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着床不全の治療研究最新レポート

コラム 不妊治療

着床不全の治療研究最新レポート

これまで原因解明や治療は難しいとされてきた着床不全ですが、
最近は研究が進み、再生医療を応用した画期的な治療が開発される段階に。
どんな最新療法が研究されているのか詳しくレポートします。

2018.12.23

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※2018年11月22日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.40 2018 Winter」の記事です。


着床させるためには子宮内膜をベストな状態に


排卵誘発法を工夫して何とか卵子を確保し、受精卵もできて移植。あとは受精卵が子宮に無事着床してくれることを願うばかりですが、この最終段階でなかなかうまくいかず、不妊治療につまずいてしまう人もいるのではないでしょうか。
これまで着床不全を根本的に解決する方法はありませんでしたが、近年、少しずつですが、着床率を上げるための研究が国内外で進んでいます。
受精卵がしっかり着くためには子宮内膜が厚く、血流に満たされてフカフカの状態であることが理想。子宮内膜が薄くて着床不全が疑われる人には座薬や内服薬によるホルモン補充、ビタミン剤やアスピリンの投与、子宮内GーCFS投与、内膜スクラッチなどを実施している施設も。


着床の窓や子宮内環境を調べる新たな検査も登場


子宮内膜に対する比較的新しいアプローチとしては今、「ERA®(子宮内膜着床能検査)」という検査が注目されています。これは胚盤胞を移植する際、移植当日の子宮内膜が着床に適したタイミングになっているかどうかを遺伝子レベルで調べるもの。良好な胚を複数回移植しても着床しないケースに有効だとされています。しかし、周期によって着床の窓が異なる場合があり、結果を出すのに時間(2~3週間)を有する検査は意味がないのではという医師も。また、非受容期と判断された場合は再検査が必要な場合もあります。
さらに最近、多くの不妊治療専門施設でとり入れるようになったのが「子宮内フローラ検査」。腸内と同様に、子宮内の細菌バランスが乱れ、環境が悪くなることで着床が妨げられているのではないかという発想から、行われているものです。問題があった場合は乳酸菌を投与するなどの措置がとられますが、改善する方法についてはまだ手探りの状態です。


国内でも再生医療を応用した着床不全の研究がスタート


このようにさまざまな形で着床不全の改善に取り組んでいますが、まだ決定的な方法がないのが現状。そんななか、新しい治療アプローチとして、再生医療を応用した多能性幹細胞の研究が話題になっています。
幹細胞とは分裂して自分と同じ細胞をつくる能力と、さまざまな細胞に分化する能力をもつ特殊な細胞のこと。幹細胞にはいろいろな種類が存在し、それぞれの臓器が異なる幹細胞をもっていると考えられています。
国内では今年、福岡大学医学部がこの細胞を使った再生医療に乗り出したことを発表。子宮内に脂肪幹細胞を注入することで子宮内膜の血流を促進させ、受精卵の着床率を改善する研究を開始し、1例目の女性では子宮内膜の働きが増したということを確認しました。
海外ではすでに10年ほど前から幹細胞を使った着床不全・子宮内膜不全の研究が進められていますが、ネックとなっているのは再生医療法で、幹細胞そのものは容易に臨床医療で使用することはできないのです。


月経血幹細胞の上澄みを使った画期的な治療を開発


そこで、東京・渋谷区にあるはらメディカルクリニックでは同じ再生医療の応用でも、少し発想を変えた新たな治療法「子宮内膜再生増殖法(ERP法)」を独自に開発。これは幹細胞そのものではなく、幹細胞培養液の上清液(上澄み)を利用したもので、再生医療法をクリアできるうえ、やり方も非常に簡単という画期的な治療法です。
具体的な方法は、まず自身の月経血から抽出した幹細胞を30日間培養し、その上清抽出成分を1.5 mlほど子宮内に注入。月経血幹細胞には成長因子や細胞間に作用する生理活性物質であるサイトカインの分泌が知られており、傷ついた組織を修復したり、細胞新生の能力が非常に高いという特性があります。上清液中にもこれらが含まれていて、子宮内膜の再生増殖が期待できるほか、予想外の利点として上清液には胚の成長を促進する物質も含有されているということが確認されています。

写真右:はらメディカルクリニック 原 利夫 先生




月経血に分離剤を添加し、遠心分離処理を行った。
低層:赤血球、中低層:分離剤、中層:月経血、上層:希釈液と血液が分離している。


同クリニックでは約2年間の臨床実験を通して、希望者にこの治療を行いましたが、ほぼ全員の子宮内膜がしっかり厚くなったという結果が出ました。まだ新しい再生医療の応用ということで副作用が心配ですが、元になっているのは自分の血液なので免疫的な異常は起きにくく、安全性は高い治療だと考えられています。
*本研究は先端医療推進機構倫理委員会の承認を受けています。




上はERP法を使った19日目の子宮内膜の状態。
下の自然周期における19日目の子宮内膜の状態と比較すると、厚みを増しているのが確認できる。


同クリニックでは2019年春から本格的に臨床治療として導入する予定ですが、まだまだ精査すべき点も。たとえば、幹細胞培養液注入時期に関して現在さらなる検討中ですが、現状では移植2、3日前に液注入を予定しています。
適応になるのは高齢の人、何をしても子宮内膜が厚くならない人、いい受精卵を何度戻しても着床しない人、原因不明の流産を繰り返す人などです。


ブラックボックス解明ももうすぐという段階に


過去に誰もやったことがなく、未知数の方法ですが、データが蓄積され、治療法が確立されてきたら、子宮内膜にも受精卵にもいい影響を与えるという先進的な治療になることは間違いありません。これまで原因や対処法がはっきり解明されず、ブラックボックスといわれていた着床や子宮内膜に関する領域ですが、再生医療という人類にとって新たな医療を活用することで、急速に研究や治療が進んでいくことが予想されます。
脂肪幹細胞、月経血幹細胞の利用はそのステップの一つ。研究がさらに進んでいけば、着床不全で悩む人にとっては朗報になるかもしれません。今後も注目していきたい分野です。




出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.40 2018 Winter
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