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データから見る不妊治療を取り巻く現状

コラム 不妊治療

データから見る不妊治療を取り巻く現状

生殖医療の歴史

2019.6.13

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※2019年5月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer」の記事です。


日本は世界で最も不妊治療が行われている


日本では結婚年齢が高齢化し、2015年には女性の初婚年齢の全国平均は29・4歳、東京都では30・4歳になりました。それに伴い、赤ちゃんが欲しいと思っても1年以上授からない不妊の夫婦が増え、6組に1組が治療を受けているともいわれています。
体外受精・顕微授精などの高度生殖補助医療を行う不妊専門クリニックは、現在約620軒にのぼります(日本産科婦人科学会の登録数)。これは2位のアメリカの500軒弱を上回り、世界一の多さとなっています。体外受精で生まれた赤ちゃんは、2016年には約5万5000人となり、全出生数の5.5%に。18人に1人は体外受精で生まれているという計算になり、世界でもトップクラスの体外受精国といっても過言ではありません。



凍結融解胚移植が主流。出生児数の8割を超える


体外受精における、新鮮胚、顕微授精、凍結融解胚の治療周期数をみてみると、2003年頃から顕微授精と凍結融解胚での治療が増え始め、どの年代でも凍結融解胚が顕微授精をやや上回る数で推移しています。
また、出生児数を見ると、凍結融解胚で生まれた赤ちゃんが2007年頃から増え始め、2016年には全体の8割を超えています。これは、凍結技術の向上によるところが大きく影響しています。それまでの緩慢凍結法では5%くらいの受精卵に障害が生じていましたが、ガラス化法という技術が使われるようになり、生存率が90〜99%になりました。そのため、胚にダメージを与える心配がなく、子宮内膜の受け入れ態勢が整った時を選んで移植ができる凍結胚移植が選択され、妊娠するケースが多くなったのでしょう。



妊娠率は上がっても卵子の老化には勝てない現実


凍結融解胚の妊娠率は2002~2003年にかけて新鮮胚の妊娠率を超え、以降、35%弱で安定しています。これは、凍結・融解の技術の向上によるところでしょう。
多胎率が2008年から下がり続けているのは、日本産科婦人科学会が同年4月に「移植する胚は原則として1つ」とした多胎妊娠に関する見解の改定が影響していると考えられます。ただし、35歳以上の女性または2回以上続けて妊娠不成立だった場合は2胚移植を許容する、ともされています。
不妊治療の技術が進歩しても、未だに対応策がないのが「卵子の老化」です。年齢別の治療結果を見ると、35歳から妊娠率、生産率が下がり始め、40歳を超えると流産率が急上昇しています。卵子の老化に対抗する治療法はこの先、出てくるのでしょうか。




〜不妊治療は新たな時代へ〜


初の体外受精児の誕生から40年。そこまでの大きなニュースはなかったものの不妊治療は着々と進歩しています。近年行われるようになった治療の技術を見てみましょう。そして、今後注目していきたい技術もご紹介します。


近年確立された治療の技術


●AMHによる卵巣予備能評価
AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは2010年頃より注目され始めたホルモンで、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。
AMHは卵巣内にどれくらい卵の数が残っているかを反映すると考えられています。卵巣予備能を知ることは、不妊治療をどう進めていくかを決める際の重要な目安になります。
●ガラス化法での胚凍結
ガラス化法は2000年頃から急速に日本で普及し、現在最もよく使われている胚凍結法です。
それまで行われていた緩慢凍結法では融解後の胚の生存率が低く、ダメージを受けた細胞も出ていました。ガラス化法は胚が入っている凍結液を直接液体窒素に接触させ、短時間で胚を凍結。融解後の胚生存率は90~99%です。
●Micro-TESE
TESEは精巣を切開して精巣組織を採取し、精子を見つける手術です。Micro-TESEは精巣の中を顕微鏡をのぞきながら精子がいそうな精巣管を探す手術で、
非閉塞性無精子症の方に適応されます。無精子症の男性不妊に悩んでいた方もMicro-TESEを受けることで、子どもをもつ望みが生まれました。
●卵管鏡下卵管形成術(FT)
卵管が詰まったり狭くなって、卵子や精子が卵管を通ることができない場合に、卵管を広げるために行う内視鏡術です。カテーテルを子宮へ挿入し、
内蔵のバルーンを卵管で広げることで卵管通過性を回復します。日帰りで受けることができ、術後は卵管の詰まりが取れて、自然妊娠の可能性が高まります。
●アンタゴニスト法での排卵誘発
2007年頃から日本に導入された新しい排卵誘発法。ショート法やロング法と違って点鼻薬を使わず、月経3日目からFSHやHMG製剤を注射し、
卵胞が発育してきたらGnRHアンタゴニストで採卵のタイミングを調整します。多嚢胞性卵巣症候群や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしやすい方にも使いやすい方法です。
●タイムラプスインキュベーター
タイムラプスとは一定間隔で写真を撮影し、つなぎ合わせて動画のようにすること。タイムラプスインキュベーターで胚培養することで、胚を培養器から取り出すことなく観察することが可能です。
良好胚の選別、胚盤胞形成可能な胚の選別をより確実に行えるようになりました。患者さんも受精卵の発育を確認できます。

今後期待して注目していきたい技術


●子宮内膜検査
これまで解明されていなかった着床不全について、子宮内膜の「着床の窓」のずれや、子宮内膜の細菌叢の問題が影響しているのではないかと注目されています。
それらを調べる新しい検査を導入する施設も増えてきました。今後さらにデータ解析が進み、着床不全の改善につながることが期待されます。
●着床前診断(PGS/遺伝スクリーニング)
受精卵の染色体本数の異常の有無を診断する検査で、欧米ではかなり前から行われています。昨年12月、日本産科婦人科学会は「この検査で正常と判定された受精卵を移植することで流産が減る傾向があった」
とする中間報告を発表しました。臨床研究は今後も継続され、日本でも今後多くの施設で実施できる可能性があります。
●原始卵胞体外活性化法(IVA)
体外に取り出した卵巣組織に操作を加え、卵巣内にある原始卵胞を体外で成長させて自身の体内に戻す新しい技術。早発卵巣不全など、卵巣機能が低下した方に対して有効な治療法とされています。
今は一部の施設でしか実施されていませんが、研究が進み多くの施設で実施されるようになれば、早発閉経の人の救いの一手に。

出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer
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