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一歩一歩、熱意で進めた不妊治療
「待つのも治療のひとつだよ」結果を急ぐ不安な私に先生の言葉がやさしく響きました。 不妊症の治療は、ゴールへ至る道も、ゴール地点も人によってさまざまです。もしかしたら近道があるのかもしれない、と思いながらも自分の気持ちに正直になって一歩一歩治療を進めていったEさんのストーリーです。 結婚後、半年が過ぎたころもしかして不妊? と不安に 「30歳を過ぎるまでは、と結婚は意識していなかったんです」と笑顔で話してくださるEさん。ちょうど30歳になるころ出会ったご主人とは、その2カ月後に結婚を決めていた、というほど運命的な出会いでした。 「結婚したらすぐに子どもができると思っていたのですが、半年ぐらい経ってもなかなかうまくいかなくて、もしかしたら妊娠しにくいのかもしれない、と不安な気持ちが少しずつ大きくなっていきました。毎月、また妊娠できなかった…と思うと、不妊についてインターネットで見る回数がだんだん増えていきました」 Eさんご夫妻は春に挙式され、秋にはクリニックへの受診を考え始めました。「私自身、風邪をひきやすかったり、冷え性に悩んだりと体の不調がいろいろあったことと、35歳を過ぎたらもっと妊娠しにくいと一般的に言われていたので、焦りがありました」。 ご主人の検査をきっかけに不妊治療をスタートさせる 悩んでいたEさんの話を聞いて、ご主人も泌尿器科へ精液検査を受けに行くことに。「彼自身もなかなか踏ん切りがつかないなか、決断して検査に行ってくれました。2回の検査で結果がよくなくて、どこかに不妊治療に行ったほうがいい、ということで英(はなぶさ)ウィメンズクリニックを紹介してもらいました」。英ウィメンズクリニックは土日も受診できるので、ともに仕事をもつEさんご夫妻にも通いやすく便利でした。 検査にかかる時間が短い男性と比べて、女性は月経期、排卵の前後、排卵期と時期を分けて子宮や卵管を検査します。Eさんは月経後に実施する血液検査で甲状腺の病気の疑いがあるということで、近隣の甲状腺専門の病院での治療も並行して受けました。「妊娠するには数値が高い、ということで甲状腺刺激ホルモンを抑える薬を処方されました。妊娠した今も継続的に服用しています」。また、卵管の通りを見る検査を受け、左側が細いという指摘を受けましたが閉じているわけではないということで、タイミング法や人工授精での妊娠に期待をもちました。 毎回の不妊治療の流れは、「生理があったらクリニックで通水の予約を取り、生理後10日目ぐらいの排卵前に通水。そのあとに人工授精やタイミング法を試し、その後は子宮内膜を維持する働きをもつ黄体ホルモンの分泌を助ける薬を飲み、判定を待つ」というものでした。毎回の通水がとても痛かったとふりかえるEさん。「でも妊娠したいという気持ちと焦る気持ちが大きかったので我慢ができました」。 しかしその治療が4回目、5回目を数えても妊娠の兆候はありませんでした。 FTの手術を受けるも、体外受精をとうとう決断 そこで、治療は次の段階へと進みます。Eさんは「卵管鏡下卵管形成術(FT)」についての説明を受けました。この手術は狭くなっていたり詰まったりしている卵管を通すため、内視鏡を内蔵したカテーテルで卵管を観察しながら風船(バルーン)を膨らませて詰まっているところを広げるものです。「通水よりは卵管の通りも良くなり、体への負担も少ない日帰り手術だと聞いたので、受けようと決断しました」。 FTの手術を受けた後、一度は人工授精を試したEさんご夫妻でしたが妊娠に至りませんでした。あと数回は同じ方法で経過を見るつもりでしたが、一方でずっと迷っていたことがEさんの頭の中を占めるようになっていました。「このまま人工授精を続けていても、うまくいかない気がする。体外受精に踏み切ろうかな、と思い始めていたのです」。 英ウィメンズクリニックに通い始めた頃、Eさんご夫妻は体外受精のセミナーに参加していました。「どんなものか話だけは聞いておこうかなと。でもやっぱり怖いなと思うのと、自分で注射を毎日打つのができるのだろうかと不安でした」。 そんな時、院内の看護師さんによる看護師外来でカウンセリングを受ける機会が。「その方も体外受精の経験者で、自分の体験談を話してくれて。それを聞いていたら自分にもできるかな、と思い始めたのです」。 体外受精に踏み切るためにEさんが乗り越えたハードルは2つ。ひとつは自己注射です。体外受精では、採卵をするために毎日排卵誘発剤を注射しなくてはなりません。自己注射なら毎日クリニックに通わなくても済み、負担は軽減されます。「でも、先生の前で自己注射がしっかりできないと許可が出ません。これがなかなかできなかった…。つらかったです」。 もう一つのハードルは採卵。「毎日の注射でだるく、しんどかったですが、気を紛らわせるためにも仕事に行っていました。当日は、朝から採卵をして30分ほど安静にして、主人と一緒に帰宅しました。会社には不妊治療中であることを伝えてあったので、その後数日は休むことができました。 こうした採卵の過程に挑むこと2回、胚培養、胚移植を経てようやく妊娠判定が出たのでした。 子どもを授かりたいというモチベーションを常に保って 不妊治療を始めてから、ご主人をうまく巻き込んで治療に邁進したEさん。「でも、毎回落ち込んでばかりいました。排卵日前となると自分の中で緊張が高まるし、そのあとの結果が出るまでの間というのはものすごく長く感じるし。カレンダーばかりを見て生活していました。治療の中で注射を打ったり薬を飲んだりも大変だったけど、待つのが一番つらかった」。そのころ一番お世話になったのが、英ウィメンズクリニックの主治医の先生。「自分の中のイライラをじっくり聞いてくださいました。“待つのも治療だから”と言ってくださったのも先生です。最初から体外受精を選択すれば手っ取り早かったとは思う。それこそ当初自分が望んでいたように1年で妊娠できていたかもしれないと思うけれど、私たちが納得して体外受精に踏み切るためには、通水をして人工授精とタイミング療法を試し、FTを受けて、と段階を踏むことも必要だったと思います」。 今、妊娠7カ月を迎えたEさんの横顔は、とても落ち着いています。つわりなどの妊娠中のトラブルもなく、とても安定しているそう。時に落ち込むことはあっても、子どもを授かりたい、というまっすぐな気持ちを大切にして不妊治療に挑んだ自信が、その表情を輝かせているのかもしれません。 From Doctor 治療を振り返って 「前向きに未来を信じて待つ、これはとても大変なこと」 Eさんがいろんな思いで転機を迎えながら治療のステップを進まれたのがわかります。不妊治療では待つだけという時期が多く、しんどいですね。看護師外来で診療とは違う話を聞いたり、30分1対1でじっくり治療してもらえる鍼灸やレーザー治療を利用したり、悩んでストレスをため込んだりしないように、よいタイミングで上手に気分転換をされているのがよかったと思います。 ハードルが高いと思われがちな体外受精ですが、共働きのご夫婦などは体外受精のほうがコントロールしやすいこともあり、通院回数を少なくして早く妊娠をしたいという方にも早い段階で体外受精を勧めることがあります。心配な自己注射も、看護師が1人1人手技を確認してできるようになるまで一緒に練習しますのでご安心ください。 先生のご紹介 副院長 松本 由紀子 先生(英ウィメンズクリニック) 浜松医科大学医学部卒。岡山大学医学部産科婦人科学教室へ入局後、神戸掖済会病院、岡山済生会総合病院、姫路赤十字病院勤務を経て、2007年9月より英ウィメンズクリニック勤務。2013年3月より同院副院長。 ≫ 英ウィメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 「待つのも治療のひとつだよ」結果を急ぐ不安な私に先生の言葉がやさしく響きました。 不妊症の治療は、ゴールへ至る道も、ゴール地点も人によってさまざまです。もしかしたら近道があるのかもしれない、と思いながらも自分の気持ちに正直になって一歩一歩治療を進めていったEさんのストーリーです。 結婚後、半年が過ぎたころもしかして不妊? と不安に 「30歳を過ぎるまでは、と結婚は意識していなかったんです」と笑顔で話してくださるEさん。ちょうど30歳になるころ出会ったご主人とは、その2カ月後に結婚を決めていた、というほど運命的な出会いでした。 「結婚したらすぐに子どもができると思っていたのですが、半年ぐらい経ってもなかなかうまくいかなくて、もしかしたら妊娠しにくいのかもしれない、と不安な気持ちが少しずつ大きくなっていきました。毎月、また妊娠できなかった…と思うと、不妊についてインターネットで見る回数がだんだん増えていきました」 Eさんご夫妻は春に挙式され、秋にはクリニックへの受診を考え始めました。「私自身、風邪をひきやすかったり、冷え性に悩んだりと体の不調がいろいろあったことと、35歳を過ぎたらもっと妊娠しにくいと一般的に言われていたので、焦りがありました」。 ご主人の検査をきっかけに不妊治療をスタートさせる 悩んでいたEさんの話を聞いて、ご主人も泌尿器科へ精液検査を受けに行くことに。「彼自身もなかなか踏ん切りがつかないなか、決断して検査に行ってくれました。2回の検査で結果がよくなくて、どこかに不妊治療に行ったほうがいい、ということで英(はなぶさ)ウィメンズクリニックを紹介してもらいました」。英ウィメンズクリニックは土日も受診できるので、ともに仕事をもつEさんご夫妻にも通いやすく便利でした。 検査にかかる時間が短い男性と比べて、女性は月経期、排卵の前後、排卵期と時期を分けて子宮や卵管を検査します。Eさんは月経後に実施する血液検査で甲状腺の病気の疑いがあるということで、近隣の甲状腺専門の病院での治療も並行して受けました。「妊娠するには数値が高い、ということで甲状腺刺激ホルモンを抑える薬を処方されました。妊娠した今も継続的に服用しています」。また、卵管の通りを見る検査を受け、左側が細いという指摘を受けましたが閉じているわけではないということで、タイミング法や人工授精での妊娠に期待をもちました。 毎回の不妊治療の流れは、「生理があったらクリニックで通水の予約を取り、生理後10日目ぐらいの排卵前に通水。そのあとに人工授精やタイミング法を試し、その後は子宮内膜を維持する働きをもつ黄体ホルモンの分泌を助ける薬を飲み、判定を待つ」というものでした。毎回の通水がとても痛かったとふりかえるEさん。「でも妊娠したいという気持ちと焦る気持ちが大きかったので我慢ができました」。 しかしその治療が4回目、5回目を数えても妊娠の兆候はありませんでした。 FTの手術を受けるも、体外受精をとうとう決断 そこで、治療は次の段階へと進みます。Eさんは「卵管鏡下卵管形成術(FT)」についての説明を受けました。この手術は狭くなっていたり詰まったりしている卵管を通すため、内視鏡を内蔵したカテーテルで卵管を観察しながら風船(バルーン)を膨らませて詰まっているところを広げるものです。「通水よりは卵管の通りも良くなり、体への負担も少ない日帰り手術だと聞いたので、受けようと決断しました」。 FTの手術を受けた後、一度は人工授精を試したEさんご夫妻でしたが妊娠に至りませんでした。あと数回は同じ方法で経過を見るつもりでしたが、一方でずっと迷っていたことがEさんの頭の中を占めるようになっていました。「このまま人工授精を続けていても、うまくいかない気がする。体外受精に踏み切ろうかな、と思い始めていたのです」。 英ウィメンズクリニックに通い始めた頃、Eさんご夫妻は体外受精のセミナーに参加していました。「どんなものか話だけは聞いておこうかなと。でもやっぱり怖いなと思うのと、自分で注射を毎日打つのができるのだろうかと不安でした」。 そんな時、院内の看護師さんによる看護師外来でカウンセリングを受ける機会が。「その方も体外受精の経験者で、自分の体験談を話してくれて。それを聞いていたら自分にもできるかな、と思い始めたのです」。 体外受精に踏み切るためにEさんが乗り越えたハードルは2つ。ひとつは自己注射です。体外受精では、採卵をするために毎日排卵誘発剤を注射しなくてはなりません。自己注射なら毎日クリニックに通わなくても済み、負担は軽減されます。「でも、先生の前で自己注射がしっかりできないと許可が出ません。これがなかなかできなかった…。つらかったです」。 もう一つのハードルは採卵。「毎日の注射でだるく、しんどかったですが、気を紛らわせるためにも仕事に行っていました。当日は、朝から採卵をして30分ほど安静にして、主人と一緒に帰宅しました。会社には不妊治療中であることを伝えてあったので、その後数日は休むことができました。 こうした採卵の過程に挑むこと2回、胚培養、胚移植を経てようやく妊娠判定が出たのでした。 子どもを授かりたいというモチベーションを常に保って 不妊治療を始めてから、ご主人をうまく巻き込んで治療に邁進したEさん。「でも、毎回落ち込んでばかりいました。排卵日前となると自分の中で緊張が高まるし、そのあとの結果が出るまでの間というのはものすごく長く感じるし。カレンダーばかりを見て生活していました。治療の中で注射を打ったり薬を飲んだりも大変だったけど、待つのが一番つらかった」。そのころ一番お世話になったのが、英ウィメンズクリニックの主治医の先生。「自分の中のイライラをじっくり聞いてくださいました。“待つのも治療だから”と言ってくださったのも先生です。最初から体外受精を選択すれば手っ取り早かったとは思う。それこそ当初自分が望んでいたように1年で妊娠できていたかもしれないと思うけれど、私たちが納得して体外受精に踏み切るためには、通水をして人工授精とタイミング療法を試し、FTを受けて、と段階を踏むことも必要だったと思います」。 今、妊娠7カ月を迎えたEさんの横顔は、とても落ち着いています。つわりなどの妊娠中のトラブルもなく、とても安定しているそう。時に落ち込むことはあっても、子どもを授かりたい、というまっすぐな気持ちを大切にして不妊治療に挑んだ自信が、その表情を輝かせているのかもしれません。 From Doctor 治療を振り返って 「前向きに未来を信じて待つ、これはとても大変なこと」 Eさんがいろんな思いで転機を迎えながら治療のステップを進まれたのがわかります。不妊治療では待つだけという時期が多く、しんどいですね。看護師外来で診療とは違う話を聞いたり、30分1対1でじっくり治療してもらえる鍼灸やレーザー治療を利用したり、悩んでストレスをため込んだりしないように、よいタイミングで上手に気分転換をされているのがよかったと思います。 ハードルが高いと思われがちな体外受精ですが、共働きのご夫婦などは体外受精のほうがコントロールしやすいこともあり、通院回数を少なくして早く妊娠をしたいという方にも早い段階で体外受精を勧めることがあります。心配な自己注射も、看護師が1人1人手技を確認してできるようになるまで一緒に練習しますのでご安心ください。 先生のご紹介 副院長 松本 由紀子 先生(英ウィメンズクリニック) 浜松医科大学医学部卒。岡山大学医学部産科婦人科学教室へ入局後、神戸掖済会病院、岡山済生会総合病院、姫路赤十字病院勤務を経て、2007年9月より英ウィメンズクリニック勤務。2013年3月より同院副院長。 ≫ 英ウィメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.7
コラム 不妊治療
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できるなら、妊活期間を“楽しく”!
