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胚の成長を観察したり、記録したりできるって本当? タイムラプスのこと、教えて!

コラム 不妊治療

胚の成長を観察したり、記録したりできるって本当? タイムラプスのこと、教えて!

2017冬号

2017.11.22

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体外受精したあと受精卵はどうなっている?


採取された卵子は培養液に移され、精子と合わせられて受精します。受精した卵子は受精卵、または胚と呼ばれています。胚を培養する時にも培養液を使います。培養液に浸された受精卵は、お母さんのお腹の中の環境をできるだけ再現したインキュベーターという機器に入れられます。インキュベーターの中は温度や湿度、二酸化炭素、酸素の濃度が一定の状態にコントロールされています。この中で受精卵は細胞分裂を繰り返しながら成長していきます。

正常な胚は2細胞、4細胞、8細胞…と分割していきますが、なかには異常な分割をする胚があります。たとえば1つの細胞から3つに分割したり、一度分割した胚が再び融合したりすることがあります。良好胚は見た目で判断しますが、同じように見える胚でもこのような過程で成長したものを移植すると、妊娠率が下がるといわれています。

 




動画のように胚の成長を記録できるタイムラプス


タイムラプスは5分ごとや10分ごとなどの一定間隔で写真を撮影して、その写真を連続で映すことにより動画のように見る技術です。この技術は植物の成長や天体観測など、撮影に長時間かかるものを短時間で見るために使われていました。

最近、このタイムラプスの技術が不妊治療の世界で活用され、注目を集めています。観察するためにインキュベーターから出された胚は、温度も空気もまったく違う環境で、生命活動の危機にさらされます。宇宙空間に出された人間と同じ状況です。タイムラプスインキュベーターの中で胚を撮影することで、外に取り出すことなく観察することができます。胚にストレスがかからず、扉の開閉によるインキュベーター内の環境の変化も起こりません。また、今まで見ることができなかった胚の成長の動きをすべて確認できるようになり、不妊治療における培養技術の向上に大きな効果が期待されています。

 





タイムラプスのメリット



①胚にやさしい
胚が順調に成長しているかを顕微鏡で確認するために扉を開けて取り出すと、インキュベーター内の温度や酸素濃度などが変化してしまいます。タイムラプスを使えばインキュベーターから出さずに胚を観察できるので、培養環境を向上させることができます。


 


②妊娠に至るまでの時間を短縮
胚の成長をタイムラプスで調べると、正常に発育する胚とそうでない胚との違いがわかります。より多くの観察情報をもとに、従来の観察方法ではわからない異常な分割や成長速度の胚を見つけることができます。正常に発育する胚を優先して移植することや、常に監視されている胚に何か問題があった場合の早期の発見と対応は、安心な管理の実現と妊娠に至るまでの時間を短縮することができると言われています。



 


③タブレットで胚の成長を確認できる
タイムラプス技術により、移植する胚の説明を受ける時にPCやタブレットで動画を見ることができます。凍結保存した胚を融解して移植する時も過去の動画にアクセスして見ることができ、胚の選択に利用することができます。



 


 





タイムラプス利用者の声



Aさん


胚盤胞が全部で4個あり、4AA1個以外は4BCの少し悪いグレードでした。通常の観察だと最も良好な4AAの胚盤胞の受精は確認できず、移植は最低順位に。どんなに最良交配が期待されても無駄になってしまいます。しかし、タイムラプスで観察したところ、受精が確認され、移植1回で無事に妊娠されました。

 



Bさん


46歳のBさんは、受精してもその後の分裂がうまくいっていませんでした。これまでの施設では「年齢のせい」とだけいわれてきたようですが、動画で観察すると初期の段階で異常を繰り返していることが判明。それをご自身の目で確認することでモヤモヤが消え、今までの不成功を理解・納得されました。



 


 



 


 





From Doctor 小林 淳一 先生


患者さんも医療側も効率的かつ納得いく治療が可能に
現在当院では、タイムラプスインキュベーターを5台導入し、2017年の1月から全患者さんに活用しています。
導入以前と大きく変わったのは、患者さんに納得していただける説明ができるようになったことです。これまでは推測でしかお話ができなかったことが、動画を元に明確に理解していただけるようになりました。卵は生き物ですから、日々変化があります。3日目、5日目の中でどう変わっていくか。一番良い卵だと思っていたものが実はそうではなかった……、そのようなことがわかりますよね。
また、医療側・患者さん側にとって共通の大きなメリットは、受精の確認ができることです。胚盤胞のグレートがAAで最もいいものなのに、通常の観察では受精の確認ができなかったため移植が後回しになり、BBやBC評価の胚盤胞が優先されてしまう。
それだけのことで、もしかしたら妊娠が先延ばしになっているのは、特に時間がない高齢の方にとっては残念なことですよね。タイムラプスインキュベーターによる動画記録なら、受精の兆候を確実にとらえることができるので、効率的かつ医師も患者さんも納得できる治療ができると思います。





 





From Embryologist 胚培養士 渡邉英明氏


受精率が約6%もアップ。良い胚を無駄にせず移植へ
タイムラプスインキュベーターというと「胚の選別」というイメージがありますが、当院で導入したところ、実は受精という部分で大きな利点があることがわかりました。
受精の確認は、一定のタイミングを逃すと、受精の兆候である前核という細胞内の小器官が消えてしまいます。早く消えてしまった胚は早く発育が進んでいるので、最良交配になる良い胚であった可能性があります。しかし、通常の観察では受精確認ができなかったので、異常受精という状況も考えられ、移植に至らず無駄になってしまうことも。
動画を巻き戻すことでここをクリアにできたことは大きいと思います。その結果、当院では導入前と比べて受精率が約6%も上昇。採卵日から翌日まで使うだけで、これだけ受精率を上げられるのは画期的なことだと思います。
胚の選別や胚の発育が良くなるかどうかについてはまだまだ分析や研究が必要だと思いますが、受精に関しては導入後、すぐに結果を出せるものだと確信しています。





 



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お話を伺った先生のご紹介





小林 淳一 先生(神奈川レディースクリニック)


慶應義塾大学医学部卒業後、不妊症・不育症(習慣流産)の研究、診察を行う。1989年より済生会神奈川県病院にてIVFを不妊症・不育症の診察に取り入れ、その後、新横浜母と子の病院を経て、神奈川レディースクリニックを開設。ゆったり相談にのれる親しみやすい産婦人科医を目指す。


 


 


出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.6 2017 Winter
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