男性不妊と関係がありますか。腎臓の状態を示す目安の一つであるクレアチニン値が上がれば上がるほど、精巣で精子をつくる機能が悪くなります。この方は値が書かれていないのでわかりませんが、精子に悪影響を及ぼしている可能性も考えられますね。しかし、腎症自体の治療法は程度に合わせて適切な方法があると思います。 今後の治療方針は?無精子症とありますが、少ないながらも精子はちゃんと存在しているので、このまま顕微授精を続けていけば妊娠の可能性はあると思います。 女性がまだ32歳で不妊因子がなければ、治療が少し長引いているようなので、お休みの期間をとられてもいいのでは。お休み後は思い切って他の施設に転院して、仕切り直してみるというのも一つの手だと思いますね。 亜鉛等のサプリメントはご主人の体調に合っているようなのでこのまま続けられて、あとは喫煙しているなら禁煙するなど、生活習慣も見直してみるといいと思います。 Doctor’s advice ●精索静脈瘤の手術をしても精子の状態が改善しない人もいます。 ●このまま顕微授精の継続を。お休み・転院で仕切り直すのも一つの方法。 大橋 正和 先生(荻窪病院 泌尿器科) 慶應義塾大学医学部卒業。日本生殖医学会生殖医療専門医。男性不妊症・一般泌尿器科を専門とし、東京歯科大学市川総合病院、国立成育医療センターなどでの勤務を経て、現在、荻窪病院で泌尿器科部長として勤務。趣味はガーデニングと川柳。中学から大学までは柔道、大学ではラグビーで肉体を鍛えたスポーツマン。O型・てんびん座。不妊に悩むご夫婦へ「どんなことも胸中にしまっておかず、ご夫婦で話し合いを」。出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.37 2018 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
2018.2.25
コラム 不妊治療
-
顕微授精で4回移植しても 結果が出ない原因は?
相談者:ロコさん(30歳)からの相談 ▶男性不妊で結果が出ずに悩んでいます 現在、男性不妊のため顕微授精をしていますが、なかなか結果が出ずに悩んでいます。1年前からショート法で採卵3回、移植は4回行いました。私のほうには原因がないと医師にいわれていますが、4回も移植しているのに妊娠できないので、私も着床不全の検査や子宮鏡検査、子宮内掻爬などを受けたほうがいいのかと考えています。医師からは「男性不妊だから受精卵も質が良くないし、染色体異常があったのだろう。あなたの検査は必要ない。とにかく男性不妊が原因!」といわれ、あまり取り合ってもらえませんでした。毎回同じ誘発法で、採れる卵子が採卵のたびに減ってきているので、本当にこのままで大丈夫か、医師を信頼しきれずにいます。 やはり、男性の精液所見が良くないから妊娠まで至らないのですか。ご主人の現在の精子数は1500~2900万/ml程度、運動率は20%前後とのこと。1年前と比べて状態は少し良くなっているそうですが、直進運動率が15%と低いようですね。顕微授精をすれば十分妊娠の希望がもてる数値だと思いますが、担当医の先生がおっしゃっているように、確かに精子が良くないと受精卵の質も悪くなるという報告もあります。 ロコさんは4回の移植のうち、2回は4AA、4BBという比較的グレードの良い胚盤胞を戻されています。当院でも女性側に異常がなく、男性の精子が少ないというご夫婦の場合、胚盤胞を移植しても着床しにくい、流産してしまうなど、なかなか妊娠に至らないケースが見られます。見た目ではわかりませんが、精子の質が何かしら受精卵に影響を与えていることがあるのかもしれません。女性側に問題はないのでしょうか。そうとはいいきれません。男性だけでなく、女性側だったら着床障害、何かが原因で着床を妨げている可能性も考えたほうがいいでしょう。 受精卵に問題がなくても、それを受け入れる子宮に異常があることも。たとえば子宮内膜にポリープがあるとか、子宮内膜炎を起こしていて炎症があるなど。これらを詳しく調べるには、やはり一度、子宮鏡検査を受けたほうがいいと思いますね。 また、高リン脂質抗体など自己免疫に関する検査、いわゆる不育症の検査で行うようなものも念のため受けられるといいでしょう。検査をして異常がなければ、疑いを1つでも消去できると思います。 不妊に関する治療はこのまま同じ形で続けていってもいいですか。3回の採卵ではすべてショート法を採用されているようですね。どんな誘発法でも回数を重ねていくと、採れる卵子の数は少なくなっていく傾向があります。 もし次回採卵をするとしたらアンタゴニスト法や、クロミッド®もしくはフェマーラ®などの飲み薬をメインにしたもう少しマイルドな方法で試されてみてはいかがでしょうか。 採卵数は減るかもしれませんが、少なくても質の良いもののほうがいいと思います。強い刺激でどんどん続けるのではなく、3、4カ月治療をお休みしてまず卵巣をゆっくり休ませる。その後、なるべく卵巣を刺激しない形で採っていけば、良い受精卵ができる可能性は十分あると思います。 まだ年齢的にお若いし、2回目の移植では化学流産、つまり妊娠反応があったということですから期待がもてるでしょう。 病院については、治療や検査に対する考え方が偏っていて、あまりにもご夫婦の考え方と食い違うようであれば、ご主人と相談して転院を検討されたり、ご主人も男性不妊の専門医に診てもらってもいいと思います。 Doctor’s advice ●子宮の状態や自己免疫を調べる検査を受けてみる意味はあると思います。 ●同じ誘発法を続けるのではなく、次はもっとマイルドな方法でトライを。 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供するために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をはじめ、不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わる総合的な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。セミプロ級の腕前の卓球だけではなく、冬や初春はスキーもこなすという永井先生。時にはカナダなど海外の大自然の中で滑ることも。スポーツが若さと徹夜で当直もこなす体力の源に。≫ 永井マザーズホスピタル出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.37 2018 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
2018.2.25
コラム 不妊治療
-
初めての人もこれを読めば安心! 徳岡先生の不妊治療AtoZ (4)
事前に知識を少しもっていれば、先生の話もスムーズに入ってきて治療を進めやすくなるでしょう。そこでとくおかレディースクリニックの徳岡晋先生に不妊治療のAtoZを教えていただきます。
2017.11.13
コラム 不妊治療
-
2017.8.27 ジネコ妊活セミナー in 福岡
2017年8月27日に行われたジネコ 妊活セミナーより 不妊治療を経験したドクターが教える間違いだらけの不妊治療 2017年8月27日(日)、福岡でに妊活セミナーを開催。「不妊治療を経験したドクターが教える間違いだらけの不妊治療」と題して、井上善仁先生にお話いただきました。その様子を一部ご紹介いたします。 なぜ不妊になるのか 人間は妊孕性がとても低い動物であることをご存知ですか。人間に近いマントヒヒは80%、うさぎは90%、ネズミは一晩オスとメスをケージに入れておけば100%妊娠します。しかし人間の妊娠率はわずか20%にしか過ぎません。妊娠までにはある程度時間がかかるのが普通と考えておくことも大切です。 不妊とは「1年間通常通り性交渉を持っても妊娠しないこと」と定義づけられています。いまは7~8組のカップルに1組が不妊と言われており、日本で約120万組の不妊カップルがいる計算になります。私が婦人科医になった当時は10組にひとり、訪れる人もほとんどが20代でしたが、現在は30代後半から40代が多くを占めます。そのうち1/4が不妊治療を受け、成功するのはその中のおよそ3割程度です。そして現在、不妊治療を受けて誕生した子どもの25人に1人が体外受精児と言われています。 女性は生まれる前から「卵胞」が作られます。卵巣に含まれる原始卵胞の数は減るばかりで、胎児のときには700万個ある卵胞も、生まれたときにはすでに200万個に減り、初経をむかえる平均年齢12歳頃には数十万個になっています。20代の妊娠適齢期で10万個、不妊治療を開始する事が多い35歳くらいになると2.5万個にまで減少。そして47歳くらいで1000個になります。原始卵胞の数が1000個を切ると排卵が起こらなくなり、無月経や不正出血が続きます。加齢に伴い、妊娠率が低下し、流産率が上昇するのはこのせいです。すべての卵子は生まれた時にすでにあり、新しく作られることはありません。つまり40歳に排卵した卵子は、20歳のときに排卵した卵子より20年老化した卵子であるという認識が必要です。そのため、遺伝子異常や染色体異常などの確率も上がってしまうのです。 また、女性の社会進出が進み、キャリア形成記と妊娠しやすい年齢が重なってしまい、キャリアを先に選ぶと出産年齢があがることで妊娠適齢期を逃してしまう人が増えているのも不妊原因の一つです。 妊娠の能力を持った方で20%、不妊症の方は0~5%くらいしか妊娠できません。体外受精の場合34歳未満の方で40%、30代後半になると30%、40代前半で19%、40代後半で5%となってきます。不妊治療は、ある程度早くから長く続けることで妊娠の可能性を増やすことはできます。 男性不妊の経験を語る 子宮筋腫や内膜ポリープ、抗精子抗体など不妊には様々な原因がありますが、女性原因40%、男女ともに原因20%、男性原因24%、その他不明となっており、男性因子の不妊は4割以上を占めています。だからこそカップルでの検査、診療が不可欠なのです。 私事ではありますが、結婚11年目まで子どもができませんでした。妻が34歳になった時、このままではいけないと知り合いの医師に相談し、夫婦で検査を受けたところ私に大きな問題があることがわかりました。男性不妊ですね。体外受精が必要となり、顕微鏡受精にステップアップしました。結果は品胎妊娠、3つ子です。今は高校二年生になりました、スマホばかりいじって他の同級生たちと何ら変わりはありません。 自分自身でこのような経験をして学んだことは、不妊治療は女性だけでは無理。男性の協力が不可欠ということです。我が家の場合男性不妊でしたが、ある意味「妻に何かあるより自分が原因で良かった」ということです。もちろん嬉しくはありませんが、妻が辛い思いをするより気は楽でした。 不妊治療はとてもストレスフルですよね。だからストレスを発散するなにかを持っておくことが重要です。男性は発散の場が仕事の場合もあるでしょう、不妊治療だけに心を奪われないようにすることが大切です。 また、みなさんインターネットをよく見られていますがネットの情報は珠玉混合。すべてを鵜呑みにせず、疑問はすべて担当医に聞いてみることです。身内からの心無い言葉があっても「自分は自分」と流してしまいましょう。短期間で結果を出そうと思わず「人間は妊娠しにくい動物だ」と開き直り、長めのスパンで取り組んでほしいと思います。 井上 善仁 先生(井上善レディースクリニック 院長)昭和59年 3月 九州大学医学部卒業 同年 4月 九州大学医学部婦人科学産科学教室入局 昭和59年 6月〜 昭和60年9月 宮崎県立宮崎病院産婦人科研修医 昭和60年 10月〜昭和61年3月 九州大学医学部附属病院産婦人科研修医 昭和61年 4月 九州大学大学院医学系研究科博士課程入学 平成2年 1月 同上修了(医学博士) 平成2年 2月〜 平成4年3月 米国シンシナティー大学医学部生理学教室留学(visiting scientist: 訪問研究員) 平成4年 4月〜 平成5年3月 福岡市立福岡市民病院産婦人科医長 平成5年 4月〜 平成5年9月 九州大学医学部附属病院産婦人科医員 平成5年 10月 同上助手 平成8年 7月 同上併任講師 平成10年 4月 福岡大学医学部産婦人科併任講師 平成11年 10月 福岡大学医学部産婦人科講師 平成20年 4月 福岡大学病院准教授 平成21年 10月〜 平成28年6月 国家公務員共済組合連合会浜の町病院産婦人科部長 平成28年 7月 井上善レディースクリニック開院 ジネコ妊活セミナー 2017年8月27日に行われたジネコ 妊活セミナーより 不妊治療を経験したドクターが教える間違いだらけの不妊治療 2017年8月27日(日)、福岡でに妊活セミナーを開催。