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病気ではないけれど マタニティであることを 意識した行動を
自転車や車の運転には注意が必要。電車や車は基本OK。 妊婦さんのなかには日々の移動で、電車や車を使う人も多いはず。特にワーキング妊婦さんならバスや電車通勤は避けて通れないケースも多いでしょう。バスや電車の振動自体に問題はないのですが、心配なのは人がたくさん乗っていて身体を圧迫されることです。妊娠中は脳貧血を起こしやすい状態でもあるので、できれば、通勤ラッシュを避けた時差通勤をおすすめします。自転車に関しては、妊娠初期で身体のバランスがとれていれば大丈夫ですが、中期以降はおなかが出てきてバランスが取りにくくなります。それによって倒れた時の衝撃はかなり大きいので、これは避けましょう。また、車の運転は妊婦さんだから禁止されている、ということはありません。ただ、妊娠中はどうしても身体がのぼせやすく頭がぼーっとしたり、注意散漫になりがちなので体調を考えながら運転するよう心がけてください。 旅行やおでかけは、身体に負担のないスケジュールで 安定期に入ると「気分転換に旅行をしたい」という方が増えてきます。旅行そのものはタブーではありませんが、やはり通常とは違う身体です。行った先でのトラブルやリスクを考えて、余裕をもった日程を組んでください。また、それまでに何の異常がなくても、切迫早産などの異常が発生する危険性はゼロではないことを忘れないでください。旅行や里帰り出産で飛行機を利用する場合、飛行の高度が赤ちゃんに影響を与えることはありません。ただ、航空会社によって、国際線ならだいたい32〜36週以降になると診断書の提出が必要になります。また、国内線なら36週未満までは普通に搭乗できますが、それ以降となると診断書が必要になるので注意してください。温泉旅行はのんびりできてよいのですが、特に源泉かけ流し温泉などは不純物が除去されていないことがあるので、衛生面で安心できる場所を選びましょう。また、温泉だとどうしても長湯をしてしまい、それが原因でのぼせてしまうことも。湯につかるのは目安としては10分程度。体調を考慮しながら短めに切り上げるがよいでしょう。 気になる性生活。切迫早産、前置胎盤などトラブルのある人は控えて なかなか声に出して聞きにくいのが性生活ですが、挿入行為そのものが胎児に影響があるか否かはまだよく分かっていないのが現状です。ただ、挿入行為が細菌感染の原因になってしまうことは分かっています。また、精子が頸管の熟化を促したり、破水のきっかけを起こすことも分かっていますので、どうしても、という場合には必ずコンドームをつけるようにしましょう。それから腟への刺激、乳首への刺激は子宮収縮を促します。負担のかかるような行為はやめて、おだやかなセックスをするようにしてください。ただ、もともとおなかの張りが強い、切迫早産、前置胎盤だと分かっている人は控えたほうがいいですね。 煙草は当然NG!腰を圧迫するようなベルトも避けて 当然のことですが、妊娠したらタバコはやめましょう。喫煙で赤ちゃんが小さく生まれてしまうケースも報告されていますし、常位胎盤早期剥離の原因になるともいわれています。ご主人が喫煙者なら、一緒にやめるチャンスになりますね。妊婦さんは下半身を冷やさないようにとよくいわれます。冷え防止のためにと、幅広でウエストを締めつけるような帯やベルトは避けましょう。背骨と子宮の間にある下大静脈を締めつけるため、特に高齢出産の方に多い「静脈瘤りゅう」やむくみを起こしやすいからです。静脈溜はひどくなると立っているのもつらくなってきますので、もともと脚の血管が浮き出ている人は、着圧ソックスを履くなどして、脚の血行を促して静脈瘤を予防しましょう。ヒールの高いパンプスは転びやすいので危険なのはもちろんですが、身体が前のめりになることによって腰への負担がかかり、腰痛の原因になることも。歩きやすい低めのヒールやスニーカーなどにしましょう。 妊娠期間は食生活の見直しや、運動を取り入れる絶好のチャンス! 妊娠中期以降は自分自身の食生活や運動をチェック 最近の妊婦さんの傾向として、30代にめいいっぱい仕事をして、それから妊婦になる方が多くいらっしゃいます。おそらく食事や運動に気を使う時間も少なかったのではないでしょうか。妊婦だからといって「こうでなければいけない」という決まりは特にありません。ただ、妊娠は栄養面や生活面を見直すいいチャンスともいえます。出産後は忙しくてゆっくり考えられませんから、時間のある妊娠中に一度食生活を見つめ直したり、今までできなかったマタニティ用の運動を始めてみるのもおすすめです。 つわりの時期は無理をせず食べられるものを口にして 妊娠すると、たいていの人にやってくる「つわり」。ピークは8〜12週といわれています。英語ではモーニングシックネスといわれ、朝気分が悪かったり、嘔吐する人もいますが、仕事が終わって夕方からダウンしてしまう、という方も増えています。この時期は「一日三食は気にせず、食べたいときに食べられるものを」が基本です。しょっぱいものばかり食べたい人、さっぱりしたものしか食べられない人、はたまた何も受け付けない人……など人によって好みは大きく違ってきます。一気に食べると胃が張り、さらに気持ちが悪くなることも多いので、食べたい時には小分けにして食べましょう。ただ、食べたいからといって、合成着色料などの添加物が多いものをたくさん食べるのは考えもの。ベビーはまだ2〜4㎝くらい。栄養やカロリーはそれほど必要ありませんが、明らかに身体に悪そうなものは控えたいものです。また脱水症には注意しましょう。