悩んで過ごすか、明るく過ごすか、不妊治療中の過ごし方は、自分しだい。だから、楽天的に! もしも赤ちゃんを授からなかったとしても、人生はこれからも続きます。「子どもがいなくても、幸せ!」と思える人生、生き方だってあるのです。まずは、自分の人生を楽しむこと! “生き甲斐”を見出してみませんか? “やり甲斐のある仕事” ママになってもしたい! 「不妊治療に専念しよう!」と心に決め、きっぱりと仕事を辞めたミルクさん(31歳)でしたが、その喪失感は想像をはるかに上回るものでした。憧れていた職業、やりがいもあり、これまで真摯に取り組んできただけに、「育児が一段落したらまた職場に戻りたい」との気持ちが日増しに強くなり、それと同時に「その日はいつ来るの?」という漠然とした不安が。 「赤ちゃんを授からない限り、職場復帰は見込めない」けれど、いつ妊娠するか、妊娠できるかさえも定かではありません。仕事ではきっちりと年間プランを立て、着実に実行に移してきたミルクさんにとっては、先の見えない不妊治療はストレスそのものでした。 「だから、決めたのです。不妊治療は1年間だけにしようと。また、治療がストレスにならないように、妊活中は思い切りわがままに振る舞い、妊活期間を大いに楽しみ、有効に過ごそう! と」。 元キャリアウーマンだから、考えた“効率” ミルクさんがご結婚されたのは2014年11月。お相手は職場の先輩のご友人で、知り合ったのは6年ほど前。その後も食事などをご一緒するお仲間の一人としてのお付き合いがあり、それがいつしか恋愛に発展。すでに気心が知れた仲だったため、真剣交際を始めて半年でのスピード婚でした。挙式は、さらにその1年後。 「私の仕事のスケジュールを優先してもらい、挙式は先延ばしにしました。その代わり、挙式の段取りなどはすべて私が綿密に仕切りました。プランを立てるのは、得意なんですよ」と澄んだ声で笑うミルクさんは、ご年齢よりずっと若く見える可愛らしい女性。おっとりした印象ですが、「性格的には、かなりせっかちですよ」とご本人の弁。その当時は、仕事のスケジュールに追われる毎日で、就寝は23時過ぎ、起床は5時。土日も段取りよくスケジュールがこなせるよう下準備。何事においても仕事の“効率”を優先させ、プライベートは後回しでした。 ところが挙式を済ませた途端、じわりと「赤ちゃんが欲しい」という感情が芽生えます。しばらくは排卵検査薬などを使用してタイミング療法を試みましたが、良い結果は得られず、不妊治療に踏み切ることに決めました。 我がままに! 贅沢に!妊活中の“特別な1年間” 「仕事と不妊治療の同時進行では、どちらも中途半端になってしまうに違いない」と、“効率”を重視して仕事を辞め、不妊治療を優先させたミルクさんでしたが、わずか1週間ほどで激しく後悔しました。ミルクさんにとって、それほどに仕事は重要な存在だったのだと思い知らされました。 「子どもがいる人生もきっと楽しいはず。でも、私には仕事という生き甲斐もある」。そう考えた時、ミルクさんはどちらかを選択するのではなく、その代わりに期限を決めました。「1年間、不妊治療を頑張ろう。それでダメだったら、また仕事を頑張ろう」と。 そして、「妊活に専念する1年間は、特別な1年間にする!」と決めたのです。そこでまず取り組んだのが、妊娠においてもっとも悪影響となる“ストレス”の排除。やりたくない! と思うものを書き出してみると、なんとその筆頭は家事でした。 「夫は本当に優しい人で、だからこそ言えたのですが、“1年間だけ怠けさせてください”とお願いしました。快く引き受けてくれたことを、とても感謝しています」と、ミルクさん。「もちろん、完璧は求めません。食事も、有機野菜や添加物のないものを取り寄せていたので、シンプルな調理法でも十分においしい。通院で大宮に行く際には、ウォーキングがてらデパ地下を歩きまわり、夫好みのちょっぴり贅沢なお惣菜を奮発して買うことも。お互いに、無理をしない範囲でやろうね、と」。 家事をしなくてよくなった分、時間も贅沢に使いました。「大学に通って、過去の論文を読んだり、自分でも書いたり。伝統芸能に触れたり、英語を始め、スペイン語や韓国語の学習もしました。女友達を誘って、ランチ女子会などもしましたよ。SNSなどで繋がっている気になっていましたが、会って話すのとはやはり違うと実感。それ以来、インターネットなどで情報を得るのはやめました」とも。 また、「妊活中こそ、自分自身を見つめる時間」ととらえ、時間を有効活用している! と思い、「無駄に時間を費やしているわけではない」と、自身を納得させたのです。 通うのが“楽しい”と思える、病院選び ミルクさんが選んだ不妊治療クリニックは、小誌でもお馴染みのかしわざき産婦人科でした。 通いやすい。地元で評判がいい。産科も兼任している、という条件を満たしたからでしたが、ミルクさんは通うほどに、「この病院を選んでよかった!」と感じたそう。「先生方はもちろん、看護師さんや培養士さん、スタッフの方すべてがとにかく親切。私の、もしかしたらくだらないかもしれない質問にも丁寧に答えてくださり、嫌な顔一つなさらないのです。また、予約制だと“予約したから”と悪天候でも無理をしていらっしゃる患者さんがいては気の毒、とあえて予約制ではないので、気になることがあればすぐ行かれるのもありがたかった。私は2週に1回の通院の時でも、先生やスタッフの方とお話がしたくて毎週通っていました(笑)」。 実はミルクさん、人工授精直後に食中毒に罹りました。救急病院すべてから断られ、結局はかしわざき産婦人科で治療を受けたご経験も。「妊婦かもしれないと思ったら、流産や胎児の障害なども考え、治療を避けたい病院も多いのでしょう。地域に根差した病院に通院していたおかげで助かりました」と、振り返ります。 自然に近い妊娠を目指すかしわざき産婦人科ですが、“効率”重視のミルクさんに急かされ、一気に体外受精へ。その結果、めでたく妊娠! ミルクさんは、今年の晩夏にはママになる予定です。治療を始めてちょうど1年。「まだ凍結胚が8個あるので、計画を練って、仕事への支障を最小限に抑えながら、何人か産みたいと思います」とミルクさんは言います。 さらに「でも、もし授からなかったしとしても、私にはやり甲斐のある仕事があります。それは、それで幸せ。子どもをもつ以外にも幸せはあるのだと、奇しくも妊活中に思い知ったのです」とも。 From Doctor 治療を振り返って 「心配になるほどの“優等生”。つらい時は泣いてもいいよ!」 「妊活は楽しかった」とおっしゃるミルクさんですが、実は精子が弱くて受精障害がありました。顕微授精の前には卵巣過剰刺激症候群、妊娠してからも切迫流産や切迫早産の危険があって長く入院していただいたりと、本当は大変なこともいっぱいあったのですが、よく耐えたと思います。 とにかく前向きで、決断が早い。こちらが提案する治療法も、「それならやってみたい」「それはやりたくない」などとしっかりした考えのうえで、明確に意思表示をしてくれるので治療も進めやすかったですね。私としても受精から赤ちゃん誕生まで担当でき、やり甲斐を感じます。 とにかく明るいので、こちらも元気を分けていただきました。妊婦向けのエアロビクス教室でもリーダー的存在で、彼女がいるだけで場が和むので助かります。 でも、あまりに頑張り屋さんで弱音を吐かないから、逆にそれが心配だったことも時々ありました。でも、最後までよく頑張ってくれました。 先生のご紹介 柏崎 祐士 先生(かしわざき産婦人科) 京都府立医科大学医学部卒業。2000年まで日本大学板橋病院で主に不妊治療に従事し、その間、米国エール大学医学部産婦人科で研修。その後、「かしわざき産婦人科」副院長に。日本生殖医学会生殖医療専門医、日本婦人科内視鏡認定医。O型・おとめ座。 ≫ かしわざき産婦人科 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら 悩んで過ごすか、明るく過ごすか、不妊治療中の過ごし方は、自分しだい。だから、楽天的に! もしも赤ちゃんを授からなかったとしても、人生はこれからも続きます。「子どもがいなくても、幸せ!」と思える人生、生き方だってあるのです。まずは、自分の人生を楽しむこと! “生き甲斐”を見出してみませんか? “やり甲斐のある仕事” ママになってもしたい! 「不妊治療に専念しよう!」と心に決め、きっぱりと仕事を辞めたミルクさん(31歳)でしたが、その喪失感は想像をはるかに上回るものでした。憧れていた職業、やりがいもあり、これまで真摯に取り組んできただけに、「育児が一段落したらまた職場に戻りたい」との気持ちが日増しに強くなり、それと同時に「その日はいつ来るの?」という漠然とした不安が。 「赤ちゃんを授からない限り、職場復帰は見込めない」けれど、いつ妊娠するか、妊娠できるかさえも定かではありません。仕事ではきっちりと年間プランを立て、着実に実行に移してきたミルクさんにとっては、先の見えない不妊治療はストレスそのものでした。 「だから、決めたのです。不妊治療は1年間だけにしようと。また、治療がストレスにならないように、妊活中は思い切りわがままに振る舞い、妊活期間を大いに楽しみ、有効に過ごそう! と」。 元キャリアウーマンだから、考えた“効率” ミルクさんがご結婚されたのは2014年11月。お相手は職場の先輩のご友人で、知り合ったのは6年ほど前。その後も食事などをご一緒するお仲間の一人としてのお付き合いがあり、それがいつしか恋愛に発展。すでに気心が知れた仲だったため、真剣交際を始めて半年でのスピード婚でした。挙式は、さらにその1年後。 「私の仕事のスケジュールを優先してもらい、挙式は先延ばしにしました。その代わり、挙式の段取りなどはすべて私が綿密に仕切りました。プランを立てるのは、得意なんですよ」と澄んだ声で笑うミルクさんは、ご年齢よりずっと若く見える可愛らしい女性。おっとりした印象ですが、「性格的には、かなりせっかちですよ」とご本人の弁。その当時は、仕事のスケジュールに追われる毎日で、就寝は23時過ぎ、起床は5時。土日も段取りよくスケジュールがこなせるよう下準備。何事においても仕事の“効率”を優先させ、プライベートは後回しでした。 ところが挙式を済ませた途端、じわりと「赤ちゃんが欲しい」という感情が芽生えます。しばらくは排卵検査薬などを使用してタイミング療法を試みましたが、良い結果は得られず、不妊治療に踏み切ることに決めました。 我がままに! 贅沢に!妊活中の“特別な1年間” 「仕事と不妊治療の同時進行では、どちらも中途半端になってしまうに違いない」と、“効率”を重視して仕事を辞め、不妊治療を優先させたミルクさんでしたが、わずか1週間ほどで激しく後悔しました。ミルクさんにとって、それほどに仕事は重要な存在だったのだと思い知らされました。 「子どもがいる人生もきっと楽しいはず。でも、私には仕事という生き甲斐もある」。そう考えた時、ミルクさんはどちらかを選択するのではなく、その代わりに期限を決めました。「1年間、不妊治療を頑張ろう。それでダメだったら、また仕事を頑張ろう」と。 そして、「妊活に専念する1年間は、特別な1年間にする!」と決めたのです。そこでまず取り組んだのが、妊娠においてもっとも悪影響となる“ストレス”の排除。やりたくない! と思うものを書き出してみると、なんとその筆頭は家事でした。 「夫は本当に優しい人で、だからこそ言えたのですが、“1年間だけ怠けさせてください”とお願いしました。快く引き受けてくれたことを、とても感謝しています」と、ミルクさん。「もちろん、完璧は求めません。食事も、有機野菜や添加物のないものを取り寄せていたので、シンプルな調理法でも十分においしい。通院で大宮に行く際には、ウォーキングがてらデパ地下を歩きまわり、夫好みのちょっぴり贅沢なお惣菜を奮発して買うことも。お互いに、無理をしない範囲でやろうね、と」。 家事をしなくてよくなった分、時間も贅沢に使いました。「大学に通って、過去の論文を読んだり、自分でも書いたり。伝統芸能に触れたり、英語を始め、スペイン語や韓国語の学習もしました。女友達を誘って、ランチ女子会などもしましたよ。SNSなどで繋がっている気になっていましたが、会って話すのとはやはり違うと実感。それ以来、インターネットなどで情報を得るのはやめました」とも。 また、「妊活中こそ、自分自身を見つめる時間」ととらえ、時間を有効活用している! と思い、「無駄に時間を費やしているわけではない」と、自身を納得させたのです。 通うのが“楽しい”と思える、病院選び ミルクさんが選んだ不妊治療クリニックは、小誌でもお馴染みのかしわざき産婦人科でした。 通いやすい。地元で評判がいい。産科も兼任している、という条件を満たしたからでしたが、ミルクさんは通うほどに、「この病院を選んでよかった!」と感じたそう。「先生方はもちろん、看護師さんや培養士さん、スタッフの方すべてがとにかく親切。私の、もしかしたらくだらないかもしれない質問にも丁寧に答えてくださり、嫌な顔一つなさらないのです。また、予約制だと“予約したから”と悪天候でも無理をしていらっしゃる患者さんがいては気の毒、とあえて予約制ではないので、気になることがあればすぐ行かれるのもありがたかった。私は2週に1回の通院の時でも、先生やスタッフの方とお話がしたくて毎週通っていました(笑)」。 実はミルクさん、人工授精直後に食中毒に罹りました。救急病院すべてから断られ、結局はかしわざき産婦人科で治療を受けたご経験も。「妊婦かもしれないと思ったら、流産や胎児の障害なども考え、治療を避けたい病院も多いのでしょう。地域に根差した病院に通院していたおかげで助かりました」と、振り返ります。 自然に近い妊娠を目指すかしわざき産婦人科ですが、“効率”重視のミルクさんに急かされ、一気に体外受精へ。その結果、めでたく妊娠! ミルクさんは、今年の晩夏にはママになる予定です。治療を始めてちょうど1年。「まだ凍結胚が8個あるので、計画を練って、仕事への支障を最小限に抑えながら、何人か産みたいと思います」とミルクさんは言います。 さらに「でも、もし授からなかったしとしても、私にはやり甲斐のある仕事があります。それは、それで幸せ。子どもをもつ以外にも幸せはあるのだと、奇しくも妊活中に思い知ったのです」とも。 From Doctor 治療を振り返って 「心配になるほどの“優等生”。つらい時は泣いてもいいよ!」 「妊活は楽しかった」とおっしゃるミルクさんですが、実は精子が弱くて受精障害がありました。顕微授精の前には卵巣過剰刺激症候群、妊娠してからも切迫流産や切迫早産の危険があって長く入院していただいたりと、本当は大変なこともいっぱいあったのですが、よく耐えたと思います。 とにかく前向きで、決断が早い。こちらが提案する治療法も、「それならやってみたい」「それはやりたくない」などとしっかりした考えのうえで、明確に意思表示をしてくれるので治療も進めやすかったですね。私としても受精から赤ちゃん誕生まで担当でき、やり甲斐を感じます。 とにかく明るいので、こちらも元気を分けていただきました。妊婦向けのエアロビクス教室でもリーダー的存在で、彼女がいるだけで場が和むので助かります。 でも、あまりに頑張り屋さんで弱音を吐かないから、逆にそれが心配だったことも時々ありました。でも、最後までよく頑張ってくれました。 先生のご紹介 柏崎 祐士 先生(かしわざき産婦人科) 京都府立医科大学医学部卒業。2000年まで日本大学板橋病院で主に不妊治療に従事し、その間、米国エール大学医学部産婦人科で研修。その後、「かしわざき産婦人科」副院長に。日本生殖医学会生殖医療専門医、日本婦人科内視鏡認定医。O型・おとめ座。 ≫ かしわざき産婦人科 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.7
コラム 不妊治療
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若いし、「いつか産める」と過信していたーー 。
うまくいかず何度も傷つき、心も揺れたけれど2年半のタイミング後、体外受精で妊娠。不妊治療が大事なことを教えてくれました。 30歳を目前にして仕事か子どもかを真剣に考えるため、産婦人科を初めて受診。そこで妊娠しづらい体と判明し、医師の勧めで不妊治療を開始。しかし、なかなかうまくいきません。順風満帆に生きてきたユイさんにとって大きな試練でした。 30歳を目前に不妊治療を始める決意 ユイさん(31歳)とご主人の出会いは高校時代。10年の交際期間を経て26歳で結婚。ご主人は中学校の教員として、ユイさんは医療関連施設で働く生活を続けていましたが、29歳の時、ふと将来のことを考え始めました。 「これから先も、長く働きたいなら別の職場へ転職したほうがいいなと。ただ30歳になると子どもができにくくなると聞いていたので、欲しい時に妊娠できる体かどうかを知っておこうと思い、近くの産婦人科を受診しました」 もともと月経不順だったユイさん。婦人科系の病気があるかもという予感は的中。多嚢胞性卵巣症候群と診断され、妊娠しづらいと言われました。 「子どもが欲しいと考えているなら、仕事よりもまずは不妊治療に取り組んだほうがいいとお医者さんに言われ、納得し、正社員からパートの仕事に変えて、不妊治療を始めました」 ユイさんはそれほど子ども好きではありませんでした。「でも、大好きな夫の子どもは産みたかった」。その一心で通院の日々をスタートさせました。 タイミング半年で妊娠!なのに5週目で流産 最初はタイミング法から。幸いクロミッドⓇがすごく効き安定して排卵が起こるようになりました。「正直、不妊治療を始めれば、すぐ子どもができると思っていました。でも、現実はそれほど甘くありませんでした。タイミングをとってもなかなかうまくいかなかったんです」 半年後、ようやく妊娠できたのですが、残念なことに5週で流産してしまいます。とてもショックを受けましたが、ここで諦める気持ちにはならず、少しステップアップしたかたちで不妊治療を再開したいと考えました。 「ただ、当時、夫の仕事が超多忙で。ちょうど受験を控える中学3年の担任になったばかりで、心に余裕がない状況でした。それで治療法を先に進ませるのではなく、今できることをしようと二人で決め、タイミング法を継続しました」 流産前まではユイさんもご主人が仕事で大変だとわかっていたので、一人で抱えた思いを言葉でなく感情でぶつけることが多かったそう。 「でも、話し合ったことで夫が一番嫌なのは私が怒ったり悲しむことだとわかり、それ以降は何でも伝えようと心がけるようになりました」 なぜ、私だけ? 不満と苛立ちが募る日々 それでもユイさんは忙しいご主人に気を遣い、負担を最小限にしてあげたいという思いから、タイミングをとりたい日をできる限り絞り込みました。そして、絶対はずしたくない日は言い方を考えながら協力を求めました。 「基本的には協力してくれましたが、やはり日によっては『突然言われても困る』と返されることも。そうすると仕事もパートにして生活も変えているのに、今月もダメだったと落ち込み、傷ついている。どうして私ばかりがこんな目に? と、悲しくなったり腹立たしくなったりしていました」 そうこうしているうちに1年が経過。ご主人の仕事も一区切りつき、いよいよ専門の病院を訪ねる段階に。ユイさんは、近所の不妊治療専門クリニックへご主人と向かいました。そこで体外受精を勧められたというお二人。 「私は多嚢胞性卵巣症候群のクセが強めで卵子が未成熟。だから、人工授精よりも最初から体外受精にして良い卵子を育てたほうが成功率は高い、特にまだ若いからきっとうまくいくよ、といわれたのです」 そういわれても、ユイさんは素直に体外受精へステップアップする気持ちになれませんでした。 「隣の診察室から移植日を決める話が聞こえてきたことがあり、何だか人工的だな、そんなことまでして私は子どもが欲しいのかなと。逆に気持ちが萎えてしまったんです」 ステップアップする気が失せていったユイさん。4月に初診を受けたものの、5月から7月の間、気持ちは毎日、大きく揺れていたそうです。 「どこかでステップアップしたいと思っているのに、うまくいかなくてまた傷ついて泣くのは嫌だという思いも。言うこともコロコロ変わっていました。夫に検査してほしいと言っておきながら、やっぱりやらなくていいよと言ってみたり。時にはもう子どもができる気がしなくなってしまって。特に頑張らなくても妊娠していく知人、友人が周りに増えてきたのもあって、すっかり自信もなくなり、もしかして私には母親になる資格がないのでは、と思ってしまうこともありました」 不妊治療経験者の義姉が背中を押してくれた そんな彼女の背中を押してくれたのが義理のお姉さん。 「彼女が8月に2人目を妊娠したのですが、実は不妊治療を4年ほど続けていたことをその時、初めて知りました。義母から私が不妊治療をしていると聞いていた義姉が、体外受精を考えているなら絶対やったほうがいいよと。義姉は体外受精で2回失敗、もうやめようと思っていた矢先、自然妊娠したそうです」 ユイさんはこれまで誰にも言えず、心にためていた気持ちすべてを義姉に話しました。 「その時、気づいたんです。やはり私は夫の子どもが産みたいんだ、体外受精を実は望んでいるのだと」 その直後、以前勤めていた職場から声がかかりました。 「治療をやめるなら正社員になりたかった。ただ、体外受精をすると決心できていたので、不妊治療があるから正社員では働けないと伝えました。そうしたらパートでいい、治療優先でいいからと言ってくれたんです」 9月に体外受精して10月からその職場へ。気持ちも環境も180度、変わりました。 「移植も1回目はダメでした。もちろん、落ち込んだし悲しかったけど、体外受精まで自分が挑戦できたことがうれしかった。何より支えてくれている人たちに感謝の気持ちでいっぱいでした」 そして、移植2回目で12月に妊娠が判明。それでも最初はなかなか信じられなかったといいます。 実感がこみ上げてきたのは、安定期に入り職場の同僚たちに妊娠を伝えた時でした。 「みんなすごく喜んでくれて。そのことを夫に伝えたら心底彼もうれしそうで。ようやく本当に赤ちゃんを産むんだと思えるようになりました」 不妊治療してきた時間は親になるための準備期間 2年半の不妊治療でユイさんは大切なことを学びました。 