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採卵前3周期が卵の質を左右する!?~山下先生にインタビュー~

コラム 不妊治療

採卵前3周期が卵の質を左右する!?~山下先生にインタビュー~

ながいきや本舗

2016.9.12

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サンマットで5日目の胚盤胞到達率を改善。


温熱療法により胚のクオリティが改善!


サン・ビーマーを用いた温熱療法により卵子の質がなぜ改善されたのか、卵子を育てる血流のことを、山下先生にお伺いしました。



山下 正紀 先生【山下レディースクリニック院長】
1997年に山下レディースクリニックを開院。一般不妊治療から体外受精、顕微授精、そして凍結融解胚移植まで、あらゆる段階の不妊治療を手がける。信頼される不妊治療専門施設として着実に実績をあげ、治療成果は2009年には4千組を超え、ここ数年は、年間400組をこえるペースで成果を出している。




実際の我々の手応えとしては「あったぞ!」と



「この臨床研究を行ったきっかけを教えてください。」


山下先生:1997年に開業してからほどなく、関先生(群馬県セキールレディースクリニック)にご紹介をいただきましてサン・ビーマーを導入しました。当初は来院された際に、1か月に、1回か、2回、10分程度の治療でしかしていなかったので、本当に効果があるのかを自分の手応えとして検証できればいいなとは思っていました。
ところが、まとまった治療となるとサン・ビーマーを購入している方は可能だとしても、毎日1回以上3周期(3か月)にわたって使用するというのは現実的にはなかなかできない。ですから残念なことに、この発表では5例と症例は少ないのです。
その代り症例をセレクトして、長く治療してもなかなか妊娠しないという方を選んでやってみたらどうかということになりました。
ですから結果としては、たったの5例ですけども、実際の我々の手応えとしては「あったぞ!」という思いに至りましたので学会で発表し、現在は患者さんにも「やった方がいいですよ」と薦めています


「対象になった患者さまの属性について年齢、治療歴、今までの治療内容はどうでしょうか?」


山下先生:妊娠できるかどうかは良い受精卵ができるかどうかでほぼ決まると思います。良い受精卵ができなければいくら上手に戻しても妊娠できないということがあります。
採卵を複数回繰り返してもなかなかいい卵ができない、そういう方に試してみたらどうかということになりました。 対象となった患者さまの年齢は39歳以下で、長期にわたり妊娠がうまくいかず、全員が体外受精を行っていて採卵回数が2回から4回、良好胚を得られずに残念ながら1回も妊娠したことがない、という方に絞ってみました。不妊期間は短い方でも3年、長い方だと10年です。



5例中3例は妊娠、さらに2例は妊娠が継続!



「サンビーマーの使用期間、回数、使用時間について解説をお願いします。」


山下先生:採卵を行う3周期前から自宅で1日、1回30分以上サン・ビーマーの使用をお願いしました。月経が始まってからスタートして全員の方に毎月1回来院していただいて状況を聞いたり、内膜や排卵の状況を診たりしました。
また、その時に効果が出ている(良い卵になっている)としたら、たぶん血流が良くなっているということではないかと考えたので、それをどうやって証明するかを検討しました。なかなかいい方法が思いつかなかったのですが、血流が良くなると血管抵抗が下がっていくだろうと仮定し、この血管抵抗値を一つのデータにするということで測定しました。


「培養5日目の胚盤胞到達率の結果についてですが」


山下先生:問題はここですね。今の主流は5日目まで待って、胚盤胞凍結をしてコンディションのいい時に戻すのがベストな方法、妊娠率が高いやり方です。ほとんどの施設はそうだと思います。ですから、5日目の胚盤胞の到達率が本当の意味で、胚のクオリティが改善されたかどうかを表す指標になると思うのです。そして、これは温熱療法によって改善されたと言えます。



統計的な有意差もそうですし、写真を見ても全例胚盤胞になっているし、これまで胚盤胞まで到達できなかった症例2.3.5も到達していますね。例えば、この方だとどうなったかというと、これは5日目の写真ですが前周期の写真は胚盤胞に到達していない状態ですが、こちらの写真ではこのようにきちんと胚盤胞になっています。



