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子宮内膜症、卵巣嚢腫でも 良い卵子を採って 着床できますか?
「右から採卵できるか確認するため完全自然周期法を試したところ1個は採れました。次回も自然周期で採卵したほうがいいのでしょうか。また左の卵巣からは採卵できないのでしょうか。」
2018.2.26
コラム 不妊治療
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体外受精で卵胞が育ちません。 次はどんな誘発方法が望ましい?
「卵胞が1つしか育っておらず、あとは10㎜程度が数個でした。点鼻薬を行い、14日目に採卵しましたが変性卵でした。自己注射ですが、あまりに育たずショックでした。」
2018.2.25
コラム 不妊治療
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排卵後、子宮内膜が薄くなって いくことはありますか?
「判定日は1週間後なので、またホルモン補充の薬が出され、しかも1種類追加になりました。今、どのような状況なのか気になっています。」
2018.2.25
コラム 不妊治療
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エストラーナテープⓇ使用中に 予定外に早く生理がきました
相談者:りこさん(31歳)からの相談 ▶D15で生理がきてしまいました 7回の人工授精を経て、初めて凍結胚移植をする予定です。今回、エストラーナテープ®を生理が始まってから、2枚ずつ2日おきに貼り替えて、枚数を増やしていきました。D14に茶オリが出て、D15の朝に生理のような出血が見られて病院に行きました。すると子宮内膜が薄くなり生理になっていると言われました。エストラーナテープ®を貼っている時でも生理になってしまうものなのでしょうか。先生はたまにそんな人がいると言っていましたが、いつもの生理周期は31日で、遅くなることはあってもそんなに早くなることもなかったので不安です。また、いつ移植できるのか教えてください。 エストラーナテープⓇとはどのような薬で、どんな治療に用いられますか?エストラーナテープ®は、「エストラジオール」を主成分とし、妊娠するために欠かせないエストロゲンという女性ホルモンを補う貼り薬で、凍結胚移植の時に用います。卵胞発育を促さず子宮内膜だけを厚く育て、移植して着床しやすい状態にしていきます。用法は、生理2日目ぐらいから、おもに下腹部などに2枚ずつ貼っていき、医師の指示に従って2、2、2、4、6、8…というようにだんだん枚数を増やしていきます。貼っている期間は定期的に受診して、内膜の厚みや不正出血がないかなどを診てもらいましょう。 エストラーナテープ®は内服薬のように飲み忘れがなく便利ですが、肌がデリケートな方はかぶれたり、汗をかいたり、入浴の際にはがれたりするので、貼り替える時は貼る位置を変えたり、医療用テープで固定するなど、きちんと効果が出るように注意することも大切です。当院では、はがれやすいとお申し出があった患者さんに関しては、テープを数枚多めにお渡しすることもあります。 15日目で出血が見られたということですが、エストラーナテープと関係がありますか?恐らく関係があると思います。皮膚を通して吸収するエストラーナテープ®の成分が十分に皮膚から吸収されず、血中のエストロゲン濃度が上がらなかったので途中まで育った子宮内膜がはがれ、月経がきてしまったという可能性があります。こういったことは時々起こります。 また、ひょっとすると、りこさんはエストラーナテープ®だけでは十分にエストロゲン濃度が上がりにくい体質なのかもしれません。そこで、プレマリン®など他のエストロゲン剤との併用を考えていきます。まれにかゆみやかぶれなどのアレルギー症状が見られる場合、エストラーナテープ®を使わずに塗布薬や内服薬を使うという選択肢もありますが、とりあえずはテープを使いながら他の薬を合わせて飲んでいただくのがいいかと思います。 このあと、いつ移植ができるでしょうか。いったんエストラーナテープ®を中止して、生理で子宮内膜がしっかりはがれたかをエコーで確認してから、再び凍結胚移植に向けて準備を開始していただけたらと思います。次回はエストラーナテープ®だけでなく、プレマリン®を併用して血中のエストロゲン濃度をしっかり上げてみてはいかがでしょうか。 凍結胚移植スケジュールには、外因性にホルモン補充をして子宮内膜をつくって移植する方法と、自然排卵周期で凍結胚移植を行う方法があります。ホルモン補充による方法で子宮内膜をつくってもなかなか内膜が厚くならない方もいらっしゃいます。そのような方や、ホルモン補充周期で移植しても結果が出ない方は、排卵後に凍結胚移植をする自然排卵周期凍結胚移植の方法もありますので、ご相談いただけたらと思います。 Doctor’s advice ●テープの成分が十分に経皮吸収されず、エストロゲン濃度が上がらなかった可能性が。 ●他のエストロゲン剤とエストラーナテープ®を併用することでエストロゲン濃度を上げては。 渡辺 由美子 先生(醍醐渡辺クリニック) 兵庫医科大学卒業。同大学附属病院、国立泉北病院、京都大学医学部附属病院、国立京都病院勤務を経て 醍醐渡辺クリニックで産婦人科医として勤務。同じ女性の患者様がリラックスして治療に臨めるような雰囲気作りを日々心がけているという渡辺先生。休日は本を読んだり、映画を観たりとゆったり過ごされることが多いとのことです。 ≫ 醍醐渡辺クリニック出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.37 2018 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
2018.2.25
コラム 不妊治療
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多嚢胞の体外受精。 採卵数と卵胞の質どちらが大事?
相談者:レオさん(28歳)からの相談 ▶多嚢胞で初めての体外受精です AMH6.02ng/ml、治療歴2年の間に人工授精を10回行いましたがそのうち1回化学流産をしました。多嚢胞性卵巣症候群で、刺激をすると卵胞が4個も育ってしまいます。そこで今月からロング法で体外受精に踏み切りました。フォリスチムⓇ150単位を10日間注射し、採卵する予定ですが、内診では20個ほどある卵胞の10個程度しか大きくなっておらず、エストラジオールが662pg/mlしかありません。10個採るなら2000~3000pg/mlなければ空胞ばかりになるのではと思いますし、一番大きい卵胞で18㎜しかありません。このまま採卵をしても凍結できないかもしれないと思うと、今から採卵を中止して排卵誘発から始めたほうがいいのではないでしょうか。 エストラジオールが低めであることと、10個の卵胞のうち大きいものでも18㎜程度で採卵できるのでしょうか。女性ホルモンのエストラジオールが662 pg/mlというのは確かに低いです。おそらく理由としては、ロング法で脳下垂体のホルモンを下げてFSH製剤フォリスチムⓇを使っているので、エストラジオールが低くなり、なかなか卵胞が育たないのだと思います。ですが、レオさんのように多嚢胞性卵巣症候群の場合はエストラジオールが高くなりすぎると、副作用で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起きやすくなるので逆に注意しなければなりません。若い人は特になりやすい症状です。 また、10~20個の卵胞すべてが18㎜もあればエストラジオールが2000~3000pg/mlあってもおかしくないですが、おそらくメインの主席卵胞が18㎜程度で、それ以外は小さいのではないかと推測します。それと、そもそも10個も採卵しなくていいと思います。2~3個でも成熟していればそのほうが断然いいのです。採卵数が上がるにつれてエストラジオールが高くなると、卵巣過剰刺激症候群の危険性が高くなりますから。 ロング法の特徴を教えてください。ロング法はたくさん採卵できるという特徴があります。ただ、HCG製剤を投与するのでエストラジオールが上がってしまい、副作用として卵巣過剰刺激症候群の危険性があります。おそらく、先生はそれに気を使ってわざとFSH製剤のフォリスチムⓇを使っているのかもしれませんね。ただ、FSH製剤は時間ばかりかかってなかなか卵胞が育たないといった面もあるので、一概にいいとも言えません。 中止するか、このまま採卵するか、福井先生からアドバイスをお願いします。こればかりは採卵してみないとわかりませんから、今ここで中止する必要はないと思います。ただ、ロング法でうまくいかなければほかの方法を考えたほうがいいでしょう。別の方法を試すことで、次の対策を考えることもできますから。ホルモンの基礎値がわかればいいのですが、現状を見た限りでは、私ならわざわざたくさん採卵できるロング法を行わなくても人工授精で4個も採れていたのだから、その時のやり方で採卵していけばいいと思います。 最近では、「量より質」という考え方が主流です。必ずしもたくさん採卵できればいいというわけではなく、卵胞がちょうどいい大きさに育っているかどうかが大事です。ですから、多嚢胞性卵巣症候群の場合は、副作用を出さずに2~3個の成熟した卵子を採るほうが妊娠に近づけるのではないでしょうか。 Doctor’s advice ●妊娠には、採卵数の多さよりも卵子の質のほうが大事。 ●多嚢胞卵巣症候群の場合は、卵巣過剰刺激症候群の副作用を考えた排卵誘発法を。 福井 敬介 先生(福井ウィメンズクリニック) 1989年、日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛大学産科婦人科に入局、愛媛大学大学院医学専攻科修了。2000年愛媛大学産科婦人科学助教授。2001年、「高度な生殖医療をより身近な医療として不妊カップルに提供したい」と、福井ウィメンズクリニックを開設する。愛媛県内で行われた日本小児血液・がん学会に参加。「普段は異分野の医師と交流する機会があまりないので、とても新鮮で勉強になります」と福井先生。生殖医療を多角的に考えるきっかけとなりました≫ 福井ウィメンズクリニック出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.37 2018 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
2018.2.24
コラム 不妊治療
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凍結胚移植をする日にちについて
凍結胚移植をする日にちについて 2017/12/19 金田 幸枝 先生(さち・レディースクリニック) まりぼーさん(39才) 凍結胚移植をする日にちについて 凍結胚移植は通常、生理何日目に行うのでしょうか? 私の病院では生理20日目と決まっています。 一般的に、妊娠しやすい時期は生理12~16日目と聞きますが、 20日目は遅くはないのでしょうか? 子宮内膜の状態は人によって違うので、移植日も人によって違うような気がしますが、すでに日にちが決められているのが少し疑問に思います。 金田 幸枝先生からの回答(さち・レディースクリニック) まりぼーさんには、まず凍結胚移植の仕組みについてお話しましょう。 体外受精(顕微授精)の場合、採卵した後、卵子と精子が受精し、受精卵になります。受精卵は分割を繰り返し、5日目くらいに胚盤胞まで成長します。この受精卵または胚を凍結させて移植するのが凍結胚移植です。凍結させるタイミングは、受精卵、分割途中の分割胚、次の段階の桑実胚、さらに進んだ胚盤胞だったりしますが、現在では胚盤胞まで成長させ移植を行う割合が高いです。 まりぼーさんが疑問に思う生理開始日から12~16日目というのは、排卵が起き性交渉を行うタイミングに適した時期のことですね。しかし、移植する予定の胚はすでに受精後数日経過した胚なので、移植する胚が胚盤胞だとすれば、排卵日から5日くらい経過した20日目に設定しているのは適正な時期だと思います。 もう一つお話しますと、凍結胚移植には2つのスケジュールがあります。ひとつは「自然周期法」。その方の自然な排卵周期に合わせ、子宮内膜が厚くなるのを待って移植をしますが、人それぞれバラつきがあったり、内膜が厚くなりにくい人がいるという問題があります。 もうひとつの方法は「ホルモン補充周期法」といいます。生理開始から排卵日に相当する時期までエストロゲン製剤を服用し、その翌日からプロゲステロンの補充に切り替えるというものです。そして、移植する胚が胚盤胞であれば、プロゲステロンの補充を始めた5日後に胚移植をするというのが一般的で、排卵に左右されず周期を調整できるのが特長です。まりぼーさんの通うクリニックが一律で20日目に移植と決められているのは、「ホルモン補充周期法」をされているからでしょう。こうして移植日をマニュアル化しているクリニックもありますし、個々の状態に合わせてその都度異なったスケジュールを組むクリニックもあります。 不妊治療には用語が多く、医師が説明したとしても理解できないことも少なくありません。何か疑問に感じることがあれば、クリニックのカウンセラーやコーディネーターの方に気軽に相談してみると良いと思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 金田 幸枝 先生(さち・レディースクリニック) 大分医科大学卒業。社会福祉法人 賛育会病院 産婦人科医長、米ミネソタ大学 医学部産婦人科 客員講師、帝京大学医学部 産婦人科助手などを経て、平成12年5月 千葉県船橋市に「さちレディースクリニック」を開設。プライベートでは、15歳になるシーズー犬のお散歩が日課。 ≫ さち・レディースクリニック 凍結胚移植をする日にちについて 2017/12/19 金田 幸枝 先生(さち・レディースクリニック) まりぼーさん(39才) 凍結胚移植をする日にちについて 凍結胚移植は通常、生理何日目に行うのでしょうか? 私の病院では生理20日目と決まっています。 一般的に、妊娠しやすい時期は生理12~16日目と聞きますが、 20日目は遅くはないのでしょうか? 子宮内膜の状態は人によって違うので、移植日も人によって違うような気がしますが、すでに日にちが決められているのが少し疑問に思います。 金田 幸枝先生からの回答(さち・レディースクリニック) まりぼーさんには、まず凍結胚移植の仕組みについてお話しましょう。 体外受精(顕微授精)の場合、採卵した後、卵子と精子が受精し、受精卵になります。受精卵は分割を繰り返し、5日目くらいに胚盤胞まで成長します。この受精卵または胚を凍結させて移植するのが凍結胚移植です。凍結させるタイミングは、受精卵、分割途中の分割胚、次の段階の桑実胚、さらに進んだ胚盤胞だったりしますが、現在では胚盤胞まで成長させ移植を行う割合が高いです。 まりぼーさんが疑問に思う生理開始日から12~16日目というのは、排卵が起き性交渉を行うタイミングに適した時期のことですね。しかし、移植する予定の胚はすでに受精後数日経過した胚なので、移植する胚が胚盤胞だとすれば、排卵日から5日くらい経過した20日目に設定しているのは適正な時期だと思います。 もう一つお話しますと、凍結胚移植には2つのスケジュールがあります。ひとつは「自然周期法」。その方の自然な排卵周期に合わせ、子宮内膜が厚くなるのを待って移植をしますが、人それぞれバラつきがあったり、内膜が厚くなりにくい人がいるという問題があります。 もうひとつの方法は「ホルモン補充周期法」といいます。生理開始から排卵日に相当する時期までエストロゲン製剤を服用し、その翌日からプロゲステロンの補充に切り替えるというものです。そして、移植する胚が胚盤胞であれば、プロゲステロンの補充を始めた5日後に胚移植をするというのが一般的で、排卵に左右されず周期を調整できるのが特長です。まりぼーさんの通うクリニックが一律で20日目に移植と決められているのは、「ホルモン補充周期法」をされているからでしょう。こうして移植日をマニュアル化しているクリニックもありますし、個々の状態に合わせてその都度異なったスケジュールを組むクリニックもあります。 不妊治療には用語が多く、医師が説明したとしても理解できないことも少なくありません。何か疑問に感じることがあれば、クリニックのカウンセラーやコーディネーターの方に気軽に相談してみると良いと思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 金田 幸枝 先生(さち・レディースクリニック) 大分医科大学卒業。社会福祉法人 賛育会病院 産婦人科医長、米ミネソタ大学 医学部産婦人科 客員講師、帝京大学医学部 産婦人科助手などを経て、平成12年5月 千葉県船橋市に「さちレディースクリニック」を開設。プライベートでは、15歳になるシーズー犬のお散歩が日課。 ≫ さち・レディースクリニック