「不妊治療を経験したドクターが教える間違いだらけの不妊治療」と題して、井上善仁先生にお話いただきました。その様子を一部ご紹介いたします。 なぜ不妊になるのか 人間は妊孕性がとても低い動物であることをご存知ですか。人間に近いマントヒヒは80%、うさぎは90%、ネズミは一晩オスとメスをケージに入れておけば100%妊娠します。しかし人間の妊娠率はわずか20%にしか過ぎません。妊娠までにはある程度時間がかかるのが普通と考えておくことも大切です。 不妊とは「1年間通常通り性交渉を持っても妊娠しないこと」と定義づけられています。いまは7~8組のカップルに1組が不妊と言われており、日本で約120万組の不妊カップルがいる計算になります。私が婦人科医になった当時は10組にひとり、訪れる人もほとんどが20代でしたが、現在は30代後半から40代が多くを占めます。そのうち1/4が不妊治療を受け、成功するのはその中のおよそ3割程度です。そして現在、不妊治療を受けて誕生した子どもの25人に1人が体外受精児と言われています。 女性は生まれる前から「卵胞」が作られます。卵巣に含まれる原始卵胞の数は減るばかりで、胎児のときには700万個ある卵胞も、生まれたときにはすでに200万個に減り、初経をむかえる平均年齢12歳頃には数十万個になっています。20代の妊娠適齢期で10万個、不妊治療を開始する事が多い35歳くらいになると2.5万個にまで減少。そして47歳くらいで1000個になります。原始卵胞の数が1000個を切ると排卵が起こらなくなり、無月経や不正出血が続きます。加齢に伴い、妊娠率が低下し、流産率が上昇するのはこのせいです。すべての卵子は生まれた時にすでにあり、新しく作られることはありません。つまり40歳に排卵した卵子は、20歳のときに排卵した卵子より20年老化した卵子であるという認識が必要です。そのため、遺伝子異常や染色体異常などの確率も上がってしまうのです。 また、女性の社会進出が進み、キャリア形成記と妊娠しやすい年齢が重なってしまい、キャリアを先に選ぶと出産年齢があがることで妊娠適齢期を逃してしまう人が増えているのも不妊原因の一つです。 妊娠の能力を持った方で20%、不妊症の方は0~5%くらいしか妊娠できません。体外受精の場合34歳未満の方で40%、30代後半になると30%、40代前半で19%、40代後半で5%となってきます。不妊治療は、ある程度早くから長く続けることで妊娠の可能性を増やすことはできます。 男性不妊の経験を語る 子宮筋腫や内膜ポリープ、抗精子抗体など不妊には様々な原因がありますが、女性原因40%、男女ともに原因20%、男性原因24%、その他不明となっており、男性因子の不妊は4割以上を占めています。だからこそカップルでの検査、診療が不可欠なのです。 私事ではありますが、結婚11年目まで子どもができませんでした。妻が34歳になった時、このままではいけないと知り合いの医師に相談し、夫婦で検査を受けたところ私に大きな問題があることがわかりました。男性不妊ですね。体外受精が必要となり、顕微鏡受精にステップアップしました。結果は品胎妊娠、3つ子です。今は高校二年生になりました、スマホばかりいじって他の同級生たちと何ら変わりはありません。 自分自身でこのような経験をして学んだことは、不妊治療は女性だけでは無理。男性の協力が不可欠ということです。我が家の場合男性不妊でしたが、ある意味「妻に何かあるより自分が原因で良かった」ということです。もちろん嬉しくはありませんが、妻が辛い思いをするより気は楽でした。 不妊治療はとてもストレスフルですよね。だからストレスを発散するなにかを持っておくことが重要です。男性は発散の場が仕事の場合もあるでしょう、不妊治療だけに心を奪われないようにすることが大切です。 また、みなさんインターネットをよく見られていますがネットの情報は珠玉混合。すべてを鵜呑みにせず、疑問はすべて担当医に聞いてみることです。身内からの心無い言葉があっても「自分は自分」と流してしまいましょう。短期間で結果を出そうと思わず「人間は妊娠しにくい動物だ」と開き直り、長めのスパンで取り組んでほしいと思います。 井上 善仁 先生(井上善レディースクリニック 院長)昭和59年 3月 九州大学医学部卒業 同年 4月 九州大学医学部婦人科学産科学教室入局 昭和59年 6月〜 昭和60年9月 宮崎県立宮崎病院産婦人科研修医 昭和60年 10月〜昭和61年3月 九州大学医学部附属病院産婦人科研修医 昭和61年 4月 九州大学大学院医学系研究科博士課程入学 平成2年 1月 同上修了(医学博士) 平成2年 2月〜 平成4年3月 米国シンシナティー大学医学部生理学教室留学(visiting scientist: 訪問研究員) 平成4年 4月〜 平成5年3月 福岡市立福岡市民病院産婦人科医長 平成5年 4月〜 平成5年9月 九州大学医学部附属病院産婦人科医員 平成5年 10月 同上助手 平成8年 7月 同上併任講師 平成10年 4月 福岡大学医学部産婦人科併任講師 平成11年 10月 福岡大学医学部産婦人科講師 平成20年 4月 福岡大学病院准教授 平成21年 10月〜 平成28年6月 国家公務員共済組合連合会浜の町病院産婦人科部長 平成28年 7月 井上善レディースクリニック開院 ジネコ妊活セミナー
2017.10.2
レポート 不妊治療
-
閉塞性の無精子症。顕微でも受精しません
閉塞性の無精子症。顕微でも受精しません 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) Mikaさん(会社員/33歳)からの相談 ●男性不妊、顕微でも受精しません 夫は閉塞性の無精子症で、TESEで精巣精子を採り5本凍結しました。術後、医師には精巣精子にしては良好で妊娠できる可能性は高いと言われましたが、受精がうまくいきません。私はAMH値が異常に高く、刺激をすると卵胞が育ちすぎる以外は特に不妊原因を指摘されていません。1回目は低刺激にて9個採卵のうち成熟卵子6個。顕微授精で受精卵は7分割グレード3が1個しかできなかったため、新鮮胚を移植するも陰性。2回目はアンタゴ(中刺激)にて25個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子12個で6個受精。卵巣が腫れたため、胚盤胞まで培養し、結果グレードBCの胚盤胞が1つでき、翌月アシストハッチングした5BCの胚盤胞を移植するも陰性。3回目はHMG+アンタゴ(中刺激)にて28個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子13個で4個受精。培養5日目に胚盤胞に到達しそうな胚はないとのことで移植はキャンセルに。また、これまでにも卵胞が育ちすぎて急にLHサージとなり、採卵キャンセルになったことがありました。凍結した精子は残り2本。これがダメだった場合は、また精巣を切る手術をしないといけません。重度の男性不妊の場合、こちらのクリニックでは限界があるのかなとも思い、培養技術に力を入れているクリニックに転院するべきか迷っています。 精巣上体精子を回収するMESAのほうが負担が少ない 閉塞性無精子症というのは、精巣内で精子はつくられているけれども精管が閉塞しているために精液中に精子が出てこない状態。この場合、手術によって精子を回収するのですが、ご主人がTESEを行ったというのがまず気になります。 閉塞性無精子症の場合、当院ではMESAという精巣上体から精子を回収する方法を採用しています。TESEのように睾丸を切る必要がないため手術による負担が少なく、精子の数や質も高いといわれています。ただ、技術的にはTESEのほうが簡単なため、MESAを行う医師自体が少ないのは事実です。また、精巣精子でも精巣上体精子でも運動精子でさえあれば、数の多少にかかわらず、顕微授精での受精率に変わりはありません。 良い成熟卵子があってこそ受精率も妊娠率も上がる Mikaさん自身においては、AMHが高く多嚢胞性卵巣症候群だと思われますが、大切なのは、きちんとした成熟卵子を採ることです。 成熟卵子は極体の放出という見た目で定義されていますが、同じ赤いリンゴでも甘いものや酸っぱいものがあるように、同じ見た目の成熟卵子にも中身の遺伝子の発現には差があります。 きちんとした成熟卵子というのは、遺伝子の発現が良い卵子であり、そういった成熟卵子に精子を入れて初めて受精率も妊娠率も上がります。つまり、まずは良い材料としての成熟卵子が必要なのです。 AMHが高い人ほど最後の成熟段階の刺激に工夫を 人の卵子は本来、半年くらいかかって育ち、最終的に大きい卵胞が残って、ほかはしぼんでいって単一排卵になるという仕組みです。ところが、多嚢胞性卵巣症候群は、その最後の成熟段階がうまくいかず、全部の卵胞の成長が途中で止まってしまいます。そして、そこに刺激を加えるとすべての卵胞が一斉に育ってきてしまうため、多くの医師は、卵巣過剰刺激症候群などの副作用を懸念して早めに採卵しがちに。それが失敗の原因ともなります。 また、AMHは卵子の成熟の最終段階のホルモンにも関与しているといわれ、AMHが高い人は卵胞が成熟しにくいとも考えられます。ですから、特にAMH値が10 ng/ml以上あるような場合は、熟すのを少し待つような、最後の仕上げ的な刺激を工夫するのが秘訣です。 さらに、LHサージを抑えるためのアンタゴニスト法でもあるわけですから、それで採卵キャンセルというのも残念な話ですね。たとえば、アンタゴニスト法で最後にHCGを使わず、GnRHアゴニストをトリガーにすれば、まず副作用なしで数多くの成熟卵子が採れると思います。 受精卵ができれば女性の年齢相応の妊娠率が出る ほかにも受精障害にはカルシウムイオノフォアよりもエレクトロポレーションという電気刺激のほうがいいなど、Mikaさんのケースにはいろいろな要素が満載ですが、勘違いしてほしくないのはMikaさんの卵子が悪いわけではないということです。 良い成熟卵子を採るためには、卵胞が何㎜になったからHCGをというような単純なことではなく、AMH値と年齢も加味した刺激やタイミングを測ることが大切ですし、良い成熟卵子が採れて運動精子があれば、その後の受精率は顕微授精の技術の差で決まります。むしろ卵子の数が採れる分、1回目の妊娠はもちろん、2人目、3人目のための受精卵をつくって凍結しておくことだって可能です。 男性不妊の場合、男性側に精子が少ないから自然妊娠できないだけであって、受精卵ができれば女性側の年齢に相応の妊娠率はきちんと出るのです。 あと2本の凍結精子があるということですが、少なくとも技術に心配があるならば転院してはいかがでしょうか。その際にはやはり、体外受精や顕微授精の経験が豊富な専門クリニックを選ぶことが大切だと思います。 TOPIC 顕微授精の時、精子はどうやって選ぶの?基本的には運動精子であることが一番大事。精子の頭形やフラグメンテーション、奇形などで判断する説もありますが、それらは精子内のDNAには無関係です。なぜかといえば、DNAというのは通常、傷ついても常に修復されて正常を保つのですが、精子内のDNAはコンパクトにまとまる分、壊れても修復する余地がなく、DNAが壊れている=精子は動かないという判断ができるから。実際に見た目の悪い精子でも顕微授精で妊娠します。つまり精子は生きて、動いていれば、現在の高度生殖医療において受精卵ができるのは当たり前なのです。 浅田先生より まとめ 運動精子と良い成熟卵子があれば受精するか否かは技術の問題です [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。2017年6月には『よくわかるAMHハンドブック ~女性を診るすべての医師へ~』(協和企画・税別1000円)を上梓した先生。今回のような男性不妊のケースにも役立つ医療者向けの内容です。 ≫ 浅田レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 閉塞性の無精子症。顕微でも受精しません 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) Mikaさん(会社員/33歳)からの相談 ●男性不妊、顕微でも受精しません 夫は閉塞性の無精子症で、TESEで精巣精子を採り5本凍結しました。術後、医師には精巣精子にしては良好で妊娠できる可能性は高いと言われましたが、受精がうまくいきません。私はAMH値が異常に高く、刺激をすると卵胞が育ちすぎる以外は特に不妊原因を指摘されていません。1回目は低刺激にて9個採卵のうち成熟卵子6個。顕微授精で受精卵は7分割グレード3が1個しかできなかったため、新鮮胚を移植するも陰性。2回目はアンタゴ(中刺激)にて25個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子12個で6個受精。