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「卵子の質」って何? 中村先生 教えて!たまごのこと

コラム 不妊治療

「卵子の質」って何? 中村先生 教えて!たまごのこと

「卵子の老化」という言葉が知られてきた一方で、詳しいことはよくわからないという人も多いのでは。卵子の質について教えていただきます。

2018.8.29

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「卵子の老化」という言葉が広く知られてきた一方で、詳しいことはよくわからないという人も多いのではないでしょうか。第3回目は卵子の質について、なかむらレディースクリニックの中村嘉宏先生に教えていただきます。


 


※2018年8月27日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn」の記事です。


 





POINT


★卵子も体と同じように年齢とともに老化します。
★35歳を目安に受精卵(胚)の染色体数異常の割合が増え着床率が低下し、流産率が上昇します。
★卵子の形態評価では、染色体数異常を判断することは不可能です。
★卵子の質を本質的に改善する方法は残念ながらありません。
★早めに「受精卵(胚)を貯蓄」して、妊娠率を高めることも必要です。



 


お話を伺った先生のご紹介

中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)


大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。

≫ なかむらレディースクリニック

Q・卵子が老化するとはどういうこと?


A・卵子にダメージが蓄積し、受精卵(胚)の染色体数異常の確率が高くなります。そのため胚盤胞到達率や着床率が低下し、流産率が上昇します。

第1回目の連載で「女性はお母さんのお腹の中にいる時から、卵巣に一生分の卵子をもっていて、これ以降は卵子が新しくつくられることはありません」というお話をしました。つまり、20歳の時に排卵された卵子は約20年間、40歳なら約40年間、卵巣の中にいたことになります。体の老化と同じように、卵巣の中の卵子もダメージが蓄積して老化していきます。卵子にはもともとダメージを修復する機能が備わっているのですが、年齢を重ねるにつれダメージが蓄積し、ある時点で修復機能の限界を超えます。その限界点が35歳頃で、それ以降になると急速にダメージが蓄積します。その結果、卵子が受精しても受精卵(胚)の染色体数異常の確率が上昇します。
実際に体外受精の妊娠率も35歳頃から急速に低下し始め、また流産率が上昇してきます。
染色体数異常は受精前後や受精卵の分割中に起こりやすい現象です。40歳に近づくと胚盤胞の形成率が低下し、胚盤胞に到っても着床率が低下します。また、着床しても流産する確率が高くなります。これらの主な原因が受精卵(胚)の染色体数異常なのです。40歳では胚盤胞にまで到達しても染色体数が正常である割合は4個に1個になります。
ちなみに、卵子の質を語るうえで混同されやすいのがAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値です。AMHは卵巣予備能、つまり卵巣に残っている卵子の数をある程度予測するためのものです。AMHの値が卵子の質を予測するわけではありません。AMHが高くても年齢が高ければ、卵子の質が低下している可能性があります。一方、AMHが低くても年齢が若ければ、卵子の質がよい可能性があります。



 



Q・受精卵(胚)の質を見極める方法はあるの?


A・受精卵(胚)の形態評価はできますが、染色体数異常を見つける方法は特殊な方法になります。

受精卵(胚)の質の評価については、顕微鏡下で行う形態評価があります。
この方法には、初期胚を5段階に分類する「ビーク(Veeck)分類」と胚盤胞を評価する「ガードナー(Gardner)分類」があります。
ビーク分類は細胞(割球)の大きさが均一で、細胞の破片(フラグメンテーション)が少ないものが良好胚とされています。ガードナー分類は、胚盤胞を成長段階によって6段階に分類し、さらに赤ちゃんになる内部細胞塊と胎盤になる栄養外胚葉をA〜Cでグレード分類します。基本的に「3BB」以上を良好胚とし、「4AB」「5AA」と数値、グレードが高くなると、より質の高い胚盤胞ということになります。
しかし、受精卵(胚)の形態がよくても、年齢が高くなるにつれて胚移植後の妊娠率は低下していきます。その原因は先ほどもお話ししたように、受精卵(胚)の染色体数異常の確率が上昇するためです。染色体数異常は受精卵(胚)の形態ではわかりません。現在のところ、胚移植をする受精卵(胚)を形態のよいものから選んで移植するしか方法がありません。仮に形態良好な胚盤胞であっても染色体数異常があれば、着床しなかったり流産したりします。年齢が高くて卵巣機能が低下し治療可能な時間が限られている人にとっては、現在の方法では時間のロスが大きくなります。海外では受精卵(胚)に染色体数異常があるかないかを調べる検査(PGTーA:着床前染色体数異常検査)を行い、染色体数が正常な受精卵(胚)だけを移植する方法をとっている施設もあります。


Q・卵子の質をよくする方法はありますか。


A・本質的に改善する方法はありませんが、できるだけ早くに「受精卵(胚)を貯蓄」して妊娠率を高めることはできます。

私はアンチエイジングに興味があり、日本、米国それぞれの抗加齢医学会認定医を取得しています。その立場から断言できるのですが、卵子の加齢を食い止めて、卵子の質を本質的に改善できる明らかな方法は残念ながらありません。生活習慣を変えても、どんなお薬を使っても、卵子の加齢は時間の経過とともに進行します。
そこで、妊娠率を高める方法として、できるだけ早いうちに「受精卵(胚)を貯めておくこと」を提案しています。なかでも卵巣予備能が低下し排卵回数の限られている人は、採卵を優先し、受精卵(胚)を凍結・保存しておくことをおすすめしています。40代になると治療のタイムリミットが近づきますし、数カ月単位で妊娠力は低下します。通常のように採卵と移植を交互に繰り返していると、あっという間に数カ月以上経過してしまいます。できるだけ卵子の質がよいうちに採卵して受精卵(胚)を凍結保存しておきましょう。凍結期間が長くなっても妊娠率は低下しませんし、凍結した年齢の妊娠率が期待できます。
当院では、高齢の方で卵子の質が低下し胚盤胞になかなか到達しない方には、受精直後の前核期胚の凍結・保存を中心に行っています。前核期胚は凍結・融解によるストレスに最も強い段階の胚です。そして、できるだけ採卵を優先して前核期胚を貯めていきます。仮に凍結・保存後に閉経しても、凍結した前核期胚をホルモン補充周期でタイミングを合わせて融解して初期胚まで培養し、胚移植することで妊娠を期待できます。実際に当院でも成果を上げています。


出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn
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