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2016.6.28

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赤ちゃんエッセイ:ずっと出てこないでね


はじめての妊娠、そして出産。楽しみでもあり、不安も少し…。そんな初心者ママを応援したいとスキナベーブでは毎年、赤ちゃんエッセイコンテストを開催しています。エッセイには、先輩ママや専門家の方の体験談がいっぱい。元気になれるエッセイが、きっと見つかります。ジネコでは、これまでの受賞作品の中から素敵なエッセイをピックアップしてご紹介してまいります。



「ずっと出てこないでね、ママの赤ちゃん。」2人目の妊娠4カ月当時、2歳半になる長男は、日に日にせり出してくる私のお腹に毎日、呪文のように囁いていた。母親が妊婦になっても、小児科、産婦人科、歯科、のお医者様達、そしてもちろん母親の説得も聞かず、母乳とさよなら出来なかった彼は、新しい命の誕生を頑なに拒み続けていた。テレビで出産のシーンが出ても、泣きべそをかきながらスイッチを消してしまうほど、ナーバスになった。何とか卒乳は出来たものの、妊娠8カ月頃には、赤ちゃん返りが始まり、トイレを拒否し、母親から片時も離れなくなった。次第に、食欲もなくなり、友達と遊ぶことも嫌がり、笑顔も減っていった。気分転換にと、大好きな動物園に連れ出しても、新幹線を見に行っても、それは一時しのぎでしかなく、彼の不安そうな表情がなくなることはなかった。
変化は突然やってきた。息子との入浴中に、パーン、と音がした。そう、破水してしまったのだ。慌てて着替え、主人の携帯とタクシー会社に電話を入れた。それより後のことは、ほとんど覚えていない。陣痛室で我に返ったとき隣りにいてくれたのは、主人ではなく息子だった。「ママ。ママ。」その真っ直ぐな瞳を見て、急に全身に活力が沸いてきた。よし、頑張って早く産むぞ! その決心がお腹の子にも伝わったらしく、あれよあれよ、という間に子宮口が全開大になった。しかし、そこで大量の出血があり、急激に陣痛が強まった。私は呼吸困難になり、いきむことが出来なくなった。胎児の心音も急速に下がり、分娩台の上からでも、病院のスタッフの方達が青ざめてゆくのがわかった。産んであげられなくて、ごめんね、赤ちゃん。ママも何だか、もうだめみたい。医師の指示で、会社から駆けつけた主人と、共に待合室に移動していた息子が、慌てた顔で分娩室にやってきた。朦朧としていた私に、「ママ、寝ないで!」愛しい声が聞こえてきた。そうだ、諦めちゃいけない。息子の励ましで、呼吸が自然と楽になった。医師からは、「子宮内が混濁しています。もう、一刻の猶予もありません。次の陣痛の波で産んでしまわないと、大変なことになります。」と説明があった。「んんんーーーーー。」30秒ほどいきんだだろうか。大きな泣き声と共に、3734グラムの大きな男の子が産まれた。間に合って、良かったあ。後ろを振り返ると、小さな瞳を輝かせている息子がいた。「ひーちゃん、どうも有難う。」私の言葉に「うん。」と頷くが早いか、パパに抱っこされ、一目散で赤ちゃんの所に飛んで行ってしまった。あれ?赤ちゃんいらないんじゃなかったの?ママは?頑張ったママはどうなるの?何だか淋しい!
「?」は、その後も続いた。息子は、私と次男の入院中も家に帰らなかった(子連れ入院可能な病院だったので助かった)。「赤ちゃんとバイバイしたくないもん。」え?ママと、じゃないの?「赤ちゃん泣いてるよ。おっぱいあげて。」え?やきもち焼かないの?
退院後も、パパと公園に行くのを嫌がるようになった。「赤ちゃんと一緒にいたいの。」あんなに滑り台好きなのに?
すっかりお兄ちゃんぶりが板についてきた今では、毎晩、眠りについた弟の耳元で、こう囁いている。「生まれてくれてありがと。お兄ちゃんの宝物だよ。」



提供:スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト



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