子育てに役立つ? 今こそ見直したい自然分娩のメリット
2017/8/28 北原 慶幸 先生(北原産婦人科)
自然分娩で得られるメリットとは?
自然分娩は太古の昔から動物がやってきたことで、本来は多くの方が、普通にできることですが、実際に経験してみると「自分で産んだ」という実感が強く、感動する方が多いようですね。
1人目のお子さんを無痛分娩で出産した方は「全然痛くなかったわけじゃなくて、それはそれでしんどかったのだけれど、周りが動いてくれていつの間にか産まれてきて……」とおっしゃいます。人にやってもらったという感じで、「自分で産んだよ」という実感が得にくいようですね。
自然分娩の場合も、当院では陣痛が発来するところからスタッフがずっとつきっきりで妊婦さんをサポートしていくのですが、その励ましがあって乗り切り、最後は自分で産んだということをしっかり感じることができます。
無痛分娩とは? 不自然な分娩なのですか?
無痛分娩は硬膜外麻酔を使い、お産の痛みをなくして分娩する方法で、欧米では当たり前のように行われています。麻酔を入れると確かに痛みはとれますが、子宮の収縮力も落ちてしまうことがあり、人によっては陣痛が弱くなってしまうことがあるんですね。
そうなると陣痛促進剤を使わなくてはいけない。自然に陣痛が来るのではなく、誘発で計画的に陣痛を発来させることになります。
あらかじめ出産日と入院日を決めて、麻酔薬を入れて、促進剤で陣痛を発来させる――。医師の管理下において、赤ちゃんを生むまでのプロセスすべてを人為的にやっていかなくてはいけません。自然分娩と比べると、やはり人工的な分娩ということになると思います。
また、最後の段階で、赤ちゃんを押し出す力が弱くなる場合もあります。そうなると吸引分娩になってしまいます。吸引分娩になる確率は明らかに無痛分娩の人のほうが高いですね。
吸引分娩は医学的に分類すると、異常分娩に入ります。赤ちゃんを救うためにはやむを得ない手段ですが、僕は大人の都合で必要以上に促進剤を使ったり、異常分娩させるのは間違っているように思います。
無痛分娩は自然分娩から痛みをとるだけのものではなく、管理下に置かれた人為的な分娩の形で、リスクもあることを知っておいていただきたいと思います。ただし、麻酔と産科に習熟した医師が、充分な設備やマンパワーを整えて行えば、決して危険だと言うわけではありません。
自然妊娠にもリスクはありますか?
自然妊娠でもリスクがないとはいえません。たとえば、出てくる赤ちゃんの頭とママの骨盤の大きさが釣り合っていない「児頭骨盤不均衡(じとうこつばんふきんこう)」というケースがあります。
これは150cm以下の身長が低い人に多いんですね。ほとんどの方は6cmまでは子宮口が開き、赤ちゃんの頭が下がって来るのですが、そこでピタッと止まってしまい、陣痛促進剤を強くしてもそれ以上子宮口が開かないし、赤ちゃんが下がらないという場合があります。そうなると帝王切開を選択せざるを得ません。
当院では初産で身長が150cm以下の方は、事前に必ずレントゲンを撮って骨盤の状態を確認し、分娩時のリスクや対処法についてきちんとご説明するようにしています。
「立ち会い出産」でパパのスイッチが入る?
女性は妊娠して、自分のお腹の中に命があると実感したとたん、ママのスイッチが入ります。ところが男性は、超音波で赤ちゃんの画像を見ても「へぇ~」というくらいの感覚。その頃はどんなに女性がパートナーに父性を求めても無理なことで、強制すればケンカになってしまうだけです。
僕はパパのスイッチが入るのは9ヵ月後でいいと思っています。スイッチを強くオンにするには、ぜひパートナーの方も出産に立ち会っていただきたいですね。当院では全体の7割が立ち会い出産です。
立ち会い出産はお産を見に来ることではなく、妊婦が分娩室に入るまでパートナーの男性に仕事をしてもらうことだと思っています。
まだいきんではいけない時、ママに「ひっひっふ~」という呼吸をしてもらいますが、本人はつらいから途中で止まってしまう。止まってこわばったままでいると、子宮頸部裂傷や胎児回旋異常が起きて帝王切開になってしまう可能性も。そんな時、パパに「ひっひっふ~」と声を掛けてもらうようにしています。
二人で何時間も頑張って、その後、分娩室に入って赤ちゃんが無事に出てくるところを見る。当院ではパパにへその緒を切ってもらいますから、夫婦共同出産ということで、パパも感動してスイッチが入りますよね。つらい時間を頑張って乗り越えたお互いの姿を見て、ご夫婦の絆もいっそう強まります。
ただし、いきなり立ち会うとトラウマになってしまう男性もいるので、当院では立ち会いの前には必ず、ご夫婦一緒に両親学級に参加して講義を聴いてもらうようにしています。講義を聴いてやめる方もいるし、「迷いましたが、話を聞いて出産に立ち会うことを決めました。実際に体験できて良かったです」という方も。
家族の絆は出産後からではなく、出産時から生まれると思っています。ですから、お産の時にはパパはできるだけママの横にいて欲しいと思いますね。