-
不妊からのうつ病でしょうか?
相談者:ミルクさん(主婦/31歳) 子宮内膜症、卵巣嚢腫持ちで1年自然妊娠しなかったので、今年の初めに腹腔鏡手術をしましたが、タイミング法でも妊娠せず、さらに3ヵ月で卵巣嚢腫が再発してしまい、体外受精をすすめられました。今月体外受精をし、卵のグレードなどは良かったものの、着床せず、結果は陰性でした。 マイナスにならないように、楽しいことをするようにしていて、がんばろ~とその時は思いますが、1日のうちに暗くなる自分と明るくなる自分の2種類が交互に出てきてしまうのです。あまりにも感情が一定ではなく、それが毎日繰り返されるので病気かと思ってしまいます。いつでも涙を流せる状態です。 もともとマイナス思考ではあるのですが、関西出身で旦那の転勤で関東に来ており、結婚2年目くらいまでは環境に馴染めないことに悩み、やっと慣れてきたと思ったら、今は病気、不妊に悩んでいて、本当に毎日辛いです。 結婚、転勤、手術、不妊の環境の変化からのうつ病でしょうか。動悸や、息苦しさも感じます。こういう場合は心療内科に行ったほうが良いのでしょうか。 ミルクさんは今どのような状態なのでしょうか? 「うつ病ではないか」と心配されているようですね。睡眠や食欲の状態、もともとどれくらいの活動ができていたかなど、細かく聞いていくと軽度のうつ病と診断される可能性はありますが、お話をうかがった印象ではそこまで至っていないように感じます。 うつ病まではいかないけれど、大きな悩みを抱えており、それに加えてマイナス思考という性格要因もあってストレスをなかなか上手に裁けない。なんとか自力で気持ちをもちあげようとするのだけど、そこまでエネルギーが続かず、再び落ちていってしまう。落ち込んだり、明るくなったりを繰り返すのは、そういうことだと思います。 これまで、このような経験はなかったのですよね。基本的には健常な心をしっかり持っている方なのだと思います。ただ、病気や不妊治療、環境の変化などいろいろなことで手一杯になり、余裕がなくなっている感じがします。落ち込んではまた気持ちを奮い立たせて……と頑張ってはいるけれど、さすがにキャパシティを超えてしまい、心が悲鳴をあげている。心だけでなく、動悸や息切れなど、ストレスは体にも影響を及ぼしているようですね。これは決して特別なことではなく、誰でもこのような状況に置かれれば心身ともに苦しくなると思います。 解決策はありますか? ミルクさんにまず声をかけたいのは「あなたは本当に大変な状況にありますよね」ということ。でも、もしかしたら自分が今とても大変な状況にいるということを、理解しているようで理解していないのかもしれません。 「マイナスの状態にならないように楽しいことをしよう」というのは大事なことですが、そのためには、マイナスな自分もちゃんと認めてあげることが前提です。自分が抱えているマイナスの気持ちをごまかして、ただ「元気にならなくちゃ」と思うだけでは、かえってプレッシャーになってしまいます。無理して持ち上げているから力が尽きてしまうんですね。 辛い時は、その辛い気持ちに浸って、しっかり落ち込んでください。誰にも会いたくなければ会わなくてもいい。「誰かに迷惑をかけてしまう」と思ったら、いずれ元気になったときに恩返しできればいいと思ってください。だって、あなたは本当に大変な状況にいるのだから。自分の辛い気持ちに逆らわないでいれば、ちょっと余裕が出てきて、徐々に心が上向いていきます。その時に楽しめることを見つけていけば、さらに落ち着いてくるはずです。 心療内科を受診すべき? 現段階では病気とまでは言えないと思いますが、このまま我慢してやっていくと心がどんどん疲弊してきて、結果的にうつ病になってしまうというパターンもあります。気持ちの浮き沈みがなくなって毎日のように落ち込み、マイナス思考が2週間続いたら精神科や心療内科の受診を考えてください。 また、不眠や食欲不振など身体症状が強くなってくると、自分ひとりの力で乗り切ることもますます大変になってきます。動悸や息切れが実は鉄分不足からくる貧血の症状だったなどということもありますから、心療内科で身体状態をチェックしてもらいながら心身両面の経過をみていくということも大切です。 安田先生より まとめ 「心療内科や精神科を受診するのはハードルが高い」と思っている方もいるかもしれません。