吐きづわりの人はもちろんですが、冬は暖房、夏は暑さで、妊婦さんは脱水症を起こしやすくなっています。脱水症により血液が濃くなるだけでなく、血液中のナトリウムやカリウムのバランスが崩れて身体への負担が大きくなってしまいます。水分はこまめに摂ることが第一。水が飲めない場合は、氷や冷たい飲料など口に含めるものでOKです。ひとつの目安として、つわりの時期に1〜2週間で体重が5%も落ちてしまう場合は要注意です。入院管理が必要な場合もありますから、すぐに主治医に相談してください。16週くらいまでにはほぼ落ち着いていきます。 妊娠中期〜後期の食事は栄養のバランスを意識して 妊娠初期に落ちていた食欲が、つわりの落ち着きとともに回復してくる妊娠中期〜後期。体重制限が気になる方も多いのでは?実はつい5〜6年前までは体重を制限することが多かったのですが、厳しい体重制限により赤ちゃんの出生時の体重が低くなることが問題になり、ここ最近ではさほど厳しくなくなってきました。目安としては出産前のBMI(BodyMassIndex)が18〜22と一般的なものであれば9〜12㎏増やしてもよいとされています(※指数の計算は右コラムを参照)。BMIが30を超える場合は、体重制限が必要になりますので、注意してください。また、母体自体がやせていると切迫早産のリスクが高まり、赤ちゃんの低体重も予想されますので、この場合も主治医との相談が必要になります。妊婦さんの身体は、血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなりやすいのが特徴です。まずはスナック系の油の成分や塩分はなるべく控え、バランスのいい食事をできる限り摂りたいですね。貧血にもなりやすいので、鉄分やビタミンB12が豊富なレバー、海藻類、豚肉などを積極的に摂るとよいでしょう。また、便秘にもなりがち。朝起きたらすぐに水を飲み、排便する習慣をつけたいものです。ただ、あまりに苦しい場合は、下剤を処方してもらいましょう。特に年齢の高い妊婦さんの場合は、動脈硬化を防ぐビタミンCや葉酸を、サプリメントでもかまわないので積極的に取り入れてほしいです。また、20代とは骨密度も異なりますから、ヨーグルトや小魚などのカルシウムも意識的に摂取するとよいと思います。 妊娠中の運動は専門の教室で受けるのが安心 妊婦さんが運動をしてOKなのは16〜20週以降とされています。実際に、妊娠中に運動をしていた人のほうが動脈硬化を抑えられた、不眠を解消できた、またお産が楽だったというデータもあります。切迫早産や前置胎盤の危険がなく、健康な状態で生活を送れている方は積極的にやってほしいですね。ただし、ジャンプをしたりして身体に負担のかかる運動や格闘技系のものはおすすめできません。自分で運動するならウォーキング、また家のなかでスクワットをして下半身を鍛えたり、あぐらの姿勢をして身体を柔軟にしておくのもおすすめです。教室であればマタニティビクス、マタニティスイミングなどが、最近さまざまあります。妊婦さん専門のクラスなので、運動の強度を考慮し、メディカルチェックされたプログラムのはずなので安心でしょう。また、こういった教室に行くことで妊婦さんの友達ができる、という大きなメリットもあります。同じ状況の友達が見つかることで、妊婦ならではの悩みや不安を分かち合うこともできますので、ぜひトライしてみてはいかがでしょう。 川端 伊久乃 先生 医学博士。女性スポーツ医学研究会幹事、日本周産期新生児学会周産期(母体・胎児)専門医として活躍。プライベートでは小学校2年の女の子をもつワーキングママでもあります。 自転車や車の運転には注意が必要。電車や車は基本OK。 妊婦さんのなかには日々の移動で、電車や車を使う人も多いはず。特にワーキング妊婦さんならバスや電車通勤は避けて通れないケースも多いでしょう。バスや電車の振動自体に問題はないのですが、心配なのは人がたくさん乗っていて身体を圧迫されることです。妊娠中は脳貧血を起こしやすい状態でもあるので、できれば、通勤ラッシュを避けた時差通勤をおすすめします。自転車に関しては、妊娠初期で身体のバランスがとれていれば大丈夫ですが、中期以降はおなかが出てきてバランスが取りにくくなります。それによって倒れた時の衝撃はかなり大きいので、これは避けましょう。また、車の運転は妊婦さんだから禁止されている、ということはありません。ただ、妊娠中はどうしても身体がのぼせやすく頭がぼーっとしたり、注意散漫になりがちなので体調を考えながら運転するよう心がけてください。 旅行やおでかけは、身体に負担のないスケジュールで 安定期に入ると「気分転換に旅行をしたい」という方が増えてきます。旅行そのものはタブーではありませんが、やはり通常とは違う身体です。行った先でのトラブルやリスクを考えて、余裕をもった日程を組んでください。また、それまでに何の異常がなくても、切迫早産などの異常が発生する危険性はゼロではないことを忘れないでください。旅行や里帰り出産で飛行機を利用する場合、飛行の高度が赤ちゃんに影響を与えることはありません。ただ、航空会社によって、国際線ならだいたい32〜36週以降になると診断書の提出が必要になります。また、国内線なら36週未満までは普通に搭乗できますが、それ以降となると診断書が必要になるので注意してください。温泉旅行はのんびりできてよいのですが、特に源泉かけ流し温泉などは不純物が除去されていないことがあるので、衛生面で安心できる場所を選びましょう。また、温泉だとどうしても長湯をしてしまい、それが原因でのぼせてしまうことも。湯につかるのは目安としては10分程度。体調を考慮しながら短めに切り上げるがよいでしょう。 気になる性生活。