2017.12.19
専門医Q&A 不妊治療
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チョコレート嚢胞、子宮筋腫がある場合の不妊治療と手術の必要性について
チョコレート嚢胞、子宮筋腫がある場合の不妊治療と手術の必要性について 2017/12/11 院長 神山 洋先生(芝公園かみやまクリニック) たろぺそさん(34才) チョコレート嚢胞、子宮筋腫がある場合の不妊治療と手術の必要性について 1年前に結婚し、妊娠希望の者です。 子宮筋腫の核出術を腹腔鏡で5年前に行いました。筋腫は取りきれましたが、その後1年で再発してしまい、医師 からは妊娠には大きな影響はない場所と言われていますが今は2センチ程度のものが2個あります。 筋腫の経過観察をしていたところ1年前にチョコレート嚢胞を指摘され、MRIをとったところ5センチ。 不妊治療を勧められて、タイミング法、人工授精をしましたが妊娠に至らず。通っていた婦人科では体外受精は できないとのことで、体外受精専門の不妊治療クリニックに転院したところ、嚢胞が6センチに大きくなっており手 術を勧められ戸惑っています。それまでの婦人科では妊娠が1番の薬と言われ、手術とは言われていませんでした。 年齢のこともあり、できればこのまま早く体外受精をしたかったのですが、嚢胞が6センチでは手術が1番良いの でしょうか。 腹腔鏡手術は2回目のため癒着で妊娠がしにくくなるのではという不安もあります。 神山 洋先生からの回答(芝公園かみやまクリニック) まず、子宮筋腫からお話しますと、たろぺそさんの場合、医師から妊娠に大きな影響がないと言われているのであれば、子宮筋腫のなかでも筋層内筋腫、あるいは漿膜下筋腫の可能性が高く、妊娠には影響のない位置に筋腫があると推測します。また、現在2㎝程度であれば、妊娠した後に産科的に異常をきたすような大きさではないので、経過観察で良いと思います。当院であれば、可能な限り体外受精前に子宮鏡検査を行い、子宮内腔の状態、内膜の状態や変形などもチェックします。 次にチョコレート嚢胞の腹腔鏡下手術についてですが、ART(生殖補助医療)の前に腹腔鏡下による摘出手術を行っても受精率、着床率、妊娠率において手術しない場合と差がないという報告があります。また手術を行うと、その後の不妊治療における卵巣刺激日数が延長、排卵誘発剤の使用量も増加し、成熟卵子の獲得数が減少することも報告されています。 たろぺそさんはAMH(アンチミュラー管ホルモン)検査をされているでしょうか? AMHは卵巣予備能(卵巣に残る卵子の数)を推定することができる検査です。チョコレート嚢胞があると卵巣予備能の減少につながると言われ、手術により正常卵巣組織が減少したり、電気メスやレーザーなどで熱が組織に加えられることで、さらに卵巣予備能が減少する可能性もあります。検査がまだであればぜひ受けてみてください。もし、卵巣予備能の低下が進んでいれば、採卵を優先的に行うのも良いと思います。 一方、チョコレート嚢胞の場所が採卵時に支障をきたす場所だと感染のリスクが高まります。また、排便時に痛みを感じたり、月経痛が酷いなど自覚症状がある場合は手術を優先した方が良い場合もあるので、主治医の先生には手術を勧める理由をよく聞いて納得されてから手術を決断されたほうがよいと思います。 当院でも大きな子宮筋腫、チョコレート嚢胞がありながらもチョコレート嚢胞の位置が比較的採卵しやすい場所にあり、手術をせず妊娠された方もいます。たろぺそさんの場合、年齢的にもまだ若く余力もあり、意識も高いので、できる検査や治療を急いで妊娠を目指してください。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 院長 神山 洋先生(芝公園かみやまクリニック) 昭和大学医学部卒業。アメリカ ニュージャージー州で体外受精の研修を受け、虎の門病院産婦人科医員 不妊外来担当を経て、平成17年、東京都港区に「芝公園かみやまクリニック」を開院。日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本生殖医学会 生殖医療専門医、日本東洋医学会 漢方専門医。クリニックは都心でありながらも静かな場所にあり、院内も綺麗で落ち着いた雰囲気。≫ 芝公園かみやまクリニック チョコレート嚢胞、子宮筋腫がある場合の不妊治療と手術の必要性について 2017/12/11 院長 神山 洋先生(芝公園かみやまクリニック) たろぺそさん(34才) チョコレート嚢胞、子宮筋腫がある場合の不妊治療と手術の必要性について 1年前に結婚し、妊娠希望の者です。 子宮筋腫の核出術を腹腔鏡で5年前に行いました。筋腫は取りきれましたが、その後1年で再発してしまい、医師 からは妊娠には大きな影響はない場所と言われていますが今は2センチ程度のものが2個あります。 筋腫の経過観察をしていたところ1年前にチョコレート嚢胞を指摘され、MRIをとったところ5センチ。 不妊治療を勧められて、タイミング法、人工授精をしましたが妊娠に至らず。通っていた婦人科では体外受精は できないとのことで、体外受精専門の不妊治療クリニックに転院したところ、嚢胞が6センチに大きくなっており手 術を勧められ戸惑っています。それまでの婦人科では妊娠が1番の薬と言われ、手術とは言われていませんでした。 年齢のこともあり、できればこのまま早く体外受精をしたかったのですが、嚢胞が6センチでは手術が1番良いの でしょうか。 腹腔鏡手術は2回目のため癒着で妊娠がしにくくなるのではという不安もあります。 神山 洋先生からの回答(芝公園かみやまクリニック) まず、子宮筋腫からお話しますと、たろぺそさんの場合、医師から妊娠に大きな影響がないと言われているのであれば、子宮筋腫のなかでも筋層内筋腫、あるいは漿膜下筋腫の可能性が高く、妊娠には影響のない位置に筋腫があると推測します。また、現在2㎝程度であれば、妊娠した後に産科的に異常をきたすような大きさではないので、経過観察で良いと思います。当院であれば、可能な限り体外受精前に子宮鏡検査を行い、子宮内腔の状態、内膜の状態や変形などもチェックします。 次にチョコレート嚢胞の腹腔鏡下手術についてですが、ART(生殖補助医療)の前に腹腔鏡下による摘出手術を行っても受精率、着床率、妊娠率において手術しない場合と差がないという報告があります。また手術を行うと、その後の不妊治療における卵巣刺激日数が延長、排卵誘発剤の使用量も増加し、成熟卵子の獲得数が減少することも報告されています。 たろぺそさんはAMH(アンチミュラー管ホルモン)検査をされているでしょうか? AMHは卵巣予備能(卵巣に残る卵子の数)を推定することができる検査です。チョコレート嚢胞があると卵巣予備能の減少につながると言われ、手術により正常卵巣組織が減少したり、電気メスやレーザーなどで熱が組織に加えられることで、さらに卵巣予備能が減少する可能性もあります。検査がまだであればぜひ受けてみてください。もし、卵巣予備能の低下が進んでいれば、採卵を優先的に行うのも良いと思います。 一方、チョコレート嚢胞の場所が採卵時に支障をきたす場所だと感染のリスクが高まります。また、排便時に痛みを感じたり、月経痛が酷いなど自覚症状がある場合は手術を優先した方が良い場合もあるので、主治医の先生には手術を勧める理由をよく聞いて納得されてから手術を決断されたほうがよいと思います。 当院でも大きな子宮筋腫、チョコレート嚢胞がありながらもチョコレート嚢胞の位置が比較的採卵しやすい場所にあり、手術をせず妊娠された方もいます。たろぺそさんの場合、年齢的にもまだ若く余力もあり、意識も高いので、できる検査や治療を急いで妊娠を目指してください。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 院長 神山 洋先生(芝公園かみやまクリニック) 昭和大学医学部卒業。アメリカ ニュージャージー州で体外受精の研修を受け、虎の門病院産婦人科医員 不妊外来担当を経て、平成17年、東京都港区に「芝公園かみやまクリニック」を開院。日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本生殖医学会 生殖医療専門医、日本東洋医学会 漢方専門医。クリニックは都心でありながらも静かな場所にあり、院内も綺麗で落ち着いた雰囲気。≫ 芝公園かみやまクリニック
2017.12.11
専門医Q&A 不妊治療
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採卵しても未成熟なのは 誘発法が合っていないから?
採卵しても未成熟なのは誘発法が合っていないから? 2017/11/30 山中智哉先生(オリーブレディースクリニック) 相談者:モモカワさん(39歳) クリニックの転院について 今年の7月に39歳になりました。35歳の時に、初めての人工授精で第一子を妊娠・出産しました。40歳を前に諦めきれないと思い、治療を再開しました。 今年初めての体外受精に挑みました。クロミッド、プレマリンによる低刺激の排卵誘発で、採卵の日にはすでに排卵済み。何とか1つ採卵しましたが、未成熟卵で受精しませんでした。こちらのクリニックでは受精しなかった場合、あと2回無料で採卵してもらえます。ただ、卵胞が小さく、排卵を推定するのが難しいといわれました。年齢のこともあり、1周期も無駄にしたくありません。そこで、無料の採卵は放棄して、刺激法をとり入れたクリニックに転院したほうが良いか迷っています。どう思われますか? 生理2日目の血液検査は以下の通りです。 E2/53.6、LH/3.05、FSH/5.99 (AMHは計測してもらえないため、わかりません) 低刺激の排卵誘発法で臨まれていることについてどう思われますか? AMH(抗ミュラー管ホルモン)を計測していないということですが、この値は排卵誘発の方法を決める時の目安にもなるので、一度測られたほうがいいと思いますね。 AMHは卵巣の中にどれくらいの卵が残っているのかを表すとされています。同時に、月経の各周期の始めに準備される「前胞状卵胞の数」にも関連します。例えば、AMH値が低いということは前胞状卵胞(育つ可能性がある小さな卵胞)も少ないということになるので、どんなに注射を打って刺激をしても採れる卵子の数は2、3個程度かもしれません。 今の低刺激法がいいのか、たくさん注射をしてしっかり卵巣を刺激する方法のほうがこの方にとってメリットがあるのか、AMHの値を知ることである程度わかってくるのではないかと思います。 AMHは卵巣の予備能、いわゆる卵巣年齢を表すもの。妊娠にとって年齢の因子は重要で、確かにAMHの値も加齢とともに下がってくる傾向はあります。 妊娠のしにくさは閉経のだいたい10年くらい前から始まっているといわれているので、45歳で生理が終わりそうな方だったら、35歳くらいから厳しくなる。しかし、閉経の時期は人によって差があるので、50歳を過ぎて生理が終わるような場合は40歳を過ぎても妊娠する余力が残されているかもしれません。 このように卵巣年齢には差があるので、当院では患者さん全員のAMHを計測しています。高齢の方でもAMHの値がある程度保たれていれば、中~高刺激も検討することができます。私は、AMHの値が0.8ng/ml以上かどうかを、ひとつの基準としています。それ以下であったとしても、刺激をするのであれば、少なくとも4個から5個くらい採卵ができるように目指していきます。 自然周期や低刺激の場合、AMHが高い方でも低い方でも、もともと1~3個程度の卵胞形成となります。 よく言えば、卵巣機能に良し悪しに関わらず、誰に対しても行なうことができる方法です。 モモカワさんが通院している施設では、施設の方針としてその方法を採用しているので、AMHの値を知る必要はないとしているのではないでしょうか。 採卵日には排卵済み、採れた卵子は未成熟だったそうですが。 卵胞のチェックはされていると思うのですが、もしかしたら排卵日の推測がずれて、少し遅かったのかもしれません。 E2の値ですが、通常は生理2日目だとまだ20~30pg/mlくらいだと思います。それが53.6pg/mlというのは少し高く、卵胞のほうは生理初日の段階ですでに進み始めていたのでは。2日目で53.6pg/mlになっているということは、3日目か4日目の卵胞を見ているようなイメージで考えていく必要があるでしょう。 普通なら12日目にチェックをするところを、もう少し手前、10日目くらいにチェックするようにしたほうが良かったのかもしれません。特に高齢の方は卵胞が早く進む傾向があるので、そのような視点も必要ですね。 未成熟卵の排卵については、年齢が高くなればなるほど、卵胞が十分育ちきる前にLHサージ(LH(黄体化ホルモン)が大量に分泌され、排卵が促される現象)が早く始まりやすくなるといわれています。排卵誘発は、卵胞を複数個育てること以外に、このLHサージをコントロールして、十分に成熟した卵子を採取することも大切な要素となります。 AMHの未計測や、主席卵胞が排卵済みの状態で、未成熟卵の採卵となったことなど、モモカワさん自身がいくらか治療方針に疑問を感じているように見受けられます。