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【Topics 】着床前診断(*PGTーA)とは?

コラム 不妊治療

【Topics 】着床前診断(*PGTーA)とは?

着床前診断は受精卵の遺伝子検査で倫理的な側面から、日本では特殊な場合しか行われません。そんな中着床前胚染色体異数性検査(PGTーA)が学会より認可された施設に限り臨床研究として施行されます。検査のメリット・デメリットなどお聞きしました。

2020.3.23

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「着床前診断」は、受精卵の遺伝子検査で、画期的な検査法として期待されながらも、倫理的な側面から、日本では特殊な場合しか行われていませんでした。そんな中で着床前胚染色体異数性検査(PGTーA)が学会より認可された施設に限って臨床研究として施行される運びとなりました。PGTーAとはどのような検査で、どんなメリット・デメリットがあるのか、なかむらレディースクリニックの中村先生に教えていただきました。


※2020年2月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring」の記事です。


時間が限られた方に特に有意義な検査法です
当クリニックでは、PGT-Aに期待を寄せ、長い期間準備をしてきました。臨床遺伝専門医の資格の取得や、海外で研修するなど技術を磨いてきました。ようやく臨床研究の承認が下り、今までつらい思いをしてきた方に、もうそんな思いさせずに済む可能性が広がったと喜んでいます。

お話を伺った先生のご紹介

中村 嘉宏先生(なかむらレディースクリニック)


大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。

≫ なかむらレディースクリニック

* PGT-A(異数性のための再植込み遺伝子導入)


受精卵の段階で行う検査


体外受精で、十分に発育した受精卵(胚盤胞)の段階で一部の細胞を取り出し、必要な遺伝子検査を行う技術を着床前診断(=PGT)と呼び、その中でも受精卵の染色体の数的異常の有無を検出する技術をPGTーAと呼びます。人間の正常な染色体数は46本です。染色体の数に多い、少ないなどの異常があると、一部の例外を除き、着床しない、あるいは流産することが経験上わかっています。PGTーAは着床前に受精卵の染色体の数の異常を調べ、着床率をあげ、流産率を低下させようとする検査です。<br>


具体的な方法としては、受精卵を胚盤胞の段階まで育て、胚盤胞の栄養膜外胚葉、つまり胎盤になる部分の細胞を5つほど採取し、胚盤胞を凍結します。採取した5つほどの細胞からDNAを抽出して全ゲノム増幅を行い、次世代シーケンサーという機械にかけて、染色体数が正常かどうかを検査します。


不要な胚移植の時間ロスと流産率の低下が期待できる


PGTーAを行うことで期待できるメリットの中で、特に大きなものは以下の2つです。
①移植あたりの妊娠率の向上。時間のロスを減らせる
今までは、形態(見た目)のいい胚盤胞から子宮に戻して様子を見て…という時間が毎回必要でした。実は受精卵の中でも胚盤胞に達するのは一部です。この「エリート」である胚盤胞でも30代半ばになると染色体異常をもつものが約2/3になります。つまり正常なものが3個に1個しかなく染色体異常の胚盤胞は着床しないか、流産するのです。そして染色体異常の有無は見た目では判断できません。
PGTーAで染色体数をスクリーニングすることにより、胚盤胞に異常が認められた場合は異常な胚盤胞を移植せずにすみます。胚盤胞が全て異常の時には、次の採卵に移れるため、採卵から妊娠までの時間のロスを減らせる可能性があります。
②流産率の低下が期待できる
流産の胎児の約8%は、胎児の染色体異常が原因です。染色体数が正常な胚盤胞を移植することで流産率を下げることが期待できます。


「モザイク胚」の存在などデメリットも考えられる


もちろん、PGTーAのデメリットも考えられます。大きなものは以下の3つです。
①正常胚と診断されなかった胚盤胞の取り扱いが難しい
検査する細胞は、いずれ不要になる胎盤の一部に過ぎません。異常と判断されても、赤ちゃんになる細胞に異常があるとは限らないのです。また、正常と異常が混ざった「モザイク胚」の場合もあります。たとえば、「5つの細胞のうち3つが正常で2つが異常」なモザイク胚でも、正常な赤ちゃんが生まれた実例もあります。モザイク胚の取り扱いに明確な指針はありません。赤ちゃんになる受精卵を廃棄する可能性がある、生命の選別につながる、等の点で、判断が難しいケースも出てくるでしょう。
②受精卵の一部を生検する際に、胚盤胞にダメージを与える可能性
細胞の一部を採取するため、受精卵にダメージを与える可能性は考えられなくはありません。当クリニックでは、技術的な工夫で考えられるダメージを最低限に抑えています。こういった技術力については、施設ごとの違いが出てくるかもしれません。
③検査代が必要になる
施設によって金額は異なりますが、1回あたり数万円になると思われます。しかし、不要な胚移植が減る=その費用がかからない、ということ。トータルで考えるとむしろコストダウンにつながる可能性が大きいのではないでしょうか。


だれもがどの施設でも受けられる?


多施設共同研究承認施設で受けることができます。当院も承認施設です。しかし、だれでも受けられるわけではありません。今回の研究では、2回以上胚移植しても妊娠が成立しない方(反復ART不成功)や不育症の方が対象となっています。
PGTーAを含む着床前診断は、これまで日本産科婦人科学会により禁止されていました。しかし、諸外国ではすでに広く利用されています。遺伝学的解析法が進歩し、日本でも2016年からPGTーAの有効性を調べるパイロットスタディが実施され、染色体数正常胚の移植当たりの妊娠率が約70%(PGTーA非実施では約30%)と高い成功率を得ていました。ただ、パイロットスタディの母数が83と少なかったこともあり、流産率の低下や一人あたりの妊娠率が上昇するかについては厳密にはわかっていません。
しかしながら年齢が高くなるほど時間は貴重になるのに、着床率は低下し、流産率は高くなります。胚盤胞の段階でチェックできる着床前診断を用いることで、40歳以上の、残り時間が限られている方、卵巣機能が低下している方にとっては良い検査になる可能性が十分あります。



出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring
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