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凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい?

コラム 不妊治療

凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい?

2017autumn P32-33

2017.8.16

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凍結精子で顕微授精。胚盤胞と分割胚どちらがいい?


中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)




 





junさん(主婦/40歳)からの相談


●今後の移植法について


無精子症のため、凍結精子を使用して顕微授精をしていました。顕微授精ができたのはこの1年に4回、1個は胚盤胞凍結、その他は10細胞、桑実胚で分割が止まってしまいました。採卵数は1〜3個で受精はすべてしています。いまの病院は胚盤胞しか移植しないため、まだ移植をしたことがありません。先生に分割胚の凍結も一度聞いてみたんですが、体の負担があるのでやめたほうがいいとのことでした。今回で凍結精子がなくなってしまったので、次回は移植をする予定ですが。もしダメだったらまたTESEをしなければなりません。しかし、TESEをする前に転院したほうがいいか考えております。TESEをしたら転院はできないと思うので(泣)。そこで、

①分割胚を移植できるように転院すべきかどうか。それとも今のまま胚盤胞を育てるか。
②移植までにしておいたほうがいいことは?

この2つについてアドバイスをいただければと思います。①については両方の意見があると思います。私も各々の意見、経験談もいろいろ伺ってどちらもわかるので、決めかねているのもあります。



 



採卵当日に精子が準備できない場合に有効な凍結精子


重度の乏精子症や無精子症などで採卵当日に精子が見つからない可能性がある場合、あらかじめ射出精子やTESE(精巣内精子採取術)などで採取した生存精子を凍結保存して顕微授精に用います。また、悪性腫瘍、白血病などの抗がん剤治療で無精子症になる可能性がある場合、治療前に精子を凍結保存することもあります。

凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、長い歴史があり安全性は医学的にまったく問題ありません。無精子症でもTESEで生存精子が見つかれば妊娠の可能性は十分あります。


胚盤胞になりにくい人は長期の体外培養が合わない可能性が。分割胚移植の検討も


この方の場合、胚盤胞までなかなか達しないような印象を受けます。胚盤胞になりにくい場合は分割胚の移植を検討します。症例によっては長期の体外培養が胚細胞にとってストレスになり、正常な胚であっても成長しない可能性があるからです。担当医の方に「分割胚の凍結は体の負担があるから」といわれたということですが、お話に行き違いがあったのかもしれません。凍結融解胚移植でも新鮮胚移植でも、分割胚移植と胚盤胞移植では体への負担は変わりません。

いずれにしても胚盤胞になりにくい場合はなんらかの工夫が必要です。当院では2つの方策をとっています。(1)分割胚移植を選択する、(2)顕微授精の時に卵子を活性化するカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞までの培養を試みる方法です。カルシウムイオノフォアはあまりなじみがないかもしれませんので、少しご説明いたします。


本来の働きを応用し、受精卵の分割を活性化させるカルシウムイオノフォア


カルシウムイオノフォアは、卵子の細胞質内にある小胞体からカルシウムイオンの放出を促す薬剤です。顕微授精後の卵子活性化に用いられる薬剤で、受精障害の場合に有効とされていましたが、胚細胞の分割が進行することにも効果があるという報告も出てきています。

その原理を簡単に説明しますと、卵子が受精や細胞分裂する時、小胞体からカルシウムが放出され、細胞内のカルシウム濃度の上昇と下降が波状に起こります。その波状の変化がエネルギーとして次の過程に伝わり、受精や分裂につながっていくと考えられています。

つまり、卵子のカルシウム濃度の上昇が不十分だと卵子が不活性な可能性があり、その場合、カルシウムイオノフォアが有効です。また、受精卵が分割する時もカルシウム濃度の波状の変化が必要なので、受精卵の成長が止まってしまう場合にもカルシウムイオノフォアが有効です。

当院でも受精卵の分割がうまくいかない場合にカルシウムイオノフォアを使ってみたところ、胚盤胞到達率が高まり、妊娠率が向上しました。この結果を最近学会報告しております。


現状で分割胚移植が不可能であれば転院も。TESEでの精子凍結後も転院は可能です


この方の施設は「胚盤胞しか移植しない」方針だそうですが、たしかに胚盤胞まで成長しない分割胚を移植しても結果につながらないという考え方もあります。一方で、症例によっては長期の体外培養が胚細胞のストレスになるので、胚盤胞にならない場合は分割胚移植のほうがいいという考え方もあります。

当院のデータでは、40歳以上の方の胚盤胞の形成率は30〜40%程度です。なかなか胚盤胞になりにくい方は、前核期胚という受精直後の段階で凍結し内膜を整えてから融解し、前核期胚から分割胚まで培養して移植する方法をとることもあり、良好な結果が出ています。前核期胚は凍結に一番強いといわれていますので、このような方法もいいと思います。

いまの施設で分割胚移植がどうしてもできないのであれば、転院はやむを得ないと感じます。受精卵・精子の凍結後でも移送できますので転院は十分に可能です。通院されている施設でもう一度TESEを行っても、凍結精子を移送することは一般的には可能だと思います。

たとえば当院では同じグループ系列で移入・移出をよく行っており、転勤される方などが利用されています。

「移植までにしておいたほうがいいことは?」というご質問はよく受けるのですが、とくに妊娠率を上げる秘策はありません。無理をせず、ストレスにならないよう体調を整えて普段通りの生活でかまいません。

なによりも一番大事なことは、ご自身が納得できる方法で治療を続けられることです。




TOPIC


採卵当日に精子を準備できない人に有効
凍結精子は採精した精子をマイナス196℃の液体窒素中で、凍結・保存することをいいます。精子を凍結するのは、採卵当日に精子が準備できない場合に使用するためです。乏精子症や無精子症などで採精当日に精子が見つからない可能性がある場合、TESEなどで採精し、凍結保存します。また、悪性腫瘍や白血病などで抗がん剤治療を行う場合、将来の無精子症に備えておきたい場合にも有効です。凍結による精子の質への影響はゼロではありませんが、安全性は医学的に立証されています。





 





中村先生より まとめ


分割胚移植の選択または顕微授精の時にカルシウムイオノフォアを用いて胚盤胞まで培養を



 



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お話を伺った先生のご紹介





中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)


大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。先生の一番のストレス解消法は「滝行」。お父様の代から参拝している山口県周南市のお寺に月1回行き、15分ほど滝に打たれるそう。「新幹線とタクシーを乗り継いで3〜4時間かかりますが、この滝行が一番スキッとし、思い悩んでいたことが浄化される感じがします」。

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出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn
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