ただ、治療の考え方は施設によって異なりますし、順調に治療が進まない周期も起こり得ることです。まだ採卵1回目ということですので、残りの治療を続けてみてもいいのでは。2回同じようなことが起こるようでしたら、違う方法が適している可能性もありますので、その時は転院を考えられてもいいと思います。 山中先生より まとめ ●卵巣の予備能を表すAMHは、排卵誘発法を決める目安にも。 ●年齢が高い人は卵胞やLHサージが早く進む傾向がある。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山中智哉先生(オリーブレディースクリニック) 山梨医科大学卒業。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。米国ISFN認定サプリメントアドバイザー。点滴療法研究会認定医。産婦人科医として様々なキャリアを積み、10年以上の不妊治療経験を持つ。体外受精をメインに、一人ひとりの異なる悩みに合ったオーダーメイドの治療を提案。妊娠しやすい体に整えるためのアドバイスや処置も積極的に行い、不妊に悩む患者さんを統合的にサポート。 ≫ オリーブレディースクリニック 採卵しても未成熟なのは誘発法が合っていないから? 2017/11/30 山中智哉先生(オリーブレディースクリニック) 相談者:モモカワさん(39歳) クリニックの転院について 今年の7月に39歳になりました。35歳の時に、初めての人工授精で第一子を妊娠・出産しました。40歳を前に諦めきれないと思い、治療を再開しました。 今年初めての体外受精に挑みました。クロミッド、プレマリンによる低刺激の排卵誘発で、採卵の日にはすでに排卵済み。何とか1つ採卵しましたが、未成熟卵で受精しませんでした。こちらのクリニックでは受精しなかった場合、あと2回無料で採卵してもらえます。ただ、卵胞が小さく、排卵を推定するのが難しいといわれました。年齢のこともあり、1周期も無駄にしたくありません。そこで、無料の採卵は放棄して、刺激法をとり入れたクリニックに転院したほうが良いか迷っています。どう思われますか? 生理2日目の血液検査は以下の通りです。 E2/53.6、LH/3.05、FSH/5.99 (AMHは計測してもらえないため、わかりません) 低刺激の排卵誘発法で臨まれていることについてどう思われますか? AMH(抗ミュラー管ホルモン)を計測していないということですが、この値は排卵誘発の方法を決める時の目安にもなるので、一度測られたほうがいいと思いますね。 AMHは卵巣の中にどれくらいの卵が残っているのかを表すとされています。同時に、月経の各周期の始めに準備される「前胞状卵胞の数」にも関連します。例えば、AMH値が低いということは前胞状卵胞(育つ可能性がある小さな卵胞)も少ないということになるので、どんなに注射を打って刺激をしても採れる卵子の数は2、3個程度かもしれません。 今の低刺激法がいいのか、たくさん注射をしてしっかり卵巣を刺激する方法のほうがこの方にとってメリットがあるのか、AMHの値を知ることである程度わかってくるのではないかと思います。 AMHは卵巣の予備能、いわゆる卵巣年齢を表すもの。妊娠にとって年齢の因子は重要で、確かにAMHの値も加齢とともに下がってくる傾向はあります。 妊娠のしにくさは閉経のだいたい10年くらい前から始まっているといわれているので、45歳で生理が終わりそうな方だったら、35歳くらいから厳しくなる。しかし、閉経の時期は人によって差があるので、50歳を過ぎて生理が終わるような場合は40歳を過ぎても妊娠する余力が残されているかもしれません。 このように卵巣年齢には差があるので、当院では患者さん全員のAMHを計測しています。高齢の方でもAMHの値がある程度保たれていれば、中~高刺激も検討することができます。私は、AMHの値が0.8ng/ml以上かどうかを、ひとつの基準としています。それ以下であったとしても、刺激をするのであれば、少なくとも4個から5個くらい採卵ができるように目指していきます。 自然周期や低刺激の場合、AMHが高い方でも低い方でも、もともと1~3個程度の卵胞形成となります。 よく言えば、卵巣機能に良し悪しに関わらず、誰に対しても行なうことができる方法です。 モモカワさんが通院している施設では、施設の方針としてその方法を採用しているので、AMHの値を知る必要はないとしているのではないでしょうか。 採卵日には排卵済み、採れた卵子は未成熟だったそうですが。 卵胞のチェックはされていると思うのですが、もしかしたら排卵日の推測がずれて、少し遅かったのかもしれません。 E2の値ですが、通常は生理2日目だとまだ20~30pg/mlくらいだと思います。それが53.6pg/mlというのは少し高く、卵胞のほうは生理初日の段階ですでに進み始めていたのでは。2日目で53.6pg/mlになっているということは、3日目か4日目の卵胞を見ているようなイメージで考えていく必要があるでしょう。 普通なら12日目にチェックをするところを、もう少し手前、10日目くらいにチェックするようにしたほうが良かったのかもしれません。特に高齢の方は卵胞が早く進む傾向があるので、そのような視点も必要ですね。 未成熟卵の排卵については、年齢が高くなればなるほど、卵胞が十分育ちきる前にLHサージ(LH(黄体化ホルモン)が大量に分泌され、排卵が促される現象)が早く始まりやすくなるといわれています。排卵誘発は、卵胞を複数個育てること以外に、このLHサージをコントロールして、十分に成熟した卵子を採取することも大切な要素となります。 AMHの未計測や、主席卵胞が排卵済みの状態で、未成熟卵の採卵となったことなど、モモカワさん自身がいくらか治療方針に疑問を感じているように見受けられます。ただ、治療の考え方は施設によって異なりますし、順調に治療が進まない周期も起こり得ることです。まだ採卵1回目ということですので、残りの治療を続けてみてもいいのでは。2回同じようなことが起こるようでしたら、違う方法が適している可能性もありますので、その時は転院を考えられてもいいと思います。 山中先生より まとめ ●卵巣の予備能を表すAMHは、排卵誘発法を決める目安にも。 ●年齢が高い人は卵胞やLHサージが早く進む傾向がある。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山中智哉先生(オリーブレディースクリニック) 山梨医科大学卒業。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。米国ISFN認定サプリメントアドバイザー。点滴療法研究会認定医。産婦人科医として様々なキャリアを積み、10年以上の不妊治療経験を持つ。体外受精をメインに、一人ひとりの異なる悩みに合ったオーダーメイドの治療を提案。妊娠しやすい体に整えるためのアドバイスや処置も積極的に行い、不妊に悩む患者さんを統合的にサポート。 ≫ オリーブレディースクリニック
2017.11.30
専門医Q&A 不妊治療
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ジネコ妊活セミナー9月10日 「体外受精の現在、過去、未来」
2017年9月10日に行われたジネコ 妊活セミナーより 体外受精の現在、過去、未来 2017年9月10日(日)、東京日本橋にて「ジネコ妊活セミナー」を開催しました。第1部では、医療法人愛慈会 松本レディースクリニック看護師長の松永久美江さんに「不妊治療全般」について、第2部では同クリニック院長松本和紀先生に「体外受精の現在・過去・未来」についてお話いただきました。今回は第2部の内容を第2弾としてお届けします。 30年以上の歴史がある体外受精 最近、体外受精を受ける方が増えています。原因として女性の非婚、晩婚、そして挙児希望年齢が遅くなっていることなどが挙げられます。 1970年代、29歳までの女性未婚率は20%でした。今は60%、20代の過半数が独身です。70年代の平均初婚年齢は25歳に対して今は30歳です。これは日本だけでなく、先進諸国も同じような傾向にあります。それと共に体外受精の進歩という医学的な側面もあるのですが両面が相まって体外受精が増えているわけです。 体外受精が初めて成功したのは1978年、イギリスです。40年近く前のことです。次に80年にオーストラリアで、81年にアメリカ、そして日本では83年に初めて成功しました。それが、いまや日本で生まれる赤ちゃんの20人に1人が体外受精です。体外受精は決して珍しいことではなくなっています。 体外受精とは、妻の卵巣から十分に成熟した卵子を採取し、夫の精子を振りかけるようにして受精を待ち(これを媒精と言います)、そこでできた受精卵を一定期間培養したあと、妻の子宮腔内に移植し、妊娠を目指す方法です。 精子はあるし、卵子もある。卵巣も子宮もあり、毎月生理もある。なのに妊娠しないのは卵管に原因があることが多いです。子宮内膜症などで卵管周囲に癒着が見つかったり、子宮卵管造影などで卵管に閉塞や狭窄が疑われる場合、受精の場がないために、妊娠できない、すなわち卵管不妊です。それを何とか解決できないかということで多くの医師たちが長きにわたって研究を重ねたおかげで、体外受精という方法が誕生しました。 顕微授精によって体外受精の成功率が格段に高まった! 体外受精実施症例数が増加するなかで、媒精しても受精しない受精障害が多く存在することがわかってきました。この受精障害を克服するために生まれたのが顕微授精という方法です。 顕微授精とは、卵子に極細の針で一個の精子を直接注入させて受精させる方法です。顕微授精の中でもいろいろなやり方があったのですが、今は卵子の細胞質内に針で一個の精子を注入させるICSI法(Intracytoplasmic Sperm Injection)が全盛です。現在は、顕微授精イコール ICSI法と言っても過言ではありません。これまでは多数の精子が必要だったのですが、ICSI法であれば、精子1匹いれば、かなり高い確率で受精できるようになったわけです。 この顕微授精は1990年代、急速に発展しました。その次に体外受精の中で注目されるようになったのが凍結胚移植です。体外受精してできた胚(受精卵)を凍結して移植する方法です。排卵周期は誘発剤の影響で、子宮内膜が薄かったり、卵巣が腫れてしまっていたりと移植に適さない状態のことが多いんです。 でも、胚をいったん凍結すれば、子宮や卵巣を少し休ませることができる。その結果、採卵周期に合わせた体外受精よりも、凍結胚移植のほうが着床率は高くなり、流産率も低くなるということで、今、日本で生まれる体外受精の赤ちゃんの大多数が凍結胚移植です。 そんな中、現在、何が問題かというと移植はしたけど、妊娠率が頭うちだということです。これは先ほども申し上げたとおり、女性の高齢化というのが大きな要素です。赤ちゃんになり得る胚をどうやって生成するか、赤ちゃんになり得ると思う胚をいかに選別するかが最大の課題です。 制度や治療技術よりも大切なのは夫婦が仲むつまじいこと この10月から東京都でも一般不妊治療、一般不妊検査に関して夫婦一組5万円までの助成金が出るようになりました。ただし、検査開始の時点で妻が35歳以下であること、夫婦共に今年4月1日以降、不妊検査をしていることが条件です。36歳以上の方には不平等だという不満があるかもしれません。しかし、これはつまり35歳以前にできるだけ早く不妊検査治療に入っていただいて、体外受精の段階にならないうちに妊娠してほしいというのが根幹にあるからです。 体外受精の次のテーマは再生医療。山中教授がiPS細胞の作製でノーベル賞もらったのは皆さん、ご存知だと思いますが、iPS細胞による再生医療は網膜移植で臨床治験が始まってます。アルツハイマーなど神経障害に対しても自分の遺伝情報を持ったiPS細胞で神経細胞をつくって再生ということが、次の試みとして始まっています。その他、歯や髪、あらゆる臓器で再生医療の可能性が高まっています。そのなかで、卵子も精子もマウスレベルではできています。自分には先天的に、あるいは病気でとってしまって卵巣がないから、無精子症だからと子どもをあきらめていた人たちにも、子どもを持てる可能性が出てきたということです。まさに夢のような話です。そういうことで、iPSあるいはES細胞によって不妊治療が今後、10、20年後どうなるかはわかりません。今とは随分状況も変わってくるかもしれません。世の中は、必ず進歩していきます。私自身も不妊治療の未来がどうなっていくのか興味津々です。 ただ、体外受精で2回失敗してがっかりしていたら、旦那さんが慰めてくれて、セックスしたら赤ちゃんができたというケースもあります。とにかく、お子さん欲しいという方に私からの最小限のアドバイスとしては、夫婦仲良くむつんでください。人工授精の最大の欠点はセックスレスを誘発すること。できるだけ夫婦仲良くしてむつんだほうが、最終的に体外受精でできたのであっても子育ても家庭もうまくいくものです。40年ちかくやってきて、つくづく思うのは夫婦は一にも二にも仲良くすることが大事ということです。 松本和紀 院長 (医療法人 愛慈会 松本レディースクリニック)昭和27年埼玉県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。昭和63年~平成2年、英国ロンドン大学ガイズ病院リサーフェローとして「脱落膜組織の免疫担当細胞の動態」について研究。平成2年に東京慈恵会医科大学に戻り、平成11年に松本レディースクリニック開設。平成24年に不妊治療、生殖補助医療、体外受精を専門に行うクリニックとして再スタート。目下の課題は、良好胚の選別方法の改善,加齢卵子対策。 ジネコ妊活セミナー 2017年9月10日に行われたジネコ 妊活セミナーより 体外受精の現在、過去、未来 2017年9月10日(日)、東京日本橋にて「ジネコ妊活セミナー」を開催しました。第1部では、医療法人愛慈会 松本レディースクリニック看護師長の松永久美江さんに「不妊治療全般」について、第2部では同クリニック院長松本和紀先生に「体外受精の現在・過去・未来」についてお話いただきました。今回は第2部の内容を第2弾としてお届けします。 30年以上の歴史がある体外受精 最近、体外受精を受ける方が増えています。原因として女性の非婚、晩婚、そして挙児希望年齢が遅くなっていることなどが挙げられます。 1970年代、29歳までの女性未婚率は20%でした。今は60%、20代の過半数が独身です。70年代の平均初婚年齢は25歳に対して今は30歳です。これは日本だけでなく、先進諸国も同じような傾向にあります。それと共に体外受精の進歩という医学的な側面もあるのですが両面が相まって体外受精が増えているわけです。 体外受精が初めて成功したのは1978年、イギリスです。40年近く前のことです。次に80年にオーストラリアで、81年にアメリカ、そして日本では83年に初めて成功しました。それが、いまや日本で生まれる赤ちゃんの20人に1人が体外受精です。体外受精は決して珍しいことではなくなっています。 