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[対談]「男性不妊治療の助成」実現への想いとこれから

コラム 不妊治療

[対談]「男性不妊治療の助成」実現への想いとこれから

2016冬 p70

2016.12.22

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2016年から男性不妊治療の助成制度がいよいよスタート。この制度実現の立役者が三重県知事の鈴木英敬氏と、リプロダクションクリニック大阪の石川智基先生。予備校時代からの親友であり同志であるお二人に、男性不妊治療助成の実現にいたる想いなどお話しいただきました。


不妊症の半数は男性が原因男性不妊治療の助成をきっかけに意識の改革を


石川先生石川先生●最初に三重県庁に招かれ、知事をはじめ県庁職員の方々の前で「男性の不妊症」について講演したのは3年前でした。その時、子どもを授かるには卵子と精子が絶対必要であるのに、不妊症=女性という偏った認識があること、また、不妊症の半数近くは男性に原因があることにもかかわらず、多くが男性のほうを向いておらず、男性も不妊症に向き合っていない、という現状をお話ししました。
こうした経緯もあり、三重県では2014年に男性不妊治療の助成を全国で初めて導入されました。その想いをお聞かせください。


 



鈴木知事鈴木知事●ちょうどその頃、国の「少子化危機突破タスクフォース」の委員として、少子化対策について勉強中でした。日本は1990年の「1・57ショック」以来、少子化対策を行ってきましたが、残念ながら成功していません。その理由は「女性を支援する」「女性に仕事と家庭を両立してもらう」など、女性に解決してもらう政策が多かったこと。私の根底には、男性の意識が変わり、働き方が変わらなければいけないという考えがあります。石川先生に教えていただいた現状を突破口に、男性も家族を形成する当事者として変わるきっかけをつくり、三重県から発信したいという想いがありました。
また、今でこそ子ども2人に恵まれましたが、結婚当初は子どもができなくて夫婦で悩んだ時期もあります。家族の形成は個人の価値観に委ねられるのが前提ですが、子どもを希望しているのにかなわないのはつらいことです。その希望がかなうようにと男性不妊治療の助成を始めました。

男性も利用しやすい総合クリニックの開設で女性をサポート


石川先生石川先生●三重県からスタートした男性不妊治療の助成は、他の自治体にも広がり、今年1月に国策になりました。不妊症が男女両方にあるという意識づけはとても大きいと思います。女性は妊娠前、出産、育児中と周囲からさまざまなストレスを受けています。これから受けるのはストレスではなく、サポートであってほしいと思います。
当院は大型商業施設内にクリニックを設け、男性と女性双方を対象にした先端不妊治療の総合クリニックとして、土日・夜間の診療などを行っています。何よりも男性が利用しやすい環境をつくることで、女性をサポートしたいと考えています。
男性不妊治療の助成だけではなく、男性の意識も変える時期にきているのでしょうか。


 



鈴木知事鈴木知事●男性も「知る」ことが大事ですね。そこで行政として「伝える」ことにも力を入れています。三重県では、男性不妊治療の助成とほぼ同じタイミングで、小学校・中学校・高校・成人の段階別にライフプラン教育を始めています。2013年から高校の保健体育の学習指導要領に「不妊」の項目が追加されました。「避妊」の知識だけでなく、子どもを希望しても授かれない「不妊」という現実があることを、医療的な知識において各発達段階で男女ともに知るべきです。
また、「みえの育児男子プロジェクト」を発足させ、育児男子ハンドブックの作成、「ファザー・オブ・ザ・イヤー・inみえ」の実施、子育て世代の父親を集めた親子キャンプなど、独自の取り組みを行っています。子育て中の男性同士が気軽に子育てについて相談や情報交換できる、そんな環境づくりも大事だと思います。

男性も家族形成の当事者これからも家族のあり方にしっかり向き合っていく


石川先生石川先生●子どもを授かることがゴールではなく、ここからがスタートですね。これから父親はどうあるべきか。普遍的に変わらないことがある一方で、私たちの父親のイメージとは違ってきている気がします。妻や子どもに対して、きちんと言葉で伝えて家族形成していくことが大事だと思います。
知事は初の著書『「パパ」はどうしてパパなの?』(エムオン・エンタテインメント)を出されました。とても感動的な内容でしたが、なぜこの本を出そうと思われたのですか。


 



鈴木知事鈴木知事●ある方が「歴史的転換点となる絵本である」と書評してくださったのですが、先述のように男性も家族形成の当事者です。ただ当事者ではあるけれど、子どもに面と向かって人生において大切なことを伝える機会がありません。そこで絵本で読み聞かせしながら、普段は言えないことを伝えたいと思いました。また、絵本を読んでいる間、お母さんを休ませてあげたいという想いもあります。子どもにとって一番の幸せは、母親が心身ともに健康であることだと思います。
最近、三重県では里親委託や養子縁組の推進にも力を入れています。日本の里親委託は15%程度なのに対し、イギリスは70%と当たり前の環境です。国連ガイドラインにも「子どもは家庭的環境で養育されるべき」とあるのに、日本にはまだそういう環境がありません。これからもさまざまな取り組みを通じて、家族のあり方について真剣に向き合っていくつもりです。

「男性不妊治療助成」制度の流れ


2004 年 少子化対策の観点から、不妊治療の助成制度がスタート。
2014 年 三重県で男性不妊治療に特化した助成制度を都道府県で初めて導入。
2016 年 国の特定不妊治療費助成制度の改正により、男性不妊治療助成が決定。




三重県知事 鈴木 英敬 氏(右)、リプロダクションクリニック大阪 石川 智基 先生(左)


三重県知事 鈴木 英敬 氏(右)
1974 年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2006 年内閣官房参事官補佐として第一次安倍政権で教育再生や環境問題などに取り組む。衆議院選三重2区で自民党からの出馬・落選・離党などを経て、11 年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事に。15 年4月に再選し、現在2期目。家庭では一男一女のパパ。




リプロダクションクリニック大阪 石川 智基 先生(左)
医学博士。2000 年神戸大学医学部卒業後、生殖内分泌学を研究。米国の大学で男性不妊を研究、男性不妊手術を学ぶ。08 年に神戸大学大学院助教。その後、オーストラリアの大学で男性不妊診療・研究の経験を積んだ後、2013 年大阪市北区に日本初の男性・女性双方の先端不妊治療を総合的に行う「リプロダクションクリニック大阪」を開院。




出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.32 2016 Winter
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