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【特集】非閉塞性無精子症と診断されたら?

コラム 不妊治療

【特集】非閉塞性無精子症と診断されたら?

不妊の原因が無精子症のとき、どのような治療を選択し取り組んでいくのか。治療について気をつけること知っておきたいこと、そして、夫婦の心構えや治療の決め時&やめ時について、セントマザー産婦人科医院の田中温先生に教えていただきました。

2019.9.2

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※2019年8月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.43 2019 Autumn」の記事です。


まるさん(27歳)からの相談
●主人が非閉塞性無精子症
主人が無精子症と診断されました。睾丸が通常より小さく、FSHとLHが高いので、間違いなく非閉塞性無精子症だそうです。2回目の精液検査はこれからですが、精子が出てくる可能性はほぼないとのことでした。来月、専門の病院を予約し、遺伝子等に問題がなければmicro-TESEを受ける予定ですが、FSHの値がかなり高く、60mIU/ml近くあります。ネットで検索すると20〜40mIU/ml程度でほぼ20mIU/ml台が多く、ある病院のサイトでは20mIU/ml以上になると厳しいと書かれていました。専門の先生にネットで質問したところ、関係はないと書かれていましたが、やはり不安です。非閉塞性無精子症で精子が採れた方のFSH値はどのくらいでしょうか?

「不妊治療の流れ」まとめ
無精子症の患者さん全員に伝えたい。
“切らない”MESAと“遺伝子を残せる”ROSI

お話を伺った先生のご紹介

田中 温 先生(セントマザー産婦人科医院)


順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許される。度重なる研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

≫ セントマザー産婦人科医院

男性不妊の原因となる2種類の無精子症


無精子症には閉塞性と非閉塞性があります。閉塞性は精子をつくる能力は正常ですが、精子が通る精管の一部が閉塞しているため射精ができません。非閉塞性は精巣の機能が著しく低下しているため精子をつくることができません。特徴は睾丸が小さい場合が多く、精巣に精子をつくれと指令を出すホルモンのFSHの数値が高いこと。これは精子がつくられない状況を補うために過剰な分泌量となるためで、数値が10mIU/ml以上なら非閉塞性だと思われます。
まるさんのご主人が非閉塞性無精子症であることは間違いないようですし、FSHが60mIU/mlと特に高いので、クラインフェルター症候群の可能性も疑われます。遺伝子検査も行うようですし、いずれにしても正しく判断するために適切な検査を受けることをおすすめします。


正しい知識を得てベストな方法を選ぶ力を


閉塞性では精巣上体に集められて妊孕能力を得た精子が容易に採取でき、顕微授精を行うことが可能となります。採取方法は精巣上体という部位にガラス製のピペットを刺して精子を採取する精巣上体精子回収法(MESA)という方法です。手術は約30分で当日帰宅が可能、1回で大量の良好精子を採取して凍結できるので、費用も割安です。
国内では、顕微鏡下精巣内精子回収法(MicroーTESE)という方法が一般的であり、これしか知らない、また、主治医から提案されるのがこの方法のみという患者さんが大多数でしょう。しかし、精巣を切り開いて精子を採取するため傷が深く、回復まで1〜2週間を要する場合も。施設に凍結技術がなければ顕微授精のたびに切る必要があります。当院に転院された患者さんのなかには何度もメスを入れたあとが残っている人も珍しくありません。痛い思いをして費用が高く、時間もかかる採取法なのか、それともダメージの少ない方法を知って選択するのか。よく考えていただきたいですね。
非閉塞性無精子症はMicroーTESEが一般的で、精子採取率は30~40%ありますが、半分近くは死滅精子や奇形精子が多く、正常な精子が採取できる確率は約10~20%です。精子がなければ子どもを諦めるか第3者の精子をもらう、養子縁組の選択肢しかないのが一般的な認識です。精子が採取できない患者さんの半数には精子になる前段階の円形精子細胞が存在していて、その細胞を用いた円形精子細胞卵子内注入(ROSI)という治療法があります。現時点での出産率は10%と低いですが、生まれた子どもの予後調査では知的・身体的能力に問題はありませんから、挑戦してみる価値はあると私は考えています。
不妊の悩みは世界共通ですが、特に日本では治療に対する男女の温度差の開きが大きいように感じます。治療自体が人生すべてを左右する、というほどに追い詰められている人も多く、特に女性にその傾向が多く見られます。しかし、今後も続く二人の人生をどう描くのかは二人次第。治療が長期化するほど夫婦仲が悪化しがちですが、一度歯車が狂うと修復するのは難しいですよね。何事も決め時とやめ時というものがありますから、年齢や誕生日をきっかけにするのか、夫婦二人だけの人生を選ぶのか、 精子提供という方法を選ぶのか、今後の選択を二人でしっかり考えていただきたい。幸せの形が多様化している現代だからこそ、自分たちの幸せを見つけていただきたいですね。


1. 無精子症とは何か、正しい知識を得ましょう。
射出精液中に精子が一匹もいない場合を無精子症といい、睾丸の大きさが正常なら閉塞性、小豆大ほどで柔らかければ非閉塞性だと考えられます。閉塞性なら精子は正常につくられているので顕微授精で子どもを望むことが可能ですが、非閉塞性で精子が見つかる確率は約20〜30%と低く、見つかっても動かない不動精子または頭部奇形の精子で、妊娠に至る可能性が極端に低くなります。

2.非閉塞性でもクラインフェルター症候群は例外
長身で痩せ型、睾丸が小さいというクラインフェルター症候群の特徴が思い当たるなら、非閉塞性でも精子または精子細胞が見つかる確率が高くなるので早急に染色体検査を。ただし、精巣自体が極端に小さいため1回目の採取が重要だと覚えておいてください。

3.これからも続く二人の人生にベストな決断を
治療が長期化するほどいつまで続けるのか悩むでしょう。しかし、女性には閉経があるため、妊娠しづらい体になるよう卵子の数を減らして質を落とし、妊娠しても染色体異常で流産するというのが正常な現象。妊娠のリスクから女性の命を守り、長寿を授かったと理解できれば、この先何十年もつづく人生をどう生きるのか、自ずと答えは見えてくるのではないでしょうか。

出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.43 2019 Autumn
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