「私は受験も就職もすべて志望通り。自分が望むタイミングで好きな人と結婚もできた。すごく順風満帆で挫折なく、頑張れば報われる人生を歩んできました。でも、妊娠だけはそうはいかなかった。病院へ通ってもなかなか妊娠できませんでした。頑張っても報われないことがあることを初めて知りました」 同時に身をゆだねて待つことも時には大事なのだと思うようになったそうです。 「おそらく何も苦労せずに子どもを授かっていたら、子育てで絶対に挫折していたと思う。また、治療を通して夫とも何でも話せる関係になれました。そう考えると不妊治療は私たち夫婦、特に私が親になるために必要な時間だったのだと思います」 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら うまくいかず何度も傷つき、心も揺れたけれど2年半のタイミング後、体外受精で妊娠。不妊治療が大事なことを教えてくれました。 30歳を目前にして仕事か子どもかを真剣に考えるため、産婦人科を初めて受診。そこで妊娠しづらい体と判明し、医師の勧めで不妊治療を開始。しかし、なかなかうまくいきません。順風満帆に生きてきたユイさんにとって大きな試練でした。 30歳を目前に不妊治療を始める決意 ユイさん(31歳)とご主人の出会いは高校時代。10年の交際期間を経て26歳で結婚。ご主人は中学校の教員として、ユイさんは医療関連施設で働く生活を続けていましたが、29歳の時、ふと将来のことを考え始めました。 「これから先も、長く働きたいなら別の職場へ転職したほうがいいなと。ただ30歳になると子どもができにくくなると聞いていたので、欲しい時に妊娠できる体かどうかを知っておこうと思い、近くの産婦人科を受診しました」 もともと月経不順だったユイさん。婦人科系の病気があるかもという予感は的中。多嚢胞性卵巣症候群と診断され、妊娠しづらいと言われました。 「子どもが欲しいと考えているなら、仕事よりもまずは不妊治療に取り組んだほうがいいとお医者さんに言われ、納得し、正社員からパートの仕事に変えて、不妊治療を始めました」 ユイさんはそれほど子ども好きではありませんでした。「でも、大好きな夫の子どもは産みたかった」。その一心で通院の日々をスタートさせました。 タイミング半年で妊娠!なのに5週目で流産 最初はタイミング法から。幸いクロミッドⓇがすごく効き安定して排卵が起こるようになりました。「正直、不妊治療を始めれば、すぐ子どもができると思っていました。でも、現実はそれほど甘くありませんでした。タイミングをとってもなかなかうまくいかなかったんです」 半年後、ようやく妊娠できたのですが、残念なことに5週で流産してしまいます。とてもショックを受けましたが、ここで諦める気持ちにはならず、少しステップアップしたかたちで不妊治療を再開したいと考えました。 「ただ、当時、夫の仕事が超多忙で。ちょうど受験を控える中学3年の担任になったばかりで、心に余裕がない状況でした。それで治療法を先に進ませるのではなく、今できることをしようと二人で決め、タイミング法を継続しました」 流産前まではユイさんもご主人が仕事で大変だとわかっていたので、一人で抱えた思いを言葉でなく感情でぶつけることが多かったそう。 「でも、話し合ったことで夫が一番嫌なのは私が怒ったり悲しむことだとわかり、それ以降は何でも伝えようと心がけるようになりました」 なぜ、私だけ? 不満と苛立ちが募る日々 それでもユイさんは忙しいご主人に気を遣い、負担を最小限にしてあげたいという思いから、タイミングをとりたい日をできる限り絞り込みました。そして、絶対はずしたくない日は言い方を考えながら協力を求めました。 「基本的には協力してくれましたが、やはり日によっては『突然言われても困る』と返されることも。そうすると仕事もパートにして生活も変えているのに、今月もダメだったと落ち込み、傷ついている。どうして私ばかりがこんな目に? と、悲しくなったり腹立たしくなったりしていました」 そうこうしているうちに1年が経過。ご主人の仕事も一区切りつき、いよいよ専門の病院を訪ねる段階に。ユイさんは、近所の不妊治療専門クリニックへご主人と向かいました。そこで体外受精を勧められたというお二人。 「私は多嚢胞性卵巣症候群のクセが強めで卵子が未成熟。だから、人工授精よりも最初から体外受精にして良い卵子を育てたほうが成功率は高い、特にまだ若いからきっとうまくいくよ、といわれたのです」 そういわれても、ユイさんは素直に体外受精へステップアップする気持ちになれませんでした。 「隣の診察室から移植日を決める話が聞こえてきたことがあり、何だか人工的だな、そんなことまでして私は子どもが欲しいのかなと。逆に気持ちが萎えてしまったんです」 ステップアップする気が失せていったユイさん。4月に初診を受けたものの、5月から7月の間、気持ちは毎日、大きく揺れていたそうです。 「どこかでステップアップしたいと思っているのに、うまくいかなくてまた傷ついて泣くのは嫌だという思いも。言うこともコロコロ変わっていました。夫に検査してほしいと言っておきながら、やっぱりやらなくていいよと言ってみたり。時にはもう子どもができる気がしなくなってしまって。特に頑張らなくても妊娠していく知人、友人が周りに増えてきたのもあって、すっかり自信もなくなり、もしかして私には母親になる資格がないのでは、と思ってしまうこともありました」 不妊治療経験者の義姉が背中を押してくれた そんな彼女の背中を押してくれたのが義理のお姉さん。 「彼女が8月に2人目を妊娠したのですが、実は不妊治療を4年ほど続けていたことをその時、初めて知りました。義母から私が不妊治療をしていると聞いていた義姉が、体外受精を考えているなら絶対やったほうがいいよと。義姉は体外受精で2回失敗、もうやめようと思っていた矢先、自然妊娠したそうです」 ユイさんはこれまで誰にも言えず、心にためていた気持ちすべてを義姉に話しました。 「その時、気づいたんです。やはり私は夫の子どもが産みたいんだ、体外受精を実は望んでいるのだと」 その直後、以前勤めていた職場から声がかかりました。 「治療をやめるなら正社員になりたかった。ただ、体外受精をすると決心できていたので、不妊治療があるから正社員では働けないと伝えました。そうしたらパートでいい、治療優先でいいからと言ってくれたんです」 9月に体外受精して10月からその職場へ。気持ちも環境も180度、変わりました。 「移植も1回目はダメでした。もちろん、落ち込んだし悲しかったけど、体外受精まで自分が挑戦できたことがうれしかった。何より支えてくれている人たちに感謝の気持ちでいっぱいでした」 そして、移植2回目で12月に妊娠が判明。それでも最初はなかなか信じられなかったといいます。 実感がこみ上げてきたのは、安定期に入り職場の同僚たちに妊娠を伝えた時でした。 「みんなすごく喜んでくれて。そのことを夫に伝えたら心底彼もうれしそうで。ようやく本当に赤ちゃんを産むんだと思えるようになりました」 不妊治療してきた時間は親になるための準備期間 2年半の不妊治療でユイさんは大切なことを学びました。 「私は受験も就職もすべて志望通り。自分が望むタイミングで好きな人と結婚もできた。すごく順風満帆で挫折なく、頑張れば報われる人生を歩んできました。でも、妊娠だけはそうはいかなかった。病院へ通ってもなかなか妊娠できませんでした。頑張っても報われないことがあることを初めて知りました」 同時に身をゆだねて待つことも時には大事なのだと思うようになったそうです。 「おそらく何も苦労せずに子どもを授かっていたら、子育てで絶対に挫折していたと思う。また、治療を通して夫とも何でも話せる関係になれました。そう考えると不妊治療は私たち夫婦、特に私が親になるために必要な時間だったのだと思います」 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.8.7
コラム 不妊治療
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FTについて教えて!
FTについて教えて! 2017/7/14 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長) 相談者:きよさん(主婦/32歳) 卵管が詰まっているのと年齢が高いため、1年前から体外受精を繰り返しています。仕事を辞めてストレスが激減したり、体にいいことをしているためか、毎月複数採れる卵もだんだんよくなっている(胚盤胞まで2ついくまでになりました)のですが、化学流産までいったものの、妊娠には至りません。 経済的にとても厳しくなってきたので、次回で体外受精はあきらめないといけないのかな?と思っています。あきらめたままだと可能性がほぼ0になってしまうので、FT(卵管鏡下卵管形成術)を検討しています。医師に以前聞いたことがありますが、すぐにまた詰まってしまうし、体外受精のほうが確率は高いという説明を受けました。次回の体外受精で奇跡がおきればいいのですが、ダメだった場合、望みがなくなってしまうのはつらいのでFTを受けてみたいと考えています。 FT(卵管鏡下卵管形成術)について教えてください。 子宮の中にある卵管の入り口(卵管口)から、FTカテーテルとよばれる細い管に気圧をかけて順繰りに送り出し、卵管の閉塞や狭窄を治療する方法です。また、カテーテル内に卵管鏡とよばれる細いファイバースコープがはいっていて、卵管内を観察します。 FTのメリットデメリットについてお教えください FTのメリットは3つあります。(1)卵管性不妊に効果が高く、自然妊娠が期待できること(2)侵襲性が低く、日帰り手術が可能なこと(3)保険適応があるため経済的負担が軽いことです。一方で、デメリットは慣れていないと手技的にむずかしい点があります。とくに卵管鏡の画像は不鮮明でピントが合う範囲が限られているため、卵管口を探すのに時間がかかります。また、カテーテルが卵管口にうまく入らず、子宮内をさまよっていても卵管鏡の画像では気づきにくいことがあります。卵管口を探すのは子宮鏡を用いれば簡単です。 当院では、卵管鏡と子宮鏡を組み合わせた「ダブルスコープ法(子宮鏡併用卵管鏡下卵管形成術)」という独自の方法でおこなっています。卵管口をすぐに見つけられることができ、FTカテーテルを確実に短時間で挿入できます。 FTはどのような人に向いていますか?また、体外受精と比較した場合、どちらがよいのでしょうか? 卵管が狭窄していたり、卵管に軽度の閉塞がある人に向いています。卵管性不妊の場合、FTをすると自然妊娠の確率は飛躍的に上昇します。効果は1年程度期待できます。卵管性不妊でも卵管の外側が癒着している症例や、卵管采の癒着や卵管水腫にはあまり効果がありません。そのような場合は体外受精を選択します。 この方は卵管が詰まっているので、FTは受けるべきでしょう。年齢も高齢といわれていますが、30代前半なので高齢のうちにははいりません。自然妊娠も十分に期待できます。特に体外受精を受けない場合は、絶対に受けておくべきでしょう。 中村先生より まとめ FTは、卵管の閉塞や狭窄のある方に有効で、自然妊娠が期待できる、日帰り手術、保険適用があるなどのメリットがあります。当院の「ダブルスコープ法」ではFTを短時間で確実、安全に行えます。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。 同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。 ≫ なかむらレディースクリニック FTについて教えて! 2017/7/14 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長) 相談者:きよさん(主婦/32歳) 卵管が詰まっているのと年齢が高いため、1年前から体外受精を繰り返しています。仕事を辞めてストレスが激減したり、体にいいことをしているためか、毎月複数採れる卵もだんだんよくなっている(胚盤胞まで2ついくまでになりました)のですが、化学流産までいったものの、妊娠には至りません。 経済的にとても厳しくなってきたので、次回で体外受精はあきらめないといけないのかな?と思っています。あきらめたままだと可能性がほぼ0になってしまうので、FT(卵管鏡下卵管形成術)を検討しています。医師に以前聞いたことがありますが、すぐにまた詰まってしまうし、体外受精のほうが確率は高いという説明を受けました。次回の体外受精で奇跡がおきればいいのですが、ダメだった場合、望みがなくなってしまうのはつらいのでFTを受けてみたいと考えています。 FT(卵管鏡下卵管形成術)について教えてください。 子宮の中にある卵管の入り口(卵管口)から、FTカテーテルとよばれる細い管に気圧をかけて順繰りに送り出し、卵管の閉塞や狭窄を治療する方法です。また、カテーテル内に卵管鏡とよばれる細いファイバースコープがはいっていて、卵管内を観察します。 FTのメリットデメリットについてお教えください FTのメリットは3つあります。(1)卵管性不妊に効果が高く、自然妊娠が期待できること(2)侵襲性が低く、日帰り手術が可能なこと(3)保険適応があるため経済的負担が軽いことです。一方で、デメリットは慣れていないと手技的にむずかしい点があります。とくに卵管鏡の画像は不鮮明でピントが合う範囲が限られているため、卵管口を探すのに時間がかかります。また、カテーテルが卵管口にうまく入らず、子宮内をさまよっていても卵管鏡の画像では気づきにくいことがあります。卵管口を探すのは子宮鏡を用いれば簡単です。 当院では、卵管鏡と子宮鏡を組み合わせた「ダブルスコープ法(子宮鏡併用卵管鏡下卵管形成術)」という独自の方法でおこなっています。卵管口をすぐに見つけられることができ、FTカテーテルを確実に短時間で挿入できます。 FTはどのような人に向いていますか?また、体外受精と比較した場合、どちらがよいのでしょうか? 卵管が狭窄していたり、卵管に軽度の閉塞がある人に向いています。卵管性不妊の場合、FTをすると自然妊娠の確率は飛躍的に上昇します。効果は1年程度期待できます。卵管性不妊でも卵管の外側が癒着している症例や、卵管采の癒着や卵管水腫にはあまり効果がありません。そのような場合は体外受精を選択します。 この方は卵管が詰まっているので、FTは受けるべきでしょう。年齢も高齢といわれていますが、30代前半なので高齢のうちにははいりません。自然妊娠も十分に期待できます。特に体外受精を受けない場合は、絶対に受けておくべきでしょう。 中村先生より まとめ FTは、卵管の閉塞や狭窄のある方に有効で、自然妊娠が期待できる、日帰り手術、保険適用があるなどのメリットがあります。当院の「ダブルスコープ法」ではFTを短時間で確実、安全に行えます。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。 同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。 ≫ なかむらレディースクリニック
2017.7.14
専門医Q&A 不妊治療
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病院によって胚盤胞移植の判定日が違うのはなぜ?
病院によって胚盤胞移植の判定日が違うのはなぜ? 2017/6/23 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長) 相談者:りんりんさん(主婦/32歳) 胚盤胞移植から10日目です。ネットで調べると、10日目で判定する病院もあるみたいなので、私もそうしたいです。私の病院では判定まで採血が2〜3回あるんですが、HCGは調べてないみたいです。E2とPだけです。 先生に聞いたところ、一番確実なのは14日目からといわれました。 でも10日目でHCGが一桁だとほぼ妊娠してないですよね…。 判定日まですごいストレスで、気がおかしくなりそうなので早く知りたいです。 明日、チェックワンファストで調べるつもりですが、病院のやり方にちょっと疑問が出てしまいました。早くわかれば、かなり苦痛な膣座薬もやめられるし、薬も無駄にならないのに…。と思ってしまって。 みなさんの病院はどうでしたか?教えてください。 胚盤胞移植の判定日について教えてください。 判定日は施設によって移植後10日後から14日後くらいまでと異なりますが、どれが優れているということはありません。それぞれの施設の検査器の特性や、蓄積データにより判定基準値が異なるためです。当院では胚盤胞移植後10日目に血中のβ-hCGを測定し、同時にE2とPの値も確認してホルモン補充量を調整しています。大切なことは、β-hCGの値は、妊娠経過の予測ですので、数値が低くても妊娠が継続することもあれば、数値が高くても化学流産に終わることもあります。お気持ちはよくわかりますが、何事も経過をみないと判断できません。また、早期の妊娠検査薬の使用は精度が低いのでおすすめできません。自己判断で薬の使用を中止することなどは絶対に避けてください。 胚盤胞まで培養したほうが良いのはなぜでしょうか? 年齢が若い方で受精卵が複数個ある場合、胚盤胞まで到達する受精卵がもっとも生命力の強い受精卵ですので、胚盤胞移植が適していると思います。一方、40代になると胚盤胞の到達率が低下したり、体外培養によって途中で成長を止める受精卵もあります。胚盤胞の到達率が低い場合は、初期胚移植をおすすめしています。 新鮮胚移植、タイミング法、人工授精の判定日についても教えてください。 当院の体外受精での判定日は、初期胚であれば移植後12日目で、胚盤胞であれば、10日目です。どちらもβ-hCG、E2、Pの値を測定します。また、タイミング法と人工授精については妊娠5週目です。つまりタイミングをとったり、人工授精の3週間後に妊娠検査薬(尿判定)により判定します。β-hCGの検査は費用が高いことや、体外受精ほどホルモンの調整を必要としないため、少し遅い時期に判定しています。 中村先生より まとめ 体外受精の判定日は施設によって10日〜14日まで異なり、 どれが正しいということはありません。判定数値はあくまでも予測であり、経過観察が必要です。早期の妊娠検査薬で自己判断し、薬の使用を止めることなどは絶対に避けましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。 同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。 ≫ なかむらレディースクリニック 病院によって胚盤胞移植の判定日が違うのはなぜ? 2017/6/23 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長) 相談者:りんりんさん(主婦/32歳) 胚盤胞移植から10日目です。ネットで調べると、10日目で判定する病院もあるみたいなので、私もそうしたいです。私の病院では判定まで採血が2〜3回あるんですが、HCGは調べてないみたいです。E2とPだけです。 先生に聞いたところ、一番確実なのは14日目からといわれました。 でも10日目でHCGが一桁だとほぼ妊娠してないですよね…。 判定日まですごいストレスで、気がおかしくなりそうなので早く知りたいです。 明日、チェックワンファストで調べるつもりですが、病院のやり方にちょっと疑問が出てしまいました。早くわかれば、かなり苦痛な膣座薬もやめられるし、薬も無駄にならないのに…。と思ってしまって。 みなさんの病院はどうでしたか?教えてください。 胚盤胞移植の判定日について教えてください。 判定日は施設によって移植後10日後から14日後くらいまでと異なりますが、どれが優れているということはありません。それぞれの施設の検査器の特性や、蓄積データにより判定基準値が異なるためです。当院では胚盤胞移植後10日目に血中のβ-hCGを測定し、同時にE2とPの値も確認してホルモン補充量を調整しています。大切なことは、β-hCGの値は、妊娠経過の予測ですので、数値が低くても妊娠が継続することもあれば、数値が高くても化学流産に終わることもあります。お気持ちはよくわかりますが、何事も経過をみないと判断できません。また、早期の妊娠検査薬の使用は精度が低いのでおすすめできません。自己判断で薬の使用を中止することなどは絶対に避けてください。 胚盤胞まで培養したほうが良いのはなぜでしょうか? 年齢が若い方で受精卵が複数個ある場合、胚盤胞まで到達する受精卵がもっとも生命力の強い受精卵ですので、胚盤胞移植が適していると思います。一方、40代になると胚盤胞の到達率が低下したり、体外培養によって途中で成長を止める受精卵もあります。胚盤胞の到達率が低い場合は、初期胚移植をおすすめしています。 新鮮胚移植、タイミング法、人工授精の判定日についても教えてください。 当院の体外受精での判定日は、初期胚であれば移植後12日目で、胚盤胞であれば、10日目です。どちらもβ-hCG、E2、Pの値を測定します。また、タイミング法と人工授精については妊娠5週目です。つまりタイミングをとったり、人工授精の3週間後に妊娠検査薬(尿判定)により判定します。β-hCGの検査は費用が高いことや、体外受精ほどホルモンの調整を必要としないため、少し遅い時期に判定しています。 中村先生より まとめ 体外受精の判定日は施設によって10日〜14日まで異なり、 どれが正しいということはありません。判定数値はあくまでも予測であり、経過観察が必要です。早期の妊娠検査薬で自己判断し、薬の使用を止めることなどは絶対に避けましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。 同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。 ≫ なかむらレディースクリニック
2017.6.23
コラム 不妊治療
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胚盤胞の移植日は固定化されているものですか?