体外受精とは、妻の卵巣から十分に成熟した卵子を採取し、夫の精子を振りかけるようにして受精を待ち(これを媒精と言います)、そこでできた受精卵を一定期間培養したあと、妻の子宮腔内に移植し、妊娠を目指す方法です。 精子はあるし、卵子もある。卵巣も子宮もあり、毎月生理もある。なのに妊娠しないのは卵管に原因があることが多いです。子宮内膜症などで卵管周囲に癒着が見つかったり、子宮卵管造影などで卵管に閉塞や狭窄が疑われる場合、受精の場がないために、妊娠できない、すなわち卵管不妊です。それを何とか解決できないかということで多くの医師たちが長きにわたって研究を重ねたおかげで、体外受精という方法が誕生しました。 顕微授精によって体外受精の成功率が格段に高まった! 体外受精実施症例数が増加するなかで、媒精しても受精しない受精障害が多く存在することがわかってきました。この受精障害を克服するために生まれたのが顕微授精という方法です。 顕微授精とは、卵子に極細の針で一個の精子を直接注入させて受精させる方法です。顕微授精の中でもいろいろなやり方があったのですが、今は卵子の細胞質内に針で一個の精子を注入させるICSI法(Intracytoplasmic Sperm Injection)が全盛です。現在は、顕微授精イコール ICSI法と言っても過言ではありません。これまでは多数の精子が必要だったのですが、ICSI法であれば、精子1匹いれば、かなり高い確率で受精できるようになったわけです。 この顕微授精は1990年代、急速に発展しました。その次に体外受精の中で注目されるようになったのが凍結胚移植です。体外受精してできた胚(受精卵)を凍結して移植する方法です。排卵周期は誘発剤の影響で、子宮内膜が薄かったり、卵巣が腫れてしまっていたりと移植に適さない状態のことが多いんです。 でも、胚をいったん凍結すれば、子宮や卵巣を少し休ませることができる。その結果、採卵周期に合わせた体外受精よりも、凍結胚移植のほうが着床率は高くなり、流産率も低くなるということで、今、日本で生まれる体外受精の赤ちゃんの大多数が凍結胚移植です。 そんな中、現在、何が問題かというと移植はしたけど、妊娠率が頭うちだということです。これは先ほども申し上げたとおり、女性の高齢化というのが大きな要素です。赤ちゃんになり得る胚をどうやって生成するか、赤ちゃんになり得ると思う胚をいかに選別するかが最大の課題です。 制度や治療技術よりも大切なのは夫婦が仲むつまじいこと この10月から東京都でも一般不妊治療、一般不妊検査に関して夫婦一組5万円までの助成金が出るようになりました。ただし、検査開始の時点で妻が35歳以下であること、夫婦共に今年4月1日以降、不妊検査をしていることが条件です。36歳以上の方には不平等だという不満があるかもしれません。しかし、これはつまり35歳以前にできるだけ早く不妊検査治療に入っていただいて、体外受精の段階にならないうちに妊娠してほしいというのが根幹にあるからです。 体外受精の次のテーマは再生医療。山中教授がiPS細胞の作製でノーベル賞もらったのは皆さん、ご存知だと思いますが、iPS細胞による再生医療は網膜移植で臨床治験が始まってます。アルツハイマーなど神経障害に対しても自分の遺伝情報を持ったiPS細胞で神経細胞をつくって再生ということが、次の試みとして始まっています。その他、歯や髪、あらゆる臓器で再生医療の可能性が高まっています。そのなかで、卵子も精子もマウスレベルではできています。自分には先天的に、あるいは病気でとってしまって卵巣がないから、無精子症だからと子どもをあきらめていた人たちにも、子どもを持てる可能性が出てきたということです。まさに夢のような話です。そういうことで、iPSあるいはES細胞によって不妊治療が今後、10、20年後どうなるかはわかりません。今とは随分状況も変わってくるかもしれません。世の中は、必ず進歩していきます。私自身も不妊治療の未来がどうなっていくのか興味津々です。 ただ、体外受精で2回失敗してがっかりしていたら、旦那さんが慰めてくれて、セックスしたら赤ちゃんができたというケースもあります。とにかく、お子さん欲しいという方に私からの最小限のアドバイスとしては、夫婦仲良くむつんでください。人工授精の最大の欠点はセックスレスを誘発すること。できるだけ夫婦仲良くしてむつんだほうが、最終的に体外受精でできたのであっても子育ても家庭もうまくいくものです。40年ちかくやってきて、つくづく思うのは夫婦は一にも二にも仲良くすることが大事ということです。 松本和紀 院長 (医療法人 愛慈会 松本レディースクリニック)昭和27年埼玉県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。昭和63年~平成2年、英国ロンドン大学ガイズ病院リサーフェローとして「脱落膜組織の免疫担当細胞の動態」について研究。平成2年に東京慈恵会医科大学に戻り、平成11年に松本レディースクリニック開設。平成24年に不妊治療、生殖補助医療、体外受精を専門に行うクリニックとして再スタート。目下の課題は、良好胚の選別方法の改善,加齢卵子対策。 ジネコ妊活セミナー
2017.11.27
レポート 不妊治療
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40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます
40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 相談者:KiKiさん(41歳)からの投稿 「40代に有効な誘発法は?」これまでにAIHで稽留流産、化学流産を数回経験。半年前にIVFデビューしました。その時の検査でAMHは21、FSHも6前後、ほかの検査でも特に問題ないことから、当初医師からロング法を提案されました。しかし、ロング法は年齢から考えて若干の疑問を感じ、医師と相談のうえ、アンタゴニスト法で9個採卵。顕微授精で6個の受精卵ができ、初移植(新鮮8分割)で陽性→化学流産、その後2回凍結胚盤胞を移植しましたが、今日の判定で残念な結果となりました。結果、移植に至った胚は3個だけ。現在、凍結胚はもう残っていないため、また採卵から始めることになるのですが、誘発法で悩んでいます。 数が採れても結果がゼロだったアンタゴニスト法に再度挑戦するか、医師のすすめるロング法にするか…しかし、40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配です。クロミッド®などの低刺激も視野に入れていますが、排卵の抑制ができないため採卵前に排卵してしまうというリスクが不安です。誘発法によって卵子の質に大きく差が出るとも聞きます。 初採卵で新鮮胚移植に至るまでにかかった費用も70万越え…。治療費のやりくりを考えると何度も挑戦というわけにもいかず、頭を抱える毎日です。 誘発法選択の指標はAMHとFSHの数値 今後の誘発法で悩んでいるとのことですが、担当医がすすめるロング法を選択する場合、卵巣予備能が十分にあることが前提となります。その指標になるのがAMHとFSHです。KiKiさんのAMHは21、FSHは6前後とのことですが、ここでのAMHの単位はおそらくpMだと思います。現在、AMHの数値にはng/mlを採用していますので換算すると2・94ng/mlですね。40代としてはとてもいい数値だと思います。FSHの値もいいので、排卵誘発にはよく反応してくれる状態ではないでしょうか。 現に、アンタゴニスト法で9個採卵できているとのことですから、反応性はいいと思います。6個は顕微授精までいってその半分が移植できているというのも、決して悪い成績ではありません。 8分割の新鮮胚移植で化学流産したとのことですので、少なくとも着床はしているわけです。つまり、子宮の中で胚盤胞になっています。また、その他の2個も胚盤胞で凍結できているとのことですから卵子の質も通常よりいいように思います。40歳になれば胚盤胞まで到達する率は30%くらいです。 切り替えにスプレキュア®を用いたアンタゴニスト法なら副作用はほとんどない 以上のようなことを考えると、KiKiさんの場合はロング法でもかまわないと思います。「40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配」とあるので、ロング法が卵巣機能を低下させるなど悪影響があると考えておられるのでしょうか。そうであれば、そんなに心配する必要はないと思います。高齢の卵巣だから耐えられないということはありません。卵巣の反応性が良いため、卵巣過剰刺激症候群の可能性はありますが、排卵誘発剤を大量に投与しない限り、発生も抑えられると思います。 アンタゴニスト法で結果が出なかったのですが、アンタゴニスト法にもいろいろなやり方があります。当院では卵胞が成熟した後、HCGを用いずにスプレキュア®というGnRHアゴニストのスプレーを用いて切り替え(トリガー)をしています。スプレキュア®は脳下垂体に作用して自然なLHサージを起こして卵子を成熟させます。自然なLHはHCGより半減期が短いため、卵巣への刺激が少なく副作用が起こりにくくなります。多嚢胞性卵巣などで卵胞が多数発育する場合でも卵巣過剰刺激症候群はかなり防げます。 低刺激法をチョイスするなら専門のクリニックへ排卵リスクも経済面も安心 クロミッド®などの低刺激法も視野に入れているとのことですが、当院でのファーストチョイスは低刺激法です。KiKiさんはアンタゴニスト法で9個採卵できていますから、低刺激法でも4~5個くらいの採卵は十分に期待できると思います。 低刺激法は体内で自然に分泌されるホルモンを利用する方法ですから、副作用はまずありませんし、刺激周期特有の体のだるさのようなものもありません。また、採卵前の排卵のリスクを心配されていますが、低刺激法を専門的に行っている施設であれば問題ないと思います。当院では日曜、祝日も診察を行い、なおかつ院内でエストラジオールやLHを30分程度で測定できますので十分な卵胞成熟のモニタリングが可能です。そのため、採卵時の排卵率はさほど高くなく、あっても1%以内です。なにより薬剤の量が少なくて済み、経済的という安心感もあります。 40代でも粘り強い治療で結果は期待できる KiKiさんは卵巣予備能がまだまだ十分にありますので、誘発法にはいろいろな選択肢があります。逆に30代でも卵巣予備能が低下していれば、刺激周期を行っても卵子がたくさん採れないことも多く、選択肢は限られてきます。誘発法によって卵子の質に影響があるかどうかという点は、ある程度やってみないとわからないところはありますが、方法を変えてもそんなに卵子の質に影響が出るわけではないと思います。方法よりも切り替えのタイミングのほうが大切だと思います。切り替えのタイミングには超音波だけでなくホルモンの測定と経験に基づいた勘も大切になります。そのため、できれば、日曜日、祝日も外来をしていて、院内でいつでもホルモン測定ができるクリニックが理想です。ただ、やはり40歳を過ぎますと、移植当たりの妊娠率が必ずしも高いわけではないのは事実です。1回当たりの妊娠率は10~15%くらい、流産も当然ありますから、赤ちゃんまで到達するのは9~10%くらいです。 当院のデータでは、40歳から治療を始められた方で、体外受精の累積での妊娠率つまり最終的に妊娠される方は40%以上です。つまり、40歳になれば1回目の治療で妊娠する可能性は低くはなりますが、粘り強く治療を続けることで半分近くの妊娠率が期待できるのです。 人工授精で稽留流産、化学流産を経験されているので、一度は不育症の検査をしてもいいかもしれません。凝固系異常や抗リン脂質抗体症候群などがある場合は、アスピリンやヘパリン、あるいはステロイドを使った治療法で対処できる場合があります。まだまだ悲観するほどの状態ではありません。副作用や治療費のことを心配されるのであれば、比較的安価な低刺激法のことを含め、専門クリニックでご相談されてもいいのではないでしょうか。 排卵誘発法のファーストチョイスは? 40代でも卵巣予備能が十分にあればいろいろな選択肢があります。専門クリニックであれば、低刺激法もいい方法です。低刺激法は自然なホルモンを利用した排卵誘発法で、体にやさしく、卵巣が反応しすぎるといった副作用がまず起こりません。また、注射の量を加減することである程度の数の卵子を採ることも可能です。特に、初めての誘発であれば、卵巣がどう反応するかを見極めながら調整できるという意味でもおすすめです。何より注射の量が少なくて済み、経済的。通院回数も多くないため、仕事や日常と治療との両立もスムーズです。 GnRHアゴニスト製剤とは? よく使われている製品例:スプレキュア®。●どの誘発方法で使われるの?低刺激法をはじめアンタゴニスト法でも切り替え(トリガー)に使用します。点鼻薬(鼻にするスプレー)なので、夜間に自分でできます ●副作用について アンタゴニスト法で卵巣を強めに刺激した場合でも、最後の切り替えでスプレキュア®を使用すると、HCGより卵巣への刺激が少ないため、卵巣過剰刺激症候群はまず起こりません。 中村先生より まとめ AMHとFSHが基準値内であれば誘発法はまだ十分に選択肢があります [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。「実は10年程前にEXILEのvocal battle auditionに応募しました。歌はダメなんですけど、マイケル・ジャクソン世代なので、ダンスには多少自信があったんですが。でも書類審査で落とされました。その時のオーディションで優勝したのが、TAKAHIROさんです。まあ、ファンの方と武井咲さんにとっては、YOSHIHIROではなくTAKAHIROでよかったでしょう(笑)」と先生。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら 40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 相談者:KiKiさん(41歳)からの投稿 「40代に有効な誘発法は?」これまでにAIHで稽留流産、化学流産を数回経験。半年前にIVFデビューしました。その時の検査でAMHは21、FSHも6前後、ほかの検査でも特に問題ないことから、当初医師からロング法を提案されました。しかし、ロング法は年齢から考えて若干の疑問を感じ、医師と相談のうえ、アンタゴニスト法で9個採卵。顕微授精で6個の受精卵ができ、初移植(新鮮8分割)で陽性→化学流産、その後2回凍結胚盤胞を移植しましたが、今日の判定で残念な結果となりました。結果、移植に至った胚は3個だけ。現在、凍結胚はもう残っていないため、また採卵から始めることになるのですが、誘発法で悩んでいます。 数が採れても結果がゼロだったアンタゴニスト法に再度挑戦するか、医師のすすめるロング法にするか…しかし、40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配です。クロミッド®などの低刺激も視野に入れていますが、排卵の抑制ができないため採卵前に排卵してしまうというリスクが不安です。誘発法によって卵子の質に大きく差が出るとも聞きます。 