切迫早産、前置胎盤などトラブルのある人は控えて なかなか声に出して聞きにくいのが性生活ですが、挿入行為そのものが胎児に影響があるか否かはまだよく分かっていないのが現状です。ただ、挿入行為が細菌感染の原因になってしまうことは分かっています。また、精子が頸管の熟化を促したり、破水のきっかけを起こすことも分かっていますので、どうしても、という場合には必ずコンドームをつけるようにしましょう。それから腟への刺激、乳首への刺激は子宮収縮を促します。負担のかかるような行為はやめて、おだやかなセックスをするようにしてください。ただ、もともとおなかの張りが強い、切迫早産、前置胎盤だと分かっている人は控えたほうがいいですね。 煙草は当然NG!腰を圧迫するようなベルトも避けて 当然のことですが、妊娠したらタバコはやめましょう。喫煙で赤ちゃんが小さく生まれてしまうケースも報告されていますし、常位胎盤早期剥離の原因になるともいわれています。ご主人が喫煙者なら、一緒にやめるチャンスになりますね。妊婦さんは下半身を冷やさないようにとよくいわれます。冷え防止のためにと、幅広でウエストを締めつけるような帯やベルトは避けましょう。背骨と子宮の間にある下大静脈を締めつけるため、特に高齢出産の方に多い「静脈瘤りゅう」やむくみを起こしやすいからです。静脈溜はひどくなると立っているのもつらくなってきますので、もともと脚の血管が浮き出ている人は、着圧ソックスを履くなどして、脚の血行を促して静脈瘤を予防しましょう。ヒールの高いパンプスは転びやすいので危険なのはもちろんですが、身体が前のめりになることによって腰への負担がかかり、腰痛の原因になることも。歩きやすい低めのヒールやスニーカーなどにしましょう。 妊娠期間は食生活の見直しや、運動を取り入れる絶好のチャンス! 妊娠中期以降は自分自身の食生活や運動をチェック 最近の妊婦さんの傾向として、30代にめいいっぱい仕事をして、それから妊婦になる方が多くいらっしゃいます。おそらく食事や運動に気を使う時間も少なかったのではないでしょうか。妊婦だからといって「こうでなければいけない」という決まりは特にありません。ただ、妊娠は栄養面や生活面を見直すいいチャンスともいえます。出産後は忙しくてゆっくり考えられませんから、時間のある妊娠中に一度食生活を見つめ直したり、今までできなかったマタニティ用の運動を始めてみるのもおすすめです。 つわりの時期は無理をせず食べられるものを口にして 妊娠すると、たいていの人にやってくる「つわり」。ピークは8〜12週といわれています。英語ではモーニングシックネスといわれ、朝気分が悪かったり、嘔吐する人もいますが、仕事が終わって夕方からダウンしてしまう、という方も増えています。この時期は「一日三食は気にせず、食べたいときに食べられるものを」が基本です。しょっぱいものばかり食べたい人、さっぱりしたものしか食べられない人、はたまた何も受け付けない人……など人によって好みは大きく違ってきます。一気に食べると胃が張り、さらに気持ちが悪くなることも多いので、食べたい時には小分けにして食べましょう。ただ、食べたいからといって、合成着色料などの添加物が多いものをたくさん食べるのは考えもの。ベビーはまだ2〜4㎝くらい。栄養やカロリーはそれほど必要ありませんが、明らかに身体に悪そうなものは控えたいものです。また脱水症には注意しましょう。吐きづわりの人はもちろんですが、冬は暖房、夏は暑さで、妊婦さんは脱水症を起こしやすくなっています。脱水症により血液が濃くなるだけでなく、血液中のナトリウムやカリウムのバランスが崩れて身体への負担が大きくなってしまいます。水分はこまめに摂ることが第一。水が飲めない場合は、氷や冷たい飲料など口に含めるものでOKです。ひとつの目安として、つわりの時期に1〜2週間で体重が5%も落ちてしまう場合は要注意です。入院管理が必要な場合もありますから、すぐに主治医に相談してください。16週くらいまでにはほぼ落ち着いていきます。 妊娠中期〜後期の食事は栄養のバランスを意識して 妊娠初期に落ちていた食欲が、つわりの落ち着きとともに回復してくる妊娠中期〜後期。体重制限が気になる方も多いのでは?実はつい5〜6年前までは体重を制限することが多かったのですが、厳しい体重制限により赤ちゃんの出生時の体重が低くなることが問題になり、ここ最近ではさほど厳しくなくなってきました。目安としては出産前のBMI(BodyMassIndex)が18〜22と一般的なものであれば9〜12㎏増やしてもよいとされています(※指数の計算は右コラムを参照)。BMIが30を超える場合は、体重制限が必要になりますので、注意してください。また、母体自体がやせていると切迫早産のリスクが高まり、赤ちゃんの低体重も予想されますので、この場合も主治医との相談が必要になります。妊婦さんの身体は、血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなりやすいのが特徴です。まずはスナック系の油の成分や塩分はなるべく控え、バランスのいい食事をできる限り摂りたいですね。貧血にもなりやすいので、鉄分やビタミンB12が豊富なレバー、海藻類、豚肉などを積極的に摂るとよいでしょう。また、便秘にもなりがち。朝起きたらすぐに水を飲み、排便する習慣をつけたいものです。ただ、あまりに苦しい場合は、下剤を処方してもらいましょう。特に年齢の高い妊婦さんの場合は、動脈硬化を防ぐビタミンCや葉酸を、サプリメントでもかまわないので積極的に取り入れてほしいです。また、20代とは骨密度も異なりますから、ヨーグルトや小魚などのカルシウムも意識的に摂取するとよいと思います。 妊娠中の運動は専門の教室で受けるのが安心 妊婦さんが運動をしてOKなのは16〜20週以降とされています。