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着床前診断のメリットを臨床に生かせる環境を

コラム 不妊治療

着床前診断のメリットを臨床に生かせる環境を

出生前診断と異なり、妊娠が成立する前に受精卵の異常を検査する着床前診断。染色体異常に起因する流産を回避できる新しい技術として、現在、生殖補助医療の現場で大きな注目を集めています。

2016.8.22

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出生前診断と異なり、妊娠が成立する前に受精卵の異常を検査する着床前診断。染色体異常に起因する流産を回避できる新しい技術として、現在、生殖補助医療の現場で大きな注目を集めています。その一方、日本と海外ではかなり事情も異なる様子。「英ウィメンズクリニック」理事長の塩谷雅英先生に、着床前診断を取り巻く最新事情についてお話を伺いました。


着床前診断のメリットを臨床に生かせる環境を



日本は今ちょうど過渡期 海外では当たり前に行われている検査です



いわゆる着床前診断の実施について、日本では現在、重篤な遺伝性疾患の患者さんなどに限定されていますが、日本産科婦人科学会のガイドラインによってPGD(着床前遺伝子診断)が行われています。一方、海外ではすでに最新の検査技術を用いたPGS(着床前遺伝子スクリーニング) が主流となりつつあります。着床前診断の実施には、各国それぞれの社会情勢、それぞれの国の倫理観があるため、対応には慎重にならざるを得ず、それはわが国も同様です。
ここで少し振り返ってみたいのですが、体外受精がたどった歴史とは、いかに良い受精卵をつくって培養するかという技術の発展の経過そのものでした。私は着床前診断とは、その発展の過程で生まれた有用な技術の一つであるととらえています。イギリスのエドワーズ博士が40年近く前に世界初の体外受精を成功させた時、研究者から宗教家、政治家までを巻き込み、世界各国で大論争が起きました。でも今ではどうでしょう?体外受精や顕微授精は日本でも当たり前に行われ、生殖補助医療の中心となっています。
そして現在、アメリカを中心に海外の施設では、PGSは体外受精の胚移植の際に、ごく一般的な検査技術として行われているのです。私の個人的な見解としては、日本でもその治療を望む患者さんが多くいらっしゃる以上、着床前診断も同じような道をたどるのではないかという気がしてなりません。昨年、学会もPGSの臨床研究計画に着手したばかりで、日本は今、ちょうどその過渡期にあると感じています。



次世代シーケンサーNGSが近年の流れに



近年のPGSの検査方法は、胚盤胞の一部、栄養外胚葉細胞を5~10個採取し、それをNGS(次世代シーケンサー、next generation sequencer)で解析する方法が主流となりつつあります。
ただし、PGSで検査の対象となる栄養外胚葉細胞は、将来、胎盤となる部分であり、胎児となる部分ではありません。そのためPGSで得られる結果は必ずしも出生後の結果と一致するわけではなく、数パーセントは一致しないと考えられています。つまりNGSで正常胚と診断されても、妊娠後にNIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)、羊水染色体検査、絨毛染色体検査などを「受ける必要がない」というわけではないのです。NGSは些細な異常も見逃しませんので、特にモザイク胚も見つけ出します。しかし将来、健常児の出産につながる胚も含まれているモザイク胚をどう扱うかなど、まだ今後の知見の積み重ねが必要です。



流産を減らすことができる着床前診断のメリットは時間が限られた40代に有効



ところで、体外受精において、胚移植の前にPGDやPGSを行うもう一つの大きなメリットは、何といっても染色体異常による流産を減らせることです。そして卵子の老化が最大の課題となる40代の不妊治療には、特に意義のある治療であるといえるでしょう。
たとえば、40歳になると、体外受精で得られる受精卵は、割合として5個のうち4個が染色体異常です。着床前の検査を行わずに胚移植を行った場合、結果的に染色体異常の受精卵を子宮に戻すことに時間を取られ、流産を繰り返すこととなり、あっという間に半年、1年が過ぎてしまいます。40代の患者さんにとって、半年、1年はとても貴重な時間です。これは妊娠のチャンスをみすみす逃していることにほかならず、私が今、最も歯がゆく感じている部分です。
さらに、よく議論される妊娠率についてですが、採卵あたりという観点では妊娠率は向上しませんが、胚移植あたりという観点からは向上するといえるでしょう。受精卵を顕微鏡で観察し、質の高い胚が複数個成長したケースでは、これを順番に移植していっても、PGSを行って染色体が均衡しているものだけを移植
しても、最終的には妊娠、出産にいたる可能性は同等です。ただ、前者の場合、先程の例のように妊娠しない周期や流産する周期が増えてしまいます。
患者さんにとって、身体的にも精神的にも、そして当然、経済的にも不利益となるような治療は避けたいものです。習慣流産や卵子の老化の問題を抱える患者さんのため、日本でも胚移植の前にPGSが海外のように当たり前に行える日が一日も早く訪れることを願っています。



着床前診断を知るための基本知識


PGS 着床前遺伝子スクリーニング(preimplantation genetic screening)


主として、胚の染色体の数的異常や性別などを検索する検査。染色体異常のスクリーニングにより、正常な受精卵だけを胚移植することができる。妊娠が成立した後に胎児の異常の有無を知る出生前診断が中絶につながる事実もあるなか、より精神的、身体的なストレスが少ないとされる。日本産科婦人科学会ではPGSの実施を認めていないが、欧米ではPGDよりも数多く行われている。


PGD 着床前遺伝子診断(preimplantation genetic diagnosis)


単一遺伝子異常、または特定の染色体異常の診断を目的とする検査。重篤な遺伝病や染色体転座に起因する反復流産、及び習慣流産の患者が対象となる検査。PGDを実施するには、施設内の倫理委員会の承認、日本産科婦人科学会の認定などが必要。習慣流産の原因が夫婦どちらかの染色体構造の異常であることが確定されなければ、検査を受けることができない。認定まで最短でも3カ月程度の時間を要する。






英ウィメンズクリニック 塩谷 雅英先生

1985年島根医科大学卒業。京都大学産婦人科に入局。体外受精チームに所属し、不妊の臨床に取り組むかたわら研究生活を送り、1994年に医学博士(京都大学)となる。研究テーマは受精卵の着床過程の解析。1994年から2000年2月まで神戸市立中央市民病院に勤務。兵庫県初の顕微授精児の誕生に貢献。2000年3月に不妊症専門クリニックとして英ウィメンズクリニックを開設。

≫ 英ウィメンズクリニック




 




出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.31 2016 Autumn
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