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着床率を上げるためにできること~子宮内膜検査最前線~

コラム 不妊治療

着床率を上げるためにできること~子宮内膜検査最前線~

質のよい胚を何度移植しても着床しない着床不全。以前は原因不明とされることも多かったのですが、最近は検査によって原因が特定できるケースも出てきました。

2019.6.15

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※2019年5月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer」の記事です。


お話を伺った先生のご紹介

英ウィメンズクリニック 塩谷雅英理事長


1985年島根医科大学卒業。京都大学産婦人科に入局。
体外受精チームに所属し、不妊の臨床に取り組むかたわら研究生活を送り、1994年も医学博士(京都大学)となる。
研究テーマは受精卵の着床過程の解析。
19947年から2000年2月まで神戸市立中央市民病院に勤務。
兵庫県初の顕微授精児の誕生に貢献。
2000年3月に不妊症専門クリニックとして英ウィメンズクリニックを開設。現在は、理事長に就任。


≫ 英ウィメンズクリニック(三宮)
≫ 英ウィメンズクリニック(垂水)

お話を伺った先生のご紹介

神谷 博文 先生(神谷レディースクリニック)


札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に入局後、斗南病院にて産婦人科科長を10 年間務める。1998 年、神谷レディースクリニックを開業。

≫ 神谷レディースクリニック

お話を伺った先生のご紹介

岩見 菜々子 先生(神谷レディースクリニック)


札幌医科大学卒業。2014年より神谷レディースクリニック勤務。日本産科婦人科学会認定専門医。

エラちゃん
ERA(子宮内膜着床能検査)
子宮内膜の着床に適した期間(着床の窓)を個々に特定し、最適なタイミングで胚移植することで妊娠率を高めます。

エマちゃん
EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)
子宮内膜の細菌バランスを、着床・妊娠に影響すると考えられるラクトバチルス菌の割合に着目して分析します。

アリスちゃん
ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)
子宮内膜炎に関与する主な病原性細菌10種の有無を調べ、陽性の場合は内膜炎の原因となっている細菌を特定します。

 



その人の「着床の窓」を見つけ最適なタイミングで移植


体外受精の治療では、子宮の中に移植した胚(受精卵)が着床して妊娠に結びつきます。しかし最近は、良質な胚を移植しても、妊娠につながらない「着床不全」の方が増えています。
その原因の一つが、子宮内膜の問題です。子宮内膜が胚を受け取る期間(「着床の窓」)は、1〜2日間といわれています。そのため良質な胚を移植しても、子宮内膜の胚を受け取る力や、移植のタイミングがうまく合わないと着床しにくくなります。
ERAは、個々の「着床の窓」を特定する検査です。検査は実際の胚移植を想定して同じ時期・手順で行い、子宮内膜から組織の一部(米粒大)を採取します。これを海外の専門機関に送り、約250種類の遺伝子の動きをみて、その方の「着床の窓」を調べます。検査結果は約3週間後、着床の窓が“早い”から“遅い”までを細かく6通りの中で判定され、その結果にもとづいて次の移植の準備をします。たとえば、判定が「正常」の場合は、検査日と同じ時期に移植します。「1日早い」の場合は、検査日より1日遅らせて移植します。


検査の有効性が高い一方で、妊娠にいたらない場合は他の原因も


当院では、ERA検査が国内でスタートして間もない2018年1月から導入しています。おもに良質な胚を2回以上移植しても妊娠にいたらない方にご提案し、これまで150名の方に検査を実施しています。その結果、「正常」は60%、「1日早い」は40%、ごく一部の方に「1日遅い」という判定結果が出ています。
たとえば「1日早い」「1日遅い」の判定が出た方に、結果にもとづいて1日早く、または1日遅く移植した場合は、70%の方が妊娠にいたっており、検査の効果の高さを実感しています。
一方で、「正常」の判定が出た方に、検査日と時期を変えずに移植した場合の妊娠率は35%です。「正常」という判定でも妊娠につながらない時は、「着床時期のずれ」以外の問題が考えられ、ERA以外の検査が必要になることもあります。


