PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は排卵障害のひとつで、卵巣のなかの卵胞の発育が遅く、ある程度の大きさになっても排卵されずに卵巣内にとどまってしまう症状です。超音波検査では、卵巣内に小さな卵胞がたくさん連なってみえることから、PCO(多嚢胞卵巣)とも呼ばれています。①月経異常 ②多嚢胞卵巣 ③ホルモン値の異常、この3つの診断基準を満たす人をPCOSとしています。
自覚できる症状には、月経不順や無排卵月経、基礎体温の乱れ、にきび、多毛、肥満などがあげられますが、日本ではやせ型の人に多く、ほとんど場合に月経不順がみられます。
PCOSの原因については、はっきりとわかっていませんが、遺伝的な要因をはじめ、男性ホルモンやインスリンの内分泌異常など、さまざまな要因が関係していると考えられています。
卵巣内の卵胞の発育や排卵には、脳の視床下部と下垂体から分泌されるGnRH(性線刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)が深くかかわっています。しかし、脳の視床下部、下垂体、卵巣などに異常があると、男性ホルモンとも呼ばれているアンドロゲンが過剰に分泌されて、LHに変換できなくなり、排卵がうまくおこなわれなくなります。
また、すい臓から分泌されるインスリンが過剰になることでも、アンドロゲンの分泌が活発になります。これをインスリン抵抗性といいます。この場合も排卵障害や月経不順をともなうことがあります。PCOSのなかでもインスリン抵抗性がある人は約30%いるといわれています。
治療法はPCOSの程度によって異なります。BMIが25以上の人は、食事や運動などライフスタイルの改善によって減量をめざします。適正な体重になると自然排卵で妊娠することもあります。さらに、排卵がみられない人や、BMIが25未満の人は、クロミフェンという排卵誘発剤を使って排卵をうながします。
クロミフェンで改善がみられない時は、注射剤を連日投与するゴナドトロピン(HMG-HCG)療法をおこないます。HMGで卵胞をしっかり育て、卵胞がある程度の大きさに育ったら、HCGで排卵のタイミングをうまくコントロールします。ただし、PCOSの人はHMGやHCGの影響で、卵巣が腫れたり、腹水や胸水がたまるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を起こしやすくなります。そのため、超音波検査で卵胞を確認しながら注射量を微調整していきます。投薬療法のほかに、腹腔鏡下卵巣多孔術という外科的手術もあります。
これらの治療でむずかしい時は、体外受精を検討します。ただ、PCOSの人はOHSSになりやすいうえに、排卵できても未成熟卵など卵子の質に問題があることが多いです。治療は簡単ではありませんが、凍結胚移植で移植する胚の数やタイミングをコントロールすることによって、多胎妊娠を回避できるメリットがあります。
インスリン抵抗性のある人には、クロミフェンとインスリン抵抗性を改善するメトフォルミンを併用します。メトフォルミンは、おもに糖尿病の治療に使われている飲み薬です。体の細胞内でゆっくり作用するため、効果があらわれるまでに約1カ月かかりますが、ゴナドトロピン(HMG-HCG)療法でみられるような、多胎妊娠やOHSSのリスクを回避できるメリットがあります。メトフォルミンの投与でアンドロゲンの過剰分泌が抑えられ、排卵率や妊娠率、流産率に改善がみられたとの報告も多くあります。