「辛いけれど、どうしようか」と迷っていたら、一度受診されてみることをおすすめします。医師と話をするだけですっきりするというケースも結構ありますし、質問に答えることで自分が今どのような心の状態にあるのか気づくこともあります。どうしても受診に抵抗があり、もし通院されている施設に不妊カウンセリングがあるようなら、まずそこで相談されてみるのもいいかと思います。 安田 貴昭 先生(俵IVFクリニック) 浜松医科大学医学部卒業。日本精神神経学会精神科専門医・指導医、精神保健指定医、臨床心理士。埼玉医科大学総合医療センター・メンタルクリニック講師。俵IVFクリニックでは毎月第4木曜日、メンタルヘルス外来を担当。心の専門医として、不妊治療中や妊娠初期の患者さんのメンタルケアを行っています。 ≫ 俵IVFクリニック
2018.7.18
専門医Q&A 不妊治療
-
不妊治療のストレスで生きる希望を見失いました。
相談者: おこちゃんさん(会社員/33歳) 不妊治療中、うつ病持ちの妊娠希望者です。数ヵ月前から妊娠希望で心療内科の薬を中断しました。でも飲まないと、地の底を這いずって生きているような気分で、体も重く辛い日々の始まりでした。いつも人は何が楽しくて生きているのか、何が楽しくて働くのかわらず苦しむ毎日です。 それでも結婚し、子供を欲し、不妊治療が始まり、体外受精にステップアップし、辛い採卵後の痛みにも耐えてきました。仕事と治療の両立が困難で辞めたいと話し合い、夫が了承しても、いつ夫がクビになるかを考えると恐ろしくて、退職の決断が出来ずに今に至ります。 最近は一睡も出来ず、思考回路が混乱しています。それでも何か生きる希望のようなものを見つけたい願望があります。良いアドバイスがあれば、叱咤激励でも何でも構いません。よろしくお願いします。 うつ病が悪化している状態なのでしょうか? 「うつ病持ち」ということで薬物治療もされていたということですね。うつ病になると憂鬱な気持ちが続き、何に対しても無気力になったりします。気持ちのコントロールが思うようにいかず、つい周りの人に厳しく当たってしまうようなことも起こります。妊娠を希望してお薬を中止したということですが、病気の種類や症状によっては妊娠中や授乳中でも服薬による治療を続けることがあります。心療内科の先生がどのような考えで中止を判断したか、少し聞いてみたいところです。 もし、主治医の先生が「お薬なしでも乗り越えなければならない」「あなたなら大丈夫」という判断をされたのなら、もしかしたら純粋なうつ病とは少し異なるのかもしれません。例えば、まわりの人に対して、もっと優しくしてほしい、もっと甘えたいという気持ちが強すぎるというタイプの人がいます。もし、自分にも当てはまるようなら、不妊治療のストレスで心がいっぱいいっぱいの状態で、自分の気持ちを満たしてくれない夫に怒りの感情がわいてしまっていることが問題なのかもしれません。 他人に対するネガティブな感情は、うつ病を悪化させることがあります。逆に、うつ病の悪化によってネガティブな感情が起こりやすくもなります。余裕があるときのおこちゃんさんなら、「自分はとても辛いけれど、夫も同じように辛いのかもしれないな」などと考えたかもしれません。 現状を打開できますか? 十分に打開できると思います。強いストレスを抱えて行き詰まっている人は、「八方塞がりでどうにもならない」と思いがちです。しかし、おこちゃんさんは同時に「生きる希望を見つけたい」「叱咤激励でも何でも構いません」とも、力強くおっしゃっています。そのような気持ちは、苦境を乗り越えるための心の支えになります。うつ病治療の基本も「必ず回復する」ということを忘れないことです。「絶対良くなるから、それは忘れないで」というメッセージを伝えたいですね。 まずは、現状を再認識することだと思います。「うつ病といわれているのに、不妊治療にもチャレンジしている。とても辛い状況にあるのによく頑張ってやっている」と、誰かから声かけてもらえたら、それだけでも心はずいぶん軽くなるはずです。そんなことを言ってくれる人が誰もいないとしても、まずは他の誰でもない、自分自身が自分の頑張りを認めてあげてほしいです。世知辛い世の中ですから、自分を理解してくれる人に出会うことは少ないかもしれませんが、焦らないことだと思いますよ。 今後、具体的にどんなことをしていけばいい? 