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タイムラプスを活用した受精卵の成長について教えてください

コラム 不妊治療

タイムラプスを活用した受精卵の成長について教えてください

2017春号

2017.5.27

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タイムラプスを活用した受精卵の成長について教えてください


奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜)




 


40代の妊娠と受精卵の成長はどのようにかかわっているのでしょうか。近年、タイムラプスを活用した受精卵の選別について臨床研究を進めている、レディースクリニック北浜の奥 裕嗣先生にくわしく教えていただきました。


40代の流産の原因は染色体異常がほとんど


流産の原因は母体の年齢によって異なりますが、染色体異常とその他の原因の大きく2つに分かれます。なかでも年齢とともに染色体異常の確率が高くなり、20代では50%、40歳以上では80%以上になります。とくに染色体異常のほとんどは「数の異常」によるものです。通常は2本ある染色体が、トリソミー(染色体が3本)やモノソミー(染色体が1本)になると、流産や死産の可能性が高くなります。一方、わずかな確率で起こる「構造異常」もあります。これは染色体に異常が起こり、構造が一部変化したもので「転座型」とも呼ばれます。しかし、40歳以上の原因のほとんどはトリソミーの染色体異常です。染色体異常以外の原因には、抗リン脂質抗体、血液凝固系の異常、抗核抗体などがあります。


見た目で受精卵を選ぶ評価方法に限界も


40歳以上の受精卵については、成長スピードが遅くなる傾向はありますが、全員ではありません。それよりも厄介なのは、形態的にみてまったく問題がなさそうにみえる受精卵です。例えば、グレードが良好で理想的な胚盤胞に成長したとしてもその約40%に染色体異常の可能性があります。形態的な評価のみで移植を行った場合のリスクは非常に高く、染色体異常の受精卵が着床してしまうと、妊娠しないこと以上に経過がよくありません。妊娠しなければすぐに治療ができますが、染色体異常の受精卵が着床した場合は、流産手術など肉体的、精神的な負担が大きいうえに、その後の治療を再開するまでに3〜5カ月を要することになります。仮に分割胚のグレード4〜5の受精卵であれば、染色体異常の可能性は十分に考えられますが、グレードが非常に良い場合であっても染色体異常の可能性があるため、PGS(着床前診断)が認可されていない日本では、そのあたりの判断がむずかしいところです。
※AMH:抗ミュラー管ホルモン


タイムラプスによる受精卵の選別が可能に!?


そこで、当院ではタイムラプスによる受精卵の選別を試みています。タイムラプス(低速度撮影)で24時間、受精卵の成長をモニターしながら、良い受精卵を選んでいきます。

受精卵の分割過程を観察していると、通常は2分割から4分割と偶数に分割しますが、なかには1分割から3分割と奇数に分割する卵子があることがわかります。このような卵子は、胚盤胞になりにくく染色体異常のリスクが高い(妊娠率が低く、流産率が高い)とされており、受精卵の選択が可能な場合は、形態的な評価は高くても第一選択で移植しないようにしています。

また、これまで胚盤胞の成長は平均5日目、遅いもので6日目というのが一般的な考え方でした。しかし、タイムラプスで観察すると4日目で胚盤胞になるものがかなりあることもわかってきました。早く成長するということは良い卵子である可能性が高いということです。ちなみに、当院で4日目の胚盤胞を移植した時の着床率は約80%です。タイムラプスの導入により、4日目の胚盤胞を選べるようになったことも大きな成果です。


40代には分割胚の凍結胚移植を提案


40歳以上の受精卵染色体異常の確率は80%以上とお話しましたが、それ以外の正常なものをどうレスキューしていくか。当院では、40歳以上の方には凍結胚移植を積極的に提案しています。その理由は、40歳以上の妊娠率が新鮮胚移植で19%、凍結胚移植では37・5%と圧倒的に高く、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の予防にもつながること。さらに日本で開発されたガラス化法の凍結技術は、受精卵の変性が少なく、受精卵を効率良く利用できるからです。

また、40歳以上の受精卵の成長スピードは遅い傾向にありますから、受精卵を凍結している間に黄体ホルモン補充を行い、「着床の窓」といわれるインプランテーションウィンドウの開閉を遅らせて着床しやすいタイミングをつくることができます。

さらに、絶対的ではありませんが、40歳以上の受精卵は体外培養のストレスに弱く、胚盤胞よりも早く移植するのが望ましいとの報告があります。例えば、アメリカのビル・リー医師は、採取した卵子と精子を卵管内で受精させるGIFT法を奨励しています。そこで、当院でも40歳以上の凍結胚移植においては、胚盤胞ではなく、2日目の分割胚を初回は実施しています。

最後に、40歳以上の妊娠・出産率は、さらに年齢を重ねるにつれ、低くなる一方です。例えば、40歳でご結婚された方は、その時点ですでにご自分が不妊症である可能性があると思っていただくことが妊娠への近道です。すぐに病院にかかられることをおすすめします。




奥先生より まとめ


40歳以上に多い染色体異常の受精卵。タイムラプスで選別できる日が来るかもしれません。



 



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お話を伺った先生のご紹介





奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜)


1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微受精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。もうすぐタイで英才教育を受けたワンちゃんが来日。家族になる日を楽しみにしている先生。「今いる子は日本チャンピオンなので、新しい子は世界チャンピオンに(笑)世界を飛び回ってほしいですね」


≫ レディースクリニック北浜



出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring
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