実際に、妊娠中に運動をしていた人のほうが動脈硬化を抑えられた、不眠を解消できた、またお産が楽だったというデータもあります。切迫早産や前置胎盤の危険がなく、健康な状態で生活を送れている方は積極的にやってほしいですね。ただし、ジャンプをしたりして身体に負担のかかる運動や格闘技系のものはおすすめできません。自分で運動するならウォーキング、また家のなかでスクワットをして下半身を鍛えたり、あぐらの姿勢をして身体を柔軟にしておくのもおすすめです。教室であればマタニティビクス、マタニティスイミングなどが、最近さまざまあります。妊婦さん専門のクラスなので、運動の強度を考慮し、メディカルチェックされたプログラムのはずなので安心でしょう。また、こういった教室に行くことで妊婦さんの友達ができる、という大きなメリットもあります。同じ状況の友達が見つかることで、妊婦ならではの悩みや不安を分かち合うこともできますので、ぜひトライしてみてはいかがでしょう。 川端 伊久乃 先生 医学博士。女性スポーツ医学研究会幹事、日本周産期新生児学会周産期(母体・胎児)専門医として活躍。プライベートでは小学校2年の女の子をもつワーキングママでもあります。
2014.5.16
コラム 妊娠・出産
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市販薬、漢方薬、サプリメント。 必ず相談しながら服用しましょう
市販薬には必要でない成分も含まれるので注意が必要! 今まで普通に買って飲んでいた市販薬には、場合によっては使用をおすすめできないものもあるので注意しましょう。ただ、妊娠に気づかない時期に市販薬を服用してしまったということがありますが、妊娠1カ月まで(妊娠4週未満)の服用であれば問題ありません。まず風邪薬ですが、市販薬には複数の成分(特に多いものでは10種類以上)が含まれていて、なかには必要でないものもあります。妊娠が分かっていればやめる、もしくは主治医に処方してもらうのがベストです。特に、熱を下げる成分である非ステロイド性抗炎症薬のイブプロフェンは、妊娠後期に続けて使うと、胎児の心臓に近い動脈管に影響がある場合があり、生まれてからも後遺症が残ることがあります。また、最近、痛みどめとしてよく市販されているロキソニンも妊娠後期の服用は避けましょう。湿疹など皮膚疾患の治療に使う外用薬は、塗布した部分だけに作用するので、通常の用法・用量を守れば使用できます。また点鼻薬や目薬は用法、用量を守っていれば問題ありません。 漢方薬は専門家に相談して服用を いろいろな症状に対して、漢方、生しょう薬やくのほうが安心なのでは?という声がよくありますが、漢方、生薬だから安心、とは言い切れません。海外の例ですが、甘かん草ぞうという成分を摂り過ぎたために、妊娠後期に悪影響が出たという報告もあります。もちろん安全性が高いものはいろいろあるので、必要な場合には専門家に相談して正しく摂取するようにしましょう。 サプリメントは種類によっては積極的摂取を ウイルスによって母子への影響が変わる感染症。かかってしまってもあせらず主治医と相談を 妊娠期に避けたい感染症 妊娠中のサプリメントの摂取ですが、最近厚生労働省からも推奨されているものとして、ビタミンBの一種である葉酸があげられます。葉酸の摂取によって、先天異常のひとつである脳神経管閉鎖障害の、リスクを下げられることが分かり、推奨されているもので、2002年から母子手帳にもその記載がされています。葉酸の摂取はできれば妊娠前からが有効とされていて、食事に加え、サプリメントで1日0.4㎎を摂取できるとよいと言われています。ホウレン草やブロッコリーに含まれている葉酸は、サプリメントとしても一般的です。また、海外のデータに、ビタミンAに含まれるレチノールという成分の摂り過ぎによって先天異常が増えたという報告もされています。ビタミンAを過剰に摂らないようにしましょう。妊婦さん向けのサプリメントもたくさんありますので、栄養バランスに心配のある人は、用量を守って摂取するとよいでしょう。 「風しん」は妊娠前半での感染に注意! 感染症のなかでもっとも胎児に影響があるといわれているのが風しんです。たいていの産婦人科で風しんの検査をしますが、もし家族やご主人にも風しんの免疫がない場合には、予防接種をしておきましょう。妊娠3~20週の妊娠前半に感染してしまうと、赤ちゃんが先天性心疾患、白内障、難聴、緑内障などにかかる可能性があります。その場合は、主治医と相談を重ねて、経過を観察していく必要があります。妊娠20週を過ぎると、赤ちゃんには影響は少ないと考えられています。 妊娠初期、中期とで影響が変わる「水ぼうそう」 ヘルペスウイルスの1つである水痘・帯状疱疹ウイルスによる水ぼうそう。幼児のうちにたいていの人がかかる病気ですが、未感染の場合は妊娠前の予防接種が必要です。妊娠20週未満に感染してしまった場合、約2%の胎児が低出生体重、小頭症、四肢低形成などの症状が現れる「先天性水痘症候群」になるといわれ、妊娠20週から出産21日前までの場合では、胎児の9%が乳幼児期に帯状疱疹を発症するといわれています。ただ、水ぼうそうの場合は妊娠中に服用可能なヘルペスウイルスの薬もあるので、必要に応じて処方してもらいましょう。水ぼうそうの抗体を持っていない可能性が高い場合、家族が感染してしまった場合、グロブリン注射で対処することもできます。 赤ちゃんへの影響は少ない「おたふく」と「はしか」 おたふくとはしかも、よく知られる感染症です。ムンプスウイルスによるおたふくは、発病すると発熱や耳の下のリンパ腺が腫はれたりします。赤ちゃんの感染は生まれた後の血液検査で分かりますが、今のところおたふくによる赤ちゃんへの先天異常はないとされています。