卵巣が腫れたため、胚盤胞まで培養し、結果グレードBCの胚盤胞が1つでき、翌月アシストハッチングした5BCの胚盤胞を移植するも陰性。3回目はHMG+アンタゴ(中刺激)にて28個採卵。カルシウムイオノフォアで活性化。成熟卵子13個で4個受精。培養5日目に胚盤胞に到達しそうな胚はないとのことで移植はキャンセルに。また、これまでにも卵胞が育ちすぎて急にLHサージとなり、採卵キャンセルになったことがありました。凍結した精子は残り2本。これがダメだった場合は、また精巣を切る手術をしないといけません。重度の男性不妊の場合、こちらのクリニックでは限界があるのかなとも思い、培養技術に力を入れているクリニックに転院するべきか迷っています。 精巣上体精子を回収するMESAのほうが負担が少ない 閉塞性無精子症というのは、精巣内で精子はつくられているけれども精管が閉塞しているために精液中に精子が出てこない状態。この場合、手術によって精子を回収するのですが、ご主人がTESEを行ったというのがまず気になります。 閉塞性無精子症の場合、当院ではMESAという精巣上体から精子を回収する方法を採用しています。TESEのように睾丸を切る必要がないため手術による負担が少なく、精子の数や質も高いといわれています。ただ、技術的にはTESEのほうが簡単なため、MESAを行う医師自体が少ないのは事実です。また、精巣精子でも精巣上体精子でも運動精子でさえあれば、数の多少にかかわらず、顕微授精での受精率に変わりはありません。 良い成熟卵子があってこそ受精率も妊娠率も上がる Mikaさん自身においては、AMHが高く多嚢胞性卵巣症候群だと思われますが、大切なのは、きちんとした成熟卵子を採ることです。 成熟卵子は極体の放出という見た目で定義されていますが、同じ赤いリンゴでも甘いものや酸っぱいものがあるように、同じ見た目の成熟卵子にも中身の遺伝子の発現には差があります。 きちんとした成熟卵子というのは、遺伝子の発現が良い卵子であり、そういった成熟卵子に精子を入れて初めて受精率も妊娠率も上がります。つまり、まずは良い材料としての成熟卵子が必要なのです。 AMHが高い人ほど最後の成熟段階の刺激に工夫を 人の卵子は本来、半年くらいかかって育ち、最終的に大きい卵胞が残って、ほかはしぼんでいって単一排卵になるという仕組みです。ところが、多嚢胞性卵巣症候群は、その最後の成熟段階がうまくいかず、全部の卵胞の成長が途中で止まってしまいます。そして、そこに刺激を加えるとすべての卵胞が一斉に育ってきてしまうため、多くの医師は、卵巣過剰刺激症候群などの副作用を懸念して早めに採卵しがちに。それが失敗の原因ともなります。 また、AMHは卵子の成熟の最終段階のホルモンにも関与しているといわれ、AMHが高い人は卵胞が成熟しにくいとも考えられます。ですから、特にAMH値が10 ng/ml以上あるような場合は、熟すのを少し待つような、最後の仕上げ的な刺激を工夫するのが秘訣です。 さらに、LHサージを抑えるためのアンタゴニスト法でもあるわけですから、それで採卵キャンセルというのも残念な話ですね。たとえば、アンタゴニスト法で最後にHCGを使わず、GnRHアゴニストをトリガーにすれば、まず副作用なしで数多くの成熟卵子が採れると思います。 受精卵ができれば女性の年齢相応の妊娠率が出る ほかにも受精障害にはカルシウムイオノフォアよりもエレクトロポレーションという電気刺激のほうがいいなど、Mikaさんのケースにはいろいろな要素が満載ですが、勘違いしてほしくないのはMikaさんの卵子が悪いわけではないということです。 良い成熟卵子を採るためには、卵胞が何㎜になったからHCGをというような単純なことではなく、AMH値と年齢も加味した刺激やタイミングを測ることが大切ですし、良い成熟卵子が採れて運動精子があれば、その後の受精率は顕微授精の技術の差で決まります。むしろ卵子の数が採れる分、1回目の妊娠はもちろん、2人目、3人目のための受精卵をつくって凍結しておくことだって可能です。 男性不妊の場合、男性側に精子が少ないから自然妊娠できないだけであって、受精卵ができれば女性側の年齢に相応の妊娠率はきちんと出るのです。 あと2本の凍結精子があるということですが、少なくとも技術に心配があるならば転院してはいかがでしょうか。その際にはやはり、体外受精や顕微授精の経験が豊富な専門クリニックを選ぶことが大切だと思います。 TOPIC 顕微授精の時、精子はどうやって選ぶの?基本的には運動精子であることが一番大事。精子の頭形やフラグメンテーション、奇形などで判断する説もありますが、それらは精子内のDNAには無関係です。なぜかといえば、DNAというのは通常、傷ついても常に修復されて正常を保つのですが、精子内のDNAはコンパクトにまとまる分、壊れても修復する余地がなく、DNAが壊れている=精子は動かないという判断ができるから。実際に見た目の悪い精子でも顕微授精で妊娠します。つまり精子は生きて、動いていれば、現在の高度生殖医療において受精卵ができるのは当たり前なのです。 浅田先生より まとめ 運動精子と良い成熟卵子があれば受精するか否かは技術の問題です [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 浅田 義正 先生(浅田レディースクリニック) 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。2017年6月には『よくわかるAMHハンドブック ~女性を診るすべての医師へ~』(協和企画・税別1000円)を上梓した先生。今回のような男性不妊のケースにも役立つ医療者向けの内容です。 ≫ 浅田レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.16
コラム 不妊治療
-
凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい?
凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい? 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) junさん(主婦/40歳)からの相談 ●今後の移植法について 無精子症のため、凍結精子を使用して顕微授精をしていました。顕微授精ができたのはこの1年に4回、1個は胚盤胞凍結、その他は10細胞、桑実胚で分割が止まってしまいました。採卵数は1〜3個で受精はすべてしています。いまの病院は胚盤胞しか移植しないため、まだ移植をしたことがありません。先生に分割胚の凍結も一度聞いてみたんですが、体の負担があるのでやめたほうがいいとのことでした。今回で凍結精子がなくなってしまったので、次回は移植をする予定ですが。もしダメだったらまたTESEをしなければなりません。しかし、TESEをする前に転院したほうがいいか考えております。TESEをしたら転院はできないと思うので(泣)。そこで、 ①分割胚を移植できるように転院すべきかどうか。それとも今のまま胚盤胞を育てるか。 ②移植までにしておいたほうがいいことは? この2つについてアドバイスをいただければと思います。①については両方の意見があると思います。私も各々の意見、経験談もいろいろ伺ってどちらもわかるので、決めかねているのもあります。 採卵当日に精子が準備できない場合に有効な凍結精子 重度の乏精子症や無精子症などで採卵当日に精子が見つからない可能性がある場合、あらかじめ射出精子やTESE(精巣内精子採取術)などで採取した生存精子を凍結保存して顕微授精に用います。また、悪性腫瘍、白血病などの抗がん剤治療で無精子症になる可能性がある場合、治療前に精子を凍結保存することもあります。 凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、長い歴史があり安全性は医学的にまったく問題ありません。無精子症でもTESEで生存精子が見つかれば妊娠の可能性は十分あります。 胚盤胞になりにくい人は長期の体外培養が合わない可能性が。分割胚移植の検討も この方の場合、胚盤胞までなかなか達しないような印象を受けます。胚盤胞になりにくい場合は分割胚の移植を検討します。症例によっては長期の体外培養が胚細胞にとってストレスになり、正常な胚であっても成長しない可能性があるからです。担当医の方に「分割胚の凍結は体の負担があるから」といわれたということですが、お話に行き違いがあったのかもしれません。凍結融解胚移植でも新鮮胚移植でも、分割胚移植と胚盤胞移植では体への負担は変わりません。 いずれにしても胚盤胞になりにくい場合はなんらかの工夫が必要です。当院では2つの方策をとっています。(1)分割胚移植を選択する、(2)顕微授精の時に卵子を活性化するカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞までの培養を試みる方法です。カルシウムイオノフォアはあまりなじみがないかもしれませんので、少しご説明いたします。 本来の働きを応用し、受精卵の分割を活性化させるカルシウムイオノフォア カルシウムイオノフォアは、卵子の細胞質内にある小胞体からカルシウムイオンの放出を促す薬剤です。顕微授精後の卵子活性化に用いられる薬剤で、受精障害の場合に有効とされていましたが、胚細胞の分割が進行することにも効果があるという報告も出てきています。 その原理を簡単に説明しますと、卵子が受精や細胞分裂する時、小胞体からカルシウムが放出され、細胞内のカルシウム濃度の上昇と下降が波状に起こります。その波状の変化がエネルギーとして次の過程に伝わり、受精や分裂につながっていくと考えられています。 つまり、卵子のカルシウム濃度の上昇が不十分だと卵子が不活性な可能性があり、その場合、カルシウムイオノフォアが有効です。また、受精卵が分割する時もカルシウム濃度の波状の変化が必要なので、受精卵の成長が止まってしまう場合にもカルシウムイオノフォアが有効です。 当院でも受精卵の分割がうまくいかない場合にカルシウムイオノフォアを使ってみたところ、胚盤胞到達率が高まり、妊娠率が向上しました。この結果を最近学会報告しております。 現状で分割胚移植が不可能であれば転院も。TESEでの精子凍結後も転院は可能です この方の施設は「胚盤胞しか移植しない」方針だそうですが、たしかに胚盤胞まで成長しない分割胚を移植しても結果につながらないという考え方もあります。一方で、症例によっては長期の体外培養が胚細胞のストレスになるので、胚盤胞にならない場合は分割胚移植のほうがいいという考え方もあります。 当院のデータでは、40歳以上の方の胚盤胞の形成率は30〜40%程度です。なかなか胚盤胞になりにくい方は、前核期胚という受精直後の段階で凍結し内膜を整えてから融解し、前核期胚から分割胚まで培養して移植する方法をとることもあり、良好な結果が出ています。前核期胚は凍結に一番強いといわれていますので、このような方法もいいと思います。 いまの施設で分割胚移植がどうしてもできないのであれば、転院はやむを得ないと感じます。受精卵・精子の凍結後でも移送できますので転院は十分に可能です。通院されている施設でもう一度TESEを行っても、凍結精子を移送することは一般的には可能だと思います。 たとえば当院では同じグループ系列で移入・移出をよく行っており、転勤される方などが利用されています。 「移植までにしておいたほうがいいことは?」というご質問はよく受けるのですが、とくに妊娠率を上げる秘策はありません。無理をせず、ストレスにならないよう体調を整えて普段通りの生活でかまいません。 なによりも一番大事なことは、ご自身が納得できる方法で治療を続けられることです。 TOPIC 採卵当日に精子を準備できない人に有効凍結精子は採精した精子をマイナス196℃の液体窒素中で、凍結・保存することをいいます。精子を凍結するのは、採卵当日に精子が準備できない場合に使用するためです。乏精子症や無精子症などで採精当日に精子が見つからない可能性がある場合、TESEなどで採精し、凍結保存します。また、悪性腫瘍や白血病などで抗がん剤治療を行う場合、将来の無精子症に備えておきたい場合にも有効です。凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、安全性は医学的に立証されています。 中村先生より まとめ 分割胚移植の選択または顕微授精の時にカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞まで培養を [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。