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精子濃度が830万/mlでも人工授精で妊娠することは可能ですか?

コラム 不妊治療

精子濃度が830万/mlでも人工授精で妊娠することは可能ですか?

「顕微授精でしか妊娠は難しい」といわれて決心を固めましたが、再検査では濃度が830万/ml、運動率は変わらずという結果で、人工授精をすることに。」

2017.8.16

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大島 隆史 先生(大島クリニック)




 





セムさん(主婦/27歳)からの相談


●男性不妊が発覚して不安


結婚して約1年半、子どもを考え出して半年になりますが、なかなかできないのと不正出血があったので、産婦人科へ行きました。というのも昔から生理痛がひどく、意識を失う時も。幸い月経血の量が多いだけで、子宮内膜症などの異常はないといわれました。しかし、ヒューナーテストから夫の精液検査をすることになり、濃度130万/ml、運動率76%という結果でした。「顕微授精でしか妊娠は難しい」といわれて決心を固めましたが、再検査では濃度が830万/ml、運動率は変わらずという結果で、人工授精をすることに。もちろん結果は神のみぞ知るということは承知しておりますが、この数値で人工授精で妊娠できる可能性はありますか? 20代であっても顕微授精で妊娠できる確率は高くない? 年単位の治療となっていくのでしょうか。



 



人工授精に必要な洗浄精子数は500万/ml以上といわれています


最初の検査結果で出た精子濃度130万/mlというのはかなり低い数値で、人工授精に使うために洗浄するともっと少なくなってしまうと思いますね。2回目に計測した830万/mlはギリギリで、顕微授精をすすめる施設は多いと思いますが、人工授精でも何とか治療が可能かもしれません。

一般的に、人工授精で必要な洗浄精子は500万~1000万/ml以上といわれていますが、一部の論文によると100万/ml以上あれば可能とも報告されています。

実際に当院でも洗浄後に動いている精子の数が10万/ml程度でも妊娠した方はいらっしゃいます。精子が少ないケースを集めて人工授精のデータをまとめたら、数が正常な人より少ない人のほうが妊娠率が高かったという結果が出たんですね。数の問題でタイミング法では難しかったけれど、奥に入れてあげればうまくいったのは、もしかしたら男性側に問題があったからかもしれません。


3、4個の排卵を目指す誘発をして妊娠率アップを


ご夫婦のデータをもう少し詳しくみてみると、精子が少ない人で妊娠した人の洗浄精子数の平均は640万/ml程度で、妊娠しなかった人の平均は400万/ml台でした。

もう一つ注目すべきポイントは排卵数。精子が少ない人で妊娠した排卵数の平均は3.1個で、妊娠しなかった人の平均は2個だったんです。

つまり、精子の数が少なめでも、女性側の排卵誘発をきちんとすれば妊娠の確率が上がるかもしれないということです。

私の臨床経験からみると、誘発をしないと人工授精の妊娠率はほぼゼロだと思っています。飲み薬のクロミッド®でも自然周期とほとんど変わりません。そこで当院では排卵数を増やして少しでも良い卵子が出てくる確率を上げるために、HMGやリコンビナントFSHを使った注射での誘発を中心に行っています。

クロミッド®による排卵誘発は5回以上実施すると、次に注射で誘発しても3%程度と、逆に妊娠率が下がるというデータも。長期間使用すると子宮内膜が薄くなるなど、着床に悪影響を与えるリスクがあるようですね。

一方、最初から注射で誘発すると妊娠率は21%くらいだといわれています。刺激が強くなると多胎などのリスクがありますが、それをきちんとご説明して納得いただいた場合は、排卵に障害がない方にも注射で誘発を行っています。

では、排卵数ではなく、使う精子の数を増やしたらどうかということですが、確かにそのような方法もあります。当院でも以前、精子を4、5回採って凍結し、一気に融解して当日採った精子と合わせて人工授精をするというやり方で、7例ほどトライしたことがあります。しかし、精子が少ない人は融解するとさらに少なくなるので、あまり有効ではなかったようですね。妊娠したのは2例しかありませんでした。


サバイバルテストで精子の受精能力を確認


この方の場合、女性の年齢が20代で卵子の状態が良いと思うので、妊娠の可能性はあると思います。前述したように排卵数を増やすという方向で、誘発を加えた人工授精に数回挑戦してみてもいいのではないでしょうか。

それでも人工授精にするのか、顕微授精にするのか、なかなか決められないということでしたら、一度、精子のサバイバルテスト(精子生存試験)を受けてみてもいいかもしれません。

洗浄後、100%動いている精子を集めて、インキュベーターで24時間培養します。そうすると、受精能力のある精子は9割方生き残る。生き残る精子が2~3割以下で、なおかつ精子数が少ないのであれば顕微授精を選択したほうがいいと思います。もし受精能力があることを確認できたら、人工授精を2、3回試してから顕微授精に進むという形をとってもいいのでは。

サバイバルテストは、体外受精を行っている施設であれば受けることができると思います。


20代なら顕微授精での妊娠率は7割近くに達します


より確実な方法で、なるべく早く妊娠を叶えたいとお考えなら、人工授精のプロセスを踏まないで、このまま顕微授精に進むという選択もあるかと思います。

年齢がまだお若く、子宮内膜症などがないかぎり、1回目の胚移植での妊娠率は7割程度に達するはずです。誘発を加えた人工授精に比べて、1個の胚を戻す顕微授精なら多胎のリスクもほとんどありません。ほかの要因がなければ長期決戦になることはないと思いますね。数が採れれば凍結できるので、採卵も1回程度で済むのではないでしょうか。

条件や確率、リスクなどをよく考えて、ご夫婦にとって最適な方法を選択していただきたいと思います。




TOPIC


ヒューナーテストとは?
正式には「精子頸管粘液適合試験」といわれているもので、不妊治療をする際、初期に受ける基本検査の1つ。排卵の4日前から排卵日にかけて子宮の出口に頸管粘液がたくさん分泌され、精子はその中を泳ぐようにして入っていく。性行為をして9~14時間後にこの頸管粘液を採取し、400倍の視野にして顕微鏡で見ることで、動いている精子がいるか、粘液と精子の折り合いがいいかどうかなどを調べる。
結果が不良だと人工授精を提案する場合もあるが、確実性のある検査ではないので、1回ではなく、2、3回実施することも多い。





 





大島先生より まとめ


誘発を加えて排卵数を増やせば人工授精でも妊娠の可能性はあります



 



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お話を伺った先生のご紹介





大島 隆史 先生(大島クリニック)


自治医科大学卒業。1982年、新潟大学医学部産科婦人科学教室入局。産婦人科医として3年間研修後、県内の地域病院の1人医長として4年間勤務。1992年、新潟大学医学部において医学博士号を授与される。新潟県立がんセンター新潟病院、新潟県立中央病院勤務を経て、1999年、大島クリニックを開設、院長に就任。今年、同院では人工授精での妊娠率が高く、半年を過ぎた時点で昨年1年間の成績に達したとか。ARTではAIが分析する最先端のタイムラプス胚培養器を導入。一般、高度治療ともに力を入れています。

≫ 大島クリニック


 


 


出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn
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