着床不全に悩む方に朗報!今後の検査や治療法に期待


体外受精の治療では、これまで良質な胚を育てることが大きな課題と考えられてきました。しかし近年、私たち現場が直面しているのは、良質な胚を移植しても着床しない、あるいは流産にいたる「着床不全」の問題です。
ERA検査は、これを解決する一つの方法だと思います。そのほか子宮内膜の細菌叢や免疫の問題が注目されており、新しい検査や治療法が開発されつつあります。これから数年以内にいい治療法が期待できます。着床不全で悩まれている方は、ぜひ明るい希望をもって治療に取り組んでください。





EMMAとALICEで子宮内環境がわかる


着床障害や反復流産の原因の一つとされる慢性子宮内膜炎は、不妊症患者の約3割、反復着床不全、不育症患者の6割以上が罹患しているといわれます。その原因の多くは子宮内腔への細菌感染です。その診断・治療は医師の経験、主観により行われてきました。2017年に世界の不妊治療現場で導入が始まったEMMAとALICEは原因の特定と適切な治療が可能になり、その結果として妊娠・着床率の向上が報告されています。
EMMAとALICEは子宮内環境に注目した検査です。子宮内は長らく無菌と考えられていたのですが、近年、微量ながら多様な細菌が存在することがわかり、着床、妊娠継続との関係が明らかになってきています。EMMAは子宮内膜の細菌を網羅的に調べる検査で、とくにラクトバチルス菌の割合に着目して調べます。ラクトバチルス菌は正常な子宮内膜に豊富にみられ、その割合が高いほど着床・妊娠率が高いという研究結果が出ている乳酸桿菌です。一方ALICEは、慢性子宮内膜炎の病原菌を、これまで培養できず確認できなかったものも含めて特定します。この2つをセットで行い、そのうえで適切な治療法が提案されます。
検査を受けるメリットの一つは抗生剤を適正に使用できることです。厚生労働省では耐性菌発生予防の観点から、広域抗生剤の乱用に対して注意勧告をしています。検査結果により原因菌が特定され、必要な患者様にのみ適正な抗生剤を選択することができるようになりました。


グローバルスタンダードになり得る検査も簡単に


検査は外来にて容易に施行できる方法であり、子宮体がん検診をイメージしていただければよいかと思います。2つの検査を行いますが検体を採るのは1回です。検査のタイミングは排卵後数日間の黄体期(高温期)で、結果と治療法はおよそ3週間後にお伝えします。
日本では欧米に比べ、まだ子宮内環境への意識は高くありませんが、私たちは今後不妊治療の現場では無視できないものになり、EMMAとALICEは不妊治療の柱の一つになると考えています。JISART(日本生殖補助医療標準化機関)でもEMMAとALICEのデータ解析から慢性子宮内膜炎の科学的診断基準の確立をめざす多施設研究を進めていて、当クリニックも患者さんの協力のもと参加しています。


「原因不明」の原因が発見できる可能性も


当クリニックでは昨年8月から主に反復着床不全、反復流産の患者さんにEMMA、ALICEを実施してきました。さまざまな症例がありますが、その実績はこの夏の日本受精着床学会で発表する予定です。なかには、海外で治療を続け、あらゆる手を尽くしたけれど着床に至ることのなかった患者さんが当クリニックで検査を受け、子宮内環境を整えてから移植し、受精卵が初めて着床したというケースもありました。
みなさんのなかにも長期の不妊、反復着床障害、反復流産を経験され、その原因は不明とされている方がいらっしゃるでしょう。子宮内環境という新しい視点からみると原因がわかり、適切な治療につなげられる可能性があります。担当医、EMMA、ALICE実施クリニックに相談してみるといいと思いますよ。


出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer
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