上にも書きましたが、心療内科の薬を中断された経緯はどうだったのでしょう。心療内科の先生と、今一度、話し合ってみてはいかがでしょうか。妊娠したら服薬が絶対にダメということはありません。不妊治療を続けていくためにも、また妊娠した後も、メンタルのコントロールはとても大事です。 それから、不妊治療と仕事の両立で心も体も疲弊しているように思えます。自分でも仕事を辞めたいと思い、夫もそれでいいと言っている一方で、辞める決断ができないままでいますね。いろいろ迷いがあるのだと思います。こういう時、きっぱり辞めてしまうとあとで後悔してしまうかもしれないので、後戻りできる形で一度お休みをとるのがよいと思います。 心療内科の治療を再開し、しばらく仕事を休んで体をいたわるようにしたら、気持ちもだんだん落ち着いてくるはずです。気持ちに余裕が出てきたところで、あらためて夫のことを考えてみてください。夫はなぜ「子どもももういらない、離婚だってすれば良い」と言ったのか。それは決して本音ではないはず。これまでずっと、おこちゃんさんの愚痴を受けとめ続けてきた人です。あなたを支えてあげたいと願いながら、それができないくらい疲れてしまっていたのかもしれません。 「うつ病がなかなか治らず、長引いている」というときは、それ相応の原因が見落とされているものです。自分の考え方や感じ方の癖、人との付き合い方のスタイルといったところに、解決の鍵が潜んでいることもあります。このような自分自身のことに目を向けることは、苦い思いを伴うこともありますが、いろいろなアドバイスを受け入れ、叱咤激励をエネルギーに変えようという気持ちを持てていれば大丈夫です。悪い状況が好転することだって必ずあります。まずは今の自分の状況を素直に受け入れ、少し休養も取り入れながら、またご夫婦のことや妊娠のことを考えていけたら良いと思います。 安田先生より まとめ うつ病の治療法は1つではありません。シンプルな病態であれば薬を飲んで、心身ともに休養をとれば回復していきますが、置かれている状況や周りの人への感情などが絡んでくると治療法も一様にはなりません。様々な方向から解決策を探っていくことになります。信頼できる精神科医のもとで、自分に合った適切な形の治療を行っていけば必ず回復しますので、希望を持っていただきたいですね。 安田 貴昭 先生 (俵IVFクリニック) 浜松医科大学医学部卒業。日本精神神経学会精神科専門医・指導医、精神保健指定医、臨床心理士。埼玉医科大学総合医療センター・メンタルクリニック講師。俵IVFクリニックでは毎月第4木曜日、メンタルヘルス外来を担当。心の専門医として、不妊治療中や妊娠初期の患者さんのメンタルケアを行っています 。≫ 俵IVFクリニック
2018.7.17
専門医Q&A 不妊治療
-
【不妊】治療方針の見直しポイントは3つだった
何度も治療しても結果が出ないなら、方針の転換を視野に入れるべきかも? 思いきって治療方針見直しをするためのポイントとは。
2018.7.12
まとめ 不妊治療
-
【妊活】妊活中の性行為 夫婦間のトラブルを解消するコツ教えます
夫婦2人で赤ちゃんを望んだはずなのに、妊活を始めてもセックスがうまくいかない。こんなお悩みの解消法がわかります。
2018.7.10
まとめ 不妊治療
-
クリニック転院したら治療はまた最初から? 治療引継とセカンドオピニオン
不妊治療を続けるうちに転院が必要になった、違うドクターの意見が知りたい。そんな人に「クリニック転院」のコツを教えます。
2018.6.28
まとめ 不妊治療
-
<妊活知識>知ってる? 排卵日の調べ方
排卵日を知るのが妊活の基本といわれますが、排卵日の調べ方はご存知ですか? 自宅とクリニックそれぞれの検査方法があります。
2018.6.26
まとめ 不妊治療
-
クリニックは大丈夫?災害対策について過去の取材まとめ
最近、日本各地で地震が起きてます。クリニックは大丈夫?災害対策について過去の取材をまとめました。
2018.6.23
まとめ 不妊治療
-
【おすすめ】7月14日~8月14日開催 不妊説明会15選
ジネコに取材協力をいただいている不妊治療クリニックが7月14日~8月14日に開催している説明会の情報を集めました。
2018.6.14
まとめ 不妊治療
-
<妊活知識>高齢不妊ってどんな状態? 原因と治療を知りたい!