胚盤胞の移植日は固定化されているものですか? 2017/6/19 中村 拓実先生(なかむらアートクリニック) 相談者:みっぽさん(41歳) 生理の周期が短め。移植のスケジュールで妊娠確率は変わる? 32歳のとき、卵巣嚢腫の手術をしました。41歳の現在も子宮内膜症で、子宮筋腫があり、卵巣脳腫もまたできています。不妊治療を始めて2年経ちますが、医師には問題ないと言われています。昨年、年齢のわりにはグレードの良い胚盤胞が3個できました(5AA、5AB、4BA)。2つはホルモン補充周期で移植、あと1つは自然周期で移植しましたが妊娠できませんでした。次の採卵でも胚盤胞が3個できました(5AA、4AB、3BA)。今のクリニックでは、ホルモン補充周期だと移植は22日目と決まっていますが、ホルモン補充周期の場合、着床の窓は絶対ずれないのでしょうか? 私の場合、生理の周期が26日と短めなので、移植日を1日、2日早くすれば確率が変わったりするのでしょうか? 年齢が若くはないので、治療はこれで最後にしようと思っています。 みっぽさんが言う、22日目に移植というスケジュールは変更できるものですか? 一般に、ホルモン補充周期では月経10日目から14日目ごろに子宮内膜の厚さなどをチェックして、移植日を決定します。ホルモン補充周期の移植日を固定している施設もあります。一方、ホルモン補充周期でも着床の窓がずれている可能性があるとの報告もあります。他にも様々な要因を考慮して移植日が決まりますので、担当医に相談してみたらいかがでしょうか。月経周期が短いから移植日を早めれば着床率が上がるということはないと思います。 卵巣嚢腫があることと、今回の着床については関係がありますか? グレードの良い胚盤胞でも染色体異常の割合は高いため、3〜4回続けて着床しないケースは珍しいことではありません。卵巣囊腫があっても、着床には影響していないと考えられますので、子宮内膜症の治療よりも、今は不妊治療の方を優先されるべきだと思います。 中村先生より まとめ 排卵誘発や胚移植は各施設がそれぞれ工夫した方法で行っています。治療を進めていくうえで、担当医の説明が分かりにくい場合や、疑問に思うことがあった場合は、遠慮なく担当医に相談して、納得のいく治療をしていただきたいと思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 拓実先生(なかむらアートクリニック) 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科教室入局。2005年より木場公園クリニック、2009年よりみなとみらい夢クリニック勤務を経て、2015年11月 なかむらアートクリニック開設。高刺激法、低刺激法、どちらも数多く取り組んだ経験をもとに、患者さんとのコミュニケーションをモットーに、両方の視点からアプローチを探ってくれる優しく穏やかな先生。近隣の方はもちろん、新横浜という土地柄、評判を聞いて静岡などから来院する方もいるそう。 ≫ なかむらアートクリニック 胚盤胞の移植日は固定化されているものですか? 2017/6/19 中村 拓実先生(なかむらアートクリニック) 相談者:みっぽさん(41歳) 生理の周期が短め。移植のスケジュールで妊娠確率は変わる? 32歳のとき、卵巣嚢腫の手術をしました。41歳の現在も子宮内膜症で、子宮筋腫があり、卵巣脳腫もまたできています。不妊治療を始めて2年経ちますが、医師には問題ないと言われています。昨年、年齢のわりにはグレードの良い胚盤胞が3個できました(5AA、5AB、4BA)。2つはホルモン補充周期で移植、あと1つは自然周期で移植しましたが妊娠できませんでした。次の採卵でも胚盤胞が3個できました(5AA、4AB、3BA)。今のクリニックでは、ホルモン補充周期だと移植は22日目と決まっていますが、ホルモン補充周期の場合、着床の窓は絶対ずれないのでしょうか? 私の場合、生理の周期が26日と短めなので、移植日を1日、2日早くすれば確率が変わったりするのでしょうか? 年齢が若くはないので、治療はこれで最後にしようと思っています。 みっぽさんが言う、22日目に移植というスケジュールは変更できるものですか? 一般に、ホルモン補充周期では月経10日目から14日目ごろに子宮内膜の厚さなどをチェックして、移植日を決定します。ホルモン補充周期の移植日を固定している施設もあります。一方、ホルモン補充周期でも着床の窓がずれている可能性があるとの報告もあります。他にも様々な要因を考慮して移植日が決まりますので、担当医に相談してみたらいかがでしょうか。月経周期が短いから移植日を早めれば着床率が上がるということはないと思います。 卵巣嚢腫があることと、今回の着床については関係がありますか? グレードの良い胚盤胞でも染色体異常の割合は高いため、3〜4回続けて着床しないケースは珍しいことではありません。卵巣囊腫があっても、着床には影響していないと考えられますので、子宮内膜症の治療よりも、今は不妊治療の方を優先されるべきだと思います。 中村先生より まとめ 排卵誘発や胚移植は各施設がそれぞれ工夫した方法で行っています。治療を進めていくうえで、担当医の説明が分かりにくい場合や、疑問に思うことがあった場合は、遠慮なく担当医に相談して、納得のいく治療をしていただきたいと思います。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 拓実先生(なかむらアートクリニック) 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科教室入局。2005年より木場公園クリニック、2009年よりみなとみらい夢クリニック勤務を経て、2015年11月 なかむらアートクリニック開設。高刺激法、低刺激法、どちらも数多く取り組んだ経験をもとに、患者さんとのコミュニケーションをモットーに、両方の視点からアプローチを探ってくれる優しく穏やかな先生。近隣の方はもちろん、新横浜という土地柄、評判を聞いて静岡などから来院する方もいるそう。 ≫ なかむらアートクリニック
2017.6.16
インタビュー 不妊治療
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タイムラプスを活用した受精卵の成長について教えてください
タイムラプスを活用した受精卵の成長について教えてください 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 40代の妊娠と受精卵の成長はどのようにかかわっているのでしょうか。近年、タイムラプスを活用した受精卵の選別について臨床研究を進めている、レディースクリニック北浜の奥 裕嗣先生にくわしく教えていただきました。 40代の流産の原因は染色体異常がほとんど 流産の原因は母体の年齢によって異なりますが、染色体異常とその他の原因の大きく2つに分かれます。なかでも年齢とともに染色体異常の確率が高くなり、20代では50%、40歳以上では80%以上になります。とくに染色体異常のほとんどは「数の異常」によるものです。通常は2本ある染色体が、トリソミー(染色体が3本)やモノソミー(染色体が1本)になると、流産や死産の可能性が高くなります。一方、わずかな確率で起こる「構造異常」もあります。これは染色体に異常が起こり、構造が一部変化したもので「転座型」とも呼ばれます。しかし、40歳以上の原因のほとんどはトリソミーの染色体異常です。染色体異常以外の原因には、抗リン脂質抗体、血液凝固系の異常、抗核抗体などがあります。 見た目で受精卵を選ぶ評価方法に限界も 40歳以上の受精卵については、成長スピードが遅くなる傾向はありますが、全員ではありません。それよりも厄介なのは、形態的にみてまったく問題がなさそうにみえる受精卵です。例えば、グレードが良好で理想的な胚盤胞に成長したとしてもその約40%に染色体異常の可能性があります。形態的な評価のみで移植を行った場合のリスクは非常に高く、染色体異常の受精卵が着床してしまうと、妊娠しないこと以上に経過がよくありません。妊娠しなければすぐに治療ができますが、染色体異常の受精卵が着床した場合は、流産手術など肉体的、精神的な負担が大きいうえに、その後の治療を再開するまでに3〜5カ月を要することになります。仮に分割胚のグレード4〜5の受精卵であれば、染色体異常の可能性は十分に考えられますが、グレードが非常に良い場合であっても染色体異常の可能性があるため、PGS(着床前診断)が認可されていない日本では、そのあたりの判断がむずかしいところです。 ※AMH:抗ミュラー管ホルモン タイムラプスによる受精卵の選別が可能に!? そこで、当院ではタイムラプスによる受精卵の選別を試みています。タイムラプス(低速度撮影)で24時間、受精卵の成長をモニターしながら、良い受精卵を選んでいきます。 受精卵の分割過程を観察していると、通常は2分割から4分割と偶数に分割しますが、なかには1分割から3分割と奇数に分割する卵子があることがわかります。このような卵子は、胚盤胞になりにくく染色体異常のリスクが高い(妊娠率が低く、流産率が高い)とされており、受精卵の選択が可能な場合は、形態的な評価は高くても第一選択で移植しないようにしています。 また、これまで胚盤胞の成長は平均5日目、遅いもので6日目というのが一般的な考え方でした。しかし、タイムラプスで観察すると4日目で胚盤胞になるものがかなりあることもわかってきました。早く成長するということは良い卵子である可能性が高いということです。ちなみに、当院で4日目の胚盤胞を移植した時の着床率は約80%です。タイムラプスの導入により、4日目の胚盤胞を選べるようになったことも大きな成果です。 40代には分割胚の凍結胚移植を提案 40歳以上の受精卵染色体異常の確率は80%以上とお話しましたが、それ以外の正常なものをどうレスキューしていくか。当院では、40歳以上の方には凍結胚移植を積極的に提案しています。その理由は、40歳以上の妊娠率が新鮮胚移植で19%、凍結胚移植では37・5%と圧倒的に高く、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の予防にもつながること。さらに日本で開発されたガラス化法の凍結技術は、受精卵の変性が少なく、受精卵を効率良く利用できるからです。 また、40歳以上の受精卵の成長スピードは遅い傾向にありますから、受精卵を凍結している間に黄体ホルモン補充を行い、「着床の窓」といわれるインプランテーションウィンドウの開閉を遅らせて着床しやすいタイミングをつくることができます。 さらに、絶対的ではありませんが、40歳以上の受精卵は体外培養のストレスに弱く、胚盤胞よりも早く移植するのが望ましいとの報告があります。例えば、アメリカのビル・リー医師は、採取した卵子と精子を卵管内で受精させるGIFT法を奨励しています。そこで、当院でも40歳以上の凍結胚移植においては、胚盤胞ではなく、2日目の分割胚を初回は実施しています。 最後に、40歳以上の妊娠・出産率は、さらに年齢を重ねるにつれ、低くなる一方です。例えば、40歳でご結婚された方は、その時点ですでにご自分が不妊症である可能性があると思っていただくことが妊娠への近道です。すぐに病院にかかられることをおすすめします。 奥先生より まとめ 40歳以上に多い染色体異常の受精卵。タイムラプスで選別できる日が来るかもしれません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微受精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。もうすぐタイで英才教育を受けたワンちゃんが来日。家族になる日を楽しみにしている先生。「今いる子は日本チャンピオンなので、新しい子は世界チャンピオンに(笑)世界を飛び回ってほしいですね」 ≫ レディースクリニック北浜 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら タイムラプスを活用した受精卵の成長について教えてください 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 40代の妊娠と受精卵の成長はどのようにかかわっているのでしょうか。近年、タイムラプスを活用した受精卵の選別について臨床研究を進めている、レディースクリニック北浜の奥 裕嗣先生にくわしく教えていただきました。 40代の流産の原因は染色体異常がほとんど 流産の原因は母体の年齢によって異なりますが、染色体異常とその他の原因の大きく2つに分かれます。なかでも年齢とともに染色体異常の確率が高くなり、20代では50%、40歳以上では80%以上になります。とくに染色体異常のほとんどは「数の異常」によるものです。通常は2本ある染色体が、トリソミー(染色体が3本)やモノソミー(染色体が1本)になると、流産や死産の可能性が高くなります。一方、わずかな確率で起こる「構造異常」もあります。これは染色体に異常が起こり、構造が一部変化したもので「転座型」とも呼ばれます。しかし、40歳以上の原因のほとんどはトリソミーの染色体異常です。染色体異常以外の原因には、抗リン脂質抗体、血液凝固系の異常、抗核抗体などがあります。 見た目で受精卵を選ぶ評価方法に限界も 40歳以上の受精卵については、成長スピードが遅くなる傾向はありますが、全員ではありません。それよりも厄介なのは、形態的にみてまったく問題がなさそうにみえる受精卵です。例えば、グレードが良好で理想的な胚盤胞に成長したとしてもその約40%に染色体異常の可能性があります。形態的な評価のみで移植を行った場合のリスクは非常に高く、染色体異常の受精卵が着床してしまうと、妊娠しないこと以上に経過がよくありません。妊娠しなければすぐに治療ができますが、染色体異常の受精卵が着床した場合は、流産手術など肉体的、精神的な負担が大きいうえに、その後の治療を再開するまでに3〜5カ月を要することになります。仮に分割胚のグレード4〜5の受精卵であれば、染色体異常の可能性は十分に考えられますが、グレードが非常に良い場合であっても染色体異常の可能性があるため、PGS(着床前診断)が認可されていない日本では、そのあたりの判断がむずかしいところです。 ※AMH:抗ミュラー管ホルモン タイムラプスによる受精卵の選別が可能に!? そこで、当院ではタイムラプスによる受精卵の選別を試みています。タイムラプス(低速度撮影)で24時間、受精卵の成長をモニターしながら、良い受精卵を選んでいきます。 受精卵の分割過程を観察していると、通常は2分割から4分割と偶数に分割しますが、なかには1分割から3分割と奇数に分割する卵子があることがわかります。このような卵子は、胚盤胞になりにくく染色体異常のリスクが高い(妊娠率が低く、流産率が高い)とされており、受精卵の選択が可能な場合は、形態的な評価は高くても第一選択で移植しないようにしています。 また、これまで胚盤胞の成長は平均5日目、遅いもので6日目というのが一般的な考え方でした。しかし、タイムラプスで観察すると4日目で胚盤胞になるものがかなりあることもわかってきました。早く成長するということは良い卵子である可能性が高いということです。ちなみに、当院で4日目の胚盤胞を移植した時の着床率は約80%です。タイムラプスの導入により、4日目の胚盤胞を選べるようになったことも大きな成果です。 40代には分割胚の凍結胚移植を提案 40歳以上の受精卵染色体異常の確率は80%以上とお話しましたが、それ以外の正常なものをどうレスキューしていくか。当院では、40歳以上の方には凍結胚移植を積極的に提案しています。その理由は、40歳以上の妊娠率が新鮮胚移植で19%、凍結胚移植では37・5%と圧倒的に高く、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の予防にもつながること。さらに日本で開発されたガラス化法の凍結技術は、受精卵の変性が少なく、受精卵を効率良く利用できるからです。 また、40歳以上の受精卵の成長スピードは遅い傾向にありますから、受精卵を凍結している間に黄体ホルモン補充を行い、「着床の窓」といわれるインプランテーションウィンドウの開閉を遅らせて着床しやすいタイミングをつくることができます。 さらに、絶対的ではありませんが、40歳以上の受精卵は体外培養のストレスに弱く、胚盤胞よりも早く移植するのが望ましいとの報告があります。例えば、アメリカのビル・リー医師は、採取した卵子と精子を卵管内で受精させるGIFT法を奨励しています。そこで、当院でも40歳以上の凍結胚移植においては、胚盤胞ではなく、2日目の分割胚を初回は実施しています。 最後に、40歳以上の妊娠・出産率は、さらに年齢を重ねるにつれ、低くなる一方です。例えば、40歳でご結婚された方は、その時点ですでにご自分が不妊症である可能性があると思っていただくことが妊娠への近道です。すぐに病院にかかられることをおすすめします。 奥先生より まとめ 40歳以上に多い染色体異常の受精卵。タイムラプスで選別できる日が来るかもしれません。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜) 1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微受精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。もうすぐタイで英才教育を受けたワンちゃんが来日。家族になる日を楽しみにしている先生。「今いる子は日本チャンピオンなので、新しい子は世界チャンピオンに(笑)世界を飛び回ってほしいですね」 ≫ レディースクリニック北浜 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.27
コラム 不妊治療
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男性不妊、卵管障害を乗り越え、待望の妊娠