初採卵で新鮮胚移植に至るまでにかかった費用も70万越え…。治療費のやりくりを考えると何度も挑戦というわけにもいかず、頭を抱える毎日です。 誘発法選択の指標はAMHとFSHの数値 今後の誘発法で悩んでいるとのことですが、担当医がすすめるロング法を選択する場合、卵巣予備能が十分にあることが前提となります。その指標になるのがAMHとFSHです。KiKiさんのAMHは21、FSHは6前後とのことですが、ここでのAMHの単位はおそらくpMだと思います。現在、AMHの数値にはng/mlを採用していますので換算すると2・94ng/mlですね。40代としてはとてもいい数値だと思います。FSHの値もいいので、排卵誘発にはよく反応してくれる状態ではないでしょうか。 現に、アンタゴニスト法で9個採卵できているとのことですから、反応性はいいと思います。6個は顕微授精までいってその半分が移植できているというのも、決して悪い成績ではありません。 8分割の新鮮胚移植で化学流産したとのことですので、少なくとも着床はしているわけです。つまり、子宮の中で胚盤胞になっています。また、その他の2個も胚盤胞で凍結できているとのことですから卵子の質も通常よりいいように思います。40歳になれば胚盤胞まで到達する率は30%くらいです。 切り替えにスプレキュア®を用いたアンタゴニスト法なら副作用はほとんどない 以上のようなことを考えると、KiKiさんの場合はロング法でもかまわないと思います。「40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配」とあるので、ロング法が卵巣機能を低下させるなど悪影響があると考えておられるのでしょうか。そうであれば、そんなに心配する必要はないと思います。高齢の卵巣だから耐えられないということはありません。卵巣の反応性が良いため、卵巣過剰刺激症候群の可能性はありますが、排卵誘発剤を大量に投与しない限り、発生も抑えられると思います。 アンタゴニスト法で結果が出なかったのですが、アンタゴニスト法にもいろいろなやり方があります。当院では卵胞が成熟した後、HCGを用いずにスプレキュア®というGnRHアゴニストのスプレーを用いて切り替え(トリガー)をしています。スプレキュア®は脳下垂体に作用して自然なLHサージを起こして卵子を成熟させます。自然なLHはHCGより半減期が短いため、卵巣への刺激が少なく副作用が起こりにくくなります。多嚢胞性卵巣などで卵胞が多数発育する場合でも卵巣過剰刺激症候群はかなり防げます。 低刺激法をチョイスするなら専門のクリニックへ排卵リスクも経済面も安心 クロミッド®などの低刺激法も視野に入れているとのことですが、当院でのファーストチョイスは低刺激法です。KiKiさんはアンタゴニスト法で9個採卵できていますから、低刺激法でも4~5個くらいの採卵は十分に期待できると思います。 低刺激法は体内で自然に分泌されるホルモンを利用する方法ですから、副作用はまずありませんし、刺激周期特有の体のだるさのようなものもありません。また、採卵前の排卵のリスクを心配されていますが、低刺激法を専門的に行っている施設であれば問題ないと思います。当院では日曜、祝日も診察を行い、なおかつ院内でエストラジオールやLHを30分程度で測定できますので十分な卵胞成熟のモニタリングが可能です。そのため、採卵時の排卵率はさほど高くなく、あっても1%以内です。なにより薬剤の量が少なくて済み、経済的という安心感もあります。 40代でも粘り強い治療で結果は期待できる KiKiさんは卵巣予備能がまだまだ十分にありますので、誘発法にはいろいろな選択肢があります。逆に30代でも卵巣予備能が低下していれば、刺激周期を行っても卵子がたくさん採れないことも多く、選択肢は限られてきます。誘発法によって卵子の質に影響があるかどうかという点は、ある程度やってみないとわからないところはありますが、方法を変えてもそんなに卵子の質に影響が出るわけではないと思います。方法よりも切り替えのタイミングのほうが大切だと思います。切り替えのタイミングには超音波だけでなくホルモンの測定と経験に基づいた勘も大切になります。そのため、できれば、日曜日、祝日も外来をしていて、院内でいつでもホルモン測定ができるクリニックが理想です。ただ、やはり40歳を過ぎますと、移植当たりの妊娠率が必ずしも高いわけではないのは事実です。1回当たりの妊娠率は10~15%くらい、流産も当然ありますから、赤ちゃんまで到達するのは9~10%くらいです。 当院のデータでは、40歳から治療を始められた方で、体外受精の累積での妊娠率つまり最終的に妊娠される方は40%以上です。つまり、40歳になれば1回目の治療で妊娠する可能性は低くはなりますが、粘り強く治療を続けることで半分近くの妊娠率が期待できるのです。 人工授精で稽留流産、化学流産を経験されているので、一度は不育症の検査をしてもいいかもしれません。凝固系異常や抗リン脂質抗体症候群などがある場合は、アスピリンやヘパリン、あるいはステロイドを使った治療法で対処できる場合があります。まだまだ悲観するほどの状態ではありません。副作用や治療費のことを心配されるのであれば、比較的安価な低刺激法のことを含め、専門クリニックでご相談されてもいいのではないでしょうか。 排卵誘発法のファーストチョイスは? 40代でも卵巣予備能が十分にあればいろいろな選択肢があります。専門クリニックであれば、低刺激法もいい方法です。低刺激法は自然なホルモンを利用した排卵誘発法で、体にやさしく、卵巣が反応しすぎるといった副作用がまず起こりません。また、注射の量を加減することである程度の数の卵子を採ることも可能です。特に、初めての誘発であれば、卵巣がどう反応するかを見極めながら調整できるという意味でもおすすめです。何より注射の量が少なくて済み、経済的。通院回数も多くないため、仕事や日常と治療との両立もスムーズです。 GnRHアゴニスト製剤とは? よく使われている製品例:スプレキュア®。●どの誘発方法で使われるの?低刺激法をはじめアンタゴニスト法でも切り替え(トリガー)に使用します。点鼻薬(鼻にするスプレー)なので、夜間に自分でできます ●副作用について アンタゴニスト法で卵巣を強めに刺激した場合でも、最後の切り替えでスプレキュア®を使用すると、HCGより卵巣への刺激が少ないため、卵巣過剰刺激症候群はまず起こりません。 中村先生より まとめ AMHとFSHが基準値内であれば誘発法はまだ十分に選択肢があります [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。「実は10年程前にEXILEのvocal battle auditionに応募しました。歌はダメなんですけど、マイケル・ジャクソン世代なので、ダンスには多少自信があったんですが。でも書類審査で落とされました。その時のオーディションで優勝したのが、TAKAHIROさんです。まあ、ファンの方と武井咲さんにとっては、YOSHIHIROではなくTAKAHIROでよかったでしょう(笑)」と先生。 ≫ なかむらレディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.11.15
コラム 不妊治療
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心因性頻尿とチョコレート嚢胞がある場合、移植をどう乗り越えれば?
心因性頻尿とチョコレート嚢胞がある場合、移植をどう乗り越えれば? 2017/10/25 下川理世先生(赤坂レディースクリニック) さおさん(34歳) 心因性頻尿とチョコレート嚢胞がある場合、移植をどう乗り越えれば? 先日、初めて凍結胚移植を行いました。私が通院する不妊治療専門の病院は、尿をためてから移植を行うところでした。 実は10年ほど前、心因性頻尿の症状が出て心療内科に通っていたのですが、担当医と相性が合わず、嫌な思いをしたのでそれ以降、通っていません。何かをする前に必ずトイレを済ませたり、トイレの場所を確認することで安心を得るようにしたりなど自分なりの対処法で過ごしていました。 しかし、今回の凍結胚移植では「尿をためる」という状態で臨まなければいけませんでした。医師や看護師に「尿をためたり我慢するのが苦手」と訴えたのですが理解されず、何回もパニックに陥り、1度目はダメでトイレに行ったりしたものの何とか耐えて移植を終えました。精神的にとてもつらかったです。 それと私は両方の卵巣に5㎝ほどのチョコレート嚢胞があり、その手術の前に体外受精をしたほうがいいということで今回、移植を行いました。まだ、結果待ちですが、もしダメだった場合、年齢的にも早めに次の体外受精をしたい。でもまた、パニックに陥るのが心配です。先に心療内科に通った方がいいのでしょうか? 尿をためないでも移植できる方法があれば、教えてください。 下川理世先生(赤坂レディースクリニック) 凍結胚移植はエコーで移植の位置を確認しながら行うのですが、エコーをお腹にあてる場合は、子宮の内部を見やすくするため、膀胱に尿をためていただきます。ただ、私のところのように経膣エコーだけを使っている医師や病院も多いです。経膣エコーの場合、逆に排尿してもらうことになるので、次回は経膣エコーにしてもらえばいいのではないでしょうか。どちらの方法かは医師や病院によって異なります。今の病院で難しければ、他の病院をあたるのも選択の一つです。 ただ、心因性頻尿に関しては早めに心療内科に通い、改善することをおすすめします。不妊治療のことだけでなく日常生活も大変だと思うので。以前の病院にこだわらず、他をあたったらいいと思います。 気になるのは両側にある5㎝のチョコレート嚢胞。結構大きいです。ただ、手術で取ってしまうと卵巣機能がガクンと落ちてしまう恐れがあります。手術が先か、妊娠が先か。難しいところですが、私はAMHと年齢で判断します。AMHが年齢相応の数値であれば、先に手術するかもしれません。 データによると35歳の方が5回の累積移植で約9割の方が体外受精に成功しています。移植では毎回1個ずつ使いますから、胚盤胞という凍結胚が5個以上あると安心です。さおさんの場合、34歳で一度体外受精を経験されて流れもわかっているので、次回は5個くらい凍結胚をつくっておき、移植前にチョコレート嚢胞の摘出手術を行うのが良いのではないでしょうか。 チョコレート嚢胞は切除しないと治らない病気で、放置すると後々ガンの母体になってしまいます。抱えたままだと刺激物質を腹腔内にずっと置くことになるので、そのままの状態で妊娠するのもあまり良くないと私は思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 下川理世先生(赤坂レディースクリニック) 福岡県出身。山口大学医学部卒。 2000年慶応義塾大学医学部産婦人科入局。その後、静岡赤十字病院産婦人科、市川総合病院産婦人科リプロダクションセンター、湘南IVFクリニック(現メディカルパーク湘南)を経て、2016年4月、赤坂レディースクリニックを開業。婦人科診療から不妊治療まで総合的に行っている。不妊治療に関しては一般不妊治療から体外受精、顕微授精など高度生殖補助技術まで行う。「負担が少なく、医学的根拠に基づく的確でスピーディな医療」をモットーに不妊治療をサポート。≫ 赤坂レディースクリニック 心因性頻尿とチョコレート嚢胞がある場合、移植をどう乗り越えれば? 2017/10/25 下川理世先生(赤坂レディースクリニック) さおさん(34歳) 心因性頻尿とチョコレート嚢胞がある場合、移植をどう乗り越えれば? 先日、初めて凍結胚移植を行いました。私が通院する不妊治療専門の病院は、尿をためてから移植を行うところでした。 実は10年ほど前、心因性頻尿の症状が出て心療内科に通っていたのですが、担当医と相性が合わず、嫌な思いをしたのでそれ以降、通っていません。何かをする前に必ずトイレを済ませたり、トイレの場所を確認することで安心を得るようにしたりなど自分なりの対処法で過ごしていました。 しかし、今回の凍結胚移植では「尿をためる」という状態で臨まなければいけませんでした。医師や看護師に「尿をためたり我慢するのが苦手」と訴えたのですが理解されず、何回もパニックに陥り、1度目はダメでトイレに行ったりしたものの何とか耐えて移植を終えました。精神的にとてもつらかったです。 それと私は両方の卵巣に5㎝ほどのチョコレート嚢胞があり、その手術の前に体外受精をしたほうがいいということで今回、移植を行いました。まだ、結果待ちですが、もしダメだった場合、年齢的にも早めに次の体外受精をしたい。でもまた、パニックに陥るのが心配です。先に心療内科に通った方がいいのでしょうか? 尿をためないでも移植できる方法があれば、教えてください。 下川理世先生(赤坂レディースクリニック) 凍結胚移植はエコーで移植の位置を確認しながら行うのですが、エコーをお腹にあてる場合は、子宮の内部を見やすくするため、膀胱に尿をためていただきます。ただ、私のところのように経膣エコーだけを使っている医師や病院も多いです。経膣エコーの場合、逆に排尿してもらうことになるので、次回は経膣エコーにしてもらえばいいのではないでしょうか。どちらの方法かは医師や病院によって異なります。今の病院で難しければ、他の病院をあたるのも選択の一つです。 ただ、心因性頻尿に関しては早めに心療内科に通い、改善することをおすすめします。不妊治療のことだけでなく日常生活も大変だと思うので。以前の病院にこだわらず、他をあたったらいいと思います。 気になるのは両側にある5㎝のチョコレート嚢胞。結構大きいです。ただ、手術で取ってしまうと卵巣機能がガクンと落ちてしまう恐れがあります。手術が先か、妊娠が先か。難しいところですが、私はAMHと年齢で判断します。AMHが年齢相応の数値であれば、先に手術するかもしれません。 データによると35歳の方が5回の累積移植で約9割の方が体外受精に成功しています。移植では毎回1個ずつ使いますから、胚盤胞という凍結胚が5個以上あると安心です。さおさんの場合、34歳で一度体外受精を経験されて流れもわかっているので、次回は5個くらい凍結胚をつくっておき、移植前にチョコレート嚢胞の摘出手術を行うのが良いのではないでしょうか。 チョコレート嚢胞は切除しないと治らない病気で、放置すると後々ガンの母体になってしまいます。抱えたままだと刺激物質を腹腔内にずっと置くことになるので、そのままの状態で妊娠するのもあまり良くないと私は思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 下川理世先生(赤坂レディースクリニック) 福岡県出身。山口大学医学部卒。 2000年慶応義塾大学医学部産婦人科入局。その後、静岡赤十字病院産婦人科、市川総合病院産婦人科リプロダクションセンター、湘南IVFクリニック(現メディカルパーク湘南)を経て、2016年4月、赤坂レディースクリニックを開業。婦人科診療から不妊治療まで総合的に行っている。不妊治療に関しては一般不妊治療から体外受精、顕微授精など高度生殖補助技術まで行う。「負担が少なく、医学的根拠に基づく的確でスピーディな医療」をモットーに不妊治療をサポート。≫ 赤坂レディースクリニック