先生の一番のストレス解消法は「滝行」。お父様の代から参拝している山口県周南市のお寺に月1回行き、15分ほど滝に打たれるそう。「新幹線とタクシーを乗り継いで3〜4時間かかりますが、この滝行が一番スキッとし、思い悩んでいたことが浄化される感じがします」。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい? 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) junさん(主婦/40歳)からの相談 ●今後の移植法について 無精子症のため、凍結精子を使用して顕微授精をしていました。顕微授精ができたのはこの1年に4回、1個は胚盤胞凍結、その他は10細胞、桑実胚で分割が止まってしまいました。採卵数は1〜3個で受精はすべてしています。いまの病院は胚盤胞しか移植しないため、まだ移植をしたことがありません。先生に分割胚の凍結も一度聞いてみたんですが、体の負担があるのでやめたほうがいいとのことでした。今回で凍結精子がなくなってしまったので、次回は移植をする予定ですが。もしダメだったらまたTESEをしなければなりません。しかし、TESEをする前に転院したほうがいいか考えております。TESEをしたら転院はできないと思うので(泣)。そこで、 ①分割胚を移植できるように転院すべきかどうか。それとも今のまま胚盤胞を育てるか。 ②移植までにしておいたほうがいいことは? この2つについてアドバイスをいただければと思います。①については両方の意見があると思います。私も各々の意見、経験談もいろいろ伺ってどちらもわかるので、決めかねているのもあります。 採卵当日に精子が準備できない場合に有効な凍結精子 重度の乏精子症や無精子症などで採卵当日に精子が見つからない可能性がある場合、あらかじめ射出精子やTESE(精巣内精子採取術)などで採取した生存精子を凍結保存して顕微授精に用います。また、悪性腫瘍、白血病などの抗がん剤治療で無精子症になる可能性がある場合、治療前に精子を凍結保存することもあります。 凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、長い歴史があり安全性は医学的にまったく問題ありません。無精子症でもTESEで生存精子が見つかれば妊娠の可能性は十分あります。 胚盤胞になりにくい人は長期の体外培養が合わない可能性が。分割胚移植の検討も この方の場合、胚盤胞までなかなか達しないような印象を受けます。胚盤胞になりにくい場合は分割胚の移植を検討します。症例によっては長期の体外培養が胚細胞にとってストレスになり、正常な胚であっても成長しない可能性があるからです。担当医の方に「分割胚の凍結は体の負担があるから」といわれたということですが、お話に行き違いがあったのかもしれません。凍結融解胚移植でも新鮮胚移植でも、分割胚移植と胚盤胞移植では体への負担は変わりません。 いずれにしても胚盤胞になりにくい場合はなんらかの工夫が必要です。当院では2つの方策をとっています。(1)分割胚移植を選択する、(2)顕微授精の時に卵子を活性化するカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞までの培養を試みる方法です。カルシウムイオノフォアはあまりなじみがないかもしれませんので、少しご説明いたします。 本来の働きを応用し、受精卵の分割を活性化させるカルシウムイオノフォア カルシウムイオノフォアは、卵子の細胞質内にある小胞体からカルシウムイオンの放出を促す薬剤です。顕微授精後の卵子活性化に用いられる薬剤で、受精障害の場合に有効とされていましたが、胚細胞の分割が進行することにも効果があるという報告も出てきています。 その原理を簡単に説明しますと、卵子が受精や細胞分裂する時、小胞体からカルシウムが放出され、細胞内のカルシウム濃度の上昇と下降が波状に起こります。その波状の変化がエネルギーとして次の過程に伝わり、受精や分裂につながっていくと考えられています。 つまり、卵子のカルシウム濃度の上昇が不十分だと卵子が不活性な可能性があり、その場合、カルシウムイオノフォアが有効です。また、受精卵が分割する時もカルシウム濃度の波状の変化が必要なので、受精卵の成長が止まってしまう場合にもカルシウムイオノフォアが有効です。 当院でも受精卵の分割がうまくいかない場合にカルシウムイオノフォアを使ってみたところ、胚盤胞到達率が高まり、妊娠率が向上しました。この結果を最近学会報告しております。 現状で分割胚移植が不可能であれば転院も。TESEでの精子凍結後も転院は可能です この方の施設は「胚盤胞しか移植しない」方針だそうですが、たしかに胚盤胞まで成長しない分割胚を移植しても結果につながらないという考え方もあります。一方で、症例によっては長期の体外培養が胚細胞のストレスになるので、胚盤胞にならない場合は分割胚移植のほうがいいという考え方もあります。 当院のデータでは、40歳以上の方の胚盤胞の形成率は30〜40%程度です。なかなか胚盤胞になりにくい方は、前核期胚という受精直後の段階で凍結し内膜を整えてから融解し、前核期胚から分割胚まで培養して移植する方法をとることもあり、良好な結果が出ています。前核期胚は凍結に一番強いといわれていますので、このような方法もいいと思います。 いまの施設で分割胚移植がどうしてもできないのであれば、転院はやむを得ないと感じます。受精卵・精子の凍結後でも移送できますので転院は十分に可能です。通院されている施設でもう一度TESEを行っても、凍結精子を移送することは一般的には可能だと思います。 たとえば当院では同じグループ系列で移入・移出をよく行っており、転勤される方などが利用されています。 「移植までにしておいたほうがいいことは?」というご質問はよく受けるのですが、とくに妊娠率を上げる秘策はありません。無理をせず、ストレスにならないよう体調を整えて普段通りの生活でかまいません。 なによりも一番大事なことは、ご自身が納得できる方法で治療を続けられることです。 TOPIC 採卵当日に精子を準備できない人に有効凍結精子は採精した精子をマイナス196℃の液体窒素中で、凍結・保存することをいいます。精子を凍結するのは、採卵当日に精子が準備できない場合に使用するためです。乏精子症や無精子症などで採精当日に精子が見つからない可能性がある場合、TESEなどで採精し、凍結保存します。また、悪性腫瘍や白血病などで抗がん剤治療を行う場合、将来の無精子症に備えておきたい場合にも有効です。凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、安全性は医学的に立証されています。 中村先生より まとめ 分割胚移植の選択または顕微授精の時にカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞まで培養を [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。先生の一番のストレス解消法は「滝行」。お父様の代から参拝している山口県周南市のお寺に月1回行き、15分ほど滝に打たれるそう。「新幹線とタクシーを乗り継いで3〜4時間かかりますが、この滝行が一番スキッとし、思い悩んでいたことが浄化される感じがします」。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.16
コラム 不妊治療
-
育毛剤を1カ月やめれば精子状況は変わる? 人工授精でチャレンジできますか?
「先生からまだ人工授精の話はされていませんが、「34歳からでは遅いのでは?」と私は焦っています。」
2017.8.16
コラム 不妊治療
-
精子の奇形率が高い男性不妊でも妊娠できる?
「乏精子症、精子無力症、奇形精子で顕微授精を2回しましたが、受精できても胚盤胞まで一度も育ったことがありません。特に奇形率が高く、濃縮処理後でも80~90%です。」
2017.8.16
コラム 不妊治療
-
夫がEDぎみ。2人目を人工授精したいけど…
夫がEDぎみ。2人目を人工授精したいけど… 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) こはるさん(主婦/36歳)からの相談 ●2人目不妊の治療について 主人は40歳、私はもうすぐ37歳です。結婚当初から主人がEDぎみでセックスは相当少なく、子どもは諦めていたところ4年前に自然に妊娠、出産しました。子どもが好きな主人は2人目が欲しいと言うので2年ぶりに子づくりしたのですが最後までいきませんでした。それ以来、完全に自信がなくなったようで子どもが欲しいとすら言わなくなりました。病院で夫婦での受診をすすめられたのですが、夫は行きたがらず、不妊治療など人工的なことをするくらいなら2人目は諦めると受診しませんでした。しかし、娘が赤ちゃんを欲しいと言い出し、夫が泌尿器科でバイアグ○をもらってきて1年半ぶりにしたのですが、勃起は継続しても射精はできませんでした。翌日に副作用があったようで、私も心配でもう薬は飲まないでほしいです。夫はHサイトなどで射精はできるようです。私はホルモンや排卵など問題ないようなので、タイミング法で人工授精まで挑戦してみたいです。人工授精もかなり痛いという話を聞くと、スポイトを使って自分でしてみようと思うのですが、時間の無駄でしょうか? ED=勃起不全には薬物療法で、血流改善が有効に EDとは勃起不全のことで、性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起ができないことで満足な性交が行えない症状のことです。そもそも勃起は、性的な興奮が神経を通じて男性器に伝わり、陰茎海綿体の動脈が拡張し血液が十分に送られることで起こります。一方、神経や血管がうまく機能せず、陰茎海綿体に血液が十分に送られなくなると勃起不全が起こりやすくなります。 EDは要因によって「器質性ED」と「機能性ED」の2つに分けられます。前者は加齢や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化によって起こるED。後者は精神的なストレスによって神経の性的興奮が男性器にうまく伝わらないことで起こるEDです。治療法としては、バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®といった薬物療法で血流の改善をうながします。さらに当院ではレスベラトロールというサプリメントを併用しています。レスベラトロールはぶどうの種や皮に含まれる抗酸化物質で、血管拡張作用があるといわれており、薬物療法と同じように血流改善が期待できます。 射精障害には有効な治療法がなく人工授精が第一選択に おそらくご主人はEDではなく、射精障害だと思われます。射精障害はマスターベーションでは射精ができるのに、性交時に腟内に射精ができない状態をいいます。原因は精神的なストレスや誤ったマスターベーションの習慣によって起こるといわれています。ご主人の場合はタイミング法によるプレッシャーなどが原因で精神的なストレスがかかり、余計に射精ができなくなっているのかもしれません。残念ながら射精障害にはEDのような治療法がないため、赤ちゃんを希望される方は人工授精が第一選択になります。また、射精障害の方は精子所見も悪い傾向がありますので、そういう方には早めの体外受精や顕微授精をおすすめしています。そのほか当院では、心理カウンセラーによるカウンセリングをご夫婦で受けていただくこともあります。 近年、EDや射精障害といった男性不妊が原因で、人工授精を希望される方は増えています。なかでも射精障害はメンタル面が原因であることが多く、一般的にこのような悩みを抱えた男性は、自分自身に問題があるにもかかわらず検査を受けようとされず、奥様に非協力的でネガティブな傾向があるように感じます。赤ちゃんを授かるのはお二人の協力がなければできません。むずかしいかもしれませんが一つの目標に向かって、ご主人と一緒に取り組んでいくことが大切だと思います。 妊娠は夫婦の協力が大切二人できちんと話し合いを 2人目を希望されるのであれば、早くに人工授精をされるのがいいと思います。1人目を自然妊娠されており、その後のホルモン値なども問題ないとのことですので、精子さえ腟内に入ることができれば妊娠の可能性はあるでしょう。ただ、1人目を妊娠された時よりは、妊娠率が下がってくる年齢にさしかかっていますから、人工授精されるにしてもスピード感が重要になってきます。ご質問のスポイトの使用については感染のリスクもあり、医師の立場からはおすすめできません。 また、ご主人のお気持ちにもよりますが、泌尿器科の先生にきちんと診てもらってはいかがでしょうか。