また、はしかウイルスによるはしかは、妊娠のごく初期にかかった場合、流産の危険性がありますが、胎児への影響はほとんどありません。ただ、大人がはしかになると重症化する恐れがあり、流産や早産の危険性が高まるので注意しましょう。 妊娠中でも予防接種を受けたい「インフルエンザ」 特に冬場に妊娠期間を過ごす妊婦さんに注意が必要なのがインフルエンザです。海外のデータでは妊婦がインフルエンザにかかると重症化しやすいという例もあります。かかってしまった場合ですが、一般的に処方されるタミフルⓇ、リレンザⓇが胎児に影響を与える可能性は低く、妊婦でも服用が可能です。まずは、予防接種、手洗い、うがいを徹底することが大切です。 妊娠中にかかると胎児の3割が感染する「りんご病」 主に幼児が感染する「りんご病(伝染性紅斑)」はパルボウイルスB19というウイルスによるものです。幼児の場合、発熱したりほっぺたに赤い斑点ができたりしますが、大人は斑点が出ない場合も多く、風邪のような症状だけで終わるケースもあります。妊娠20週未満の妊婦さんがりんご病に感染するとその約30%が胎児にも感染し、そのうち3分の1で胎児貧血や胎児水腫、あるいは胎児死亡など、胎児に異変が現れる可能性があります。もともと大人になってりんご病に感染するのはまれだといわれています。 出産するまでに完治しておきたい「性器ヘルペス」 単純ヘルペスウイルスが原因の性感染症の一種。外陰部にかぶれや水疱ができます。治ったように見えてもウイルスは死滅せず体内に残るため、体の抵抗力が落ちたときに再発することがあります。産道から赤ちゃんに感染すると、赤ちゃんが肺炎や脳炎を起こすことがあるので、妊娠中でも抗ウイルス薬を使って治療します。出産前までに完治していない場合は、帝王切開で出産することになります。 ペットがいる場合は注意したい「トキソプラズマ症」 加熱が不十分な肉、犬、猫、鳥に寄生する原虫が原因とされています。トキソプ加熱が不十分な肉、犬、猫、鳥に寄生する原虫が原因とされています。トキソプラズマ症は、実は多くの人が知らないうちに感染し、感染しても無症状で気づかないことが多いのも特徴です。妊娠中に初めてトキソプラズマ症にかかると、ごくまれですが胎盤を通して胎児が先天性トキソプラズマ症に感染し、水頭症、網脈絡膜炎、脳内石灰化などを起こすことがあります。特にペットを飼っている人は、糞をすぐに片づける、口移しでえさを与えない、手をよく洗う、など予防対策を徹底してください。 渡邉 央美 先生 大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院及び関連病院にて産婦人科医として勤務後、2005年より「妊婦・胎児に対する服薬の影響」に関する相談・情報収集を実施している妊娠と薬情報センター 専任医師として勤務。 市販薬には必要でない成分も含まれるので注意が必要! 今まで普通に買って飲んでいた市販薬には、場合によっては使用をおすすめできないものもあるので注意しましょう。ただ、妊娠に気づかない時期に市販薬を服用してしまったということがありますが、妊娠1カ月まで(妊娠4週未満)の服用であれば問題ありません。まず風邪薬ですが、市販薬には複数の成分(特に多いものでは10種類以上)が含まれていて、なかには必要でないものもあります。妊娠が分かっていればやめる、もしくは主治医に処方してもらうのがベストです。特に、熱を下げる成分である非ステロイド性抗炎症薬のイブプロフェンは、妊娠後期に続けて使うと、胎児の心臓に近い動脈管に影響がある場合があり、生まれてからも後遺症が残ることがあります。また、最近、痛みどめとしてよく市販されているロキソニンも妊娠後期の服用は避けましょう。湿疹など皮膚疾患の治療に使う外用薬は、塗布した部分だけに作用するので、通常の用法・用量を守れば使用できます。また点鼻薬や目薬は用法、用量を守っていれば問題ありません。 漢方薬は専門家に相談して服用を いろいろな症状に対して、漢方、生しょう薬やくのほうが安心なのでは?という声がよくありますが、漢方、生薬だから安心、とは言い切れません。海外の例ですが、甘かん草ぞうという成分を摂り過ぎたために、妊娠後期に悪影響が出たという報告もあります。もちろん安全性が高いものはいろいろあるので、必要な場合には専門家に相談して正しく摂取するようにしましょう。 サプリメントは種類によっては積極的摂取を ウイルスによって母子への影響が変わる感染症。かかってしまってもあせらず主治医と相談を 妊娠期に避けたい感染症 妊娠中のサプリメントの摂取ですが、最近厚生労働省からも推奨されているものとして、ビタミンBの一種である葉酸があげられます。葉酸の摂取によって、先天異常のひとつである脳神経管閉鎖障害の、リスクを下げられることが分かり、推奨されているもので、2002年から母子手帳にもその記載がされています。葉酸の摂取はできれば妊娠前からが有効とされていて、食事に加え、サプリメントで1日0.4㎎を摂取できるとよいと言われています。ホウレン草やブロッコリーに含まれている葉酸は、サプリメントとしても一般的です。また、海外のデータに、ビタミンAに含まれるレチノールという成分の摂り過ぎによって先天異常が増えたという報告もされています。ビタミンAを過剰に摂らないようにしましょう。妊婦さん向けのサプリメントもたくさんありますので、栄養バランスに心配のある人は、用量を守って摂取するとよいでしょう。 「風しん」は妊娠前半での感染に注意! 感染症のなかでもっとも胎児に影響があるといわれているのが風しんです。たいていの産婦人科で風しんの検査をしますが、もし家族やご主人にも風しんの免疫がない場合には、予防接種をしておきましょう。