夫婦で不妊に向き合うこと。協力し、前向きに取り組むことで治療が楽しい思い出に変わりました。 まさか私たちが体外受精なんて…。不妊の診断を受けてから、つらい治療も二人で乗り越えてきたナツコさん、アキトさんご夫婦(ともに仮名)。待望のお子さんを授かった今、伝えたい思いがあります。 「30歳までに産めれば」軽く考えていた結婚2年目 今回、二人揃ってインタビューに臨んでくれた、ナツコさん(31歳)とアキトさん(28歳)ご夫婦。ナツコさんは現在妊娠4カ月、結婚5年目で初めて授かったお子さんとの生活が楽しみで仕方ないという二人です。 夫婦の出会いはナツコさんが27歳、アキトさんが23歳の時でした。「お互い別のグループで訪れた飲食店でたまたま出会い、意気投合したんです。可愛くて優しい女性だなと思って」とアキトさん。 そして、偶然の出会いから約8カ月で結婚と、トントン拍子に進んでいったといいます。「漠然と『30歳までには子どもを授かりたい』、と思っていたので、27歳で出会って28歳で結婚という選択は自然な流れでした」。 ナツコさんのこの「30歳までには」という言葉には、理由がありました。「実は、私の知人が体外受精で子どもを授かったということに影響を受けています。その様子をそばで見ていたので、子どもは30歳までには産みたいし、それには結婚はできるだけ早いほうがいいと思っていたんです」。 子どもはなるべく早めに、という気持ちで結婚した二人でしたが、意外にも結婚後の計画は気ままでマイペースなものだったといいます。「知人の子どもたちがとにかく可愛くて(笑)。自分たちのことは棚に上げて、そのうち授かるだろうと軽く考えていましたね」。 そして結婚して2年目に入った頃に、不妊治療の先輩でもある知人にすすめられたこともあり、「一応診てもらっておこうか」と夫婦で受診することに。その結果、アキトさんの男性不妊が判明。そのうえ、ナツコさんにも卵管狭窄と卵管癒着が見つかり、子どもを授かるには体外受精しかないという診断を受けます。 協力して取り組むも成功せず一度は治療を中断したことも 当初、不妊に対する知識はまったくなかったというアキトさんでしたが、男性不妊という結果を知った時は、「ショックというよりも、じゃあこれから何をすればいいのか? という気持ち」だったといいます。それからは同じ境遇の人のブログを読んだり、クリニックの勉強会へ参加したりすることで知識を得て、夫婦で不妊を乗り越える決意をしていくのです。 実はこの時、まだ二人の頭には、「不妊とはいえ、体外受精を行えば、すぐに子どもは授かるだろう」という考えがありました。「知人は移植1回目で陽性、妊娠できましたので、そういうものだと考えていました。だから自分も1回で授かれるだろう、と」。 しかし、初めての移植の結果は陰性。その2カ月後に再度トライし、陽性反応が出ますが、8週ほどで残念ながら流産してしまいます。「体外受精でもダメなことってあるの? と、本当に落ち込みました。それで、そこから1年ほど治療をお休みしたんです」。 もう一度チャレンジしてみようと思ったのは、ナツコさんの職場が、時間の融通がきくようになったためです。「治療再開となると仕事を抜けなければばらないことや、休ませてもらうことも多くなります。前回の結果のこともあって気後れしていたのですが、環境が整ったことで勢いがついたというか、『チャレンジするなら今だ!』と。幸い、女性が多い職場で、みんなが応援してくれたのも後押しになりました」。 再開後、最初の採卵ではグレードの良い卵子が採れず、血流が悪いことがうまくいかない要因のひとつかもしれない、という指摘を受けたナツコさんは、血流アップのために週2回のレーザー治療や、鍼灸治療にも通います。また、結果が思わしくなかった低刺激法ではなく、高刺激法にシフトして再度チャレンジをしたところ、トータル4回目の移植で妊娠の判定が! 「今となってはなにが功を奏したのかわかりませんが、その採卵の時はグレードの良い卵子が採れたんです。その時のものを現在も5つほど凍結しています。これからもその凍結した卵子を使ってチャレンジするつもりですが、まずは1人目を授かれたことに感謝しながら、しっかり育てていこうと思います」 不妊治療のスタートは早ければ早いほどいい 終始前向きに、支え合いながら治療に取り組んだ二人。先の見えない不安に押しつぶされそうになるたびに、話し合い、協力して治療を楽しんできたのだそうです。ナツコさんはいいます。「もちろん通院はつらかったですが、毎回採卵のやり方を変えていたこともあり、次はどうだろう? うまくいくかな? と結果を楽しみに待つ気持ちが強かったです」。 今、二人がジネコ読者に伝えたいこと。それは「結婚半年を過ぎても妊娠しなかったら、とにかく早めにクリニックを受診してほしい」ということです。「何もしないままいつの間にか時が過ぎてしまい、妊娠の機会を遅らせてしまう夫婦が少しでも減ってほしいんです」とナツコさん。このことは常日頃から、二人の周囲の人たちにも伝えているそう。また、男性不妊という結果を受け止めたアキトさんからは、「男性も、自分には関係ないと思ってはいけません。それに、女性には妊娠にタイムリミットがあるということをもっと男性も知るべきだと思います。不妊について関心をもつ男性が増えることを願っています」。 今は毎日、二人でお腹にドップラー心音計をあてて鼓動を確認するのが日課だと、幸せそうに語ってくれました。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら 夫婦で不妊に向き合うこと。協力し、前向きに取り組むことで治療が楽しい思い出に変わりました。 まさか私たちが体外受精なんて…。不妊の診断を受けてから、つらい治療も二人で乗り越えてきたナツコさん、アキトさんご夫婦(ともに仮名)。待望のお子さんを授かった今、伝えたい思いがあります。 「30歳までに産めれば」軽く考えていた結婚2年目 今回、二人揃ってインタビューに臨んでくれた、ナツコさん(31歳)とアキトさん(28歳)ご夫婦。ナツコさんは現在妊娠4カ月、結婚5年目で初めて授かったお子さんとの生活が楽しみで仕方ないという二人です。 夫婦の出会いはナツコさんが27歳、アキトさんが23歳の時でした。「お互い別のグループで訪れた飲食店でたまたま出会い、意気投合したんです。可愛くて優しい女性だなと思って」とアキトさん。 そして、偶然の出会いから約8カ月で結婚と、トントン拍子に進んでいったといいます。「漠然と『30歳までには子どもを授かりたい』、と思っていたので、27歳で出会って28歳で結婚という選択は自然な流れでした」。 ナツコさんのこの「30歳までには」という言葉には、理由がありました。「実は、私の知人が体外受精で子どもを授かったということに影響を受けています。その様子をそばで見ていたので、子どもは30歳までには産みたいし、それには結婚はできるだけ早いほうがいいと思っていたんです」。 子どもはなるべく早めに、という気持ちで結婚した二人でしたが、意外にも結婚後の計画は気ままでマイペースなものだったといいます。「知人の子どもたちがとにかく可愛くて(笑)。自分たちのことは棚に上げて、そのうち授かるだろうと軽く考えていましたね」。 そして結婚して2年目に入った頃に、不妊治療の先輩でもある知人にすすめられたこともあり、「一応診てもらっておこうか」と夫婦で受診することに。その結果、アキトさんの男性不妊が判明。そのうえ、ナツコさんにも卵管狭窄と卵管癒着が見つかり、子どもを授かるには体外受精しかないという診断を受けます。 協力して取り組むも成功せず一度は治療を中断したことも 当初、不妊に対する知識はまったくなかったというアキトさんでしたが、男性不妊という結果を知った時は、「ショックというよりも、じゃあこれから何をすればいいのか? という気持ち」だったといいます。それからは同じ境遇の人のブログを読んだり、クリニックの勉強会へ参加したりすることで知識を得て、夫婦で不妊を乗り越える決意をしていくのです。 実はこの時、まだ二人の頭には、「不妊とはいえ、体外受精を行えば、すぐに子どもは授かるだろう」という考えがありました。「知人は移植1回目で陽性、妊娠できましたので、そういうものだと考えていました。だから自分も1回で授かれるだろう、と」。 しかし、初めての移植の結果は陰性。その2カ月後に再度トライし、陽性反応が出ますが、8週ほどで残念ながら流産してしまいます。「体外受精でもダメなことってあるの? と、本当に落ち込みました。それで、そこから1年ほど治療をお休みしたんです」。 もう一度チャレンジしてみようと思ったのは、ナツコさんの職場が、時間の融通がきくようになったためです。「治療再開となると仕事を抜けなければばらないことや、休ませてもらうことも多くなります。前回の結果のこともあって気後れしていたのですが、環境が整ったことで勢いがついたというか、『チャレンジするなら今だ!』と。幸い、女性が多い職場で、みんなが応援してくれたのも後押しになりました」。 再開後、最初の採卵ではグレードの良い卵子が採れず、血流が悪いことがうまくいかない要因のひとつかもしれない、という指摘を受けたナツコさんは、血流アップのために週2回のレーザー治療や、鍼灸治療にも通います。また、結果が思わしくなかった低刺激法ではなく、高刺激法にシフトして再度チャレンジをしたところ、トータル4回目の移植で妊娠の判定が! 「今となってはなにが功を奏したのかわかりませんが、その採卵の時はグレードの良い卵子が採れたんです。その時のものを現在も5つほど凍結しています。これからもその凍結した卵子を使ってチャレンジするつもりですが、まずは1人目を授かれたことに感謝しながら、しっかり育てていこうと思います」 不妊治療のスタートは早ければ早いほどいい 終始前向きに、支え合いながら治療に取り組んだ二人。先の見えない不安に押しつぶされそうになるたびに、話し合い、協力して治療を楽しんできたのだそうです。ナツコさんはいいます。「もちろん通院はつらかったですが、毎回採卵のやり方を変えていたこともあり、次はどうだろう? うまくいくかな? と結果を楽しみに待つ気持ちが強かったです」。 今、二人がジネコ読者に伝えたいこと。それは「結婚半年を過ぎても妊娠しなかったら、とにかく早めにクリニックを受診してほしい」ということです。「何もしないままいつの間にか時が過ぎてしまい、妊娠の機会を遅らせてしまう夫婦が少しでも減ってほしいんです」とナツコさん。このことは常日頃から、二人の周囲の人たちにも伝えているそう。また、男性不妊という結果を受け止めたアキトさんからは、「男性も、自分には関係ないと思ってはいけません。それに、女性には妊娠にタイムリミットがあるということをもっと男性も知るべきだと思います。不妊について関心をもつ男性が増えることを願っています」。 今は毎日、二人でお腹にドップラー心音計をあてて鼓動を確認するのが日課だと、幸せそうに語ってくれました。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.23
コラム 不妊治療
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“精子”が原因の不妊とわかった、その時夫は?
「僕のせいだから」と舅姑に言ってくれた夫に感謝! こんなに正直で、思いやりのある夫だからこそ、「この人の子どもが欲しい!」と、より強く思いました。 「愛する人の子どもを産みたい!」のは、当然の心理。でも、愛する人が傍にいてくれる、それだけで十分。子どもがいなくたって大丈夫! でも、授かったラッキー! 35歳で妊娠を諦めた夫婦に訪れた幸運の物語です。 赤ちゃんを授からない、思い当たらない不妊原因 マヤさん(36歳)は岡山県のご出身、2歳年上のご主人は兵庫県出身。お二人の出会いは11年前の東京、青年海外協力隊の試験会場でした。「感じのいい人だな、と僕のほうから声をかけました」とご主人。マヤさんも「見かけはクールなのに、話をしたら楽しい人で」と、そこからお付き合いが始まったとのこと。残念ながらマヤさんは試験に通りませんでしたが、ご主人は1年後にトンガ王国への派遣が決定。なんと、出発3日前に入籍されたのだそう。赴任中の2年間は、マヤさんもトンガと岡山を行ったり来たりと、慌ただしい新婚生活のスタートでした。 帰国後、ご主人は東京で再就職。8年前に新居を構えてから漠然と「そろそろ赤ちゃんが欲しいな」と、マヤさんは思い始めました。この時点でマヤさんは28歳でしたが、30歳を過ぎても妊娠の兆候はありませんでした。 「漢方薬を服用したり、体を温める工夫をしたり、ネットなどの情報を頼りに、自分でできることは何でもやってみたのですが、それでも授かることはなく、33歳になって不妊治療専門のクリニックを訪れました」とマヤさん。 栄養士の資格をもつマヤさんは日頃の食事内容には自信があり、生理痛が重かったことから学生時代から婦人科にも通っていました。婦人科では特にトラブルを指摘されたことはなく、不妊の原因は思い当たらなかったのです。 不妊の原因は“僕”とかばった夫に惚れ直し 受診した永井マザーズホスピタルでも、原因はわかりませんでした。「ご主人も検査されては?」と促されて調べたところ、精子の量、運動量も思わしくないと判明。 「僕のほうに大きな理由があるのではないか、ということでした。脚の付け根に静脈瘤が見つかり、それが原因ではないかということですぐに帝京大学病院を紹介していただき、手術を受けました。それでも改善されず、このままでは自然妊娠は難しいだろうということで、顕微授精に切り替えました」と、ご主人。 「夫もつらかったことと思います。それでも、忙しい仕事の合間を縫って真面目に不妊治療に取り組んでくれて、とてもありがたく思いました。夫は長男ということもあり、なかなか孫ができないことを心配してくれていたお義母さん、お義父さんに、“マヤのせいじゃないんだ”と夫のほうから説明してくれて、私をかばってもくれた。惚れ直した瞬間でしたね(笑)。こんなに優しい人の子どもならきっといい子に違いない、この人の子どもを産みたいと、よりいっそう、子どもが欲しい気持ちが強くなりました」と、マヤさんは振り返ります。 マヤさんは、クリニックに通い始めた33歳で仕事を辞め、不妊治療に専念することに決めました。それでも、顕微授精を何度か繰り返してもなかなか授からず、しだいに気持ちが荒んでいきます。 「35歳からは高齢出産になりますし、妊娠率はもっと低くなるはず。それまでに授からなければ、もう授かることはないだろうと、勝手に思い込んでしまったのです」と、マヤさん。仕事を辞めたことで時間を持て余し、頭に浮かぶのはまだ見ぬ赤ちゃんのことばかり。すれ違っただけの妊婦さんを妬み、友人の出産も喜べず、マンション内に響く赤ちゃんの声に耳を塞ぐ日々が続き、感情を抑えきれずにご主人に八つ当たりすることさえあったといいます。 「子どもの虐待のニュースなどを目にすると、“そんな酷い親の元ではなく、ウチに生まれてきてくれればよかったのになぜ?”と憤りました。完全に、心が病んでいたと思います。自己嫌悪に陥り、このままでは夫婦仲まで危うくなりそうで、35歳を区切りに不妊治療をやめる決心をしたのです」と、マヤさん。 テニスをしたり、お酒を飲んだり、趣味嗜好も似た夫婦だから、子どもがいなくたって大丈夫。夫婦二人きりでも楽しく暮らせるはず。子どもがいない人生もアリだよね、だから、これで最後にしようと挑んだ顕微授精で── 妊娠! 感涙がこぼれました。 子がなくても良い人生そう割り切った時…… それでも出産日を迎えるまで、ずっと不安でした。心から喜べたのは、昨年の7月、元気な女の子が誕生してから、やっと。赤ちゃんの笑い声が部屋中に響くたびに、じんわりと幸せに包まれます。 「今思うと、なぜ35歳という年齢にとらわれていたのかな?とも思います。でも、あの時は、あのまま不妊治療を続けるのが怖かったのです。顕微授精の費用は高額で、ギャンブルのように、注ぎ込むほどにやめられなくなりそうな気がしました。これだけお金を使ったのだから元を取りたい。子どもを授かるまでやめられない! という泥沼にはまりそうな気がしたのです。そこで、ふと子どもがいない人生を考えたとき、“夫婦二人きりで楽しく過ごすなら、老後に海外旅行できるくらいのお金は残したいな”と、という思いに至りました。“これだけの治療費を払えば、必ず赤ちゃんを授かる”といった保証はありません。不妊治療費を巡って、夫婦がぎくしゃくするのも本末転倒だと思います。夫婦仲良く、思いやることができれば、その先はなるようになる。そして、なるようにしかならない」と、マヤさんは腹を括ったのです。 「夫も努力してくれている。顕微授精で、あとは着床しだいという時は、私にも問題があるのでは? と思い悩む。お互いに、“ごめんね、私(僕)のせいかも”と気まずい空気が流れるのも耐えられなくてね」と回想するマヤさんですが、妊娠後は景色が一変! 「世の中の人がこんなにも優しいなんて! と、毎日感激の連続です。電車で席を譲られたり、ベビーカーでの移動で手を差し伸べられたり、夫婦ともに関西出身ですが、子どもを通して友人が増えたりとラッキーなことばかり! 赤ちゃんは幸せを運んでくれる、まさに天使!」と、お二人。 それでも、不妊に悩む人が今も多いことは忘れません。かつては自分も、赤ちゃんを抱いて微笑む母親を羨んだことがあるから。「子どもを授かることは当たり前のことではなく、奇跡なのだ」と身をもって知るからこそです。 「私たち夫婦は“たまたま”幸運だっただけ。どうか読者の皆さんにも、奇跡が訪れますように」と、マヤさんは心から願います。そして、「不妊治療より、まずは夫婦の絆を大切に」とも思うのです。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら 「僕のせいだから」と舅姑に言ってくれた夫に感謝! こんなに正直で、思いやりのある夫だからこそ、「この人の子どもが欲しい!」と、より強く思いました。 「愛する人の子どもを産みたい!」のは、当然の心理。でも、愛する人が傍にいてくれる、それだけで十分。子どもがいなくたって大丈夫! でも、授かったラッキー! 35歳で妊娠を諦めた夫婦に訪れた幸運の物語です。 赤ちゃんを授からない、思い当たらない不妊原因 マヤさん(36歳)は岡山県のご出身、2歳年上のご主人は兵庫県出身。お二人の出会いは11年前の東京、青年海外協力隊の試験会場でした。「感じのいい人だな、と僕のほうから声をかけました」とご主人。マヤさんも「見かけはクールなのに、話をしたら楽しい人で」と、そこからお付き合いが始まったとのこと。残念ながらマヤさんは試験に通りませんでしたが、ご主人は1年後にトンガ王国への派遣が決定。なんと、出発3日前に入籍されたのだそう。赴任中の2年間は、マヤさんもトンガと岡山を行ったり来たりと、慌ただしい新婚生活のスタートでした。 帰国後、ご主人は東京で再就職。8年前に新居を構えてから漠然と「そろそろ赤ちゃんが欲しいな」と、マヤさんは思い始めました。この時点でマヤさんは28歳でしたが、30歳を過ぎても妊娠の兆候はありませんでした。 「漢方薬を服用したり、体を温める工夫をしたり、ネットなどの情報を頼りに、自分でできることは何でもやってみたのですが、それでも授かることはなく、33歳になって不妊治療専門のクリニックを訪れました」とマヤさん。 栄養士の資格をもつマヤさんは日頃の食事内容には自信があり、生理痛が重かったことから学生時代から婦人科にも通っていました。婦人科では特にトラブルを指摘されたことはなく、不妊の原因は思い当たらなかったのです。 不妊の原因は“僕”とかばった夫に惚れ直し 受診した永井マザーズホスピタルでも、原因はわかりませんでした。「ご主人も検査されては?」と促されて調べたところ、精子の量、運動量も思わしくないと判明。 「僕のほうに大きな理由があるのではないか、ということでした。脚の付け根に静脈瘤が見つかり、それが原因ではないかということですぐに帝京大学病院を紹介していただき、手術を受けました。それでも改善されず、このままでは自然妊娠は難しいだろうということで、顕微授精に切り替えました」と、ご主人。 「夫もつらかったことと思います。それでも、忙しい仕事の合間を縫って真面目に不妊治療に取り組んでくれて、とてもありがたく思いました。夫は長男ということもあり、なかなか孫ができないことを心配してくれていたお義母さん、お義父さんに、“マヤのせいじゃないんだ”と夫のほうから説明してくれて、私をかばってもくれた。惚れ直した瞬間でしたね(笑)。こんなに優しい人の子どもならきっといい子に違いない、この人の子どもを産みたいと、よりいっそう、子どもが欲しい気持ちが強くなりました」と、マヤさんは振り返ります。 マヤさんは、クリニックに通い始めた33歳で仕事を辞め、不妊治療に専念することに決めました。それでも、顕微授精を何度か繰り返してもなかなか授からず、しだいに気持ちが荒んでいきます。 「35歳からは高齢出産になりますし、妊娠率はもっと低くなるはず。それまでに授からなければ、もう授かることはないだろうと、勝手に思い込んでしまったのです」と、マヤさん。仕事を辞めたことで時間を持て余し、頭に浮かぶのはまだ見ぬ赤ちゃんのことばかり。すれ違っただけの妊婦さんを妬み、友人の出産も喜べず、マンション内に響く赤ちゃんの声に耳を塞ぐ日々が続き、感情を抑えきれずにご主人に八つ当たりすることさえあったといいます。 「子どもの虐待のニュースなどを目にすると、“そんな酷い親の元ではなく、ウチに生まれてきてくれればよかったのになぜ?”と憤りました。完全に、心が病んでいたと思います。自己嫌悪に陥り、このままでは夫婦仲まで危うくなりそうで、35歳を区切りに不妊治療をやめる決心をしたのです」と、マヤさん。 テニスをしたり、お酒を飲んだり、趣味嗜好も似た夫婦だから、子どもがいなくたって大丈夫。夫婦二人きりでも楽しく暮らせるはず。子どもがいない人生もアリだよね、だから、これで最後にしようと挑んだ顕微授精で── 妊娠! 感涙がこぼれました。 子がなくても良い人生そう割り切った時…… それでも出産日を迎えるまで、ずっと不安でした。心から喜べたのは、昨年の7月、元気な女の子が誕生してから、やっと。赤ちゃんの笑い声が部屋中に響くたびに、じんわりと幸せに包まれます。 「今思うと、なぜ35歳という年齢にとらわれていたのかな?とも思います。でも、あの時は、あのまま不妊治療を続けるのが怖かったのです。顕微授精の費用は高額で、ギャンブルのように、注ぎ込むほどにやめられなくなりそうな気がしました。これだけお金を使ったのだから元を取りたい。子どもを授かるまでやめられない! という泥沼にはまりそうな気がしたのです。そこで、ふと子どもがいない人生を考えたとき、“夫婦二人きりで楽しく過ごすなら、老後に海外旅行できるくらいのお金は残したいな”と、という思いに至りました。“これだけの治療費を払えば、必ず赤ちゃんを授かる”といった保証はありません。不妊治療費を巡って、夫婦がぎくしゃくするのも本末転倒だと思います。夫婦仲良く、思いやることができれば、その先はなるようになる。そして、なるようにしかならない」と、マヤさんは腹を括ったのです。 「夫も努力してくれている。顕微授精で、あとは着床しだいという時は、私にも問題があるのでは? と思い悩む。お互いに、“ごめんね、私(僕)のせいかも”と気まずい空気が流れるのも耐えられなくてね」と回想するマヤさんですが、妊娠後は景色が一変! 「世の中の人がこんなにも優しいなんて! と、毎日感激の連続です。電車で席を譲られたり、ベビーカーでの移動で手を差し伸べられたり、夫婦ともに関西出身ですが、子どもを通して友人が増えたりとラッキーなことばかり! 赤ちゃんは幸せを運んでくれる、まさに天使!」と、お二人。 それでも、不妊に悩む人が今も多いことは忘れません。かつては自分も、赤ちゃんを抱いて微笑む母親を羨んだことがあるから。「子どもを授かることは当たり前のことではなく、奇跡なのだ」と身をもって知るからこそです。 「私たち夫婦は“たまたま”幸運だっただけ。どうか読者の皆さんにも、奇跡が訪れますように」と、マヤさんは心から願います。そして、「不妊治療より、まずは夫婦の絆を大切に」とも思うのです。 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.23