当院では毎月1回(土曜日)に泌尿器の専門医による男性不妊外来を行っています。このようなケースでは、女性側と男性側の両面の治療が大切になりますから、まずは泌尿器科で勃起不全、射精障害といった器質的な異常がないかを必ず確認してもらうようにしています。たとえば、EDの場合は高血圧、脂質異常症、糖尿病など内科的な疾患が隠れている可能性があります。糖尿病のコントロールをするだけで治るケースもあります。お二人でよくお話をされて、納得できる選択をしてください。 院内の静かな場所に設けられた採精ルーム。毎月1回(土曜日)、泌尿器専門医による男性不妊外来も行っています。 TOPIC お薬の特性を理解し、自分に合った選択をED(勃起不全)の治療薬にはバイアグラ®、レビトラ®、シアリス®の3種類があります。それぞれに効き目、使用感、持続時間、副作用が異なります。特徴としては、バイアグラ®は服用後30分程度で作用し、血中濃度のピークは1時間後(持続時間は5〜6時間)。レビトラ®は服用後15分程度で作用し、血中濃度のピークは45分後(持続時間は5〜6時間)。シアリス®は1〜2時間でゆっくり作用し、24〜36時間持続します。即効性が高いものから、長く持続するマイルドなものまであり、自分に合ったお薬を選ぶことが大切です。ちなみに、これらのお薬は血流改善を目的としているため、EDとは原因が異なる射精障害には効き目はありません。 奥先生より まとめ ご主人は射精障害の可能性が。早めの人工授精をおすすめします [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。6月に最新のレーザーアシストハッチング(補助孵化術)械を導入。従来よりも受精卵の透明帯を薄くして、受精卵の細胞質のダメージが少なく卵子にやさしいのだとか。「今後の成績向上につながると嬉しいですね」と先生。 ≫ レディースクリニック北浜 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 夫がEDぎみ。2人目を人工授精したいけど… 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) こはるさん(主婦/36歳)からの相談 ●2人目不妊の治療について 主人は40歳、私はもうすぐ37歳です。結婚当初から主人がEDぎみでセックスは相当少なく、子どもは諦めていたところ4年前に自然に妊娠、出産しました。子どもが好きな主人は2人目が欲しいと言うので2年ぶりに子づくりしたのですが最後までいきませんでした。それ以来、完全に自信がなくなったようで子どもが欲しいとすら言わなくなりました。病院で夫婦での受診をすすめられたのですが、夫は行きたがらず、不妊治療など人工的なことをするくらいなら2人目は諦めると受診しませんでした。しかし、娘が赤ちゃんを欲しいと言い出し、夫が泌尿器科でバイアグ○をもらってきて1年半ぶりにしたのですが、勃起は継続しても射精はできませんでした。翌日に副作用があったようで、私も心配でもう薬は飲まないでほしいです。夫はHサイトなどで射精はできるようです。私はホルモンや排卵など問題ないようなので、タイミング法で人工授精まで挑戦してみたいです。人工授精もかなり痛いという話を聞くと、スポイトを使って自分でしてみようと思うのですが、時間の無駄でしょうか? ED=勃起不全には薬物療法で、血流改善が有効に EDとは勃起不全のことで、性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起ができないことで満足な性交が行えない症状のことです。そもそも勃起は、性的な興奮が神経を通じて男性器に伝わり、陰茎海綿体の動脈が拡張し血液が十分に送られることで起こります。一方、神経や血管がうまく機能せず、陰茎海綿体に血液が十分に送られなくなると勃起不全が起こりやすくなります。 EDは要因によって「器質性ED」と「機能性ED」の2つに分けられます。前者は加齢や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化によって起こるED。後者は精神的なストレスによって神経の性的興奮が男性器にうまく伝わらないことで起こるEDです。治療法としては、バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®といった薬物療法で血流の改善をうながします。さらに当院ではレスベラトロールというサプリメントを併用しています。レスベラトロールはぶどうの種や皮に含まれる抗酸化物質で、血管拡張作用があるといわれており、薬物療法と同じように血流改善が期待できます。 射精障害には有効な治療法がなく人工授精が第一選択に おそらくご主人はEDではなく、射精障害だと思われます。射精障害はマスターベーションでは射精ができるのに、性交時に腟内に射精ができない状態をいいます。原因は精神的なストレスや誤ったマスターベーションの習慣によって起こるといわれています。ご主人の場合はタイミング法によるプレッシャーなどが原因で精神的なストレスがかかり、余計に射精ができなくなっているのかもしれません。残念ながら射精障害にはEDのような治療法がないため、赤ちゃんを希望される方は人工授精が第一選択になります。また、射精障害の方は精子所見も悪い傾向がありますので、そういう方には早めの体外受精や顕微授精をおすすめしています。そのほか当院では、心理カウンセラーによるカウンセリングをご夫婦で受けていただくこともあります。 近年、EDや射精障害といった男性不妊が原因で、人工授精を希望される方は増えています。なかでも射精障害はメンタル面が原因であることが多く、一般的にこのような悩みを抱えた男性は、自分自身に問題があるにもかかわらず検査を受けようとされず、奥様に非協力的でネガティブな傾向があるように感じます。赤ちゃんを授かるのはお二人の協力がなければできません。むずかしいかもしれませんが一つの目標に向かって、ご主人と一緒に取り組んでいくことが大切だと思います。 妊娠は夫婦の協力が大切二人できちんと話し合いを 2人目を希望されるのであれば、早くに人工授精をされるのがいいと思います。1人目を自然妊娠されており、その後のホルモン値なども問題ないとのことですので、精子さえ腟内に入ることができれば妊娠の可能性はあるでしょう。ただ、1人目を妊娠された時よりは、妊娠率が下がってくる年齢にさしかかっていますから、人工授精されるにしてもスピード感が重要になってきます。ご質問のスポイトの使用については感染のリスクもあり、医師の立場からはおすすめできません。 また、ご主人のお気持ちにもよりますが、泌尿器科の先生にきちんと診てもらってはいかがでしょうか。当院では毎月1回(土曜日)に泌尿器の専門医による男性不妊外来を行っています。このようなケースでは、女性側と男性側の両面の治療が大切になりますから、まずは泌尿器科で勃起不全、射精障害といった器質的な異常がないかを必ず確認してもらうようにしています。たとえば、EDの場合は高血圧、脂質異常症、糖尿病など内科的な疾患が隠れている可能性があります。糖尿病のコントロールをするだけで治るケースもあります。お二人でよくお話をされて、納得できる選択をしてください。 院内の静かな場所に設けられた採精ルーム。毎月1回(土曜日)、泌尿器専門医による男性不妊外来も行っています。 TOPIC お薬の特性を理解し、自分に合った選択をED(勃起不全)の治療薬にはバイアグラ®、レビトラ®、シアリス®の3種類があります。それぞれに効き目、使用感、持続時間、副作用が異なります。特徴としては、バイアグラ®は服用後30分程度で作用し、血中濃度のピークは1時間後(持続時間は5〜6時間)。レビトラ®は服用後15分程度で作用し、血中濃度のピークは45分後(持続時間は5〜6時間)。シアリス®は1〜2時間でゆっくり作用し、24〜36時間持続します。即効性が高いものから、長く持続するマイルドなものまであり、自分に合ったお薬を選ぶことが大切です。ちなみに、これらのお薬は血流改善を目的としているため、EDとは原因が異なる射精障害には効き目はありません。 奥先生より まとめ ご主人は射精障害の可能性が。早めの人工授精をおすすめします [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。6月に最新のレーザーアシストハッチング(補助孵化術)械を導入。従来よりも受精卵の透明帯を薄くして、受精卵の細胞質のダメージが少なく卵子にやさしいのだとか。「今後の成績向上につながると嬉しいですね」と先生。 ≫ レディースクリニック北浜 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.16
コラム 不妊治療
-
精子濃度が830万/mlでも人工授精で妊娠することは可能ですか?
「顕微授精でしか妊娠は難しい」といわれて決心を固めましたが、再検査では濃度が830万/ml、運動率は変わらずという結果で、人工授精をすることに。」
2017.8.16
コラム 不妊治療
-
[対談]「男性不妊治療の助成」実現への想いとこれから
2016年から男性不妊治療の助成制度がいよいよスタート。この制度実現の立役者が三重県知事の鈴木英敬氏と、リプロダクションクリニック大阪の石川智基先生。予備校時代からの親友であり同志であるお二人に、男性不妊治療助成の実現にいたる想いなどお話しいただきました。 不妊症の半数は男性が原因男性不妊治療の助成をきっかけに意識の改革を 石川先生●最初に三重県庁に招かれ、知事をはじめ県庁職員の方々の前で「男性の不妊症」について講演したのは3年前でした。その時、子どもを授かるには卵子と精子が絶対必要であるのに、不妊症=女性という偏った認識があること、また、不妊症の半数近くは男性に原因があることにもかかわらず、多くが男性のほうを向いておらず、男性も不妊症に向き合っていない、という現状をお話ししました。 こうした経緯もあり、三重県では2014年に男性不妊治療の助成を全国で初めて導入されました。その想いをお聞かせください。 鈴木知事●ちょうどその頃、国の「少子化危機突破タスクフォース」の委員として、少子化対策について勉強中でした。日本は1990年の「1・57ショック」以来、少子化対策を行ってきましたが、残念ながら成功していません。その理由は「女性を支援する」「女性に仕事と家庭を両立してもらう」など、女性に解決してもらう政策が多かったこと。私の根底には、男性の意識が変わり、働き方が変わらなければいけないという考えがあります。石川先生に教えていただいた現状を突破口に、男性も家族を形成する当事者として変わるきっかけをつくり、三重県から発信したいという想いがありました。 また、今でこそ子ども2人に恵まれましたが、結婚当初は子どもができなくて夫婦で悩んだ時期もあります。家族の形成は個人の価値観に委ねられるのが前提ですが、子どもを希望しているのにかなわないのはつらいことです。その希望がかなうようにと男性不妊治療の助成を始めました。 男性も利用しやすい総合クリニックの開設で女性をサポート 石川先生●三重県からスタートした男性不妊治療の助成は、他の自治体にも広がり、今年1月に国策になりました。不妊症が男女両方にあるという意識づけはとても大きいと思います。女性は妊娠前、出産、育児中と周囲からさまざまなストレスを受けています。これから受けるのはストレスではなく、サポートであってほしいと思います。 当院は大型商業施設内にクリニックを設け、男性と女性双方を対象にした先端不妊治療の総合クリニックとして、土日・夜間の診療などを行っています。何よりも男性が利用しやすい環境をつくることで、女性をサポートしたいと考えています。 男性不妊治療の助成だけではなく、男性の意識も変える時期にきているのでしょうか。 鈴木知事●男性も「知る」ことが大事ですね。そこで行政として「伝える」ことにも力を入れています。三重県では、男性不妊治療の助成とほぼ同じタイミングで、小学校・中学校・高校・成人の段階別にライフプラン教育を始めています。2013年から高校の保健体育の学習指導要領に「不妊」の項目が追加されました。「避妊」の知識だけでなく、子どもを希望しても授かれない「不妊」という現実があることを、医療的な知識において各発達段階で男女ともに知るべきです。 また、「みえの育児男子プロジェクト」を発足させ、育児男子ハンドブックの作成、「ファザー・オブ・ザ・イヤー・inみえ」の実施、子育て世代の父親を集めた親子キャンプなど、独自の取り組みを行っています。子育て中の男性同士が気軽に子育てについて相談や情報交換できる、そんな環境づくりも大事だと思います。 男性も家族形成の当事者これからも家族のあり方にしっかり向き合っていく 石川先生●子どもを授かることがゴールではなく、ここからがスタートですね。