妊娠3~20週の妊娠前半に感染してしまうと、赤ちゃんが先天性心疾患、白内障、難聴、緑内障などにかかる可能性があります。その場合は、主治医と相談を重ねて、経過を観察していく必要があります。妊娠20週を過ぎると、赤ちゃんには影響は少ないと考えられています。 妊娠初期、中期とで影響が変わる「水ぼうそう」 ヘルペスウイルスの1つである水痘・帯状疱疹ウイルスによる水ぼうそう。幼児のうちにたいていの人がかかる病気ですが、未感染の場合は妊娠前の予防接種が必要です。妊娠20週未満に感染してしまった場合、約2%の胎児が低出生体重、小頭症、四肢低形成などの症状が現れる「先天性水痘症候群」になるといわれ、妊娠20週から出産21日前までの場合では、胎児の9%が乳幼児期に帯状疱疹を発症するといわれています。ただ、水ぼうそうの場合は妊娠中に服用可能なヘルペスウイルスの薬もあるので、必要に応じて処方してもらいましょう。水ぼうそうの抗体を持っていない可能性が高い場合、家族が感染してしまった場合、グロブリン注射で対処することもできます。 赤ちゃんへの影響は少ない「おたふく」と「はしか」 おたふくとはしかも、よく知られる感染症です。ムンプスウイルスによるおたふくは、発病すると発熱や耳の下のリンパ腺が腫はれたりします。赤ちゃんの感染は生まれた後の血液検査で分かりますが、今のところおたふくによる赤ちゃんへの先天異常はないとされています。また、はしかウイルスによるはしかは、妊娠のごく初期にかかった場合、流産の危険性がありますが、胎児への影響はほとんどありません。ただ、大人がはしかになると重症化する恐れがあり、流産や早産の危険性が高まるので注意しましょう。 妊娠中でも予防接種を受けたい「インフルエンザ」 特に冬場に妊娠期間を過ごす妊婦さんに注意が必要なのがインフルエンザです。海外のデータでは妊婦がインフルエンザにかかると重症化しやすいという例もあります。かかってしまった場合ですが、一般的に処方されるタミフルⓇ、リレンザⓇが胎児に影響を与える可能性は低く、妊婦でも服用が可能です。まずは、予防接種、手洗い、うがいを徹底することが大切です。 妊娠中にかかると胎児の3割が感染する「りんご病」 主に幼児が感染する「りんご病(伝染性紅斑)」はパルボウイルスB19というウイルスによるものです。幼児の場合、発熱したりほっぺたに赤い斑点ができたりしますが、大人は斑点が出ない場合も多く、風邪のような症状だけで終わるケースもあります。妊娠20週未満の妊婦さんがりんご病に感染するとその約30%が胎児にも感染し、そのうち3分の1で胎児貧血や胎児水腫、あるいは胎児死亡など、胎児に異変が現れる可能性があります。もともと大人になってりんご病に感染するのはまれだといわれています。 出産するまでに完治しておきたい「性器ヘルペス」 単純ヘルペスウイルスが原因の性感染症の一種。外陰部にかぶれや水疱ができます。治ったように見えてもウイルスは死滅せず体内に残るため、体の抵抗力が落ちたときに再発することがあります。産道から赤ちゃんに感染すると、赤ちゃんが肺炎や脳炎を起こすことがあるので、妊娠中でも抗ウイルス薬を使って治療します。出産前までに完治していない場合は、帝王切開で出産することになります。 ペットがいる場合は注意したい「トキソプラズマ症」 加熱が不十分な肉、犬、猫、鳥に寄生する原虫が原因とされています。トキソプ加熱が不十分な肉、犬、猫、鳥に寄生する原虫が原因とされています。トキソプラズマ症は、実は多くの人が知らないうちに感染し、感染しても無症状で気づかないことが多いのも特徴です。妊娠中に初めてトキソプラズマ症にかかると、ごくまれですが胎盤を通して胎児が先天性トキソプラズマ症に感染し、水頭症、網脈絡膜炎、脳内石灰化などを起こすことがあります。特にペットを飼っている人は、糞をすぐに片づける、口移しでえさを与えない、手をよく洗う、など予防対策を徹底してください。 渡邉 央美 先生 大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院及び関連病院にて産婦人科医として勤務後、2005年より「妊婦・胎児に対する服薬の影響」に関する相談・情報収集を実施している妊娠と薬情報センター 専任医師として勤務。
2014.5.16
コラム 妊娠・出産
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卵から胎児へ。妊娠初期は人間としての基礎ができる大切な時
生まれてくる日まで大切にはぐくむために ひとつの卵子と精子が出合い、誕生した新しい命。それはとても神秘的で、奇跡ともいえるでしょう。おなかの中から外の世界に生まれ出てくる日まで、小さな命を大切にはぐくんでいきましょう。トラブルなく安全に10カ月を過ごすために、注意点はいろいろありますが、とりわけ生殖医療を受けて命を授かった女性が、気をつけなくてはいけないことはあるのでしょうか?吉村先生にお聞きしました。「日本で生殖医療を受ける方は、年齢の高い方が多くなっています。欧米との比較で、平均で2歳くらい高いというデータがあります。ですから、生殖医療を経て妊娠された方も、年齢が高い方が多いのが現状です。年齢による合併症のリスクも考えながら、妊娠期間を過ごすことが重要です」 流産が起こりやすい妊娠初期は安静に過ごしましょう 妊娠が判明するのは、早くて妊娠4週頃。超音波検査で、子宮の中に赤ちゃんが入った袋(胎のう)が確認できると、正常な妊娠と診断されます。「妊娠初期は、流産に気をつけなければいけない時期。平均すると、15%くらいの妊婦さんに、流産が起こります。40歳以上ですと、30〜40%と非常に高い確率になります。