2017.10.25
専門医Q&A 不妊治療
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黄体機能不全でのIVF
黄体機能不全でのIVF 五十嵐 俊夫 先生(いがらしクリニック) 相談者:シャネさん(29歳) 黄体機能不全でのIVF 不妊治療を4年続けています。かつては30歳までには出産したいと夢見ていましたが、かれこれ4年経ってしまい、30歳目前となってしまいました。周囲が次々と妊娠・出産するのを見て、毎日家で泣いてばかりで疲れてしまいました。夫にも申し訳ない気持ちでいっぱいです。子連れを見てひがんでしまう自分もすごく嫌いで、子宝グッズが溜まる一方の生活にも飽き飽きしました。 これからIVF(体外受精)に進むつもりなのですが、私は黄体機能不全です。黄体機能不全の方で、体外受精で妊娠され、出産された方がいましたら、何度目のIVFで妊娠されたのかが知りたいです。 黄体機能不全はIVFの妨げになりますか。 IVFで黄体機能不全が問題になるのは、新鮮胚移植を行うときとホルモン補充周期で凍結胚融解移植を行うときです。この場合は誰でもみんな黄体機能不全になると考えられています。すでに不妊治療で通院されているのなら、今までのデータも参考にして担当医がきちんと黄体ホルモンを補充してコントロールしてくれるので、安心してください。黄体機能不全であっても、妊娠・出産された方はたくさんいらっしゃいますから、大いに希望を持ってIVFに進んでください。 黄体機能不全は不妊の原因になり得ますか。 一般的にはこれまで、基礎体温の高温期が12日より短い、0.3℃以上体温が上がらない、プロゲステロンの数値が10以下などであると、黄体機能不全と診断されてきました。そのため、改善のために黄体ホルモンを補充するなどしてきたのですが、実は近年では「黄体機能不全」という概念そのものがなくなりつつあります。 なぜなら、黄体ホルモンは1日の内でも変動が激しく、正確な数値を測るのがとても困難で、診断を下すのが難しいからです。2015年に発表された論文でも、「不妊を引き起こす独立した疾患としての黄体機能不全は確認されていない」と報告されました。 黄体機能の異常は存在しますが、甲状腺機能の異常、乳漏症といった疾患をともなわない限りは、黄体機能不全は治療の対象になりません。自然周期においても、「黄体機能不全症に対する治療を試みても、妊娠率の上昇は得られない」と論文は述べています。 つまり、甲状腺機能異常によるTSHの上昇や乳漏症によるプロラクチンの上昇は、黄体機能不全を起こし不妊の原因になり得ますが、それ以外は治療の対象とはならないのです。 今後の治療において、相談者さんにアドバイスを! シャネさんは治療期間が4年で、「これからIVFに進む」とありますが、これまでどのような治療をされてきたのでしょうか? ご主人の精子データをはじめ、検査結果の記載がないので何とも言えませんが、必要な検査はきちんと受けて、担当医とよく話し合うことが大切です。もしかしたら、「まだ20代だから」とちょっと治療をお休みしたりされていたのかもしれませんね。きちんと通院したのに結果が出ずに「毎日泣いてばかり」ということでしたら、気持ちを前向きに切り替えてIVFに進んでください。 ストレスは、不妊はもちろん健康を脅かす大敵ですから、どうか明るい家庭を心がけ、ご主人とも仲良くしてください。 五十嵐先生より まとめ 黄体機能不全は、妊娠の妨げとなる決定的な疾患ではなくなりました。IVFに進むにあたってはホルモンのコントロールも同時に行われるので、黄体機能不全を問題視する必要はありません。心配し過ぎず、担当医とよく話し合って治療を進めてください。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 五十嵐 俊夫 先生(いがらしクリニック 院長) 産婦人科専門医、日本生殖医学会会員、母体保護法指定医。昭和60年埼玉医科大学卒業、日本医科大学産婦人科入局。平成5年 日本医科大学大学院卒業、医学博士取得。日本医科大学千葉北総病院を経て平成13年より現職。一般不妊、高度生殖医療はもとより、更年期や婦人科系がん検診などにも手厚く、女性の一生を幅広くサポート。ご趣味はスポーツ全般で、フルマラソン5回完走。この夏休みは約30年ぶりに米国カリフォルニア州で過ごされ、トレッキングや湖畔でのキャンプなどで自然を満喫されたそう。 ≫ いがらしクリニック 黄体機能不全でのIVF 五十嵐 俊夫 先生(いがらしクリニック) 相談者:シャネさん(29歳) 黄体機能不全でのIVF 不妊治療を4年続けています。かつては30歳までには出産したいと夢見ていましたが、かれこれ4年経ってしまい、30歳目前となってしまいました。周囲が次々と妊娠・出産するのを見て、毎日家で泣いてばかりで疲れてしまいました。夫にも申し訳ない気持ちでいっぱいです。子連れを見てひがんでしまう自分もすごく嫌いで、子宝グッズが溜まる一方の生活にも飽き飽きしました。 これからIVF(体外受精)に進むつもりなのですが、私は黄体機能不全です。黄体機能不全の方で、体外受精で妊娠され、出産された方がいましたら、何度目のIVFで妊娠されたのかが知りたいです。 黄体機能不全はIVFの妨げになりますか。 IVFで黄体機能不全が問題になるのは、新鮮胚移植を行うときとホルモン補充周期で凍結胚融解移植を行うときです。この場合は誰でもみんな黄体機能不全になると考えられています。すでに不妊治療で通院されているのなら、今までのデータも参考にして担当医がきちんと黄体ホルモンを補充してコントロールしてくれるので、安心してください。黄体機能不全であっても、妊娠・出産された方はたくさんいらっしゃいますから、大いに希望を持ってIVFに進んでください。 黄体機能不全は不妊の原因になり得ますか。 一般的にはこれまで、基礎体温の高温期が12日より短い、0.3℃以上体温が上がらない、プロゲステロンの数値が10以下などであると、黄体機能不全と診断されてきました。そのため、改善のために黄体ホルモンを補充するなどしてきたのですが、実は近年では「黄体機能不全」という概念そのものがなくなりつつあります。 なぜなら、黄体ホルモンは1日の内でも変動が激しく、正確な数値を測るのがとても困難で、診断を下すのが難しいからです。2015年に発表された論文でも、「不妊を引き起こす独立した疾患としての黄体機能不全は確認されていない」と報告されました。 黄体機能の異常は存在しますが、甲状腺機能の異常、乳漏症といった疾患をともなわない限りは、黄体機能不全は治療の対象になりません。自然周期においても、「黄体機能不全症に対する治療を試みても、妊娠率の上昇は得られない」と論文は述べています。 つまり、甲状腺機能異常によるTSHの上昇や乳漏症によるプロラクチンの上昇は、黄体機能不全を起こし不妊の原因になり得ますが、それ以外は治療の対象とはならないのです。 今後の治療において、相談者さんにアドバイスを! シャネさんは治療期間が4年で、「これからIVFに進む」とありますが、これまでどのような治療をされてきたのでしょうか? ご主人の精子データをはじめ、検査結果の記載がないので何とも言えませんが、必要な検査はきちんと受けて、担当医とよく話し合うことが大切です。もしかしたら、「まだ20代だから」とちょっと治療をお休みしたりされていたのかもしれませんね。きちんと通院したのに結果が出ずに「毎日泣いてばかり」ということでしたら、気持ちを前向きに切り替えてIVFに進んでください。 ストレスは、不妊はもちろん健康を脅かす大敵ですから、どうか明るい家庭を心がけ、ご主人とも仲良くしてください。 五十嵐先生より まとめ 黄体機能不全は、妊娠の妨げとなる決定的な疾患ではなくなりました。IVFに進むにあたってはホルモンのコントロールも同時に行われるので、黄体機能不全を問題視する必要はありません。心配し過ぎず、担当医とよく話し合って治療を進めてください。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 五十嵐 俊夫 先生(いがらしクリニック 院長) 産婦人科専門医、日本生殖医学会会員、母体保護法指定医。昭和60年埼玉医科大学卒業、日本医科大学産婦人科入局。平成5年 日本医科大学大学院卒業、医学博士取得。日本医科大学千葉北総病院を経て平成13年より現職。一般不妊、高度生殖医療はもとより、更年期や婦人科系がん検診などにも手厚く、女性の一生を幅広くサポート。ご趣味はスポーツ全般で、フルマラソン5回完走。この夏休みは約30年ぶりに米国カリフォルニア州で過ごされ、トレッキングや湖畔でのキャンプなどで自然を満喫されたそう。 ≫ いがらしクリニック
2017.10.16
コラム 不妊治療
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AMHが0.16以下ですが、妊娠可能ですか?
相談者:ひろみんさん(38歳) AMHが0.16以下ですが、妊娠可能ですか? クリニックに通って約2年。タイミング4回、人工授精3回、体外受精(新鮮胚グレード3を2個)を1回試みましたが、妊娠しませんでした。人工授精3回を終えてからAMHを測ったところ、0.16以下という数値が。担当医から「どうされますか?この数値なら、諦める方もいらっしゃいますよ」と言われ、頭の中が“?”でいっぱいになりました。 諦めることなどできません! しかし、採卵しても2つしか採取できないのも事実。次もまた採卵からになります。夫に問題はありません。培養士さんは「体外受精でなくとも大丈夫では?」と言ってくださいましたが、次回も体外受精にするか、ホルモン補充をしながら人工授精にするか、迷っています。やれることはやろう!と夫とも話し合い、鍼治療にもと取り組もうかと思っています。どうか、アドバイスをお願いします。 AMHの数値が0.16以下、とはどのような状態ですか。 測定器によって、測れる範囲に違いがあります。0.16“以下”という数値は、おそらくその測定器が測れる最低限度なのだと思います。かなり低い数値ではありますが、AMHの値はあくまでも目安です。AMHの値は卵子化が見込まれる原子卵胞の数を示す数値であり、発育卵胞は含まれません。ひろみんさんの場合は、現段階では採卵が可能で、それも2個採卵できているのですから、それほど悲観的になる必要はないと思います。とはいえ、時間的なゆとりはありませんし、卵子の数は生まれたときから限られています。諦めなければならない理由は見当たりませんが、残された卵子をより有効に活かすには、IVF(体外受精)からさらにステップアップし、ICSI(顕微授精)をご検討されてはとも思います。やれることはやろうと決めたのなら、ぜひ検討してみてください。妊娠の可能性は今のところ十分にあると思われるので、どうぞ諦めずに治療を続けてください。 担当医からは、「諦める人もいますよ」と。 担当医も悪気があって言ったわけではなく、「現実的に厳しい状態にはある」ということをお伝えしたかったのだと思います。女性の体は複雑で、自分自身の体であってもわかっていない女性が多くいます。余談になりますが、「月経があるうちは妊娠可能」と思われがちですが、それも大きな間違い。初潮は12歳、閉経は51歳が平均ですが、初潮から2,3年は排卵しないし、45歳あたりを過ぎると排卵はない。月経=排卵ではないのです。妊娠には確かにタイムリミットがありますが、38歳のひろみんさんならまだ可能性はあります。「できることはすべてやりたい」というお気持ちは、大切になさってください。 鍼治療などにもトライしたい、とあります。 鍼灸治療の効果まではわかりかねますが、ご自分が「気持ちが良い」と思われるなら、取り入れて悪いことはないと思います。でも、「しなければならない」と思うとストレスとなって逆効果になることもあるのでご注意を。治療でも、「失敗したらどうしよう」「妊娠しなかったらどうしよう」と考え過ぎるのもよくないので、不安などはナースなどに打ち明けてください。私にお話しくださっても結構ですが、当院のナースは特に聞き上手ですので、お役に立つと思います。また、ご主人ともぜひ仲良くしてください。妊娠の基本は夫婦間のセックスです。排卵があるのですから、自然妊娠も可能。赤ちゃんが欲しいからという目的ありきではなく、日常的にスキンシップしてほしいですね! 松本先生より まとめ AMHの値はあくまでも目安なので、数値に惑わされないこと。採卵もできているのだから、妊娠は可能。ICSIなどの高度生殖医療を取り入れながらも、自然妊娠の可能性があることも視野に入れ、夫婦間のセックスも大切にしましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 松本 和紀 先生(松本レディースクリニック 院長・理事長) 日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本生殖医学会生殖医療専門医。昭和54年、東京慈恵会医科大学卒。昭和58年、同大学院博士課程修了。昭和60年、医学博士号学位受領。昭和63年~平成2年、英国ロンドン大学ガイズ病院リサーフェロー「脱落膜組織の免疫担当細胞の動態」について研究。平成2年から、東京慈恵会医科大学産婦人科助手、同大産婦人科副医局長・医局長・産婦人科講師(不妊・生殖班班長)兼診療医長を経て、平成11年にクリニック開設。平成24年、医療法人社団愛慈会を設立しリニューアル。 ≫ 松本レディースクリニック AMHが0.16以下ですが、妊娠可能ですか? 松本 和紀 先生(松本レディースクリニック) 相談者:ひろみんさん(38歳) AMHが0.16以下ですが、妊娠可能ですか? クリニックに通って約2年。タイミング4回、人工授精3回、体外受精(新鮮胚グレード3を2個)を1回試みましたが、妊娠しませんでした。人工授精3回を終えてからAMHを測ったところ、0.16以下という数値が。担当医から「どうされますか?この数値なら、諦める方もいらっしゃいますよ」と言われ、頭の中が“?”でいっぱいになりました。 諦めることなどできません! しかし、採卵しても2つしか採取できないのも事実。次もまた採卵からになります。夫に問題はありません。培養士さんは「体外受精でなくとも大丈夫では?」と言ってくださいましたが、次回も体外受精にするか、ホルモン補充をしながら人工授精にするか、迷っています。やれることはやろう!と夫とも話し合い、鍼治療にもと取り組もうかと思っています。どうか、アドバイスをお願いします。 AMHの数値が0.16以下、とはどのような状態ですか。 測定器によって、測れる範囲に違いがあります。0.16“以下”という数値は、おそらくその測定器が測れる最低限度なのだと思います。かなり低い数値ではありますが、AMHの値はあくまでも目安です。AMHの値は卵子化が見込まれる原子卵胞の数を示す数値であり、発育卵胞は含まれません。ひろみんさんの場合は、現段階では採卵が可能で、それも2個採卵できているのですから、それほど悲観的になる必要はないと思います。とはいえ、時間的なゆとりはありませんし、卵子の数は生まれたときから限られています。