これから父親はどうあるべきか。普遍的に変わらないことがある一方で、私たちの父親のイメージとは違ってきている気がします。妻や子どもに対して、きちんと言葉で伝えて家族形成していくことが大事だと思います。 知事は初の著書『「パパ」はどうしてパパなの?』(エムオン・エンタテインメント)を出されました。とても感動的な内容でしたが、なぜこの本を出そうと思われたのですか。 鈴木知事●ある方が「歴史的転換点となる絵本である」と書評してくださったのですが、先述のように男性も家族形成の当事者です。ただ当事者ではあるけれど、子どもに面と向かって人生において大切なことを伝える機会がありません。そこで絵本で読み聞かせしながら、普段は言えないことを伝えたいと思いました。また、絵本を読んでいる間、お母さんを休ませてあげたいという想いもあります。子どもにとって一番の幸せは、母親が心身ともに健康であることだと思います。 最近、三重県では里親委託や養子縁組の推進にも力を入れています。日本の里親委託は15%程度なのに対し、イギリスは70%と当たり前の環境です。国連ガイドラインにも「子どもは家庭的環境で養育されるべき」とあるのに、日本にはまだそういう環境がありません。これからもさまざまな取り組みを通じて、家族のあり方について真剣に向き合っていくつもりです。 「男性不妊治療助成」制度の流れ 2004 年 少子化対策の観点から、不妊治療の助成制度がスタート。 2014 年 三重県で男性不妊治療に特化した助成制度を都道府県で初めて導入。 2016 年 国の特定不妊治療費助成制度の改正により、男性不妊治療助成が決定。 三重県知事 鈴木 英敬 氏(右)1974 年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2006 年内閣官房参事官補佐として第一次安倍政権で教育再生や環境問題などに取り組む。衆議院選三重2区で自民党からの出馬・落選・離党などを経て、11 年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事に。15 年4月に再選し、現在2期目。家庭では一男一女のパパ。 リプロダクションクリニック大阪 石川 智基 先生(左)医学博士。2000 年神戸大学医学部卒業後、生殖内分泌学を研究。米国の大学で男性不妊を研究、男性不妊手術を学ぶ。08 年に神戸大学大学院助教。その後、オーストラリアの大学で男性不妊診療・研究の経験を積んだ後、2013 年大阪市北区に日本初の男性・女性双方の先端不妊治療を総合的に行う「リプロダクションクリニック大阪」を開院。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.32 2016 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 2016年から男性不妊治療の助成制度がいよいよスタート。この制度実現の立役者が三重県知事の鈴木英敬氏と、リプロダクションクリニック大阪の石川智基先生。予備校時代からの親友であり同志であるお二人に、男性不妊治療助成の実現にいたる想いなどお話しいただきました。 不妊症の半数は男性が原因男性不妊治療の助成をきっかけに意識の改革を 石川先生●最初に三重県庁に招かれ、知事をはじめ県庁職員の方々の前で「男性の不妊症」について講演したのは3年前でした。その時、子どもを授かるには卵子と精子が絶対必要であるのに、不妊症=女性という偏った認識があること、また、不妊症の半数近くは男性に原因があることにもかかわらず、多くが男性のほうを向いておらず、男性も不妊症に向き合っていない、という現状をお話ししました。 こうした経緯もあり、三重県では2014年に男性不妊治療の助成を全国で初めて導入されました。その想いをお聞かせください。 鈴木知事●ちょうどその頃、国の「少子化危機突破タスクフォース」の委員として、少子化対策について勉強中でした。日本は1990年の「1・57ショック」以来、少子化対策を行ってきましたが、残念ながら成功していません。その理由は「女性を支援する」「女性に仕事と家庭を両立してもらう」など、女性に解決してもらう政策が多かったこと。私の根底には、男性の意識が変わり、働き方が変わらなければいけないという考えがあります。石川先生に教えていただいた現状を突破口に、男性も家族を形成する当事者として変わるきっかけをつくり、三重県から発信したいという想いがありました。 また、今でこそ子ども2人に恵まれましたが、結婚当初は子どもができなくて夫婦で悩んだ時期もあります。家族の形成は個人の価値観に委ねられるのが前提ですが、子どもを希望しているのにかなわないのはつらいことです。その希望がかなうようにと男性不妊治療の助成を始めました。 男性も利用しやすい総合クリニックの開設で女性をサポート 石川先生●三重県からスタートした男性不妊治療の助成は、他の自治体にも広がり、今年1月に国策になりました。不妊症が男女両方にあるという意識づけはとても大きいと思います。女性は妊娠前、出産、育児中と周囲からさまざまなストレスを受けています。これから受けるのはストレスではなく、サポートであってほしいと思います。 当院は大型商業施設内にクリニックを設け、男性と女性双方を対象にした先端不妊治療の総合クリニックとして、土日・夜間の診療などを行っています。何よりも男性が利用しやすい環境をつくることで、女性をサポートしたいと考えています。 男性不妊治療の助成だけではなく、男性の意識も変える時期にきているのでしょうか。 鈴木知事●男性も「知る」ことが大事ですね。そこで行政として「伝える」ことにも力を入れています。三重県では、男性不妊治療の助成とほぼ同じタイミングで、小学校・中学校・高校・成人の段階別にライフプラン教育を始めています。2013年から高校の保健体育の学習指導要領に「不妊」の項目が追加されました。「避妊」の知識だけでなく、子どもを希望しても授かれない「不妊」という現実があることを、医療的な知識において各発達段階で男女ともに知るべきです。 また、「みえの育児男子プロジェクト」を発足させ、育児男子ハンドブックの作成、「ファザー・オブ・ザ・イヤー・inみえ」の実施、子育て世代の父親を集めた親子キャンプなど、独自の取り組みを行っています。子育て中の男性同士が気軽に子育てについて相談や情報交換できる、そんな環境づくりも大事だと思います。 男性も家族形成の当事者これからも家族のあり方にしっかり向き合っていく 石川先生●子どもを授かることがゴールではなく、ここからがスタートですね。これから父親はどうあるべきか。普遍的に変わらないことがある一方で、私たちの父親のイメージとは違ってきている気がします。妻や子どもに対して、きちんと言葉で伝えて家族形成していくことが大事だと思います。 知事は初の著書『「パパ」はどうしてパパなの?』(エムオン・エンタテインメント)を出されました。とても感動的な内容でしたが、なぜこの本を出そうと思われたのですか。 鈴木知事●ある方が「歴史的転換点となる絵本である」と書評してくださったのですが、先述のように男性も家族形成の当事者です。ただ当事者ではあるけれど、子どもに面と向かって人生において大切なことを伝える機会がありません。そこで絵本で読み聞かせしながら、普段は言えないことを伝えたいと思いました。また、絵本を読んでいる間、お母さんを休ませてあげたいという想いもあります。子どもにとって一番の幸せは、母親が心身ともに健康であることだと思います。 最近、三重県では里親委託や養子縁組の推進にも力を入れています。日本の里親委託は15%程度なのに対し、イギリスは70%と当たり前の環境です。国連ガイドラインにも「子どもは家庭的環境で養育されるべき」とあるのに、日本にはまだそういう環境がありません。これからもさまざまな取り組みを通じて、家族のあり方について真剣に向き合っていくつもりです。 「男性不妊治療助成」制度の流れ 2004 年 少子化対策の観点から、不妊治療の助成制度がスタート。 2014 年 三重県で男性不妊治療に特化した助成制度を都道府県で初めて導入。 2016 年 国の特定不妊治療費助成制度の改正により、男性不妊治療助成が決定。 三重県知事 鈴木 英敬 氏(右)1974 年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2006 年内閣官房参事官補佐として第一次安倍政権で教育再生や環境問題などに取り組む。衆議院選三重2区で自民党からの出馬・落選・離党などを経て、11 年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事に。15 年4月に再選し、現在2期目。家庭では一男一女のパパ。 リプロダクションクリニック大阪 石川 智基 先生(左)医学博士。2000 年神戸大学医学部卒業後、生殖内分泌学を研究。米国の大学で男性不妊を研究、男性不妊手術を学ぶ。08 年に神戸大学大学院助教。その後、オーストラリアの大学で男性不妊診療・研究の経験を積んだ後、2013 年大阪市北区に日本初の男性・女性双方の先端不妊治療を総合的に行う「リプロダクションクリニック大阪」を開院。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.32 2016 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.1.1
コラム 不妊治療
-
[対談]「男性不妊治療の助成」実現への想いとこれから
2016年から男性不妊治療の助成制度がいよいよスタート。この制度実現の立役者が三重県知事の鈴木英敬氏と、リプロダクションクリニック大阪の石川智基先生。予備校時代からの親友であり同志であるお二人に、男性不妊治療助成の実現にいたる想いなどお話しいただきました。 不妊症の半数は男性が原因男性不妊治療の助成をきっかけに意識の改革を 石川先生●最初に三重県庁に招かれ、知事をはじめ県庁職員の方々の前で「男性の不妊症」について講演したのは3年前でした。その時、子どもを授かるには卵子と精子が絶対必要であるのに、不妊症=女性という偏った認識があること、また、不妊症の半数近くは男性に原因があることにもかかわらず、多くが男性のほうを向いておらず、男性も不妊症に向き合っていない、という現状をお話ししました。 こうした経緯もあり、三重県では2014年に男性不妊治療の助成を全国で初めて導入されました。その想いをお聞かせください。 鈴木知事●ちょうどその頃、国の「少子化危機突破タスクフォース」の委員として、少子化対策について勉強中でした。日本は1990年の「1・57ショック」以来、少子化対策を行ってきましたが、残念ながら成功していません。その理由は「女性を支援する」「女性に仕事と家庭を両立してもらう」など、女性に解決してもらう政策が多かったこと。私の根底には、男性の意識が変わり、働き方が変わらなければいけないという考えがあります。石川先生に教えていただいた現状を突破口に、男性も家族を形成する当事者として変わるきっかけをつくり、三重県から発信したいという想いがありました。 また、今でこそ子ども2人に恵まれましたが、結婚当初は子どもができなくて夫婦で悩んだ時期もあります。家族の形成は個人の価値観に委ねられるのが前提ですが、子どもを希望しているのにかなわないのはつらいことです。その希望がかなうようにと男性不妊治療の助成を始めました。 男性も利用しやすい総合クリニックの開設で女性をサポート 石川先生●三重県からスタートした男性不妊治療の助成は、他の自治体にも広がり、今年1月に国策になりました。不妊症が男女両方にあるという意識づけはとても大きいと思います。女性は妊娠前、出産、育児中と周囲からさまざまなストレスを受けています。これから受けるのはストレスではなく、サポートであってほしいと思います。 当院は大型商業施設内にクリニックを設け、男性と女性双方を対象にした先端不妊治療の総合クリニックとして、土日・夜間の診療などを行っています。何よりも男性が利用しやすい環境をつくることで、女性をサポートしたいと考えています。 男性不妊治療の助成だけではなく、男性の意識も変える時期にきているのでしょうか。 鈴木知事●男性も「知る」ことが大事ですね。そこで行政として「伝える」ことにも力を入れています。三重県では、男性不妊治療の助成とほぼ同じタイミングで、小学校・中学校・高校・成人の段階別にライフプラン教育を始めています。2013年から高校の保健体育の学習指導要領に「不妊」の項目が追加されました。「避妊」の知識だけでなく、子どもを希望しても授かれない「不妊」という現実があることを、医療的な知識において各発達段階で男女ともに知るべきです。 