コラム 不妊治療
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胚も子宮内膜の状態もいいのに4回移植しても着床しません
胚も子宮内膜の状態もいいのに4回移植しても着床しません 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:マーボナスさん(35歳) 凍結胚盤胞の移植について 3年前から不妊治療をスタート。これまでタイミング法、人工授精6回をした後、体外受精にステップアップしました。クロミッドⓇをベースにした低刺激で採卵4回、胚移植を4回試みましたが、着床していません。先生からは「胚も子宮内膜も良く、なぜ着床しないのかわからない」といわれました。治療の途中に腹腔鏡で卵管采の癒着剥離をして、その1年後に左卵巣に5.5㎝の腫瘤が発見されたのですが、先生は「影響ない」ということでした。では、何が原因なのでしょうか。今後どのようにすれば良いか、アドバイスをお願いします。 良好な胚を戻しても着床しない原因は、どんなことが考えられますか。やはり、卵巣腫瘤なども影響しているのでしょうか。 担当の先生がおっしゃったように、卵巣の腫瘤が原因ということは考えにくいと思います。今すぐ、腫瘤を取ったからといって、妊娠の可能性がすごく上がるということはないのでは。妊娠がしやすいかどうかということに関しては、チョコレート嚢腫ではない限り、特に急いで手を付ける必要はないのかなと思いますね。 通常、良好な胚盤胞を2、3回戻しても着床しない場合、まず免疫の異常が疑われるのではないでしょうか。女性の体は妊娠中はもちろん、着床する前から「受精卵を排除しない」という免疫のブロックがかかっています。それがうまく働かないと着床できないし、妊娠を継続することもできません。 もし、着床を阻害するような免疫異常があった場合、初期胚と胚盤胞を2回に分けて移植する二段階胚移植で妊娠される方もいらっしゃいます。この方法でどなたでも妊娠率が格段にアップするということはいえませんが、まだやっていないようでしたら、試してみる価値は十分あると思います。 また、これまで着床不全や不育症に関わる検査を受けていないようなら、やってみる必要があると思いますね。以前、受けて異常がなかったとしても、1、2年も経つと状況が変わることがあるので、現時点できちんと着床に関わる要素のチェックをしてみる。何か問題があれば、治療で改善できることもあります。 ほかに何かできることはありますか? この段階でできることは、大きく分けて2つあると思います。1つは前述したように検査などで原因になっているかもしれない要素を消去していくこと。もう1つはこれまでやっていない方法にトライしてみることです。 もし良好な胚盤胞が残っているのなら、戻し方を変えてみてはどうでしょうか。自然周期で戻していたら、今度はホルモン補充周期にして、着床しやすくなるかどうかみてみます。また、二段階移植を試す場合は、新たに卵子をつくることを考えなくてはならないかもしれません。その時にどんな方法をとったらいいのか。 マーボナスさんはこれまでほとんど低刺激で卵子をつくっていたようですね。もしかしたらもう少し刺激が強い方法のほうが合っている場合もあります。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の検査をされていないようですが、きちんと数値を確認して、どんな卵巣刺激法がいいのか検討していくことも大切。 卵子が採れていて胚も良好、精子にも異常がないようですから、ご本人が頑張れるなら、対策はまだまだあると思います。希望をもって治療に臨んでいただきたいですね。 北村先生より まとめ ●免疫系の異常も考えられるのでまずは着床に関する検査を ●胚の戻し方や卵巣刺激法など、これまでと違う方法を試してみる [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。本院(荻窪病院)泌尿器科の男性不妊専門医の協力により、TESE-ICSIや逆行性射精など、男性不妊の治療体制も整えている。昨秋は胃腸の調子が悪く、社会人になってから初めて長い期間禁酒生活を送ったとか。検査の結果はまったく異常なし。現在はすっかり回復して、お正月は毎年恒例のスキー合宿をしたそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら 胚も子宮内膜の状態もいいのに4回移植しても着床しません 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 相談者:マーボナスさん(35歳) 凍結胚盤胞の移植について 3年前から不妊治療をスタート。これまでタイミング法、人工授精6回をした後、体外受精にステップアップしました。クロミッドⓇをベースにした低刺激で採卵4回、胚移植を4回試みましたが、着床していません。先生からは「胚も子宮内膜も良く、なぜ着床しないのかわからない」といわれました。治療の途中に腹腔鏡で卵管采の癒着剥離をして、その1年後に左卵巣に5.5㎝の腫瘤が発見されたのですが、先生は「影響ない」ということでした。では、何が原因なのでしょうか。今後どのようにすれば良いか、アドバイスをお願いします。 良好な胚を戻しても着床しない原因は、どんなことが考えられますか。やはり、卵巣腫瘤なども影響しているのでしょうか。 担当の先生がおっしゃったように、卵巣の腫瘤が原因ということは考えにくいと思います。今すぐ、腫瘤を取ったからといって、妊娠の可能性がすごく上がるということはないのでは。妊娠がしやすいかどうかということに関しては、チョコレート嚢腫ではない限り、特に急いで手を付ける必要はないのかなと思いますね。 通常、良好な胚盤胞を2、3回戻しても着床しない場合、まず免疫の異常が疑われるのではないでしょうか。女性の体は妊娠中はもちろん、着床する前から「受精卵を排除しない」という免疫のブロックがかかっています。それがうまく働かないと着床できないし、妊娠を継続することもできません。 もし、着床を阻害するような免疫異常があった場合、初期胚と胚盤胞を2回に分けて移植する二段階胚移植で妊娠される方もいらっしゃいます。この方法でどなたでも妊娠率が格段にアップするということはいえませんが、まだやっていないようでしたら、試してみる価値は十分あると思います。 また、これまで着床不全や不育症に関わる検査を受けていないようなら、やってみる必要があると思いますね。以前、受けて異常がなかったとしても、1、2年も経つと状況が変わることがあるので、現時点できちんと着床に関わる要素のチェックをしてみる。何か問題があれば、治療で改善できることもあります。 ほかに何かできることはありますか? この段階でできることは、大きく分けて2つあると思います。1つは前述したように検査などで原因になっているかもしれない要素を消去していくこと。もう1つはこれまでやっていない方法にトライしてみることです。 もし良好な胚盤胞が残っているのなら、戻し方を変えてみてはどうでしょうか。自然周期で戻していたら、今度はホルモン補充周期にして、着床しやすくなるかどうかみてみます。また、二段階移植を試す場合は、新たに卵子をつくることを考えなくてはならないかもしれません。その時にどんな方法をとったらいいのか。 マーボナスさんはこれまでほとんど低刺激で卵子をつくっていたようですね。もしかしたらもう少し刺激が強い方法のほうが合っている場合もあります。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の検査をされていないようですが、きちんと数値を確認して、どんな卵巣刺激法がいいのか検討していくことも大切。 卵子が採れていて胚も良好、精子にも異常がないようですから、ご本人が頑張れるなら、対策はまだまだあると思います。希望をもって治療に臨んでいただきたいですね。 北村先生より まとめ ●免疫系の異常も考えられるのでまずは着床に関する検査を ●胚の戻し方や卵巣刺激法など、これまでと違う方法を試してみる [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 北村 誠司 先生(荻窪病院 虹クリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても新しい治療を取り入れて対応。本院(荻窪病院)泌尿器科の男性不妊専門医の協力により、TESE-ICSIや逆行性射精など、男性不妊の治療体制も整えている。昨秋は胃腸の調子が悪く、社会人になってから初めて長い期間禁酒生活を送ったとか。検査の結果はまったく異常なし。現在はすっかり回復して、お正月は毎年恒例のスキー合宿をしたそうです。 ≫ 荻窪病院 虹クリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.23
コラム 不妊治療
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子宮内膜症があっても 自然妊娠できる?
子宮内膜症があっても自然妊娠できる? 2017/5/22 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長) 相談者:たぬぽんさん(主婦 / ?歳) 3年前に子宮内膜症(チョコレート嚢胞6cm)と診断され、ずーっと頑張っていますが、その兆候なし…。同じ病院で3回も担当医が変わり、今回引っ越しで転院するので4人目となりますが、3人目の先生に「あなたの場合、体外受精が手っ取り早いでしょう」と言われ、かなりショックを受けました。 調べてみると30代前半なら受精率も高いようですが、35歳以降になるとかなり妊娠の確率が落ちてくるんですよね?夫からは「(自然妊娠の)可能性があるならそっちがいい」と言われるけど、年齢的にあんまりリミットないような…。体外受精はお金もかかるし、可能性があるのなら自然妊娠がいいなぁとも思うし、でもこのまま妊娠できなかったら…と思うと焦ってしまいます。 妊娠しやすい食べ物や飲み物を試したり、ジンクスの物を部屋に置いたりしましたが、有名なKクリニックの先生の著書の中には、妊娠しやすい食べ物や運動療法はあてにならない。ただ精子と卵子が出会わないだけ…と書かれていました。 とにかく…生理が来るたび落ち込んでいます。だから、子宮内膜症で自然妊娠した方から、励ましてもらえたら、また前向きに頑張れるかな?/div> 子宮内膜症があっても自然妊娠は可能でしょうか? この方はショックを受けられたようですが、3人目の先生がおっしゃる通り、体外受精が一番いいと思います。30代半ばの方と推察しますが、この年齢で6cmの嚢胞の手術をすれば卵巣機能はかなり低下します。痛みなどの症状がきつい場合や、悪性が疑われる場合でなければ、手術より体外受精を優先します。 自然妊娠をご希望とのことですが、自然妊娠の可能性は低いと思います。チョコレート嚢腫が6cmくらいあれば、卵管が癒着し、卵子をピックアップできない可能性が高いと思います。3年前から一般不妊治療をして妊娠しないのはそのためです。まして30代半ばになれば、年々妊娠率は低下しますし、内膜症も進行します。厳しいようですが手段を選んでいる場合ではないと思います。たしかに体外受精は費用がかかるイメージがありますが、助成制度を活用すれば、それほどの負担にならずにすみます。 自然妊娠への思いが強い方のようです。 この方も認識されている通り、35歳以降の妊娠率はどんどん低下する一方です。また、 Kクリニックの先生がおっしゃる「妊娠しやすい食べ物や運動療法はあてにならない」というのも本当だと思います。例えばザクロを食べても食べなくても、子宝の湯に浸かっても浸からなくても、精子と卵子がただ出会って受精し着床すれば妊娠は成立する。とてもシンプルなお話です。 また、自然妊娠の可能性が低いのに、同じような境遇で妊娠できた人に励ましてもらい前向きになれたとしても、それでこの方が自然妊娠できるわけではありません。人の身体には個人差があり、また、子宮内膜症の程度も人それぞれです。 相談内容を拝見すると、この方がショックを受けた最大の原因は、体外受精に対する心理的な抵抗でしょう。この抵抗を克服して、一刻も早く体外受精に進んでいただきたいと思います。きっと道はひらけます。 中村先生より まとめ チョコレート嚢胞は、進行すれば癒着や破裂、卵巣がんの可能性があり、30代半ばの手術では卵巣機能の低下も。 さらに35歳以降は妊娠率も低下する一方ですから、早めの体外受精をおすすめします。助成金制度も上手に活用しましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。 同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。 ≫ なかむらレディースクリニック 子宮内膜症があっても自然妊娠できる? 2017/5/22 中村 嘉宏(なかむらレディースクリニック 院長) 相談者:たぬぽんさん(主婦 / ?歳) 3年前に子宮内膜症(チョコレート嚢胞6cm)と診断され、ずーっと頑張っていますが、その兆候なし…。同じ病院で3回も担当医が変わり、今回引っ越しで転院するので4人目となりますが、3人目の先生に「あなたの場合、体外受精が手っ取り早いでしょう」と言われ、かなりショックを受けました。 調べてみると30代前半なら受精率も高いようですが、35歳以降になるとかなり妊娠の確率が落ちてくるんですよね?夫からは「(自然妊娠の)可能性があるならそっちがいい」と言われるけど、年齢的にあんまりリミットないような…。体外受精はお金もかかるし、可能性があるのなら自然妊娠がいいなぁとも思うし、でもこのまま妊娠できなかったら…と思うと焦ってしまいます。 妊娠しやすい食べ物や飲み物を試したり、ジンクスの物を部屋に置いたりしましたが、有名なKクリニックの先生の著書の中には、妊娠しやすい食べ物や運動療法はあてにならない。ただ精子と卵子が出会わないだけ…と書かれていました。 とにかく…生理が来るたび落ち込んでいます。だから、子宮内膜症で自然妊娠した方から、励ましてもらえたら、また前向きに頑張れるかな?/div> 子宮内膜症があっても自然妊娠は可能でしょうか? この方はショックを受けられたようですが、3人目の先生がおっしゃる通り、体外受精が一番いいと思います。30代半ばの方と推察しますが、この年齢で6cmの嚢胞の手術をすれば卵巣機能はかなり低下します。痛みなどの症状がきつい場合や、悪性が疑われる場合でなければ、手術より体外受精を優先します。 自然妊娠をご希望とのことですが、自然妊娠の可能性は低いと思います。チョコレート嚢腫が6cmくらいあれば、卵管が癒着し、卵子をピックアップできない可能性が高いと思います。3年前から一般不妊治療をして妊娠しないのはそのためです。まして30代半ばになれば、年々妊娠率は低下しますし、内膜症も進行します。厳しいようですが手段を選んでいる場合ではないと思います。たしかに体外受精は費用がかかるイメージがありますが、助成制度を活用すれば、それほどの負担にならずにすみます。 自然妊娠への思いが強い方のようです。 この方も認識されている通り、35歳以降の妊娠率はどんどん低下する一方です。また、 Kクリニックの先生がおっしゃる「妊娠しやすい食べ物や運動療法はあてにならない」というのも本当だと思います。例えばザクロを食べても食べなくても、子宝の湯に浸かっても浸からなくても、精子と卵子がただ出会って受精し着床すれば妊娠は成立する。とてもシンプルなお話です。 また、自然妊娠の可能性が低いのに、同じような境遇で妊娠できた人に励ましてもらい前向きになれたとしても、それでこの方が自然妊娠できるわけではありません。人の身体には個人差があり、また、子宮内膜症の程度も人それぞれです。 相談内容を拝見すると、この方がショックを受けた最大の原因は、体外受精に対する心理的な抵抗でしょう。この抵抗を克服して、一刻も早く体外受精に進んでいただきたいと思います。きっと道はひらけます。 中村先生より まとめ チョコレート嚢胞は、進行すれば癒着や破裂、卵巣がんの可能性があり、30代半ばの手術では卵巣機能の低下も。 さらに35歳以降は妊娠率も低下する一方ですから、早めの体外受精をおすすめします。助成金制度も上手に活用しましょう。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック) 大阪市立大学医学部卒業。 同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。 ≫ なかむらレディースクリニック
2017.5.22
専門医Q&A 不妊治療
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一度は諦めかけていた妊娠… 奇跡の出会いが奇跡の妊娠へ。
一度は諦めかけていた妊娠…奇跡の出会いが奇跡の妊娠へ。重度の無月経だった私を自然妊娠へ導いてくれた先生との「絆」 まるで何かの糸でつながっていたかのような、まいさんと美馬レディースクリニックの美馬先生との出会い。年齢は若いものの、重度の無月経、不妊治療との闘いの末、まいさんは無事に男の子のママになりました。 就職して過労勤務が続き、日に日にたまるストレス…ある日突然、無月経に 新卒で、大手の証券会社に就職したというまいさん。配属されたのは新規開拓営業部。朝は4時起き、勤務が終わるのは22時ごろという毎日。体が悲鳴を上げるのに時間はかかりませんでした。 「たまっていた疲労とストレスで今まで普通にきていた生理が突然止まってしまったんです」 高校生の時の同級生だった今のご主人は、そんなまいさんの姿を見て何とかしてあげたい、とすぐに結婚を申し込んだそう。お互い22歳という若さでの結婚でした。まいさんも、定時で帰宅できる受付の仕事へと転職。妊娠のことはまだ考えず、まず体調を戻すことから始めました。 ゆっくり生活ができるようになったころ、ご主人の東京転勤が決まり、ご夫婦は上京することになります。 行きつけのレストランで紹介された美馬先生との出会い 東京でも受付の仕事を続けていたまいさん。上京して約2年、変わらず無月経は続いていました。30歳までには赤ちゃんが欲しいという想い、不妊治療を始めたら苦労するかもしれないという不安、そしてご主人のご両親への負い目…さまざまな気持ちが交錯していましたが、2011年、近所で評判の良かったクリニックで治療を始めることに。 このころ自分の体にも良いものを…とまいさんが時々訪れていたのがマクロビオティックのレストラン。レストランのママに自分の体調のことをたまたま話していたら、同じお客様だった美馬先生を紹介されたのだそうです。 「ちょうど先生がゆっくり過ごされていた時期で、何かあったらメールして、と気軽に言ってくださったんです」 近所のクリニックでは、タイミング療法からすぐに人工授精にステップアップするも結果は出ません。まいさんは、クリニックで出された診断について、今思えばたわいもない悩みなどを美馬先生にメールで相談していたそうです。 「先生はいつも必ずお返事をくださって、前向きになる言葉をかけてくださいました」 その後、まいさんはクリニックで体外受精の提案を受けますが、ご主人がこの時初めて納得しなかったといいます。 「そこまでして赤ちゃんが欲しいの? 主人はそんなスタンスでしたが、赤ちゃんが欲しい私は少しずつ少しずつ説得するしかありませんでした。不妊治療のセミナーに参加したり、話し合いをしたり…。初めての夫婦の危機だったかもしれません」 そんな時にひと役買って出てくれたのが、意外にもご主人のお母様でした。まいさんが自分の体調と治療についてお母様に報告し、ご主人の力を借りたいことを伝えたところ、お母様もご主人を説得してくれたのだそう。やっといい流れになり、ご主人が協力してくれたものの、着床には至りませんでした。 先生に導かれるように転院し最後は先生が開院した美馬レディースクリニックへ まいさんが体外受精を終えたころ、先生があるクリニックに着任されたとの報告が。すぐに転院を決意したそうです。 この時、AMHの数値は年相応だったものの、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンなどの数値が限りなくゼロに近い状態でした。先生を信じて転院したものの、かなり厳しい状況でのスタートでした。このクリニックでは、一度顕微授精にチャレンジをしたものの、妊娠には至りませんでした。その後、先生がご自身のクリニックを開院されるとのことで、まいさんも先生のクリニックに転院することになります。 