諦めなければならない理由は見当たりませんが、残された卵子をより有効に活かすには、IVF(体外受精)からさらにステップアップし、ICSI(顕微授精)をご検討されてはとも思います。やれることはやろうと決めたのなら、ぜひ検討してみてください。妊娠の可能性は今のところ十分にあると思われるので、どうぞ諦めずに治療を続けてください。 担当医からは、「諦める人もいますよ」と。 担当医も悪気があって言ったわけではなく、「現実的に厳しい状態にはある」ということをお伝えしたかったのだと思います。女性の体は複雑で、自分自身の体であってもわかっていない女性が多くいます。余談になりますが、「月経があるうちは妊娠可能」と思われがちですが、それも大きな間違い。初潮は12歳、閉経は51歳が平均ですが、初潮から2,3年は排卵しないし、45歳あたりを過ぎると排卵はない。月経=排卵ではないのです。妊娠には確かにタイムリミットがありますが、38歳のひろみんさんならまだ可能性はあります。「できることはすべてやりたい」というお気持ちは、大切になさってください。 鍼治療などにもトライしたい、とあります。 鍼灸治療の効果まではわかりかねますが、ご自分が「気持ちが良い」と思われるなら、取り入れて悪いことはないと思います。でも、「しなければならない」と思うとストレスとなって逆効果になることもあるのでご注意を。治療でも、「失敗したらどうしよう」「妊娠しなかったらどうしよう」と考え過ぎるのもよくないので、不安などはナースなどに打ち明けてください。私にお話しくださっても結構ですが、当院のナースは特に聞き上手ですので、お役に立つと思います。また、ご主人ともぜひ仲良くしてください。妊娠の基本は夫婦間のセックスです。排卵があるのですから、自然妊娠も可能。赤ちゃんが欲しいからという目的ありきではなく、日常的にスキンシップしてほしいですね! 松本先生より まとめ AMHの値はあくまでも目安なので、数値に惑わされないこと。採卵もできているのだから、妊娠は可能。ICSIなどの高度生殖医療を取り入れながらも、自然妊娠の可能性があることも視野に入れ、夫婦間のセックスも大切にしましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 松本 和紀 先生(松本レディースクリニック 院長・理事長) 日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本生殖医学会生殖医療指導医。昭和54年、東京慈恵会医科大学卒。昭和58年、同大学院博士課程修了。昭和60年、医学博士号学位受領。昭和63年~平成2年、英国ロンドン大学ガイズ病院リサーフェロー「脱落膜組織の免疫担当細胞の動態」について研究。平成2年から、東京慈恵会医科大学産婦人科助手、同大産婦人科副医局長・医局長・産婦人科講師(不妊・生殖班班長)兼診療医長を経て、平成11年にクリニック開設。平成24年、医療法人社団愛慈会に所属しリニューアル。 ≫ 松本レディースクリニック
2017.10.13
コラム 不妊治療
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2017.6.18 ジネコ妊活セミナー in 大阪
2017年6月18日に行われたジネコ 妊活セミナーより 不妊治療全般について 2017年6月18日(日)、大阪梅田にて「ジネコ妊活セミナー」を開催しました。第1部では、医療法人オーク会の培養士 天野奈美子さんに「不妊治療全般」について、第2部では「最先端不妊治療の紹介」として、医療法人オーク会 医師 田口早桐先生にお話いただきました。今回は第1部の内容の第1弾をお届けします。 体外受精とその流れ 体外受精とその関連技術を総称して「生殖補助医療 assisted reproductive technology」、又は「高度生殖医療技術 advanced reproductive technology」と呼び、頭文字をとってART(アート)と略されることもあります。卵管が詰まっていたり、運動精子が極端に少なかったり、一般不妊治療を繰り返しても妊娠に至らないといった場合に適用されます。 タイミング法や人工授精といった一般不妊治療は卵子と精子が出会いやすくして受精する確率を上げるもので、受精以降のプロセスは自然妊娠と同じです。一方、体外受精は、卵子を採取して体外で受精させ、培養してある程度育ってきた受精卵を子宮に入れるという方法で、より高度な医学的介入を行います。 ①排卵誘発→採卵 月経が始まったらIVF周期開始です。一般的な方法では、月経1日目から自然排卵を抑制する点鼻薬を使い始め、月経3日目からは排卵誘発の注射、月経6日目からは卵胞計測を行います。排卵誘発の期間は卵巣の反応によって異なりますが、約10日前後です。 卵胞が20mm程度に発育した時点で、卵子の最終的な成熟を促すHCGの注射を打つと、約36時間後に排卵が起こります。その直前に採卵を行います。 採卵当日に精子も必要なので、ご自宅で取ってお持ちいただくか、院内で採取していただきます。 ②受精 一般体外受精の場合は、卵に精子を振りかけて一緒に培養する、媒精(コンベンショナル体外受精)という方法で受精させます。卵に精子を振りかけると、沢山の精子が一斉に卵に向かって泳いでいき、精子頭部からヒアルロニダーゼという酵素を出して卵の周りの顆粒膜細胞や透明帯を溶かします。最初に卵に到達した精子が卵の中に入ると、透明帯や卵細胞膜に変化が起って他の精子が入れなくなり、受精が成立します。 コンベンショナル体外受精では、運動精子の濃度が重要で、最適な精子濃度は、1mlあたり10万個です。培養液1ml中に運動精子濃度が10万個になるように精子濃度を調整して振りかけます。 ③培養・移植 細胞分裂(分割)を始めた受精卵を胚と呼びます。胚は3日目頃までは分割を繰り返し、割球の数は増え、割球の大きさは小さくなります。やがて割球どうしがくっついて境界が不明瞭なコンパクションという状態を経て、胚盤胞となります。胚盤胞は、栄養外胚葉という将来胎盤になる細胞の層と、内細胞塊という将来胎児になる細胞の塊に分かれており、その内側は空洞になっています。この空洞(胚盤胞腔)が、胚盤胞の発育に従って拡張し、その圧力により透明帯が破れてハッチングが起こります。初期胚からハッチングが起こるまでの間に移植を行い、残った胚は凍結しておきます。超音波で観察しながら子宮内膜を傷つけないようにチューブを通し、胚や胚盤胞を子宮に移植します。 ④胚の凍結保存 胚移植後、残った胚や胚盤胞は、-196℃の液体窒素に入れて半永久的に保存できます。 当院では超急速ガラス化保存法(Vitrification法)という方法で胚を凍結保存しています。ガラス化液に投入して約1分後、液体窒素で瞬時に凍結し、クライオトップという専用のプラスチックシートに乗せて、液体窒素タンクで保管します。1個ずつ手作業で凍結するため、非常に手間がかかり熟練の手技を要する作業ですが、胚へのダメージは殆どなく、融解後は100%に近い確率で元の状態に戻ります。一度凍結すると半永久的に同じ状態を保てるので、胚移植をされても妊娠されなかった場合や、第二子を希望される場合には融解して移植することができます。精子や、未受精卵子も同様に保存できます。 ⑤妊娠判定 採卵日から数えて14日目に尿および血液中のHCGにて妊娠判定を行います。 妊娠反応が陽性だった場合、順調にいくと1週間後に超音波で胎嚢が確認でき、妊娠が成立します。妊娠反応が陰性だった場合や、陽性でも胎嚢を認める前に妊娠が終了した場合は、融解胚移植やICSI、着床補助技術などの併用といった次の治療方針を決めていきます。 ⑥妊娠後のフォローアップ ARTでは採卵・移植後にホルモン剤を使っているため、ご懐妊後もしばらくの間はホルモン補充が必要になります。妊娠の維持に必要なホルモンが絨毛から十分に供給されるようになる妊娠9週までは定期的に健診を行い、少しずつ量を減らしながらホルモン剤の服用を続けます。 妊娠12週頃までは出血などが起こりやすい不安定な時期であるため1週間に1回、妊娠12~24週は4週間に1回、妊娠26週以降は2週間に1回のペースで妊娠経過を見ていきます。36週以降は分娩設備のある施設にご紹介します。当院は、24時間365日体制で緊急対応を行っており入院設備もあるので、安心して治療を受けていただけます。 天野奈美子さん (医療法人オーク会 胚培養士)胚培養士歴14年。培養室業務や患者様への説明をはじめ、培養士の育成、セミナー講師なども務めます。欧州生殖医学会やアメリカ生殖医学会などの海外の学会に参加して最新技術を取り入れ、自らも研究発表を積極的に行なっています。 ジネコ妊活セミナー 2017年6月18日に行われたジネコ 妊活セミナーより 不妊治療全般について 2017年6月18日(日)、大阪梅田にて「ジネコ妊活セミナー」を開催しました。第1部では、医療法人オーク会の培養士 天野奈美子さんに「不妊治療全般」について、第2部では「最先端不妊治療の紹介」として、医療法人オーク会 医師 田口早桐先生にお話いただきました。今回は第1部の内容の第1弾をお届けします。 体外受精とその流れ 体外受精とその関連技術を総称して「生殖補助医療 assisted reproductive technology」、又は「高度生殖医療技術 advanced reproductive technology」と呼び、頭文字をとってART(アート)と略されることもあります。卵管が詰まっていたり、運動精子が極端に少なかったり、一般不妊治療を繰り返しても妊娠に至らないといった場合に適用されます。 タイミング法や人工授精といった一般不妊治療は卵子と精子が出会いやすくして受精する確率を上げるもので、受精以降のプロセスは自然妊娠と同じです。一方、体外受精は、卵子を採取して体外で受精させ、培養してある程度育ってきた受精卵を子宮に入れるという方法で、より高度な医学的介入を行います。 ①排卵誘発→採卵 月経が始まったらIVF周期開始です。一般的な方法では、月経1日目から自然排卵を抑制する点鼻薬を使い始め、月経3日目からは排卵誘発の注射、月経6日目からは卵胞計測を行います。排卵誘発の期間は卵巣の反応によって異なりますが、約10日前後です。 卵胞が20mm程度に発育した時点で、卵子の最終的な成熟を促すHCGの注射を打つと、約36時間後に排卵が起こります。その直前に採卵を行います。 採卵当日に精子も必要なので、ご自宅で取ってお持ちいただくか、院内で採取していただきます。 ②受精 一般体外受精の場合は、卵に精子を振りかけて一緒に培養する、媒精(コンベンショナル体外受精)という方法で受精させます。卵に精子を振りかけると、沢山の精子が一斉に卵に向かって泳いでいき、精子頭部からヒアルロニダーゼという酵素を出して卵の周りの顆粒膜細胞や透明帯を溶かします。最初に卵に到達した精子が卵の中に入ると、透明帯や卵細胞膜に変化が起って他の精子が入れなくなり、受精が成立します。 コンベンショナル体外受精では、運動精子の濃度が重要で、最適な精子濃度は、1mlあたり10万個です。培養液1ml中に運動精子濃度が10万個になるように精子濃度を調整して振りかけます。 ③培養・移植 細胞分裂(分割)を始めた受精卵を胚と呼びます。胚は3日目頃までは分割を繰り返し、割球の数は増え、割球の大きさは小さくなります。やがて割球どうしがくっついて境界が不明瞭なコンパクションという状態を経て、胚盤胞となります。胚盤胞は、栄養外胚葉という将来胎盤になる細胞の層と、内細胞塊という将来胎児になる細胞の塊に分かれており、その内側は空洞になっています。この空洞(胚盤胞腔)が、胚盤胞の発育に従って拡張し、その圧力により透明帯が破れてハッチングが起こります。初期胚からハッチングが起こるまでの間に移植を行い、残った胚は凍結しておきます。超音波で観察しながら子宮内膜を傷つけないようにチューブを通し、胚や胚盤胞を子宮に移植します。 ④胚の凍結保存 胚移植後、残った胚や胚盤胞は、-196℃の液体窒素に入れて半永久的に保存できます。 当院では超急速ガラス化保存法(Vitrification法)という方法で胚を凍結保存しています。ガラス化液に投入して約1分後、液体窒素で瞬時に凍結し、クライオトップという専用のプラスチックシートに乗せて、液体窒素タンクで保管します。1個ずつ手作業で凍結するため、非常に手間がかかり熟練の手技を要する作業ですが、胚へのダメージは殆どなく、融解後は100%に近い確率で元の状態に戻ります。一度凍結すると半永久的に同じ状態を保てるので、胚移植をされても妊娠されなかった場合や、第二子を希望される場合には融解して移植することができます。精子や、未受精卵子も同様に保存できます。 ⑤妊娠判定 採卵日から数えて14日目に尿および血液中のHCGにて妊娠判定を行います。 妊娠反応が陽性だった場合、順調にいくと1週間後に超音波で胎嚢が確認でき、妊娠が成立します。妊娠反応が陰性だった場合や、陽性でも胎嚢を認める前に妊娠が終了した場合は、融解胚移植やICSI、着床補助技術などの併用といった次の治療方針を決めていきます。 ⑥妊娠後のフォローアップ ARTでは採卵・移植後にホルモン剤を使っているため、ご懐妊後もしばらくの間はホルモン補充が必要になります。妊娠の維持に必要なホルモンが絨毛から十分に供給されるようになる妊娠9週までは定期的に健診を行い、少しずつ量を減らしながらホルモン剤の服用を続けます。 妊娠12週頃までは出血などが起こりやすい不安定な時期であるため1週間に1回、妊娠12~24週は4週間に1回、妊娠26週以降は2週間に1回のペースで妊娠経過を見ていきます。36週以降は分娩設備のある施設にご紹介します。当院は、24時間365日体制で緊急対応を行っており入院設備もあるので、安心して治療を受けていただけます。 天野奈美子さん (医療法人オーク会 胚培養士)胚培養士歴14年。培養室業務や患者様への説明をはじめ、培養士の育成、セミナー講師なども務めます。欧州生殖医学会やアメリカ生殖医学会などの海外の学会に参加して最新技術を取り入れ、自らも研究発表を積極的に行なっています。 ジネコ妊活セミナー
2017.8.21
レポート 不妊治療
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初めての人もこれを読めば安心! 徳岡先生の不妊治療AtoZ (3)
不妊の原因がわからないといわれた時、女性の年齢によって治療方法は変わってくるのでしょうか。妊娠に近づくための年代による治療法の違いと理由について、とくおかレディースクリニックの徳岡晋先生に詳しくお聞きしました。
2017.8.21
コラム 不妊治療
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黄体ホルモンを開始して8日目の移植は遅すぎる?
「『着床の窓』は黄体ホルモンを開始してからの日数で決まるのでしょうか? それとも移植するときのP4値で決まるのでしょうか?」
2017.8.18
コラム 不妊治療
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移植後のホルモン数値が低めでも妊娠を継続できますか?