また、「みえの育児男子プロジェクト」を発足させ、育児男子ハンドブックの作成、「ファザー・オブ・ザ・イヤー・inみえ」の実施、子育て世代の父親を集めた親子キャンプなど、独自の取り組みを行っています。子育て中の男性同士が気軽に子育てについて相談や情報交換できる、そんな環境づくりも大事だと思います。 男性も家族形成の当事者これからも家族のあり方にしっかり向き合っていく 石川先生●子どもを授かることがゴールではなく、ここからがスタートですね。これから父親はどうあるべきか。普遍的に変わらないことがある一方で、私たちの父親のイメージとは違ってきている気がします。妻や子どもに対して、きちんと言葉で伝えて家族形成していくことが大事だと思います。 知事は初の著書『「パパ」はどうしてパパなの?』(エムオン・エンタテインメント)を出されました。とても感動的な内容でしたが、なぜこの本を出そうと思われたのですか。 鈴木知事●ある方が「歴史的転換点となる絵本である」と書評してくださったのですが、先述のように男性も家族形成の当事者です。ただ当事者ではあるけれど、子どもに面と向かって人生において大切なことを伝える機会がありません。そこで絵本で読み聞かせしながら、普段は言えないことを伝えたいと思いました。また、絵本を読んでいる間、お母さんを休ませてあげたいという想いもあります。子どもにとって一番の幸せは、母親が心身ともに健康であることだと思います。 最近、三重県では里親委託や養子縁組の推進にも力を入れています。日本の里親委託は15%程度なのに対し、イギリスは70%と当たり前の環境です。国連ガイドラインにも「子どもは家庭的環境で養育されるべき」とあるのに、日本にはまだそういう環境がありません。これからもさまざまな取り組みを通じて、家族のあり方について真剣に向き合っていくつもりです。 「男性不妊治療助成」制度の流れ 2004 年 少子化対策の観点から、不妊治療の助成制度がスタート。 2014 年 三重県で男性不妊治療に特化した助成制度を都道府県で初めて導入。 2016 年 国の特定不妊治療費助成制度の改正により、男性不妊治療助成が決定。 三重県知事 鈴木 英敬 氏(右)1974 年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2006 年内閣官房参事官補佐として第一次安倍政権で教育再生や環境問題などに取り組む。衆議院選三重2区で自民党からの出馬・落選・離党などを経て、11 年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事に。15 年4月に再選し、現在2期目。家庭では一男一女のパパ。 リプロダクションクリニック大阪 石川 智基 先生(左)医学博士。2000 年神戸大学医学部卒業後、生殖内分泌学を研究。米国の大学で男性不妊を研究、男性不妊手術を学ぶ。08 年に神戸大学大学院助教。その後、オーストラリアの大学で男性不妊診療・研究の経験を積んだ後、2013 年大阪市北区に日本初の男性・女性双方の先端不妊治療を総合的に行う「リプロダクションクリニック大阪」を開院。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.32 2016 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 2016年から男性不妊治療の助成制度がいよいよスタート。この制度実現の立役者が三重県知事の鈴木英敬氏と、リプロダクションクリニック大阪の石川智基先生。予備校時代からの親友であり同志であるお二人に、男性不妊治療助成の実現にいたる想いなどお話しいただきました。 不妊症の半数は男性が原因男性不妊治療の助成をきっかけに意識の改革を 石川先生●最初に三重県庁に招かれ、知事をはじめ県庁職員の方々の前で「男性の不妊症」について講演したのは3年前でした。その時、子どもを授かるには卵子と精子が絶対必要であるのに、不妊症=女性という偏った認識があること、また、不妊症の半数近くは男性に原因があることにもかかわらず、多くが男性のほうを向いておらず、男性も不妊症に向き合っていない、という現状をお話ししました。 こうした経緯もあり、三重県では2014年に男性不妊治療の助成を全国で初めて導入されました。その想いをお聞かせください。 鈴木知事●ちょうどその頃、国の「少子化危機突破タスクフォース」の委員として、少子化対策について勉強中でした。日本は1990年の「1・57ショック」以来、少子化対策を行ってきましたが、残念ながら成功していません。その理由は「女性を支援する」「女性に仕事と家庭を両立してもらう」など、女性に解決してもらう政策が多かったこと。私の根底には、男性の意識が変わり、働き方が変わらなければいけないという考えがあります。石川先生に教えていただいた現状を突破口に、男性も家族を形成する当事者として変わるきっかけをつくり、三重県から発信したいという想いがありました。 また、今でこそ子ども2人に恵まれましたが、結婚当初は子どもができなくて夫婦で悩んだ時期もあります。家族の形成は個人の価値観に委ねられるのが前提ですが、子どもを希望しているのにかなわないのはつらいことです。その希望がかなうようにと男性不妊治療の助成を始めました。 男性も利用しやすい総合クリニックの開設で女性をサポート 石川先生●三重県からスタートした男性不妊治療の助成は、他の自治体にも広がり、今年1月に国策になりました。不妊症が男女両方にあるという意識づけはとても大きいと思います。女性は妊娠前、出産、育児中と周囲からさまざまなストレスを受けています。これから受けるのはストレスではなく、サポートであってほしいと思います。 当院は大型商業施設内にクリニックを設け、男性と女性双方を対象にした先端不妊治療の総合クリニックとして、土日・夜間の診療などを行っています。何よりも男性が利用しやすい環境をつくることで、女性をサポートしたいと考えています。 男性不妊治療の助成だけではなく、男性の意識も変える時期にきているのでしょうか。 鈴木知事●男性も「知る」ことが大事ですね。そこで行政として「伝える」ことにも力を入れています。三重県では、男性不妊治療の助成とほぼ同じタイミングで、小学校・中学校・高校・成人の段階別にライフプラン教育を始めています。2013年から高校の保健体育の学習指導要領に「不妊」の項目が追加されました。「避妊」の知識だけでなく、子どもを希望しても授かれない「不妊」という現実があることを、医療的な知識において各発達段階で男女ともに知るべきです。 また、「みえの育児男子プロジェクト」を発足させ、育児男子ハンドブックの作成、「ファザー・オブ・ザ・イヤー・inみえ」の実施、子育て世代の父親を集めた親子キャンプなど、独自の取り組みを行っています。子育て中の男性同士が気軽に子育てについて相談や情報交換できる、そんな環境づくりも大事だと思います。 男性も家族形成の当事者これからも家族のあり方にしっかり向き合っていく 石川先生●子どもを授かることがゴールではなく、ここからがスタートですね。これから父親はどうあるべきか。普遍的に変わらないことがある一方で、私たちの父親のイメージとは違ってきている気がします。妻や子どもに対して、きちんと言葉で伝えて家族形成していくことが大事だと思います。 知事は初の著書『「パパ」はどうしてパパなの?』(エムオン・エンタテインメント)を出されました。とても感動的な内容でしたが、なぜこの本を出そうと思われたのですか。 鈴木知事●ある方が「歴史的転換点となる絵本である」と書評してくださったのですが、先述のように男性も家族形成の当事者です。ただ当事者ではあるけれど、子どもに面と向かって人生において大切なことを伝える機会がありません。そこで絵本で読み聞かせしながら、普段は言えないことを伝えたいと思いました。また、絵本を読んでいる間、お母さんを休ませてあげたいという想いもあります。子どもにとって一番の幸せは、母親が心身ともに健康であることだと思います。 最近、三重県では里親委託や養子縁組の推進にも力を入れています。日本の里親委託は15%程度なのに対し、イギリスは70%と当たり前の環境です。国連ガイドラインにも「子どもは家庭的環境で養育されるべき」とあるのに、日本にはまだそういう環境がありません。これからもさまざまな取り組みを通じて、家族のあり方について真剣に向き合っていくつもりです。 「男性不妊治療助成」制度の流れ 2004 年 少子化対策の観点から、不妊治療の助成制度がスタート。 2014 年 三重県で男性不妊治療に特化した助成制度を都道府県で初めて導入。 2016 年 国の特定不妊治療費助成制度の改正により、男性不妊治療助成が決定。 三重県知事 鈴木 英敬 氏(右)1974 年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2006 年内閣官房参事官補佐として第一次安倍政権で教育再生や環境問題などに取り組む。衆議院選三重2区で自民党からの出馬・落選・離党などを経て、11 年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事に。15 年4月に再選し、現在2期目。家庭では一男一女のパパ。 リプロダクションクリニック大阪 石川 智基 先生(左)医学博士。2000 年神戸大学医学部卒業後、生殖内分泌学を研究。米国の大学で男性不妊を研究、男性不妊手術を学ぶ。08 年に神戸大学大学院助教。その後、オーストラリアの大学で男性不妊診療・研究の経験を積んだ後、2013 年大阪市北区に日本初の男性・女性双方の先端不妊治療を総合的に行う「リプロダクションクリニック大阪」を開院。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.32 2016 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2016.12.22
コラム 不妊治療
-
重度男性不妊の有効な治療法は?
重度男性不妊の有効な治療法は? 相談者:あさん(42歳)転院についての相談1年前のヒューナーテストではエクセレントといわれたのですが、転院したクリニックの検査結果では、精子の液量1.5ml、濃度36.0M/ml、運動率31%、正常精子0.4%で、重度の男性不妊といわれました。これまで2回の採卵で受精卵が16個できているのに、胚盤胞の基準が満たせず1個も凍結できていません。同じクリニックに通院している方は、私より受精卵の数が少なくても凍結できています。イムジーをすすめられていますが、イムジーを行っている病院は少なく、転院もすぐには難しそうな感じです。お聞きしたいのですが、重度の男性不妊でヒューナーテストがエクセレントということはありますか?1年で重度の男性不妊になることはあるのでしょうか。治療法がないといわれ、今、夫は還元型コエンザイムQ10と亜鉛、葉酸のサプリメントを飲んでいます。 ◎さんのデータ【身長/体重】163cm/49kg【月経について】28日前後 生理痛重い。(腰痛、腹痛、頭痛、吐き気、貧血)少し貧血気味の診断あり【不妊の原因となる病名】男性不妊【検査・治療歴】血液検査、卵管造影、顕微授精(採卵、受精のみ2回)【現在の治療方針】顕微受精【精子の検査データ】液量1.5ml 濃度36.0M/ml 運動率31% 正常精子0.4% LH5.7 FSH13.4 TES312.9【AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能)の値】AMH9.63 AMH7.29 AMH8.2【結婚歴】9年【治療年数】1年【漢方薬・サプリメントの使用有無】夫 還元型コエンザイムQ10、亜鉛、葉酸を飲んでいる。 三軒茶屋ウィメンズクリニック 保坂 猛 先生医学博士。聖マリアンナ医科大学卒業。同大学産婦人科、大田原赤十字病院、聖マリアンナ医科大学産婦人科医長・非常勤講師、ファティリティクリニック東京勤務を経て、2011年2月、三軒茶屋ウィメンズクリニックを開院。おひとり一人に合った最適な治療はもちろん、安心と優しさも提供。女性のライフパートナーとしての産婦人科医院を目指す。 保坂先生:精子の状態というのはその時の体調などによってバラつきがでやすいので、当院でも、ヒューナーテストで問題がないという方でも必ず精液検査をしていただいています。ヒューナーテストでみる精子が動いているかどうかの基準は、1つの視野で5個以上動いていればいいというもの。たくさん動いていなくてもクリアになるんですね。ご主人の精子の状態は急に悪化したのではなく、もともと良くなかったのかもしれません。イムジーをすすめられたということですが、イムジーは普通の顕微鏡より1000倍くらい拡大して、精子の形態的な異常を観察するものなんですね。