流産は、ある程度は自然に起こる、防ぎようのないものですが、注意して安静に過ごすことが大事です」(吉村先生)出血、おなかの張り、痛みなどが出た場合には、すぐに病院に行きましょう。妊娠6〜7週になり、胎のうの中に赤ちゃんの心拍が確認できると、流産の危険はかなり減少します。ここまでくればひと安心。つわりがつらい時期でもありますが、赤ちゃんからの「元気に成長しているよ」というメッセージだと考え、気分転換しながら乗り切りましょう。妊娠初期は赤ちゃんの主要な器官が形成される大切な時期。有害因子の影響を受けやすいので、自己判断での薬の服用は避け、飲酒・喫煙は早いうちにやめましょう。 バランスのよい食事で胎児にも栄養を送りましょう 妊娠4カ月頃になると、つわりもそろそろ終了。これまでの反動で、食欲に火がつくことがあります。極端な食べ過ぎは厳禁ですが、最近では以前のような体重増加制限はなくなってきているそうです。「新生児の体重は20年前と比べると200gも減り、平均が2800gくらいになっています。これは大変なことです。今はやせている女性が多くなっていて、お母さんの栄養障害が胎児の成長に影響しているのかもしれません。バーカー仮説というのがあるのですが、低出生体重児は将来、生活習慣病につながる可能性があると考えられています。生まれてくる子の将来のために、妊婦さんは健診をきちんと受け、食事のコントロールをして、適正に体重を増やしていくことが、とても大事です」(吉村先生) 安定期はバランスのいい食事と適度な運動を心がけましょう 胎盤が完成し、大きなトラブルもなく過ごせる中期(5〜7カ月)は、妊婦さんには最も過ごしやすい時期。ヨガやウォーキング、水泳などの運動は、急激な体重増加を防止し、気分転換やリフレッシュにも最適です。この時期は赤ちゃんの機能も発達し、活発に動くようになり、ほとんどの人が胎動を感じるようになります。おなかも妊婦さんらしく大きくなり、母親になる実感がますます強くなってくるでしょう。中期から後期にかけて注意するべきポイントはどんなところなのでしょうか?「最も注意したいのは、妊娠高血圧症候群です。年齢の高い妊婦さんは妊娠高血圧症候群にかかる確率が高くなります。また一般的に、年齢が高くなれば、糖尿病などの内科的な合併症も増えます。病気が原因で、胎児機能不全になったり、早産を起こすこともあります」(吉村先生)安定した時期ではありますが、おなかの張りや、出血、体の異変は見逃さないよう、常に注意しておきましょう。予防のためには、塩分を控えたバランスのよい食事が大切。そして何も問題ないと思っても、定期健診には必ず行き、医師の指示を受けましょう。 体外受精で生まれる子は自然妊娠の子と違うの? 体外受精で妊娠された方のなかには、無事に赤ちゃんが生まれてくるのか、障害や奇形はないのかということを気にしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。「2009年のデータによると、日本では全妊娠の2.5%、40人に1人が体外受精関連技術で生まれています。今の研究では、先天奇形率に関しては、体外受精と一般の妊娠で差がないとされています。またヨーロッパでは、体外受精で生まれた子どもは、知能レベルが平均よりも高いというデータも出ています。現在のところ体外受精による妊娠でも、心配なさることはないと思います。しかしながら、10年、15年後の成長を追いかけたデータは、日本にはありません。これだけ体外受精で生まれる子どもが増えているのですから、今後はさまざまな観点から、長期的な成長を追って見ていくべきだと感じています」(吉村先生) 出産まであともう少し。1日でも長くおなかの中に 8カ月を過ぎると、子宮がさらに大きくなり、妊婦さんは動悸や腰痛などの症状が増えてきます。妊娠後期に、一番気をつけなければいけないのが早産。低体重で生まれてくると、脳や呼吸器に障害が出る可能性があります。34週を過ぎれば、赤ちゃんは外界でも生きていけるくらいまでに機能は発達していますが、産後の合併症のリスクを減らすために、1日でも長くおなかの中にいさせてあげることが大切です。おなかが張りやすい、疲れやすいと感じたら、無理をせず、すぐに横になり、安静にしましょう。10カ月の妊婦生活のゴールはもうすぐ。赤ちゃんもお母さんに会える日を楽しみにしています。 吉村 典 先生 慶應義塾大学医学部卒業。1983年から米国ペンシルバニア病院、米国ジョーンズ・ホプキンズ大学勤務、1990年から杏林大学医学部産婦人科助教授を経て、1995年から慶應義塾大学医学部産婦人科教授に。現在、日本生殖医学会理事長および日本産科婦人科内視鏡学会理事長。2011年6月まで日本産科婦人科学会理事長を務める。 ■ あわせて読みたい ■ 妊娠中のリスク(1)~妊娠が原因で起こる病気~ 妊娠中の甘いもの。人工甘味料なら大丈夫? 妊娠中のつらい腰痛、ナースがその対策を教えます! 唾液や鼻水が増えるのは妊娠の初期症状? 妊娠初期にはおりもののニオイが変わるって本当? 女性のための健康生活マガジン JINEKO 生まれてくる日まで大切にはぐくむために ひとつの卵子と精子が出合い、誕生した新しい命。それはとても神秘的で、奇跡ともいえるでしょう。おなかの中から外の世界に生まれ出てくる日まで、小さな命を大切にはぐくんでいきましょう。トラブルなく安全に10カ月を過ごすために、注意点はいろいろありますが、とりわけ生殖医療を受けて命を授かった女性が、気をつけなくてはいけないことはあるのでしょうか?吉村先生にお聞きしました。「日本で生殖医療を受ける方は、年齢の高い方が多くなっています。欧米との比較で、平均で2歳くらい高いというデータがあります。