移植後のホルモン数値が低めでも妊娠を継続できますか? 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:とよさん(28歳) 凍結胚盤胞移植後の血液データに関して 生理開始4日目よりホルモン補充をしながら、D16に6日目凍結胚盤胞を1個移植しました。移植後10日目の判定で、ホルモン数値はHCG:99.8mIU/ml、E2:132.9pg/ml、P4:5.6ng/mlでした。診察時は勉強不足で医師に質問できませんでしたが、帰宅後、調べてみると、全体的に数値が低い気がします。特にP4やE2が低い気がするのですが、移植後10日目にこの数値で妊娠を継続できる可能性はあるのでしょうか。エコー検査はしていないので、子宮内膜の厚さなどはわかりません。薬は移植前からジュリナ®、プレマリン®、ルトラール®、ウトロゲスタン®腟錠を使用しています。 移植後10日目のホルモン数値が低いのではないかと気にされていますが。 特にP4(黄体ホルモン)とE2(卵胞ホルモン)について心配されているようですが、それほど気にする必要はないのでは。当院では、妊娠判定時にこの2つのホルモン値の計測はしていません。もちろん計測をする施設もあると思います。結果を見て、「平均からみると低めなので対策しましょう」と、ホルモン補充を考える場合もあるかもしれません。 この点については施設ごとに見解が異なってくるかと思います。当院ではこの時期に特に補充は考えず、このまま様子をみていくという形になると思いますね。不安でしたら、担当医の先生に相談されてみてはいかがでしょうか。 HCGの値についてはどう思われますか。 HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、胚が着床すると絨毛という組織から分泌されるホルモンです。普段は女性の体内に存在しないので、このホルモンが増加しているかどうかで妊娠を判定することができるんですね。 とよさんは99・8 mIU/mlとのこと。当院では100 mIU/mlを妊娠の継続可能なボーダーラインとしているので、それからみると「やや低めかな」という感はありますが、ほぼ問題はないと思います。妊娠継続の可能性については、75%くらいが継続し、残りが流産になるという、体外受精の一般的な割合を目安にしていただければいいのではないでしょうか。 妊娠継続は厳しいというHCG値のボーダーラインは? 施設によって基準としている数値は異なると思いますが、当院では25 mIU/ml以下だと妊娠の継続は厳しく、出産までいく可能性はかなり少ないのではないかと考えています。 ただし、最初は分泌が遅く、その後増加し、10日くらいかけて通常の数値になってくるという方も。ホルモン分泌の上昇のしかたには個人差があると思うので、妊娠判定の基準値も絶対とはいえません。当院ではHCG値が9.1 mIU/ml、学会の報告では5.1 mIU/mlで出産までいった方もいましたから。 結論としては、何もせず、このまま様子をみていって問題はないということですか。 当院の見解ではそう思います。特に流産する確率が高くなっているとか、危機が非常に大きいという印象はありません。 担当の先生から何も提案がなかったので、患者さんからすると「これで大丈夫かな」という感じがしたのかもしれませんね。ただ、体外受精まで行っている専門施設のようですから、問題があればすぐに対応しているはずです。ホルモンも厳しい数値なら、補充を提案しているでしょう。 この時点ではあまり心配せず、先生を信じて、このまま様子をみていっていいと思いますね。 北村先生より まとめ ●P4とE2値は計測しない施設も。補充は必要ないと思います。 ●HCG値はほぼ基準のライン。特に大きな問題はありません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。普段多忙なので、夏と冬、年に最低2回は家族と旅行することを決めているという北村先生。お子さんたちも楽しみにされているそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 移植後のホルモン数値が低めでも妊娠を継続できますか? 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:とよさん(28歳) 凍結胚盤胞移植後の血液データに関して 生理開始4日目よりホルモン補充をしながら、D16に6日目凍結胚盤胞を1個移植しました。移植後10日目の判定で、ホルモン数値はHCG:99.8mIU/ml、E2:132.9pg/ml、P4:5.6ng/mlでした。診察時は勉強不足で医師に質問できませんでしたが、帰宅後、調べてみると、全体的に数値が低い気がします。特にP4やE2が低い気がするのですが、移植後10日目にこの数値で妊娠を継続できる可能性はあるのでしょうか。エコー検査はしていないので、子宮内膜の厚さなどはわかりません。薬は移植前からジュリナ®、プレマリン®、ルトラール®、ウトロゲスタン®腟錠を使用しています。 移植後10日目のホルモン数値が低いのではないかと気にされていますが。 特にP4(黄体ホルモン)とE2(卵胞ホルモン)について心配されているようですが、それほど気にする必要はないのでは。当院では、妊娠判定時にこの2つのホルモン値の計測はしていません。もちろん計測をする施設もあると思います。結果を見て、「平均からみると低めなので対策しましょう」と、ホルモン補充を考える場合もあるかもしれません。 この点については施設ごとに見解が異なってくるかと思います。当院ではこの時期に特に補充は考えず、このまま様子をみていくという形になると思いますね。不安でしたら、担当医の先生に相談されてみてはいかがでしょうか。 HCGの値についてはどう思われますか。 HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、胚が着床すると絨毛という組織から分泌されるホルモンです。普段は女性の体内に存在しないので、このホルモンが増加しているかどうかで妊娠を判定することができるんですね。 とよさんは99・8 mIU/mlとのこと。当院では100 mIU/mlを妊娠の継続可能なボーダーラインとしているので、それからみると「やや低めかな」という感はありますが、ほぼ問題はないと思います。妊娠継続の可能性については、75%くらいが継続し、残りが流産になるという、体外受精の一般的な割合を目安にしていただければいいのではないでしょうか。 妊娠継続は厳しいというHCG値のボーダーラインは? 施設によって基準としている数値は異なると思いますが、当院では25 mIU/ml以下だと妊娠の継続は厳しく、出産までいく可能性はかなり少ないのではないかと考えています。 ただし、最初は分泌が遅く、その後増加し、10日くらいかけて通常の数値になってくるという方も。ホルモン分泌の上昇のしかたには個人差があると思うので、妊娠判定の基準値も絶対とはいえません。当院ではHCG値が9.1 mIU/ml、学会の報告では5.1 mIU/mlで出産までいった方もいましたから。 結論としては、何もせず、このまま様子をみていって問題はないということですか。 当院の見解ではそう思います。特に流産する確率が高くなっているとか、危機が非常に大きいという印象はありません。 担当の先生から何も提案がなかったので、患者さんからすると「これで大丈夫かな」という感じがしたのかもしれませんね。ただ、体外受精まで行っている専門施設のようですから、問題があればすぐに対応しているはずです。ホルモンも厳しい数値なら、補充を提案しているでしょう。 この時点ではあまり心配せず、先生を信じて、このまま様子をみていっていいと思いますね。 北村先生より まとめ ●P4とE2値は計測しない施設も。補充は必要ないと思います。 ●HCG値はほぼ基準のライン。特に大きな問題はありません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。普段多忙なので、夏と冬、年に最低2回は家族と旅行することを決めているという北村先生。お子さんたちも楽しみにされているそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.18
コラム 不妊治療
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移植後の内服薬の説明書に疑問。薬は飲み続けるべき?
「先日、移植後の内服薬の説明書を確認したところ、「自分で判断せず、薬は使い続けてください。自然妊娠と異なり、薬をやめてしまうと妊娠していてもすぐに流産してしまいます」と記載がありました。」
2017.8.18
コラム 不妊治療
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凍結初期胚を移植するか、採卵しなおすか迷っています
「保管期間は1年なので、使うかどうかわからなくても延長して、先生と相談するべきでしょうか。通院に片道2時間かかります。仕事もしているので、通院は最低限にしたいと思います。」
2017.8.18
コラム 不妊治療
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卵子があまり育ちません。卵子の質が悪いのでしょうか?
卵子があまり育ちません。卵子の質が悪いのでしょうか? 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 相談者:みゅうさん(27歳) 卵子の質について 夫の乏精子症が発覚し、アンタゴニスト法で顕微授精を行いました。先生に「若いから、2人目もこの採卵でいけるかも」と言われ、私も期待していました。しかし、実際は採卵15個、そのうち成熟卵は7個。顕微授精では6個受精、残りの1個も受精しました。ほかは未成熟な卵子でした。そして、分割が遅く黒くなってしまい、胚盤胞になったのは5日目の4CC1つだけでした。先生にがっかりしたと言われ、私も落ち込んでいます。卵子の質が悪い体質なのでしょうか。先生も次の刺激法のアレンジは多少すると言ってくださっていますが悩んでおられました。卵子の質が悪い人は何度やっても結果同じなのでしょうか。まだ望みはありますか? みゅうさんは卵子の質に問題があるのでしょうか。 採卵した15個のうち成熟卵は7個で、結果的に顕微授精できなかったのだと思います。確率としてはかなり低いですね。たとえば、この方が40歳ぐらいであればアンチエイジングのサプリメントなどを併用して、卵子のクオリティを上げることも検討するかもしれませんが、まだ27歳とお若いです。早発閉経でもないかぎり、卵子の質について語るのは早い気がします。実際のAMHの値がわからないのですが、卵巣刺激法が合っていない可能性も考えられます。まずは方法を変えてみてはいかがでしょうか。 どのような卵巣刺激法がいいのでしょうか。 方法としては3つあります。ひとつがロング法です。月経の約1週間前から点鼻薬+注射剤で自然排卵を抑制しながら卵子をゆっくり成熟させて採卵する方法です。比較的年齢が若い方が対象で、複数個の卵子が均一に育ちやすいというメリットがあります。 もうひとつはアンタゴニスト法のアレンジです。アンタゴニスト法は、月経3日目から注射剤+アンタゴニスト製剤で自然排卵を抑制しながら卵子を育てる方法です。従来よりも1〜2日長く刺激をして採卵を遅らせることで、前回よりも成熟した卵子を採取できる可能性があります。 さらに、レトロゾールやアロマターゼ阻害剤と注射剤を併用しながら、マイルドに刺激して成熟した卵子を確実に採卵する方法もあります。15個といった複数個の卵子を一度に採卵するのではなく、採卵数を減らす代わりに卵子の成熟度を上げることができます。 また、そのほかの方法もあります。アンタゴニストでの刺激周期中に血液検査をすると、まれにLH(黄体形成ホルモン)が基準値よりも極度に低い方がいます。このような方は卵子の成熟度も低い可能性があります。現在はLHを補う薬がないのですが、当院ではLHと同様の成分をもつHCG注射を希釈して投与し、卵子の成熟度を上げる高度な治療も行っています。この方の詳しいデータがわかりませんが、刺激周期中にLH、FSH、エストロゲンの値を調べて補充していくのもひとつの方法かもしれません。 最後にアドバイスをお願いします。 いきなり卵子の質を変えるのはむずかしいので、まずは先ほどお話しした刺激法を試されるといいと思います。この方は月経周期28日型で身長153㎝・体重41㎏でBMIは高くありませんから、卵子の質にも影響を及ぼすPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の可能性は低いでしょう。むしろ痩せすぎが気になりますので、甲状腺ホルモンの検査を受けられてもいいかもしれません。それで問題がなければ、当院ではロング法をおすすめします。 あとはご主人の乏精子症の度合いによりますが、場合によっては体外受精だけでなく、人工授精を受けることができます。毎月の体外受精は大変だと思いますので、体外受精にこだわりすぎず、合間に試してみるものひとつの選択です。 山下先生より まとめ ●刺激法が合っていない可能性もあるので、まずは方法を変えてみては。 ●乏精子症の度合いによっては、合間に人工授精を試されるのもひとつ。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大阪医科大学産婦人科病棟医長、医局長、講師として、不妊治療や腹腔鏡手術に積極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニックの副院長に就任し、2017年4月、同院の院長に。各患者様の背景に配慮した“オーダーメイド治療”をめざす。日本産科婦人科学会認定医、生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、臨床遺伝専門医。趣味はゴルフ・映画鑑賞・ピアノ。女性、男性ともに利用しやすいクリニックをめざし、「うめだファティリティークリニック」としてスタートして、はや5カ月。毎週木曜と毎月第1土曜に男性不妊外来を開設し、MD-TESEに対応しています。「ご夫婦はもちろん、1人で来院される男性が増えました」と山下先生。 ≫ うめだファティリティークリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 卵子があまり育ちません。卵子の質が悪いのでしょうか? 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 相談者:みゅうさん(27歳) 卵子の質について 夫の乏精子症が発覚し、アンタゴニスト法で顕微授精を行いました。先生に「若いから、2人目もこの採卵でいけるかも」と言われ、私も期待していました。しかし、実際は採卵15個、そのうち成熟卵は7個。顕微授精では6個受精、残りの1個も受精しました。ほかは未成熟な卵子でした。そして、分割が遅く黒くなってしまい、胚盤胞になったのは5日目の4CC1つだけでした。先生にがっかりしたと言われ、私も落ち込んでいます。卵子の質が悪い体質なのでしょうか。先生も次の刺激法のアレンジは多少すると言ってくださっていますが悩んでおられました。卵子の質が悪い人は何度やっても結果同じなのでしょうか。まだ望みはありますか? みゅうさんは卵子の質に問題があるのでしょうか。 採卵した15個のうち成熟卵は7個で、結果的に顕微授精できなかったのだと思います。確率としてはかなり低いですね。たとえば、この方が40歳ぐらいであればアンチエイジングのサプリメントなどを併用して、卵子のクオリティを上げることも検討するかもしれませんが、まだ27歳とお若いです。早発閉経でもないかぎり、卵子の質について語るのは早い気がします。実際のAMHの値がわからないのですが、卵巣刺激法が合っていない可能性も考えられます。まずは方法を変えてみてはいかがでしょうか。 どのような卵巣刺激法がいいのでしょうか。 方法としては3つあります。ひとつがロング法です。月経の約1週間前から点鼻薬+注射剤で自然排卵を抑制しながら卵子をゆっくり成熟させて採卵する方法です。比較的年齢が若い方が対象で、複数個の卵子が均一に育ちやすいというメリットがあります。 もうひとつはアンタゴニスト法のアレンジです。アンタゴニスト法は、月経3日目から注射剤+アンタゴニスト製剤で自然排卵を抑制しながら卵子を育てる方法です。従来よりも1〜2日長く刺激をして採卵を遅らせることで、前回よりも成熟した卵子を採取できる可能性があります。 さらに、レトロゾールやアロマターゼ阻害剤と注射剤を併用しながら、マイルドに刺激して成熟した卵子を確実に採卵する方法もあります。15個といった複数個の卵子を一度に採卵するのではなく、採卵数を減らす代わりに卵子の成熟度を上げることができます。 また、そのほかの方法もあります。アンタゴニストでの刺激周期中に血液検査をすると、まれにLH(黄体形成ホルモン)が基準値よりも極度に低い方がいます。このような方は卵子の成熟度も低い可能性があります。現在はLHを補う薬がないのですが、当院ではLHと同様の成分をもつHCG注射を希釈して投与し、卵子の成熟度を上げる高度な治療も行っています。この方の詳しいデータがわかりませんが、刺激周期中にLH、FSH、エストロゲンの値を調べて補充していくのもひとつの方法かもしれません。 最後にアドバイスをお願いします。 いきなり卵子の質を変えるのはむずかしいので、まずは先ほどお話しした刺激法を試されるといいと思います。この方は月経周期28日型で身長153㎝・体重41㎏でBMIは高くありませんから、卵子の質にも影響を及ぼすPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の可能性は低いでしょう。むしろ痩せすぎが気になりますので、甲状腺ホルモンの検査を受けられてもいいかもしれません。それで問題がなければ、当院ではロング法をおすすめします。 あとはご主人の乏精子症の度合いによりますが、場合によっては体外受精だけでなく、人工授精を受けることができます。毎月の体外受精は大変だと思いますので、体外受精にこだわりすぎず、合間に試してみるものひとつの選択です。 山下先生より まとめ ●刺激法が合っていない可能性もあるので、まずは方法を変えてみては。 ●乏精子症の度合いによっては、合間に人工授精を試されるのもひとつ。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 山下 能毅 先生(うめだファティリティークリニック) 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大阪医科大学産婦人科病棟医長、医局長、講師として、不妊治療や腹腔鏡手術に積極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニックの副院長に就任し、2017年4月、同院の院長に。各患者様の背景に配慮した“オーダーメイド治療”をめざす。日本産科婦人科学会認定医、生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、臨床遺伝専門医。趣味はゴルフ・映画鑑賞・ピアノ。女性、男性ともに利用しやすいクリニックをめざし、「うめだファティリティークリニック」としてスタートして、はや5カ月。毎週木曜と毎月第1土曜に男性不妊外来を開設し、MD-TESEに対応しています。「ご夫婦はもちろん、1人で来院される男性が増えました」と山下先生。 ≫ うめだファティリティークリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.18
コラム 不妊治療