2013年10月美馬先生が「美馬レディースクリニック」を開院。美馬先生の治療方針は“卵巣を守るやさしい不妊治療”。まずは卵巣のアンチエイジングを行い、自然妊娠を目指すというものです。転院したまいさんに先生は「まず無月経から治しましょう」と提案。まいさんも悪い方へ悪い方へ傾いていた気持ちを一度リセットし「しばらくは妊娠しなくちゃいけないと考えることをやめたんです」といいます。 治療は、カウフマン療法で月経がちゃんとくるようにすること、あとはサプリメントで栄養を補ったり、体を温めるようにした程度だったそうです。 美馬先生のもとで治療を始めて約2年経過した2015年11月、まいさんに約10年ぶりの生理が。最初は不正出血かと思ったくらい突然訪れたのだそうです。そして年が明けて2月、せっかくきていた生理がまた止まってしまったけれど、いつもと体調が違う…と思ったら、なんとそれは一度は諦めかけた“妊娠”だったそう。 「あんなに痛い不妊治療をしたのに、自然に妊娠するなんて! まさかまさかの妊娠に主人も本当にあっけにとられているくらいでした」 つらかった不妊治療のあとはご褒美のように順調な妊娠生活と出産へ 実は気分転換に海外旅行を計画していたまいさんご夫妻でしたが「先生にここを逃したら次のチャンスはないかもしれませんよ、と言われ、私も次は流産するのでは…? という不安があったのでもちろんキャンセルをしました」。さまざまな不安がありましたが、出産は美馬先生の後輩の先生がいる産院へ。「信頼してきた先生の紹介だから絶対安心できると思って。美馬レディースクリニックを卒業する時は、寂しさもあり複雑でしたが、妊娠中はトラブルもなく、産院の先生も本当に良くしてくださり、いいお産ができました」。 32歳の妊娠、出産。一般の不妊治療としては若い年齢でしたが、若いがゆえに周りには言い出しにくく、自分の症状を一言で語るには難しく、身内以外に話すこともできなかったまいさん。「先生と出会えたことがすべてだと思います。先生と偶然にも出会えたこと、息子が五体満足に生まれてきてくれたことに本当に感謝したいと思います」。 From Doctor 治療を振り返って 「自然妊娠ができたのは真面目な生活態度によるもの」 前のクリニックで受精卵を見たときに正直言って「これは良くないな」と思いました。ホルモン数値は低かったものの、AMHの数値は悪くなかったので、私のクリニックに来てからはカウフマン療法で生理がくることを脳に認識させ、自律神経を安定させ、ホルモンが卵巣に働かせるようにすることから治療を始めました。彼女自身もマクロビオティックの食事に興味をもったり、体調を戻すことに真面目に取り組んだことで、自律神経が安定し、妊娠スイッチが入ったのだと思います。 また彼女には「多嚢胞性卵巣症候群」もありました。おそらく10代のころから発症していて気がつかないままで、そしてある日突然生理が止まってしまったのでしょう。 このような状態で妊娠されたのは私の経験からも非常に珍しいケースで、セミナーなどでもまいさんの例を挙げて皆さんの励みにしてもらっています。 先生のご紹介 美馬 博史 先生(美馬レディースクリニック) 東京慈恵会医科大学医学部卒。同大学付属病院産婦人科、美馬産婦人科院長を経て現職。妊孕性(妊娠する力)を守る力を訴え、体にやさしいホルモン治療、カウンセリング療法、抗酸化食事療法等を積極的に啓蒙。 ≫ 美馬レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら 一度は諦めかけていた妊娠…奇跡の出会いが奇跡の妊娠へ。重度の無月経だった私を自然妊娠へ導いてくれた先生との「絆」 まるで何かの糸でつながっていたかのような、まいさんと美馬レディースクリニックの美馬先生との出会い。年齢は若いものの、重度の無月経、不妊治療との闘いの末、まいさんは無事に男の子のママになりました。 就職して過労勤務が続き、日に日にたまるストレス…ある日突然、無月経に 新卒で、大手の証券会社に就職したというまいさん。配属されたのは新規開拓営業部。朝は4時起き、勤務が終わるのは22時ごろという毎日。体が悲鳴を上げるのに時間はかかりませんでした。 「たまっていた疲労とストレスで今まで普通にきていた生理が突然止まってしまったんです」 高校生の時の同級生だった今のご主人は、そんなまいさんの姿を見て何とかしてあげたい、とすぐに結婚を申し込んだそう。お互い22歳という若さでの結婚でした。まいさんも、定時で帰宅できる受付の仕事へと転職。妊娠のことはまだ考えず、まず体調を戻すことから始めました。 ゆっくり生活ができるようになったころ、ご主人の東京転勤が決まり、ご夫婦は上京することになります。 行きつけのレストランで紹介された美馬先生との出会い 東京でも受付の仕事を続けていたまいさん。上京して約2年、変わらず無月経は続いていました。30歳までには赤ちゃんが欲しいという想い、不妊治療を始めたら苦労するかもしれないという不安、そしてご主人のご両親への負い目…さまざまな気持ちが交錯していましたが、2011年、近所で評判の良かったクリニックで治療を始めることに。 このころ自分の体にも良いものを…とまいさんが時々訪れていたのがマクロビオティックのレストラン。レストランのママに自分の体調のことをたまたま話していたら、同じお客様だった美馬先生を紹介されたのだそうです。 「ちょうど先生がゆっくり過ごされていた時期で、何かあったらメールして、と気軽に言ってくださったんです」 近所のクリニックでは、タイミング療法からすぐに人工授精にステップアップするも結果は出ません。まいさんは、クリニックで出された診断について、今思えばたわいもない悩みなどを美馬先生にメールで相談していたそうです。 「先生はいつも必ずお返事をくださって、前向きになる言葉をかけてくださいました」 その後、まいさんはクリニックで体外受精の提案を受けますが、ご主人がこの時初めて納得しなかったといいます。 「そこまでして赤ちゃんが欲しいの? 主人はそんなスタンスでしたが、赤ちゃんが欲しい私は少しずつ少しずつ説得するしかありませんでした。不妊治療のセミナーに参加したり、話し合いをしたり…。初めての夫婦の危機だったかもしれません」 そんな時にひと役買って出てくれたのが、意外にもご主人のお母様でした。まいさんが自分の体調と治療についてお母様に報告し、ご主人の力を借りたいことを伝えたところ、お母様もご主人を説得してくれたのだそう。やっといい流れになり、ご主人が協力してくれたものの、着床には至りませんでした。 先生に導かれるように転院し最後は先生が開院した美馬レディースクリニックへ まいさんが体外受精を終えたころ、先生があるクリニックに着任されたとの報告が。すぐに転院を決意したそうです。 この時、AMHの数値は年相応だったものの、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンなどの数値が限りなくゼロに近い状態でした。先生を信じて転院したものの、かなり厳しい状況でのスタートでした。このクリニックでは、一度顕微授精にチャレンジをしたものの、妊娠には至りませんでした。その後、先生がご自身のクリニックを開院されるとのことで、まいさんも先生のクリニックに転院することになります。 2013年10月美馬先生が「美馬レディースクリニック」を開院。美馬先生の治療方針は“卵巣を守るやさしい不妊治療”。まずは卵巣のアンチエイジングを行い、自然妊娠を目指すというものです。転院したまいさんに先生は「まず無月経から治しましょう」と提案。まいさんも悪い方へ悪い方へ傾いていた気持ちを一度リセットし「しばらくは妊娠しなくちゃいけないと考えることをやめたんです」といいます。 治療は、カウフマン療法で月経がちゃんとくるようにすること、あとはサプリメントで栄養を補ったり、体を温めるようにした程度だったそうです。 美馬先生のもとで治療を始めて約2年経過した2015年11月、まいさんに約10年ぶりの生理が。最初は不正出血かと思ったくらい突然訪れたのだそうです。そして年が明けて2月、せっかくきていた生理がまた止まってしまったけれど、いつもと体調が違う…と思ったら、なんとそれは一度は諦めかけた“妊娠”だったそう。 「あんなに痛い不妊治療をしたのに、自然に妊娠するなんて! まさかまさかの妊娠に主人も本当にあっけにとられているくらいでした」 つらかった不妊治療のあとはご褒美のように順調な妊娠生活と出産へ 実は気分転換に海外旅行を計画していたまいさんご夫妻でしたが「先生にここを逃したら次のチャンスはないかもしれませんよ、と言われ、私も次は流産するのでは…? という不安があったのでもちろんキャンセルをしました」。さまざまな不安がありましたが、出産は美馬先生の後輩の先生がいる産院へ。「信頼してきた先生の紹介だから絶対安心できると思って。美馬レディースクリニックを卒業する時は、寂しさもあり複雑でしたが、妊娠中はトラブルもなく、産院の先生も本当に良くしてくださり、いいお産ができました」。 32歳の妊娠、出産。一般の不妊治療としては若い年齢でしたが、若いがゆえに周りには言い出しにくく、自分の症状を一言で語るには難しく、身内以外に話すこともできなかったまいさん。「先生と出会えたことがすべてだと思います。先生と偶然にも出会えたこと、息子が五体満足に生まれてきてくれたことに本当に感謝したいと思います」。 From Doctor 治療を振り返って 「自然妊娠ができたのは真面目な生活態度によるもの」 前のクリニックで受精卵を見たときに正直言って「これは良くないな」と思いました。ホルモン数値は低かったものの、AMHの数値は悪くなかったので、私のクリニックに来てからはカウフマン療法で生理がくることを脳に認識させ、自律神経を安定させ、ホルモンが卵巣に働かせるようにすることから治療を始めました。彼女自身もマクロビオティックの食事に興味をもったり、体調を戻すことに真面目に取り組んだことで、自律神経が安定し、妊娠スイッチが入ったのだと思います。 また彼女には「多嚢胞性卵巣症候群」もありました。おそらく10代のころから発症していて気がつかないままで、そしてある日突然生理が止まってしまったのでしょう。 このような状態で妊娠されたのは私の経験からも非常に珍しいケースで、セミナーなどでもまいさんの例を挙げて皆さんの励みにしてもらっています。 先生のご紹介 美馬 博史 先生(美馬レディースクリニック) 東京慈恵会医科大学医学部卒。同大学付属病院産婦人科、美馬産婦人科院長を経て現職。妊孕性(妊娠する力)を守る力を訴え、体にやさしいホルモン治療、カウンセリング療法、抗酸化食事療法等を積極的に啓蒙。 ≫ 美馬レディースクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.22
コラム 不妊治療
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卵管癒着で5回の体外受精。 次回の採卵までにできることは?
「体外受精の目安は3回と聞きましたが、諦めきれない気持ちが強く、何かできることはないか考える日々です。」
2017.5.21
コラム 不妊治療
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卵子が増えず、育ちも悪い。 AMH値が高いのが原因?
「今月から体外受精の採卵周期を始めました。ショート法による刺激で今D11ですが、なかなか刺激に反応せず、卵子が増えないし、育ちません。」
2017.5.21
コラム 不妊治療
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AMHが低く、FSHは高め。卵胞も1つしか育っていません
AMHが低く、FSHは高め。卵胞も1つしか育っていません 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 相談者:ゆうこさん(34歳) 低AMH、高FSH、片側卵管閉塞です 34歳でタイミング法で半年間治療し、今月から体外受精を始めることにしたのですが、その際にAMH値が1.0ng/mlしかないことを知りました。アンタゴニスト法で治療することをすすめられ、毎日注射と内服薬を飲んでいたのですが、卵胞が1つしか育っておらず、FSH値も29mIU/mlあり、採卵中止となりました。ネットで調べると普通の人は卵胞が20個とかできていて、採卵もそのくらいの数が採れるというのを見てショックを受けています。先生に聞いたら「毎回1つのこともあるけれどやるしかない」とのことでした。私は体外受精でも妊娠することは難しいのでしょうか。とても自分が情けなく、悲しくてたまらないです。 34歳でAMHが1.0 ng/mlしかないということですが、その数値でも妊娠の可能性はありますか? AMH(抗ミュラー管ホルモン)は卵巣に残っている原始卵胞の数を知る目安になると考えられています。34歳で1.0 ng/mlは確かに低めの数値ですが、年齢的にはまだお若いので、出てくる卵子にはいいものがあると思います。44歳で1.0 ng/mlだったら採れる卵子が少なくなってくるのに加え、採卵できても染色体異常などが増えてくるので、妊娠・出産率は下がってしまうかもしれません。しかし、34歳なら質のいい卵子がちゃんと採れるはず。工夫して採っていけば、0.5 ng/mlでも何とかなるはずです。 では、AMH低値については心配ないということですね。 少し気になるのは卵胞が1個しか育っていなかったり、FSHが29 mIU/mlまで上がったということです。34歳でAMHが1.0 ng/mlあったら、そこまでの状況にはなりにくいと思うんですね。 もしかしたら背景に子宮内膜症などの病気があるのかもしれません。たとえばチョコレート嚢腫があると血流が悪くなるので、刺激をしてもなかなか反応しなかったり、卵胞が増えてもそれは炎症性のもので、中に良い卵子が入っていなかったり、空っぽだったりというケースが増えてきます。そのへんの検査はされているのでしょうか。 背景に何もなければゆうこさんに合った治療を行えば妊娠・出産の可能性はあるので、悲観することはないと思います。 では、どのような方法で進めていけばいいのでしょうか。 AMHが1.0 ng/mlだったら、7個くらい採卵していくのが目安になってくるでしょう。まず、月経が始まってから2~3日目にエコーで前胞状卵胞が何個見えるか確認します。5個以上見えたら、その時に注射を打って育てていく。 できるだけ卵子の数を確保したいということなら、Duo Stimulationという方法もあります(当院ホームページ参照)。採卵から5日後くらいにまた卵胞が育ちやすい時期が来るので、そこからまた刺激を始めれば1回目と同じようにいくつか卵子が採れるはずです。たとえば6個×2回で12個確保できれば、妊娠のチャンスはぐんと上がりますよね。 また、FSH値が高い周期は反応が悪い周期だと考えてください。29 mIU/mlもあるのにクロミッド®を飲んだら、さらにFSH値が40、50と上がってしまうので、刺激は行わず、タイミング法や人工授精で臨んだほうがいいでしょう。あせって無理をしてしまうと、逆に卵胞はうまく育ってくれません。 体外受精はまだ1回目とのこと。ゆうこさんのようなケースは1周期で結果を出すのは難しいかもしれませんが、半年程度のスパンでみて、いい周期を見つけて採卵すれば、妊娠のチャンスは十分あると思います。お一人ひとり条件は違うので、ネットの情報に振り回されず、前向きに今後の治療に臨んでいただきたいと思います。 岡先生より まとめ ●卵巣の機能が低い場合、背景に子宮内膜症が隠れていることも。 ●前胞状卵胞が5個以上見えた時にうまく刺激していけば、チャンスは十分あります。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。その後、同大学産婦人科に入局。不妊症・不育症の研究治療を行い、「ローズレディースクリニック等々力」院長を経て、2000年に不妊症専門クリニック「東京HARTクリニック」を開院。2005年アメリカ生殖医学会にて、ヒト胚盤胞のガラス化保存法とASの有効性についてHARTグループとして発表し、日本人で初めて表彰される。いきつけの居酒屋では、若い世代の人とも積極的に交流を持つという岡先生。その時に黙ってスマホをいじっているカップルを見ると、「もっとお互い目を合わせて語り合えばいいのに」と不思議に思うとか。 ≫ 東京HARTクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら AMHが低く、FSHは高め。卵胞も1つしか育っていません 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 相談者:ゆうこさん(34歳) 低AMH、高FSH、片側卵管閉塞です 34歳でタイミング法で半年間治療し、今月から体外受精を始めることにしたのですが、その際にAMH値が1.0ng/mlしかないことを知りました。アンタゴニスト法で治療することをすすめられ、毎日注射と内服薬を飲んでいたのですが、卵胞が1つしか育っておらず、FSH値も29mIU/mlあり、採卵中止となりました。ネットで調べると普通の人は卵胞が20個とかできていて、採卵もそのくらいの数が採れるというのを見てショックを受けています。先生に聞いたら「毎回1つのこともあるけれどやるしかない」とのことでした。私は体外受精でも妊娠することは難しいのでしょうか。とても自分が情けなく、悲しくてたまらないです。 34歳でAMHが1.0 ng/mlしかないということですが、その数値でも妊娠の可能性はありますか? AMH(抗ミュラー管ホルモン)は卵巣に残っている原始卵胞の数を知る目安になると考えられています。34歳で1.0 ng/mlは確かに低めの数値ですが、年齢的にはまだお若いので、出てくる卵子にはいいものがあると思います。44歳で1.0 ng/mlだったら採れる卵子が少なくなってくるのに加え、採卵できても染色体異常などが増えてくるので、妊娠・出産率は下がってしまうかもしれません。しかし、34歳なら質のいい卵子がちゃんと採れるはず。工夫して採っていけば、0.5 ng/mlでも何とかなるはずです。 では、AMH低値については心配ないということですね。 少し気になるのは卵胞が1個しか育っていなかったり、FSHが29 mIU/mlまで上がったということです。34歳でAMHが1.0 ng/mlあったら、そこまでの状況にはなりにくいと思うんですね。 もしかしたら背景に子宮内膜症などの病気があるのかもしれません。たとえばチョコレート嚢腫があると血流が悪くなるので、刺激をしてもなかなか反応しなかったり、卵胞が増えてもそれは炎症性のもので、中に良い卵子が入っていなかったり、空っぽだったりというケースが増えてきます。そのへんの検査はされているのでしょうか。 背景に何もなければゆうこさんに合った治療を行えば妊娠・出産の可能性はあるので、悲観することはないと思います。 では、どのような方法で進めていけばいいのでしょうか。 AMHが1.0 ng/mlだったら、7個くらい採卵していくのが目安になってくるでしょう。まず、月経が始まってから2~3日目にエコーで前胞状卵胞が何個見えるか確認します。5個以上見えたら、その時に注射を打って育てていく。 できるだけ卵子の数を確保したいということなら、Duo Stimulationという方法もあります(当院ホームページ参照)。採卵から5日後くらいにまた卵胞が育ちやすい時期が来るので、そこからまた刺激を始めれば1回目と同じようにいくつか卵子が採れるはずです。たとえば6個×2回で12個確保できれば、妊娠のチャンスはぐんと上がりますよね。 また、FSH値が高い周期は反応が悪い周期だと考えてください。29 mIU/mlもあるのにクロミッド®を飲んだら、さらにFSH値が40、50と上がってしまうので、刺激は行わず、タイミング法や人工授精で臨んだほうがいいでしょう。あせって無理をしてしまうと、逆に卵胞はうまく育ってくれません。 体外受精はまだ1回目とのこと。ゆうこさんのようなケースは1周期で結果を出すのは難しいかもしれませんが、半年程度のスパンでみて、いい周期を見つけて採卵すれば、妊娠のチャンスは十分あると思います。お一人ひとり条件は違うので、ネットの情報に振り回されず、前向きに今後の治療に臨んでいただきたいと思います。 岡先生より まとめ ●卵巣の機能が低い場合、背景に子宮内膜症が隠れていることも。 ●前胞状卵胞が5個以上見えた時にうまく刺激していけば、チャンスは十分あります。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 岡 親弘 先生(東京HARTクリニック) 慶應義塾大学医学部卒業。その後、同大学産婦人科に入局。不妊症・不育症の研究治療を行い、「ローズレディースクリニック等々力」院長を経て、2000年に不妊症専門クリニック「東京HARTクリニック」を開院。2005年アメリカ生殖医学会にて、ヒト胚盤胞のガラス化保存法とASの有効性についてHARTグループとして発表し、日本人で初めて表彰される。いきつけの居酒屋では、若い世代の人とも積極的に交流を持つという岡先生。その時に黙ってスマホをいじっているカップルを見ると、「もっとお互い目を合わせて語り合えばいいのに」と不思議に思うとか。 ≫ 東京HARTクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.21