このように5日目の胚盤胞への到達率だと有意差があるといえるし、手応えにしても実際に自分で卵を見ていますから。2回、3回、4回と採卵を繰り返して来て良い卵が採卵できなかった時点で、妊娠はもう難しいと言っていた方の卵がこういう状態までなった
この卵なら妊娠のチャンスが十分にあるといえます。このときの手応えとしては「あるぞ!」と思いましたね。結果、終わってみれば難しい症例ばっかりだったわけですから、本当に手応えを感じた5例でした。


「その後、移植した結果がこちらですね」


山下先生:そうですね、これまで一度も妊娠の経験のなかった5例中3例は妊娠し、さらに2例は妊娠が継続して産科にご紹介しました。1例は化学妊娠しましたが残念な結果に終わりました。この結果は、続けるということ、それも数か月続けるということに本当の意味があると思います。



例えば、今回体外受精やりましょうということで、月経の3日目から注射を始めて温熱療法もスタートしましょうと、そういうものではありませんね。それではたぶん効果はないと思います。それぐらいから毎日やったとしても、卵の質の改善に効果は大して期待できないと思いますね。それはどうしてかと言いますと、もし、血流が改善して良い卵子ができるとしたら、月経がはじまった時点では、卵の質というのはかなりというかほとんど決まっているわけです。
そのもっと前の泡状卵胞、前泡状卵胞とかそのもっともっと前の原始卵胞から来て、泡状卵胞になる、その採卵の周期になる前のところが大事だと思いますね。だから数ヶ月間が必要だと思います。それこそサン・ビーマーだけでなく、サプリメントや最近ではレーザー治療なども同じですが、色々なことに関して効果があるとしても、それは急に治療周期に始めてすぐ効果が期待できるかというと最低でも3か月続けないとそれらの本当の効果は出ないと思います。ある一定期間に注射を打って、卵がリクルートされて育ってくる間にはもうかなりのことが決まっているんじゃないかと思いますね。だからこそもっと前の何ヶ月間が大事なのです。




妊娠のために自分でできること



「この考察の中で採卵された卵は2次卵胞からグラーフ卵胞への発育過程でサン・ビーマーを使用したと考えられる、この間が大事だとおっしゃっていますね。」


山下先生:その通りです。2次卵胞からグラーフ卵胞への発育過程ではコントロールする術がないのです。原始卵胞から1次卵胞、2次卵胞、前泡状卵胞、泡状卵胞があって、泡状卵胞を月経の3日目くらいにエコーで見てみると3mmとか5mmとかの大きさで見えます。
その見えた卵でないとゴナドトロピン製剤(hMG製剤やFSH製剤)は効かないのです。要するに原始卵胞という顕微鏡でないと見えないところから、3mm、5mmのエコーで見える胞状卵胞までの間。ここの間をどうやってコントロールするかということですが、残念ながらそのためのお薬もなければ、方法論も確立してないのです。
もし、うまくここまでたくさんコントロールして卵を持ってくることができれば泡状卵胞からは薬が効くわけですから、もっと効率よく卵が採れるはずです。ところが原始卵胞からここまで来る間がうまくいかないということがあるとすれば、その間を埋める話が血流ということでしょう。


「採卵周期以前に血流を上げておくことは卵の質を良くする意味において重要であると?」


山下先生:そうですね。サン・ビーマーは血流を上げる一つの手段ではあると思いますがそれだけじゃなくて、日頃の運動とかストレッチ、サプリメント、バランスのとれた食事なんかも重要かもしれません。今回のケースでは温めるということも大事だったかもしれませんが、それ以上に1日に1回30分以上リラックスしてサン・ビーマーの下にいた、ということがストレスを受けない時間を毎日続けて、3ヶ月間も持ったということも効果を生んだ要因のひとつかもしれません。
それから、もうひとつ大事なことは今回参加してくださったみなさんはとても一所懸命なのですが、毎日、決まった通りにやって記録をつけて、それをクリニックに持ってきてという大変なことを3か月も続けられた。それは気持ちが良いから3ケ月間も温熱療法が続けられたという一面もあると思いますね。この方たちには大きなモチベーションがあります。一生懸命やっていい卵を作ってその次の大きな目標へ行こうという熱心な方です。
ということは、これだけではなくてきっと記録にはつけていないけれど自分でできる自助努力をなにか続けられていたのだと思います。自発的に規則的な生活をする、運動をする、不摂生をしないとか、バランスの良い食事をするとか検証はしていませんがきっとしていると思います。すべてが繋がっていると思いますね。