より細かく精子の状態を評価できますが、妊娠率は通常の顕微授精と大きく変わらなかったという結果も報告されているようです。もちろんなかには有利に働くケースもあるかもしれませんが、そこに大きな期待をかけるより、精子が悪い分、いかにいい卵子を出していくかということで、排卵誘発法などを工夫していく施設が多いと思います。あさんはこれまで7~11個程度とご年齢の割に卵子の数が採れていて、受精率もそれほど悪くない。ただ、胚盤胞が基準に満たないということですね。おそらく、凍結胚盤胞でしか移植をしない施設だと思われます。確かに凍結胚盤胞は妊娠率が高いといわれていますが、移植をしない限り結果を出せません。胚盤胞が良くなかったら、3日目の胚で戻すことも視野に入れてみてはどうでしょうか。初期胚移植でも妊娠の可能性はゼロではないので、とにかく移植までは進めるように持っていっていただきたいですね。 コエンザイムQ10や亜鉛のサプリメントは、当院でも男性不妊の患者さんにおすすめしています。すぐに結果を出すことは難しいと思いますが、抗酸化作用や細胞活性にもつながるので、そのまま使用を続けられてもいいかと思います。 【人気コラム】ユーザーストーリー~あなたに伝えたいメッセージ~ 【人気コラム】田村秀子先生の心の玉手箱 【役立つ】不妊についてもっと知ろう!不妊とは? 【おすすめ】フリーマガジン「ジネコ」各号記事一覧 重度男性不妊の有効な治療法は? 相談者:あさん(42歳)転院についての相談1年前のヒューナーテストではエクセレントといわれたのですが、転院したクリニックの検査結果では、精子の液量1.5ml、濃度36.0M/ml、運動率31%、正常精子0.4%で、重度の男性不妊といわれました。これまで2回の採卵で受精卵が16個できているのに、胚盤胞の基準が満たせず1個も凍結できていません。同じクリニックに通院している方は、私より受精卵の数が少なくても凍結できています。イムジーをすすめられていますが、イムジーを行っている病院は少なく、転院もすぐには難しそうな感じです。お聞きしたいのですが、重度の男性不妊でヒューナーテストがエクセレントということはありますか?1年で重度の男性不妊になることはあるのでしょうか。治療法がないといわれ、今、夫は還元型コエンザイムQ10と亜鉛、葉酸のサプリメントを飲んでいます。 ◎さんのデータ【身長/体重】163cm/49kg【月経について】28日前後 生理痛重い。(腰痛、腹痛、頭痛、吐き気、貧血)少し貧血気味の診断あり【不妊の原因となる病名】男性不妊【検査・治療歴】血液検査、卵管造影、顕微授精(採卵、受精のみ2回)【現在の治療方針】顕微受精【精子の検査データ】液量1.5ml 濃度36.0M/ml 運動率31% 正常精子0.4% LH5.7 FSH13.4 TES312.9【AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能)の値】AMH9.63 AMH7.29 AMH8.2【結婚歴】9年【治療年数】1年【漢方薬・サプリメントの使用有無】夫 還元型コエンザイムQ10、亜鉛、葉酸を飲んでいる。 三軒茶屋ウィメンズクリニック 保坂 猛 先生医学博士。聖マリアンナ医科大学卒業。同大学産婦人科、大田原赤十字病院、聖マリアンナ医科大学産婦人科医長・非常勤講師、ファティリティクリニック東京勤務を経て、2011年2月、三軒茶屋ウィメンズクリニックを開院。おひとり一人に合った最適な治療はもちろん、安心と優しさも提供。女性のライフパートナーとしての産婦人科医院を目指す。 保坂先生:精子の状態というのはその時の体調などによってバラつきがでやすいので、当院でも、ヒューナーテストで問題がないという方でも必ず精液検査をしていただいています。ヒューナーテストでみる精子が動いているかどうかの基準は、1つの視野で5個以上動いていればいいというもの。たくさん動いていなくてもクリアになるんですね。ご主人の精子の状態は急に悪化したのではなく、もともと良くなかったのかもしれません。イムジーをすすめられたということですが、イムジーは普通の顕微鏡より1000倍くらい拡大して、精子の形態的な異常を観察するものなんですね。より細かく精子の状態を評価できますが、妊娠率は通常の顕微授精と大きく変わらなかったという結果も報告されているようです。もちろんなかには有利に働くケースもあるかもしれませんが、そこに大きな期待をかけるより、精子が悪い分、いかにいい卵子を出していくかということで、排卵誘発法などを工夫していく施設が多いと思います。あさんはこれまで7~11個程度とご年齢の割に卵子の数が採れていて、受精率もそれほど悪くない。ただ、胚盤胞が基準に満たないということですね。おそらく、凍結胚盤胞でしか移植をしない施設だと思われます。確かに凍結胚盤胞は妊娠率が高いといわれていますが、移植をしない限り結果を出せません。胚盤胞が良くなかったら、3日目の胚で戻すことも視野に入れてみてはどうでしょうか。初期胚移植でも妊娠の可能性はゼロではないので、とにかく移植までは進めるように持っていっていただきたいですね。 コエンザイムQ10や亜鉛のサプリメントは、当院でも男性不妊の患者さんにおすすめしています。すぐに結果を出すことは難しいと思いますが、抗酸化作用や細胞活性にもつながるので、そのまま使用を続けられてもいいかと思います。 【人気コラム】ユーザーストーリー~あなたに伝えたいメッセージ~ 【人気コラム】田村秀子先生の心の玉手箱 【役立つ】不妊についてもっと知ろう!不妊とは? 【おすすめ】フリーマガジン「ジネコ」各号記事一覧
2016.11.17
コラム 不妊治療
-
不妊男性の○割以上が乏精子症!?男性の不妊症が意外と深刻…。
不妊男性の○割以上が乏精子症!?男性の不妊症が意外と深刻…。 不妊に悩むカップルは世界的にとても多く、それに伴い生殖医療もどんどん進歩してきています。これまで「不妊」は多くの場合、女性に問題があると捉えられてきましたが、じつは男性側にも原因があるケースも多く、それを男性不妊といいます。中でも問題になっているのが「乏精子症」。今回は、この男性不妊の引き金となる病気について医師に伺いました。 精子の数が少ない!?それも不妊の原因に…… 男性不妊の原因として最も多いとされる乏精子症とは、何らかの理由で精液の中の精子の数が少なくなっているものを指します。WHOの基準により数だけでなく濃度や運動率、奇形率などを考慮して判断されますが、自然に妊娠が成立するためには精子1ml中に4000万以上の精子が存在することが望ましいと考えられています。 乏精子症、2つの原因 1:精索静脈瘤乏精子症の原因としてもっとも有名なのが、精索静脈瘤。精巣の静脈の血液が逆流してコブのように膨らんだようになる病気で、不妊男性の4割以上に見られるとも言われています。精巣のまわりに精索静脈瘤があると精巣の温度が上がったり、血流が障害され、精液の所見が悪化、または精巣のサイズが小さくなることで乏精子症が引き起こされるのです。この場合、コブをなくす手術を行うことで治癒できるといわれています。2:ライディッヒ細胞の機能低下男性ホルモンをつくるライディッヒ細胞と呼ばれる細胞の機能低下により、ホルモン分泌が障害されることも原因のひとつです。 無精子症の場合も…… いっぽうで、乏精子症より数は少ないものの、無精子症といって全く精子が精液中に見当たらないケースもあります。これは精子が作られているのに通り道が塞がっていて、そこから出られない閉塞性のものと、もともと精子が作られていないものがあります。それぞれの対策は、以下を参照。<閉塞性>閉塞をなくすことで妊娠が可能になる場合が多いようです。この代表的な原因疾患としては精巣上体炎があります。この場合、お薬で原因となる細菌を殺して腫れを引かせたり、場合によっては精路再建術といって通り道を作る手術をすることもあります。<精子がもともと作られていない場合>治療がなかなか困難な場合も多いですが、原因によってはお薬や外科的な治療で妊娠が可能になることもあります。 医師からのアドバイス このように、精子欠乏が見られる場合の多くは原因がはっきりすれば、何らかの治療を行うことが可能です。最初は少し、抵抗があるかもしれませんが早目に診察や検査を受けるようにしましょう。 オススメ記事≪卵子と着床した精子!勝ち抜いた精子は、他の精子と何が違うの!?≫≪男の活力は“朝の〇〇”で分かる!テストステロンの低下に注意せよ!≫≪【都内初】文京区、男性不妊検査費1万円助成へ≫≪【育毛医療コラム】vol.4: 薄毛治療薬の定番、フィナステリド製剤は精子に影響する!?≫≪男性も高齢だとリスクあり?!子づくりは何歳まで可能?≫ ■ あわせて読みたい ■ 夫が重度の乏精子症。精索静脈瘤の治療と顕微授精、優先順位は? 重症の乏(ぼう)精子症と診断されましたが顕微授精が必要ですか? 夫の精子の数は2300万/ml。乏精子症と診断されたけど、疑問が残ります 女性のための健康生活マガジン JINEKO 不妊男性の○割以上が乏精子症!?男性の不妊症が意外と深刻…。 不妊に悩むカップルは世界的にとても多く、それに伴い生殖医療もどんどん進歩してきています。これまで「不妊」は多くの場合、女性に問題があると捉えられてきましたが、じつは男性側にも原因があるケースも多く、それを男性不妊といいます。中でも問題になっているのが「乏精子症」。今回は、この男性不妊の引き金となる病気について医師に伺いました。 精子の数が少ない!?それも不妊の原因に…… 男性不妊の原因として最も多いとされる乏精子症とは、何らかの理由で精液の中の精子の数が少なくなっているものを指します。WHOの基準により数だけでなく濃度や運動率、奇形率などを考慮して判断されますが、自然に妊娠が成立するためには精子1ml中に4000万以上の精子が存在することが望ましいと考えられています。 乏精子症、2つの原因 1:精索静脈瘤乏精子症の原因としてもっとも有名なのが、精索静脈瘤。精巣の静脈の血液が逆流してコブのように膨らんだようになる病気で、不妊男性の4割以上に見られるとも言われています。精巣のまわりに精索静脈瘤があると精巣の温度が上がったり、血流が障害され、精液の所見が悪化、または精巣のサイズが小さくなることで乏精子症が引き起こされるのです。この場合、コブをなくす手術を行うことで治癒できるといわれています。2:ライディッヒ細胞の機能低下男性ホルモンをつくるライディッヒ細胞と呼ばれる細胞の機能低下により、ホルモン分泌が障害されることも原因のひとつです。 無精子症の場合も…… いっぽうで、乏精子症より数は少ないものの、無精子症といって全く精子が精液中に見当たらないケースもあります。これは精子が作られているのに通り道が塞がっていて、そこから出られない閉塞性のものと、もともと精子が作られていないものがあります。それぞれの対策は、以下を参照。<閉塞性>閉塞をなくすことで妊娠が可能になる場合が多いようです。この代表的な原因疾患としては精巣上体炎があります。この場合、お薬で原因となる細菌を殺して腫れを引かせたり、場合によっては精路再建術といって通り道を作る手術をすることもあります。<精子がもともと作られていない場合>治療がなかなか困難な場合も多いですが、原因によってはお薬や外科的な治療で妊娠が可能になることもあります。 医師からのアドバイス このように、精子欠乏が見られる場合の多くは原因がはっきりすれば、何らかの治療を行うことが可能です。最初は少し、抵抗があるかもしれませんが早目に診察や検査を受けるようにしましょう。 オススメ記事≪卵子と着床した精子!勝ち抜いた精子は、他の精子と何が違うの!?≫≪男の活力は“朝の〇〇”で分かる!テストステロンの低下に注意せよ!≫≪【都内初】文京区、男性不妊検査費1万円助成へ≫≪【育毛医療コラム】vol.4: 薄毛治療薬の定番、フィナステリド製剤は精子に影響する!?≫≪男性も高齢だとリスクあり?!子づくりは何歳まで可能?≫ ■ あわせて読みたい ■ 夫が重度の乏精子症。精索静脈瘤の治療と顕微授精、優先順位は? 重症の乏(ぼう)精子症と診断されましたが顕微授精が必要ですか? 夫の精子の数は2300万/ml。乏精子症と診断されたけど、疑問が残ります 女性のための健康生活マガジン JINEKO
2016.3.29
コラム 不妊治療
-
精液検査|不妊検査
不妊症の原因を見つけ、治療につなげるには、まず体の状態を把握することが不可欠です。そのために、初診から約1カ月をかけて、一般的な検査をします。
2015.10.27
コラム 不妊治療
-
男性因子の場合の精密検査|不妊検査
不妊症の原因を見つけ、治療につなげるには、まず体の状態を把握することが不可欠です。そのために、初診から約1カ月をかけて、一般的な検査をします。
2015.10.26
コラム 不妊治療