ですから、生殖医療を経て妊娠された方も、年齢が高い方が多いのが現状です。年齢による合併症のリスクも考えながら、妊娠期間を過ごすことが重要です」 流産が起こりやすい妊娠初期は安静に過ごしましょう 妊娠が判明するのは、早くて妊娠4週頃。超音波検査で、子宮の中に赤ちゃんが入った袋(胎のう)が確認できると、正常な妊娠と診断されます。「妊娠初期は、流産に気をつけなければいけない時期。平均すると、15%くらいの妊婦さんに、流産が起こります。40歳以上ですと、30〜40%と非常に高い確率になります。流産は、ある程度は自然に起こる、防ぎようのないものですが、注意して安静に過ごすことが大事です」(吉村先生)出血、おなかの張り、痛みなどが出た場合には、すぐに病院に行きましょう。妊娠6〜7週になり、胎のうの中に赤ちゃんの心拍が確認できると、流産の危険はかなり減少します。ここまでくればひと安心。つわりがつらい時期でもありますが、赤ちゃんからの「元気に成長しているよ」というメッセージだと考え、気分転換しながら乗り切りましょう。妊娠初期は赤ちゃんの主要な器官が形成される大切な時期。有害因子の影響を受けやすいので、自己判断での薬の服用は避け、飲酒・喫煙は早いうちにやめましょう。 バランスのよい食事で胎児にも栄養を送りましょう 妊娠4カ月頃になると、つわりもそろそろ終了。これまでの反動で、食欲に火がつくことがあります。極端な食べ過ぎは厳禁ですが、最近では以前のような体重増加制限はなくなってきているそうです。「新生児の体重は20年前と比べると200gも減り、平均が2800gくらいになっています。これは大変なことです。今はやせている女性が多くなっていて、お母さんの栄養障害が胎児の成長に影響しているのかもしれません。バーカー仮説というのがあるのですが、低出生体重児は将来、生活習慣病につながる可能性があると考えられています。生まれてくる子の将来のために、妊婦さんは健診をきちんと受け、食事のコントロールをして、適正に体重を増やしていくことが、とても大事です」(吉村先生) 安定期はバランスのいい食事と適度な運動を心がけましょう 胎盤が完成し、大きなトラブルもなく過ごせる中期(5〜7カ月)は、妊婦さんには最も過ごしやすい時期。ヨガやウォーキング、水泳などの運動は、急激な体重増加を防止し、気分転換やリフレッシュにも最適です。この時期は赤ちゃんの機能も発達し、活発に動くようになり、ほとんどの人が胎動を感じるようになります。おなかも妊婦さんらしく大きくなり、母親になる実感がますます強くなってくるでしょう。中期から後期にかけて注意するべきポイントはどんなところなのでしょうか?「最も注意したいのは、妊娠高血圧症候群です。年齢の高い妊婦さんは妊娠高血圧症候群にかかる確率が高くなります。また一般的に、年齢が高くなれば、糖尿病などの内科的な合併症も増えます。病気が原因で、胎児機能不全になったり、早産を起こすこともあります」(吉村先生)安定した時期ではありますが、おなかの張りや、出血、体の異変は見逃さないよう、常に注意しておきましょう。予防のためには、塩分を控えたバランスのよい食事が大切。そして何も問題ないと思っても、定期健診には必ず行き、医師の指示を受けましょう。 体外受精で生まれる子は自然妊娠の子と違うの? 体外受精で妊娠された方のなかには、無事に赤ちゃんが生まれてくるのか、障害や奇形はないのかということを気にしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。「2009年のデータによると、日本では全妊娠の2.5%、40人に1人が体外受精関連技術で生まれています。今の研究では、先天奇形率に関しては、体外受精と一般の妊娠で差がないとされています。またヨーロッパでは、体外受精で生まれた子どもは、知能レベルが平均よりも高いというデータも出ています。現在のところ体外受精による妊娠でも、心配なさることはないと思います。しかしながら、10年、15年後の成長を追いかけたデータは、日本にはありません。これだけ体外受精で生まれる子どもが増えているのですから、今後はさまざまな観点から、長期的な成長を追って見ていくべきだと感じています」(吉村先生) 出産まであともう少し。1日でも長くおなかの中に 8カ月を過ぎると、子宮がさらに大きくなり、妊婦さんは動悸や腰痛などの症状が増えてきます。妊娠後期に、一番気をつけなければいけないのが早産。低体重で生まれてくると、脳や呼吸器に障害が出る可能性があります。34週を過ぎれば、赤ちゃんは外界でも生きていけるくらいまでに機能は発達していますが、産後の合併症のリスクを減らすために、1日でも長くおなかの中にいさせてあげることが大切です。おなかが張りやすい、疲れやすいと感じたら、無理をせず、すぐに横になり、安静にしましょう。10カ月の妊婦生活のゴールはもうすぐ。赤ちゃんもお母さんに会える日を楽しみにしています。 吉村 典 先生 慶應義塾大学医学部卒業。1983年から米国ペンシルバニア病院、米国ジョーンズ・ホプキンズ大学勤務、1990年から杏林大学医学部産婦人科助教授を経て、1995年から慶應義塾大学医学部産婦人科教授に。現在、日本生殖医学会理事長および日本産科婦人科内視鏡学会理事長。2011年6月まで日本産科婦人科学会理事長を務める。 ■ あわせて読みたい ■ 妊娠中のリスク(1)~妊娠が原因で起こる病気~ 妊娠中の甘いもの。人工甘味料なら大丈夫? 妊娠中のつらい腰痛、ナースがその対策を教えます! 唾液や鼻水が増えるのは妊娠の初期症状? 妊娠初期にはおりもののニオイが変わるって本当? 女性のための健康生活マガジン JINEKO
2014.5.16
コラム 妊娠・出産