不妊治療の成功率が下がる「高齢不妊」とは何を指すのか、そして不妊治療に臨むためのポイントについての知識をまとめました。
2018.6.7
まとめ 不妊治療
-
ドクターおすすめの栄養素とは?食生活の見直しで体質を改善
妊娠への近道は、食事による健康な体づくり。ふだんの食生活を見直し、不足している栄養素を効率的に補っていくことが大切。
2018.6.4
まとめ 不妊治療
-
<妊活知識>タイミング法は不妊治療の基本★4つの正しい知識とは
妊活の最初によく聞く「タイミング法」について必要な知識をまとめました。パートナーと協力して取り組むために、必読です!
2018.5.29
まとめ 不妊治療
-
食生活の見直しとサプリメントで体質を改善 移植前、サプリが心強い味方に。
体重減少や無月経で妊娠はもう無理…一度は諦めかけながらも、サプリなどを取り入れて体調が改善し2人目も妊娠した女性の体験談
2018.5.25
コラム 不妊治療
-
何度やっても妊娠しない…?! セントマザー産婦人科医院の田中先生がお答えしました!
体外受精を何度も失敗し、今後の治療を迷われている方へ、治療方法の見直しや新しい選択のポイントを田中先生にお聞きしました。
2018.5.24
コラム 不妊治療
-
低AMHで多発性の子宮筋腫。凍結卵子の融解・受精と採卵と移植、どれを優先?
結婚前に未受精卵子を凍結。現在凍結胚はなく、筋腫も再発してきていますが、何を優先するべき?徳岡先生にお聞きしました。
2018.5.24
コラム 不妊治療
-
情熱のカルテ 臼井医院不妊治療センター 臼井 彰 先生
不妊治療に携わることになった理由やそれにかける想いなどを、臼井医院不妊治療センター 臼井 彰 先生お聞きしました。
2018.5.24
コラム 不妊治療
-
子宮腺筋症で早産。悲しい思いはもう嫌。手術したほうがいい?
子宮腺筋症があるものの妊娠。が、子宮頸管無力症で入院、22週で早産。手術をすれば妊娠・出産できる?浅田先生に伺いました。
2018.5.23
コラム 不妊治療
-
4人目が欲しい45歳。基礎体温が不安定ですが漢方以外にできることは?
これまで自然妊娠で3人を出産。4人目が欲しいけど、無排卵の可能性も。45歳でも妊娠・出産は可能? 田中先生に伺いました。
2018.5.23
コラム 不妊治療
-
3PN由来の胚盤胞移植で妊娠の可能性はありますか?
初期胚、拡張胚盤胞、3PN由来の胚盤胞を凍結。移植がうまくいかなかった時3PN由来のもので移植は?蔵本先生に伺いました。
2018.5.22
コラム 不妊治療
-
意外と知らない2人目不妊!【秋山先生に聞きました! これってウソ! ホント? 】
不妊治療が一般的になるなか、知られていない2人目不妊。知らなかった、聞けなかった2人目不妊の実態を秋山先生に聞きました。
2018.5.22
コラム 不妊治療
-
葉酸、L-カルニチン、アルギニン、亜鉛 ドクターおすすめの栄養素とは?
妊娠の近道は、食生活を見直し、不足している栄養素を効率的に補うことが大切。奥先生に、おすすめの栄養素を教えて頂きました。
2018.5.22
コラム 不妊治療