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無痛分娩ってどんな人でも可能なの?

インタビュー 妊娠・出産

無痛分娩ってどんな人でも可能なの?

以前は海外の出産法というイメージだった無痛分娩ですが、最近は身近で「無痛で産んだ」いう声を耳にするようになりました。「心配はないの? 」「希望すれば誰でもできるの? 」そんな疑問に、産婦人科 吉田クリニックの天野 完 先生に伺いました。

2018.2.27

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希望しても、無痛分娩ができない人もいる




無痛分娩は、背中の脊髄に近い硬膜外腔というところに細いカテーテルを入れ、そこから局所麻酔薬を投与して痛みを取り除く出産方法です。妊娠の経過と赤ちゃんの成長が正常であれば、通常は希望すれば誰もが無痛分娩を選ぶことができます。しかし、止血しにくい病気があったり、血が固まりにくくなる薬を飲んでいる、または椎間板ヘルニアの手術をしている人などはできない場合があります。背中の穿刺針を刺入する部位に「おでき」などの感染巣がある場合もできません。


また、無痛分娩と決めていても、計画分娩で予定していた出産日よりも早く陣痛が始まってしまい、夜中の出産で病院側も無痛分娩に必要な体制をすぐに準備できないため自然分娩になってしまった、という場合もありえます。どうしても無痛分娩を希望するなら、24時間体制で無痛分娩を行っている病院を選ぶとよいでしょう。


一方、医学的にハイリスクなため、無痛分娩を選択しなければならないというケースもあります。産婦さんが心臓病や高血圧を合併している場合や、赤ちゃんの発育が思わしくない場合で、自然分娩による陣痛のストレスや血圧の上昇が母子ともに大きなダメージになってしまうからです。こうしたハイリスクな妊婦さんの無痛分娩は、安全性を確保するために周産母子医療センターに指定された総合病院での出産が望ましく、その病院が無痛分娩を扱っていない場合には、帝王切開での出産になります。


 


メリットの多い無痛分娩。デメリットもよく理解しよう


無痛分娩のメリットは、なんといっても痛みがないため出産が非常に楽で、体力の消耗も少なく、回復が早いことです。クリニックでは必要に応じて頸管熟化処置を行い39週~40週ごろに分娩を計画して、
当日の朝8時30分ごろに硬膜外カテーテルを留置します。痛みを取り除いてお産をすすめ、
ほとんどの経産婦さんは午後3時頃までに、初産婦さんでも午後6時ごろまでには無事に生まれます。産後は、特に自然分娩を経験している経産婦さんからは、「やってよかった!」という喜びの感想が多く聞かれます。


また、負担が少ないのは産婦さんだけでなく赤ちゃんも同じです。出産の際に痛みがあると産婦さんからはストレスホルモンが分泌されて血管が収縮しやすくなり、血圧が高くなります。陣痛が起きるたびに胎盤の血流も一時的に悪くなるため、赤ちゃんに酸素が行きづらい状況になってしまうのです。しかし、痛みのない状態なら胎盤の血液の循環がスムーズなので、ストレスが少ない環境で産まれてくることができます。


そんな良い面が多い無痛分娩ですが、麻酔薬を使う医療行為に伴うリスクは皆無ではありません。可能性のある合併症としては、血圧の低下、かゆみ、軽度の発熱などがあります。また200~300例に1例の頻度で、偶発的硬膜穿破により産後に頭痛が起きることがあります。重大なリスクとしては、局所麻酔薬が血管内に入ったことによる局所麻酔薬中毒、くも膜下腔に入ったことによる全脊髄くも膜下麻酔などです。しかし、こうした重大なリスクも数万~数十万例に1例と、かなり稀なケースであり、万一起きてしまった場合でも、適切な医療処置をすれば大事に至らないことがほとんどです。ほかにも、麻酔により妊婦さんが最後にいきむ力が若干弱くなるので、吸引あるいは鉗子分娩になる率が高くなります。出産費用の面でも保険がきかないため、通常の出産+アルファの金額となりますので、これらもデメリットと言えるでしょう。


 


医療行為のためインフォームドコンセントは不可欠


多少のリスクがあるとはいえ、無痛分娩は安全性が高い分娩方法です。しかし、残念なことに不幸な事故が起き、それが無痛分娩であると、あたかもそれが原因であるような報道をされることがあります。こうしたニュースを聞くと、無痛分娩に対して不安に感じる妊婦さんもいるかもしれませんが、実際は事故の大多数は出血に関わることで、産科的な問題によるものがほとんどです。
当院では月1回、無痛分娩教室を開いて、なぜ無痛分娩をするのか、そして具体的な方法とメリットとデメリットについて説明し、妊婦さんやご家族に勉強していただく機会を設けています。きちんとリスクを認識したうえで、希望があればやりましょうということです。


迷った末に自然分娩にして、陣痛が始まってからあまりにも痛いので「無痛にしてほしい」という産婦さんがいないわけではありません。しかし、無痛分娩教室に出ていただいてなければ変更はできないと、事前にお伝えしています。医療におけるインフォームドコンセント(説明と同意)が、無痛分娩でも重要なのです。
過度に恐れず、正しく理解し、自分に合った分娩方法を選んでいただきたいと思います。


 


お話を伺った先生のご紹介

天野 完 先生(産婦人科 吉田クリニック)


名古屋市立大学医学部卒業 医学博士。北里大学病院、横須賀共済病院産婦人科部長、北里大学医学部産科婦人科学 診療教授、北里大学病院産科科長 周産母子センター長を歴任し、現在は吉田クリニック、北里大学産科婦人科学 客員教授を兼務している。平成26年度産科医療功労者、厚生労働大臣表彰を受賞。母子にとっての安全を第一に考えた妊娠・分娩管理をモットーとして、40年以上にわたり大学病院で無痛分娩に携わってきた日本における無痛分娩の第一人者。妊婦やご家族に無痛分娩について正しく理解し、納得して選択してもらうよう、月1回「無痛分娩教室」を主催している。

※吉田クリニックの「吉」の漢字は、正しくは「土」の下に「口」です。


≫ 産婦人科 吉田クリニック

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