「ということは、妊娠のために自分でできることはかなりあるということなのでしょうか?」


山下先生:ええ、そう思いますね。もし、毎日サン・ビーマーができないとしても、日常の自分の努力というものは決して無駄にならないと思います。実際に治療でできることすべてが卵子の改善には寄与していないということもあるわけですから、やはり先ほどお話しした治療以前のところも大事だと思いますね。ストレスなんかも数値化して証明できるわけはないですけどそういうことも関わっていると思います。
しかし、なにより妊娠ができるかどうかの大きなポイントは卵の質です。それは、何に関係しているかというと年齢なんです。年齢を若くすることはもちろんできませんが、条件は同じだと思いますね。人それぞれの努力とか、逆に年齢が高い分、余計に自分でできることに頑張るとか、そういうことは必要かもしれませんね。


「自分では何もすることがないと思って絶望している人も多いかと思いますがとても勇気の出るお話ですね。それと、AMH,FSH,LH,の値に変化は見られなかったということですが。」


山下先生:そうですね。AMHは変わるはずがありあませんが、これは卵子の質とはあまり関係がありません。これらのホルモンの数値が変わることによって卵子の質が変わるといった類のものではありませんね。
ホルモン値を検査すると多くの方は大体、適切なホルモン値の枠の中に入っているのです。だけども卵の質は良い人も悪い人もいるんです。ですからこれらの数値の変化によって卵子の質も胚の質も改善の指標にはならないし、AMHは前胞状卵胞の数ですからもちろん改善しません。



血流を良くすることは不妊治療にとっていい



「子宮への影響についてはいかがでしょうか?」


山下先生:子宮内膜の厚みについてはデータを一応取りましたが、改善を見ておりません。今回は、温熱療法によって良い卵がとれるようになることが目的ですが、子宮内膜の改善という点でも厚みだけでなく血流という意味において、ある程度期待ができるのではないかと思います。
たとえば厚みが変わらないのに、年齢が上がるに従って月経の量が減ったと訴えられる方が結構多くいらっしゃいます。それは人と比べているのではなく、自分のもっと若い時に比べて、月経の量が少なくなったと言われているわけですね。
つまり、年齢が上がっていくにしたがって多くの方は、経血量の少なさを自覚されるのですね。ところが、経血量が減ったと訴えられる方の内膜をエコーで見てみると、それほど実際は内膜の厚みは減っていないのですね。でも実際の経血量が減るということは何を意味しているかというと、内膜は形の上では変わってないので機能的な問題、つまり血流が減ってくるということですね。
それは血管の形成の問題なのかもしれないし、血管構造によって血管抵抗が増えたりしているのかもしれない……。もし年齢が上がるに従って経血量が増えたということがあったとしたら、子宮筋腫や内膜症などの病的な状態であるといえるでしょう。
仮に卵子が良くなるという理由が、血流が改善されるということなら、同じように子宮の血流も増えるはずだと考えられますね。それをデータとして証明したわけではありませんが、一応そのことが推察できるとは思いますね。


「ということは、年齢が上がって月経の量が減ってきたと自覚される方でも、血流を良くすれば、また経血量が増えるということもあるかもしれないですね。」


山下先生:それは、ほぼ証明された話で、実際は多くの方が海外へ行ってドネーションを受けられて、卵子の提供を受けて、妊娠して帰ってこられますね。日本ではまだ難しい話ですが、海外では非常に盛んですね。コマーシャルベースでどんどんやっています。
日本人も、アメリカは費用が高いので、最近はタイやインドなどへ行かれています。精子はほとんどの場合自分の配偶者のものですが、卵子は若い人のものを使い、それを受精させて良い胚盤胞を作って移植したら、施設によっては90%の妊娠率といっているところもあります。
ということは何を意味するかというと、子宮も大事ですが、胚のほうがもっともっと大事ということですね。50歳くらいの人でも妊娠して帰ってこられていますね。ただ、別の問題がいろいろ起こっていますが…


「そうすると、血流を良くすることは不妊治療にとって良い、ということがいえるのでしょうか。」


山下先生:私は今まで、血流は関係ないという人を見たことはないし、多くの不妊治療医は血流が大切だと思っていると思います。でも、それをなかなかデータで示すことができない、ということがありましたので、今回の「遠赤外線照射器(サン・ビーマー)を用いた温熱療法がART不成功症例にもたらす効果」での検証は、それを明らかにする一つの試みだったと思います。





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