コラム 不妊治療
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抗精子抗体は体外で妊娠率が高いと聞いたのに陰性続きで不安です
抗精子抗体は体外で妊娠率が高いと聞いたのに陰性続きで不安です 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 相談者:アヤさん(34歳) 胚移植3回目陰性 不妊治療を始めて3年経ちます。不妊原因はPCOSと抗精子抗体です。初めての採卵はIVMで採卵数5個、そのうち4個受精しました。しかしあまり質の良い卵子ではなかったため、胚盤胞まで育てず新鮮胚移植しましたが陰性。再度採卵をすすめられ、アンタゴニスト法で10個採卵、そのうちの4つが胚盤胞まで育ちました。1周期あけて凍結胚盤胞3ABをアシステッドハッチングして移植しましたが陰性。その翌周期に移植前のレーザー治療をして二段階胚移植しましたが陰性。次回は1周期お休みして凍結胚盤胞4BBと4BCを2個移植しようと考えています。抗精子抗体があると体外受精で妊娠しやすいと聞いていたので、陰性続きでうまくいくか不安です。 抗精子抗体陽性の人は体外受精で妊娠しやすいのでしょうか。 抗精子抗体は腟内に射精された精子を異物と判断してつくられる抗体で、その抗体ができると精子を異物とみなして攻撃してしまい、卵子と精子が出会うことができず受精もできません。抗精子抗体が比較的少ない場合は人工授精によって妊娠できる可能性はありますが、抗体が多い場合は体外受精、顕微授精が選択されます。これらの方法では体外で受精を行ってから受精卵を子宮に戻すため、抗精子抗体の影響を受けなくてすみます。 抗精子抗体があると体外受精で妊娠しやすいと聞いたとのことですが、特にそういったことはありません。ただ受精卵を直接子宮に戻すことで、抗精子抗体陽性という不妊の原因を除外できることを考えると、ほかに不妊になるような問題がなければ妊娠しやすいともいえます。 IVMやアンタゴニスト法での採卵についてはいかがでしょうか。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、卵巣刺激により卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になるリスクが高くなるため、特に注意が必要です。 アヤさんは初回にIVMで採卵されたとのことです。IVMとは未成熟卵を採卵して体外で培養する方法で、OHSSを回避することができます。しかし、残念ながら結果が出なかったとのことですね。 次に行ったアンタゴニスト法は高刺激ですが、OHSSにもならず胚盤胞まで達して凍結できたことはよかったと思います。しかし、グレードが一つは3ABでまずまずですが、4BC、4BBの二つは良好胚とはいえません。なるべく卵子の質を上げるような卵巣刺激方法を考える必要があると思います。 移植の方法や今後の治療について、アドバイスをお願いします。 凍結胚盤胞を移植する際、アシステッドハッチングを行っていますが、これは凍結により受精卵の透明帯が硬くなることが予想されるためレーザーで切り込みを入れたり薄くしたりする技術で、一般的に行われている方法です。 移植前のレーザー治療というのは、おそらくおなかの上から低周波をあてて血行を良くしようというもの、二段階胚移植は先に一つ胚を戻すことで子宮の中が受精卵を受け入れやすい環境になるという考えで行われるものです。これらは補助的療法としては試してみる価値がありますが、私はまずは胚の質を上げていくことが重要だと思います。 質の良い卵子を採るためには、最適な卵巣刺激法を選択することが重要になります。OHSSリスクを軽減させることを考慮し、まずは高刺激ではなく、排卵誘発剤(飲み薬)を基礎にhMGを隔日に追加するような中刺激の方法にしてみるなど、担当の先生とよく相談して考えていただいたらいいのではないかと思います。そして凍結胚盤胞をアシステッドハッチングを行ってから移植することを続けられたら、良い結果が得られるのではないでしょうか。 福田先生より まとめ ●抗精子抗体陽性だから体外受精で妊娠しやすいということはありません。 ●最適な卵巣刺激法で質の良い卵子を採ることが重要です。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 順天堂大学医学部・同大学院修了。米国カリフォルニア大学産婦人科学教室留学後、順天堂大学医学部産婦人科学教室講師を経て、1993年福田ウイメンズクリニック開院。診療のあと、よくご友人に会いに東京に行くという先生。「仕事がもちろん第一。プライベートの時間には誰かと会って遊ぶ、そして家庭を大事にする。この3つは全部切り離さないといけないし、バランスがとても大事だよね」とニッコリ。 ≫ 福田ウイメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら 抗精子抗体は体外で妊娠率が高いと聞いたのに陰性続きで不安です 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 相談者:アヤさん(34歳) 胚移植3回目陰性 不妊治療を始めて3年経ちます。不妊原因はPCOSと抗精子抗体です。初めての採卵はIVMで採卵数5個、そのうち4個受精しました。しかしあまり質の良い卵子ではなかったため、胚盤胞まで育てず新鮮胚移植しましたが陰性。再度採卵をすすめられ、アンタゴニスト法で10個採卵、そのうちの4つが胚盤胞まで育ちました。1周期あけて凍結胚盤胞3ABをアシステッドハッチングして移植しましたが陰性。その翌周期に移植前のレーザー治療をして二段階胚移植しましたが陰性。次回は1周期お休みして凍結胚盤胞4BBと4BCを2個移植しようと考えています。抗精子抗体があると体外受精で妊娠しやすいと聞いていたので、陰性続きでうまくいくか不安です。 抗精子抗体陽性の人は体外受精で妊娠しやすいのでしょうか。 抗精子抗体は腟内に射精された精子を異物と判断してつくられる抗体で、その抗体ができると精子を異物とみなして攻撃してしまい、卵子と精子が出会うことができず受精もできません。抗精子抗体が比較的少ない場合は人工授精によって妊娠できる可能性はありますが、抗体が多い場合は体外受精、顕微授精が選択されます。これらの方法では体外で受精を行ってから受精卵を子宮に戻すため、抗精子抗体の影響を受けなくてすみます。 抗精子抗体があると体外受精で妊娠しやすいと聞いたとのことですが、特にそういったことはありません。ただ受精卵を直接子宮に戻すことで、抗精子抗体陽性という不妊の原因を除外できることを考えると、ほかに不妊になるような問題がなければ妊娠しやすいともいえます。 IVMやアンタゴニスト法での採卵についてはいかがでしょうか。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、卵巣刺激により卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になるリスクが高くなるため、特に注意が必要です。 アヤさんは初回にIVMで採卵されたとのことです。IVMとは未成熟卵を採卵して体外で培養する方法で、OHSSを回避することができます。しかし、残念ながら結果が出なかったとのことですね。 次に行ったアンタゴニスト法は高刺激ですが、OHSSにもならず胚盤胞まで達して凍結できたことはよかったと思います。しかし、グレードが一つは3ABでまずまずですが、4BC、4BBの二つは良好胚とはいえません。なるべく卵子の質を上げるような卵巣刺激方法を考える必要があると思います。 移植の方法や今後の治療について、アドバイスをお願いします。 凍結胚盤胞を移植する際、アシステッドハッチングを行っていますが、これは凍結により受精卵の透明帯が硬くなることが予想されるためレーザーで切り込みを入れたり薄くしたりする技術で、一般的に行われている方法です。 移植前のレーザー治療というのは、おそらくおなかの上から低周波をあてて血行を良くしようというもの、二段階胚移植は先に一つ胚を戻すことで子宮の中が受精卵を受け入れやすい環境になるという考えで行われるものです。これらは補助的療法としては試してみる価値がありますが、私はまずは胚の質を上げていくことが重要だと思います。 質の良い卵子を採るためには、最適な卵巣刺激法を選択することが重要になります。OHSSリスクを軽減させることを考慮し、まずは高刺激ではなく、排卵誘発剤(飲み薬)を基礎にhMGを隔日に追加するような中刺激の方法にしてみるなど、担当の先生とよく相談して考えていただいたらいいのではないかと思います。そして凍結胚盤胞をアシステッドハッチングを行ってから移植することを続けられたら、良い結果が得られるのではないでしょうか。 福田先生より まとめ ●抗精子抗体陽性だから体外受精で妊娠しやすいということはありません。 ●最適な卵巣刺激法で質の良い卵子を採ることが重要です。 [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック) 順天堂大学医学部・同大学院修了。米国カリフォルニア大学産婦人科学教室留学後、順天堂大学医学部産婦人科学教室講師を経て、1993年福田ウイメンズクリニック開院。診療のあと、よくご友人に会いに東京に行くという先生。「仕事がもちろん第一。プライベートの時間には誰かと会って遊ぶ、そして家庭を大事にする。この3つは全部切り離さないといけないし、バランスがとても大事だよね」とニッコリ。 ≫ 福田ウイメンズクリニック 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer≫ 掲載記事一覧はこちら
2017.5.21
コラム 不妊治療
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12分割の胚を移植しても着床する可能性はある?
「胚盤胞や桑実胚までにならなかった分割胚を子宮に戻し、妊娠・出産した例があったら教えてください。」
2017.5.21
コラム 不妊治療
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卵胞があまり育ちません。どんな刺激法がいいの?
「初の体外受精で卵胞があまり育ちませんでした。気になったのがD3のホルモン検査でFSHが17.7mlU/mlだったこと。」
2017.5.21
コラム 不妊治療
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未成熟卵が多く受精しないのは多嚢胞性卵巣症候群だから?
未成熟卵が多く受精しないのは多嚢胞性卵巣症候群だから? 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 相談者:夏恋さん(29歳) 受精ゼロでした 多嚢胞性卵巣症候群です(AMHの値は4ng/ml)。28歳の時に自然妊娠しましたが、初期流産という結果に。その後1年間タイミングをとり続けても妊娠しませんでした。卵管はきれいに通っており、主人の精子も元気いっぱい。思い切って体外受精に進み、ロング法で採卵したところ12個の卵子が採れましたが、そのうち6個は未成熟卵。残りは成熟卵でしたが、医師から「未成熟卵が多すぎて良くない!」といわれました。主人の精子はすごく良く、「振りかけで十分」とのことでしたが、結果は受精ゼロ。精子が良くても受精障害ということはあり得ますか? それとも卵子側に問題があるのか、もしくは多嚢胞性卵巣が関係しているのでしょうか。 受精しなかった原因はどんなことが考えられますか。 年齢がまだお若いし、精子の状態も良好なようですから、1回の体外受精で受精障害だと決めてしまうことはないと思いますね。 卵子はたくさん採れたけれど未成熟卵が多かったということは、全体的に卵子が小さかったのではないでしょうか。成熟卵に関しても、成熟する一歩手前の状態だったのでは。もしかしたら採卵するタイミングがずれていて、もう1日程度採卵を遅らせれば結果は変わっていたかもしれません。LHやFSHなど、この時のホルモンのデータがないのではっきりとはいえませんが、まだ未成熟の卵子も、成熟するまで引き延ばしていけば良かったのかなと思います。 卵巣刺激法はロング法を選択されていますが、この方法だとだいたい一定に「この日が採卵」というのが決まってしまうんですね。ほかの刺激法、たとえばアンタゴニスト法だとほぼ毎日ホルモンをチェックして進めていくので、タイミングがピタッと合う。また、アンタゴニスト法でなくても、クロミッド®だけで抑えていって、LHサージをつくってあげればうまく調節できると思います。 体外受精をするなら、卵巣刺激法を変えたほうがいいということですね。 当院だったら、アンタゴニスト法、もしくはクロミッド®にゴナドトロピンを少し加えた方法で刺激することを提案すると思います。これらの方法はロング法と比べると採れる卵子の数は少なくなりますが、この方は年齢が若く、卵子の質も悪くないはず。流産されましたが過去に受精の経験があるし、卵管因子もない。2、3個の採卵でも妊娠する可能性は十分あるのではないでしょうか。 生理3日目の卵胞の大きさと数を見て、かなり多い場合は低い刺激に。FSHの注射を50~75単位から始めて、数が揃うようになったら量をぐっと上げて、3~4個の卵子をつくるようにしていきます。そうすれば、いいものが採れると思いますね。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は妊娠の大きな障害になるのでしょうか。 以前妊娠されて、卵子も採れています。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値も4ng/mlとそれほど高くないので、PCOSでもそれほど重症ではないのでは。排卵誘発をうまく工夫していけば、タイミング法でも妊娠は可能かもしれません。 また、高アンドロゲン血症などが背景にあるPCOSだったら、メトホルミンなどのお薬を3カ月ほど服用すると排卵誘発もいい状態で行えて、しっかり卵子がつくれるようになります。 悲観されることはありませんが、PCOSは年齢を重ねると急に卵子が採れなくなることがありますから、なるべく早めに治療を進めていったほうがいいでしょう。 永井先生より まとめ ●採卵のタイミングを1日程度遅らせても良かったのでは ●数は少なくても、もう少し低い刺激で確実に成熟卵を採っていく [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供するために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をはじめ、不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わる総合的な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。2月に誕生日を迎えた永井先生。最近、ガールフレンドとの間にベビーが生まれたミック・ジャガーより1歳年下。そのバイタリティに負けず劣らず、先生もお元気で、取材の後は卓球の練習に向かわれました。 ≫ 永井マザーズホスピタル 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら 未成熟卵が多く受精しないのは多嚢胞性卵巣症候群だから? 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 相談者:夏恋さん(29歳) 受精ゼロでした 多嚢胞性卵巣症候群です(AMHの値は4ng/ml)。28歳の時に自然妊娠しましたが、初期流産という結果に。その後1年間タイミングをとり続けても妊娠しませんでした。卵管はきれいに通っており、主人の精子も元気いっぱい。思い切って体外受精に進み、ロング法で採卵したところ12個の卵子が採れましたが、そのうち6個は未成熟卵。残りは成熟卵でしたが、医師から「未成熟卵が多すぎて良くない!」といわれました。主人の精子はすごく良く、「振りかけで十分」とのことでしたが、結果は受精ゼロ。精子が良くても受精障害ということはあり得ますか? それとも卵子側に問題があるのか、もしくは多嚢胞性卵巣が関係しているのでしょうか。 受精しなかった原因はどんなことが考えられますか。 年齢がまだお若いし、精子の状態も良好なようですから、1回の体外受精で受精障害だと決めてしまうことはないと思いますね。 卵子はたくさん採れたけれど未成熟卵が多かったということは、全体的に卵子が小さかったのではないでしょうか。成熟卵に関しても、成熟する一歩手前の状態だったのでは。もしかしたら採卵するタイミングがずれていて、もう1日程度採卵を遅らせれば結果は変わっていたかもしれません。LHやFSHなど、この時のホルモンのデータがないのではっきりとはいえませんが、まだ未成熟の卵子も、成熟するまで引き延ばしていけば良かったのかなと思います。 卵巣刺激法はロング法を選択されていますが、この方法だとだいたい一定に「この日が採卵」というのが決まってしまうんですね。ほかの刺激法、たとえばアンタゴニスト法だとほぼ毎日ホルモンをチェックして進めていくので、タイミングがピタッと合う。また、アンタゴニスト法でなくても、クロミッド®だけで抑えていって、LHサージをつくってあげればうまく調節できると思います。 体外受精をするなら、卵巣刺激法を変えたほうがいいということですね。 当院だったら、アンタゴニスト法、もしくはクロミッド®にゴナドトロピンを少し加えた方法で刺激することを提案すると思います。これらの方法はロング法と比べると採れる卵子の数は少なくなりますが、この方は年齢が若く、卵子の質も悪くないはず。流産されましたが過去に受精の経験があるし、卵管因子もない。2、3個の採卵でも妊娠する可能性は十分あるのではないでしょうか。 生理3日目の卵胞の大きさと数を見て、かなり多い場合は低い刺激に。FSHの注射を50~75単位から始めて、数が揃うようになったら量をぐっと上げて、3~4個の卵子をつくるようにしていきます。そうすれば、いいものが採れると思いますね。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は妊娠の大きな障害になるのでしょうか。 以前妊娠されて、卵子も採れています。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値も4ng/mlとそれほど高くないので、PCOSでもそれほど重症ではないのでは。排卵誘発をうまく工夫していけば、タイミング法でも妊娠は可能かもしれません。 また、高アンドロゲン血症などが背景にあるPCOSだったら、メトホルミンなどのお薬を3カ月ほど服用すると排卵誘発もいい状態で行えて、しっかり卵子がつくれるようになります。 悲観されることはありませんが、PCOSは年齢を重ねると急に卵子が採れなくなることがありますから、なるべく早めに治療を進めていったほうがいいでしょう。 永井先生より まとめ ●採卵のタイミングを1日程度遅らせても良かったのでは ●数は少なくても、もう少し低い刺激で確実に成熟卵を採っていく [無料]気軽にご相談ください お話を伺った先生のご紹介 永井 泰 先生(永井マザーズホスピタル) 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供するために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をはじめ、不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わる総合的な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。2月に誕生日を迎えた永井先生。最近、ガールフレンドとの間にベビーが生まれたミック・ジャガーより1歳年下。そのバイタリティに負けず劣らず、先生もお元気で、取材の後は卓球の練習に向かわれました。 ≫ 永井マザーズホスピタル 出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring≫ 掲載記事一覧はこちら
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